相続対策として「養子縁組」を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。法定相続人が増えることで、相続税の基礎控除が増えたり、税率が下がったりと、節税効果が期待できる一方で、思わぬトラブルにつながる可能性もあります。この記事では、相続対策で養子縁組をするメリットとデメリット、そして注意点について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。
養子縁組が相続対策になる仕組み
養子縁組がなぜ相続対策として有効なのか、その基本的な仕組みについてご説明します。養子縁組をすると、養子は法律上「実子」と同じ扱いになります。これにより、相続人の数が増え、相続税の計算に影響を与えるのです。
そもそも養子縁組とは?普通養子縁組と特別養子縁組
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。相続対策で一般的に用いられるのは「普通養子縁組」です。それぞれの違いを理解しておきましょう。
| 項目 | 普通養子縁組 |
| 目的 | 家の存続、相続対策など |
| 実親との関係 | 維持される |
| 相続権 | 実親・養親の両方から相続できる |
| 要件など | 養親は成年者、養子は尊属・年長者でないこと |
| 項目 | 特別養子縁組 |
| 目的 | 子の福祉・利益のため |
| 実親との関係 | 終了する |
| 相続権 | 養親からのみ相続できる |
| 要件など | 養親は原則25歳以上、養子は原則15歳未満など要件が厳しい |
養子が法定相続人になるということ
養子縁組をすると、養子は法律上の子ども、つまり「法定相続人」になります。法定相続人とは、法律で定められた遺産を相続する権利を持つ人のことです。相続順位も実子と同じ第一順位となり、法定相続分も実子と全く同じ割合で分けられます。
相続対策で養子縁組をする4つのメリット
養子縁組を相続対策として活用することで、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。主に税金面でのメリットが大きいです。ここでは4つのメリットを詳しく見ていきましょう。
基礎控除額が増えて相続税が安くなる
相続税には「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」という基礎控除があります。養子縁組で法定相続人が1人増えれば、基礎控除額が600万円増えることになります。例えば、法定相続人が子ども2人の場合、基礎控除は4,200万円(3,000万円+600万円×2人)ですが、養子を1人迎えて法定相続人が3人になると4,800万円(3,000万円+600万円×3人)になり、その分課税対象となる遺産が減るのです。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠が増える
相続人が受け取る生命保険金や死亡退職金にも非課税枠があります。この非課税枠は「500万円 × 法定相続人の数」で計算されます。養子縁組で法定相続人が1人増えると、非課税枠が500万円増えるため、これも大きな節税につながります。
相続税の税率が下がる可能性がある
相続税は、遺産額が多ければ多いほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みです。養子縁組で法定相続人が増えると、法定相続分に従って財産を分けた場合の一人あたりの取得額が少なくなります。これにより、適用される相続税率が低い段階に収まり、結果として相続税の総額を抑えられる可能性があります。
孫を養子にすれば「一代飛ばし」で財産を移せる
孫を養子にする「孫養子」は、本来であれば「親から子へ」「子から孫へ」と2回発生する相続を1回で済ませることができるため、長期的に見ると相続税の負担を軽減できるメリットがあります。これを「相続の一代飛ばし」と言います。ただし、後述するデメリットもあるので注意が必要です。
知っておきたい!養子縁組の4つのデメリットと注意点
節税メリットが大きい養子縁組ですが、デメリットや注意点も存在します。安易に手続きを進めると、かえって家族間のトラブルを招くことにもなりかねません。しっかりとデメリットも理解しておきましょう。
遺産分割でトラブルになる可能性がある
養子が増えるということは、遺産を分ける人が増えるということです。これまで相続人だった実子から見れば、自分の取り分が減ることになります。事前に他の相続人によく説明し、理解を得ておかないと、遺産分割協議がまとまらず、「争族」に発展するケースも少なくありません。
孫養子は相続税が2割加算される
メリットで挙げた「孫養子」ですが、大きな注意点があります。被相続人の一親等の血族(子や父母)や配偶者以外が財産を相続した場合、相続税額が2割加算されるルールがあります。孫は本来二親等ですが、養子縁組で法律上一親等になったとしても、この相続税の2割加算の対象となります。ただし、子がすでに亡くなっていて孫が代わりに相続する「代襲相続人」となっている場合は、2割加算の対象外です。
相続税の計算上、法定相続人に含められる養子の数には制限がある
節税目的で何人でも養子を増やせるわけではありません。相続税法では、基礎控除などの計算上、法定相続人の数に含められる養子の数に上限を設けています。
| 被相続人の状況 | 法定相続人に含められる養子の数 |
| 実子がいる場合 | 1人まで |
| 実子がいない場合 | 2人まで |
この人数を超えて養子縁組をしても、相続税の計算上は法定相続人の数としてカウントされません。ただし、配偶者の連れ子を養子にした場合など、一部のケースでは実子とみなされ、この人数制限の対象外となります。
節税目的だけの養子縁組は認められないことも
相続税の負担を不当に減少させるためだけの養子縁組だと税務署に判断された場合、その養子を法定相続人の数に含めることが否認される可能性があります。例えば、相続開始の直前に養子縁組を行い、その養子に財産が全く渡らないような極端なケースは注意が必要です。
どんなケースで養子縁組を検討すべき?
メリットとデメリットを踏まえた上で、どのような場合に養子縁組が有効な選択肢となるのでしょうか。具体的なケースを見てみましょう。
介護などでお世話になった子の配偶者に財産を渡したい
長年、自分の介護をしてくれた息子の妻(嫁)に財産を遺したいと考えても、子の配偶者は法定相続人ではないため、原則として遺産を相続できません。遺言で財産を遺すことも可能ですが、養子縁組をすれば法定相続人として確実に財産を渡すことができます。
再婚相手の連れ子に実子と同じように財産を相続させたい
再婚相手に連れ子がいる場合、その子と自分との間に法律上の親子関係はありません。そのため、何もしなければ相続権はありません。連れ子を実子と同じように家族として迎え、財産を相続させたいという場合には、養子縁組が有効な手段となります。
事業承継者や後継者に財産を継がせたい
子どもがいない場合や、子どもが事業を継ぐ意思がない場合、親族や従業員など、後継者としたい人に財産や事業をスムーズに引き継がせるために養子縁組をすることがあります。
養子縁組の手続きについて
養子縁組は、当事者間の合意のもと、役所に「養子縁組届」を提出することで成立します。手続き自体は比較的簡単ですが、いくつか注意点があります。
普通養子縁組の基本的な手続き
成人同士であれば、養親と養子になる人の双方が署名した養子縁組届と、証人2名の署名があれば手続きできます。本籍地以外の役所に提出する場合は、当事者の戸籍謄本も必要になることがありますので、事前に役所に確認しましょう。
未成年者を養子にする場合
養子になる人が15歳未満の場合は、その法定代理人(通常は親権者)が代わりに承諾します。また、自分や配偶者の直系卑属(孫など)以外の未成年者を養子にする場合は、家庭裁判所の許可が必要になります。
まとめ
相続対策としての養子縁組は、基礎控除や非課税枠の増加といった大きな節税メリットが期待できる一方で、相続人間のトラブルや税金の2割加算といったデメリットも存在します。特に、他の相続人の理解を得ずに進めてしまうと、かえって関係が悪化してしまう恐れがあります。
養子縁組を検討する際は、節税効果という側面だけでなく、ご自身の家族関係や財産を誰にどのように遺したいかという想いを大切にすることが重要です。メリットとデメリットを十分に比較検討し、必要であれば専門家にも相談しながら、ご家族にとって最善の選択をしてくださいね。
参考文献
相続対策での養子縁組に関するよくある質問
Q.養子は何人まで相続税の計算上、法定相続人に含められますか?
A.被相続人に実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までです。この人数を超えても法律上の親子関係は成立しますが、相続税の基礎控除などの計算には含まれません。
Q.孫を養子にすると相続税が必ず安くなりますか?
A.必ずしも安くなるとは限りません。孫養子は相続税が2割加算されるため、基礎控除が増えるメリットと比較して、どちらが有利になるかシミュレーションが必要です。
Q.子どもの配偶者(嫁・婿)を養子にすることはできますか?
A.はい、できます。介護などで世話になった子の配偶者に財産を相続させたい場合などに有効な手段です。
Q.養子縁組をすると、実の親との親子関係はどうなりますか?
A.相続対策で一般的に使われる「普通養子縁組」の場合、実の親との親子関係は継続します。そのため、養親と実親の両方から財産を相続する権利があります。
Q.養子縁組はいつでも解消(離縁)できますか?
A.養親と養子の合意があれば、協議により離縁届を提出することで解消できます。しかし、どちらかが合意しない場合は、家庭裁判所での調停や裁判が必要になり、簡単に解消できないこともあります。
Q.相続開始の直前に養子縁組をしても大丈夫ですか?
A.相続税対策だけが目的であると税務署に判断されると、節税効果が認められない可能性があります。相続開始直前の養子縁組は、特にそのように見なされるリスクが高いため注意が必要です。