毎月の給与明細を見て、「源泉徴収税額」という項目に疑問を持ったことはありませんか?この金額を決める上でとても大切なのが、「甲欄」と「乙欄」という区分です。実は、この区分によって毎月のお給料から天引きされる所得税の額が変わり、手取り額にも直接影響してくるんです。この記事では、源泉徴収の基本である甲欄と乙欄の違いや、どのような場合にどちらが適用されるのかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきますね。
源泉徴収と甲欄・乙欄の基本
まずはじめに、私たちの給与と税金の関係で重要な「源泉徴収」という仕組みと、そこで登場する「甲欄」「乙欄」がどのような役割を持っているのか、基本から確認していきましょう。
そもそも源泉徴収とは?
源泉徴収とは、会社が従業員に給与を支払う際に、あらかじめ所得税を天引きして、従業員の代わりに国に納付する制度のことです。会社員の場合、自分で税金を計算して納めるのは大変ですよね。そのため、会社が毎月の給与から概算の税額を預かっておき、年末に「年末調整」で1年間の正しい税額を計算し直して、過不足を精算する仕組みになっています。この毎月の天引き額を決めるのが、次に説明する甲欄・乙欄の区分なんです。
源泉徴収税額を決める「甲欄」と「乙欄」
毎月の給与からいくら所得税が引かれるかは、国税庁が毎年公表している「給与所得の源泉徴収税額表」という一覧表を使って決められています。そして、この税額表には「甲欄」と「乙欄」という2つの区分が設けられています。自分がどちらの区分に当てはまるかによって、参照する税額が大きく変わってきます。つまり、この区分が手取り額を左右する非常に重要なポイントになるのです。
甲欄・乙欄・丙欄の違いを整理
実は、源泉徴収税額表にはもう一つ「丙欄」という区分もあります。ここでは、3つの区分がそれぞれどのような人を対象としているのか、簡単に表で整理してみましょう。今回は、特に多くの方に関係する甲欄と乙欄を中心に話を進めていきますね。
| 区分 | 対象となる方 |
| 甲欄 | 主たる勤務先に「扶養控除等申告書」を提出している方 |
| 乙欄 | 「扶養控除等申告書」を提出していない方(副業をしている方など) |
| 丙欄 | 日雇いの方や、雇用契約期間が2ヶ月以内の方など |
「甲欄」が適用されるケース
では、どのような場合に「甲欄」が適用されるのでしょうか。甲欄は、ほとんどの会社員の方にとって基本となる区分です。その条件とメリットについて見ていきましょう。
「扶養控除等申告書」の提出がカギ
甲欄が適用されるための絶対条件は、勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を提出していることです。この書類は、配偶者や扶養している家族がいるかどうかなどを会社に申告するための大切なものです。たとえ独身で扶養家族がいなくても、主たる給与(メインのお給料)をもらっている勤務先には必ず提出する必要があります。重要なポイントは、この申告書は同時に2か所以上の会社には提出できないというルールです。そのため、メインの職場1か所にだけ提出することになります。
甲欄のメリット:税負担が軽くなる
「扶養控除等申告書」を提出して甲欄が適用されると、配偶者控除や扶養控除といった、税金の負担を軽くしてくれる制度が考慮された上で、毎月の源泉徴収税額が計算されます。その結果、次に説明する乙欄に比べて天引きされる税額が少なくなり、毎月の手取り額が多くなるという大きなメリットがあります。
「乙欄」が適用されるケース
次に、どのような場合に「乙欄」が適用されるのかを見ていきましょう。乙欄は、主に副業をしている方などが対象となりますが、意図せず適用されてしまうケースもあるので注意が必要です。
副業・ダブルワークをしている場合
乙欄が適用される最も一般的なケースは、2か所以上から給与をもらっている、いわゆるダブルワークをしている場合です。前述の通り、「扶養控除等申告書」は主たる勤務先1か所にしか提出できません。そのため、副業やアルバイト先の会社にはこの申告書を提出しないことになります。その結果、副業先の給与からは、乙欄の高い税率で源泉徴収が行われることになるのです。
「扶養控除等申告書」を提出し忘れた場合
注意したいのが、本来は主たる勤務先であるにもかかわらず、入社時の手続きなどで「扶養控除等申告書」を提出し忘れてしまったケースです。この場合、会社は申告書の提出がないため、あなたの給与に対して乙欄を適用して税額を計算せざるを得ません。その結果、本来よりもかなり高い所得税が給与から天引きされてしまい、手取り額が想定より少なくなってしまう可能性があります。
甲欄と乙欄で手取り額はどれくらい違う?
甲欄と乙欄では、実際にどれくらい源泉徴収される税額に違いが出るのでしょうか。具体的な金額を例に挙げて比較してみましょう。その差に驚くかもしれません。
具体例で見る源泉徴収税額の比較
例えば、社会保険料などを引いた後の給与月額が20万円で、扶養している親族がいない独身の方の場合で比較してみます。(※令和6年分の源泉徴収税額表を参考にしています)
| 区分 | 社会保険料控除後の給与月額 |
| 甲欄 | 4,770円 |
| 乙欄 | 20,900円 |
このように、同じ給与額でも甲欄と乙欄では、毎月16,130円もの差が出ることが分かります。乙欄は各種控除が考慮されないため、税額が非常に高く設定されているのです。
乙欄で多く引かれた税金はどうなる?
「乙欄でこんなに多く税金が引かれたら損してしまうの?」と心配になるかもしれませんが、ご安心ください。乙欄で多く源泉徴収された税金は、最終的に払い損になるわけではありません。翌年にご自身で「確定申告」という手続きを行うことで、1年間の正しい所得税額が再計算され、払いすぎていた分は還付(お金が戻ってくること)されます。ただし、自動的に戻ってくるわけではなく、自分で申告手続きをする必要があることを覚えておきましょう。
年末調整と確定申告との関係
甲欄と乙欄の区分は、年末に行われる税金の精算手続きである「年末調整」や「確定申告」にも大きく関わってきます。どちらの手続きが必要になるのかを正しく理解しておきましょう。
甲欄適用者は会社で「年末調整」
「扶養控除等申告書」を提出し、甲欄が適用されている主たる勤務先では、会社が年末調整を行ってくれます。これにより、1年間の所得税が正しく計算され、毎月の源泉徴収額との差額が精算されます。そのため、他に特別な収入や控除(医療費控除など)がなければ、自分で確定申告をする必要は基本的にありません。
乙欄適用者は自分で「確定申告」が必要
一方、副業先などで乙欄が適用されている給与については、その会社で年末調整は行われません。そのため、主たる勤務先(甲欄)の給与と、副業先(乙欄)の給与などをすべて合算して、自分で確定申告を行う必要があります。 この手続きをしないと、乙欄で多めに引かれていた税金が戻ってこないだけでなく、所得を正しく申告していないことになってしまうので、必ず行うようにしましょう。
まとめ
今回は、給与からの源泉徴収における甲欄と乙欄の違いについて解説しました。ポイントをまとめると以下の通りです。
- 甲欄:主たる勤務先に「扶養控除等申告書」を提出すると適用され、税額が低くなる。会社で年末調整が行われる。
- 乙欄:副業先など「扶養控除等申告書」を提出していない勤務先で適用され、税額が高くなる。自分で確定申告が必要。
自分の働き方や状況に応じて、どちらの区分が適用されるのかを正しく理解しておくことが大切です。特に、新しく仕事を始めたり、副業を始めたりする際には、「扶養控除等申告書」をどこに提出するのかを意識して、適切な手続きを行うようにしてくださいね。
参考文献
国税庁「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」
源泉徴収に関するよくある質問まとめ
Q. 甲欄と乙欄、一番の違いは何ですか?
A. 主な勤務先に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出しているかどうかです。提出していれば「甲欄」、していなければ「乙欄」が適用されます。
Q. 副業を始めたら、手続きは必要ですか?
A. はい。副業先の会社には「扶養控除等申告書」を提出しないため、給与は「乙欄」で源泉徴収されます。年末にご自身で確定申告が必要です。
Q. 乙欄で税金を多く引かれましたが、どうすれば戻ってきますか?
A. 確定申告を行うことで、払いすぎた所得税が還付される可能性があります。主たる給与と副業の給与などを合算して申告してください。
Q. パートやアルバイトでも甲欄は適用されますか?
A. はい、雇用形態にかかわらず、勤務先に「扶養控除等申告書」を提出すれば甲欄が適用されます。ただし、提出できるのは1か所のみです。
Q. 「丙欄」とは何ですか?
A. 日雇いの方や、雇用期間が2ヶ月以内と決められている短期のアルバイトの方などに適用される区分です。甲欄や乙欄とは税額の計算方法が異なります。
Q. 就職したばかりで「扶養控除等申告書」を出し忘れたらどうなりますか?
A. 乙欄が適用され、本来より高い税額が源泉徴収される可能性があります。気づいた時点ですぐに会社の担当者に相談し、書類を提出しましょう。