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医療法人の不動産売却、手続きと税金は?許可や注意点を解説

2025-07-05
目次

医療法人の理事長様や経営者の方で、後継者不足や経営の効率化のために、法人が保有する不動産の売却を検討されるケースが増えています。しかし、医療法人が保有する不動産の売却手続きは、一般の法人の不動産売却とは異なり、医療法ならではの特別なルールや複雑な手続きが必要です。この記事では、医療法人が不動産を売却する際の具体的な手続きの流れ、必要な許可、税金、そして注意すべきポイントについて、分かりやすく解説していきます。

医療法人が不動産を売却する主な理由

近年、医療法人が不動産売却を検討する背景には、いくつかの共通した理由があります。クリニックや病院の経営環境が変化する中で、不動産という大きな資産をどう活用するかが重要な経営課題となっているのです。

後継者不足と事業承継

多くのクリニックや病院で、後継者不足が深刻な問題となっています。親族内に後継者がいない、あるいは適当な第三者が見つからない場合、M&A(事業承継)の一環として不動産ごと法人を売却したり、まずは使っていない不動産を売却して経営のスリム化を図ったりするケースがあります。不動産を現金化することで、退職金の準備や、スムーズな事業承継への下準備を進めることができます。

経営の効率化と財務改善

医療法人が複数の不動産を保有している場合、中にはあまり活用されていない土地や建物があるかもしれません。そうした遊休不動産は、持っていても固定資産税修繕費、管理費などのコストがかかるだけです。これらの不動産を売却することで、不要なコストを削減し、キャッシュフローを改善できます。固定資産が流動資産(現金)に変わることで、自己資本比率が向上するなど、財務体質の強化にも繋がります。

新規設備投資のための資金調達

医療技術は日々進歩しており、最新の医療機器への更新や、患者さんの満足度向上のための施設改修には多額の資金が必要です。金融機関からの借入だけでなく、使っていない不動産を売却して自己資金を確保することも有効な手段です。不動産売却によって得た資金を新たな設備投資に充てることで、地域における医療サービスの質を高め、競争力を維持することができます。

医療法人の不動産売却におけるメリット・デメリット

不動産の売却は、医療法人にとって大きなメリットをもたらす可能性がある一方で、注意すべきデメリットも存在します。特に売却側の視点から、どのようなプラス面とマイナス面があるのかをしっかり理解しておくことが大切です。

売却側のメリット

不動産を売却することで、法人の経営にプラスの影響を与えることができます。主なメリットは以下の通りです。

メリット 具体的な内容
維持管理コストの削減 これまで支払っていた固定資産税や火災保険料、定期的な修繕費などが不要になります。
財務状況の改善 固定資産が預金などの流動資産に変わり、資金繰りが楽になります。借入金を返済すれば、負債が減り財務バランスが向上します。
まとまった資金の確保 診療を続けながら、老朽化した医療機器の買い替えや施設のバリアフリー化など、将来のための投資資金を確保できます。

売却側のデメリット

一方で、デメリットも慎重に検討する必要があります。特に税金の負担や、将来の事業計画への影響は無視できません。

デメリット 具体的な内容
税金の発生 不動産の売却によって利益(譲渡益)が出た場合、その利益に対して法人税などが課税されます。税率は約30%〜35%にもなるため、手元に残る現金を正確に試算する必要があります。
経営の自由度の低下 売却後もその不動産を使い続ける場合(セールス・アンド・リースバック)、買主と賃貸借契約を結びます。これにより、家賃が発生するほか、将来的に改装や設備の増設をしたいと思っても、所有者の許可が必要になるなど、自由度が下がる可能性があります。
借入能力の低下リスク 不動産は金融機関からの融資を受ける際の重要な担保となります。その担保を失うことで、将来新たな融資を受ける際の評価に影響が出る可能性があります。

医療法人の不動産売却手続きの流れ

医療法人の不動産売却は、一般の会社とは異なり、行政の許可が必要になるなど、特有の手順を踏む必要があります。大まかな流れを理解しておきましょう。

STEP1:理事会での決議

まず、不動産を売却するという方針を理事会で正式に決議する必要があります。なぜ売却するのか、売却後の資金使途などを明確にし、議事録をきちんと作成しておきます。これは後の行政手続きでも必要になる重要なプロセスです。

STEP2:専門家への相談と売却戦略の策定

次に、医療法人の不動産取引に詳しい税理士やコンサルタントなどの専門家に相談します。不動産の適正な価格はいくらか、税金はどのくらいかかるのか、どのようなスケジュールで進めるべきかなど、専門的な視点から売却戦略を立てます。この段階で、後述する行政への許可申請についても相談しておくとスムーズです。

STEP3:所轄官庁への許可申請

これが医療法人特有の最も重要な手続きです。病院や診療所など、医療の提供に直接使用している不動産を売却する場合、原則として都道府県知事の許可が必要となります。許可申請には事業計画書や財務諸表など多くの書類が必要となり、審査にも時間がかかるため、早めに準備を始めることが肝心です。

STEP4:買い手の探索と交渉

行政への手続きと並行して、買い手を探します。専門の不動産会社やM&A仲介会社などを通じて、条件に合う買い手候補を見つけ、価格や引き渡し時期などの具体的な条件交渉を行います。

STEP5:売買契約の締結と登記

交渉がまとまり、行政からの許可も下りたら、最終的な不動産売買契約を締結します。契約書には印紙を貼付し、契約内容に基づいて代金の決済と不動産の引き渡しを行います。最後に、法務局で所有権移転登記を行い、手続きは完了となります。

不動産売却時に必要な許可と注意点

手続きの中でも特に重要な「許可」と、医療法人ならではの「注意点」について、さらに詳しく見ていきましょう。ここを押さえておかないと、後で大きなトラブルになりかねません。

都道府県知事の許可が必要なケース

医療法において、医療法人が重要な資産を処分する際には、都道府県知事の許可を得なければならないと定められています。特に、病院や診療所、介護老人保健施設など、医療法人の根幹となる不動産の売却は、地域医療への影響も大きいため、厳しく審査されます。
一方で、例えば職員用の駐車場の一部など、医療提供に直接関係しない「附帯業務」に関する不動産であれば、許可が不要な場合もあります。ただし、この判断は非常に難しいため、売却を検討する際は、必ず事前に都道府県の担当部署に相談するようにしてください。

利益相反取引に注意

特に注意が必要なのが、利益相反取引です。これは、例えば理事長個人が所有する不動産を医療法人に売却したり、逆に医療法人の不動産を理事長が買い取ったりするケースを指します。
このような取引は、理事長個人の利益が優先され、法人に不利益が及ぶ可能性があるため、厳しく規制されています。利益相反取引を行う場合は、理事会でその取引の重要事項を開示した上で、特別決議(議決に加わることができる理事の3分の2以上の賛成)が必要となります。利害関係者である理事長自身は、その決議に参加することはできません。この手続きを怠ると、取引が無効になるリスクがあります。

残余財産の分配はできない

医療法人は、株式会社と違って非営利性が求められます。そのため、不動産を売却して得た利益を、出資者(社員)や役員に配当として分配することは固く禁じられています。
売却によって得た資金は、あくまで医療法人の財産として残り、医療機器の購入や施設の修繕、職員の給与など、法人の本来業務や附帯業務のために使用しなければなりません。この原則を忘れないようにしましょう。

医療法人の不動産売却にかかる税金

不動産を売却すると、必ず税金の問題がついて回ります。どのような税金が、どのくらいかかるのかを事前に把握し、納税資金を確保しておくことが非常に重要です。

法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税

不動産を売却して利益が出た場合、その利益(譲渡所得)に対して法人税などが課税されます。譲渡所得は、以下の式で計算されます。
譲渡所得 = 売却価格 ー(取得費 + 譲渡費用)
取得費とはその不動産を購入したときの代金や手数料から、建物の減価償却費を差し引いたものです。譲渡費用は、仲介手数料や印紙代など、売却のために直接かかった費用のことです。
この譲渡所得は、他の事業の所得と合算され、その合計額に対して法人税等が課されます。税率は法人の規模や所得額によって異なりますが、実効税率は約30%〜35%が目安となります。

消費税

消費税の扱いは、売却する資産によって異なります。

土地の売却 非課税です。土地は消費されるものではないため、消費税はかかりません。
建物の売却 課税対象です。建物の売却価格に対して10%の消費税がかかります。医療法人は買主から消費税を預かり、国に納付する義務があります。

売買契約書では、土地と建物の価格を分けて記載することが一般的です。

登録免許税・印紙税

不動産の所有権を移転する際には、登録免許税(固定資産税評価額の2%が原則)がかかります。これは通常、買主が負担します。
また、不動産売買契約書には、契約金額に応じた収入印紙を貼付する必要があり、これを印紙税と呼びます。例えば、契約金額が5,000万円超1億円以下の場合、6万円の印紙税がかかります。これは売主と買主で分担することが多いです。

まとめ

医療法人が保有する不動産の売却手続きは、後継者不足の解消や経営改善のための有効な手段となり得ます。しかし、その手続きは一般の不動産売却よりも複雑で、特に都道府県知事の許可という大きなハードルがあります。また、利益相反取引のルールや、売却益の使途が制限される非営利性の原則、そして法人税や消費税といった税務上の取り扱いなど、専門的な知識が不可欠です。安易に判断せず、必ず医療法人の会計や法務に詳しい税理士などの専門家と相談しながら、計画的かつ慎重に進めるようにしましょう。

参考文献

国税庁 No.5759 法人税の税率

国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

国税庁 No.6201 非課税となる取引

医療法人の不動産売却に関するよくある質問

Q.医療法人の不動産売却に、都道府県知事の許可は必ず必要ですか?

A.原則として、病院や診療所など医療提供に直接関わる不動産の売却には都道府県知事の許可が必要です。ただし、一部の附帯業務用の不動産など例外もあるため、必ず事前に所轄の行政機関に確認しましょう。

Q.不動産を売却して得た利益を、役員で分配することはできますか?

A.いいえ、できません。医療法人は非営利性が求められるため、剰余金の配当は禁止されています。売却益は法人の資産として、本来業務や附帯業務の費用に充てる必要があります。

Q.不動産売却にかかる税金はどのくらいですか?

A.売却益に対して、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税が課税されます。実効税率は法人の規模や所得によりますが、約30%~35%が目安です。また、建物の売却には消費税もかかります。

Q.理事長個人が所有する土地を、医療法人に売却することはできますか?

A.はい、可能ですが「利益相反取引」に該当する可能性が高いです。その場合、理事会で特別決議が必要となり、理事長は議決に参加できません。手続きを誤ると取引が無効になるリスクがあるため注意が必要です。

Q.不動産売却の手続きは、どれくらいの期間がかかりますか?

A.ケースバイケースですが、行政への許可申請や買い手探し、交渉などを含めると、半年から1年以上かかることも珍しくありません。時間に余裕を持った計画が重要です。

Q.不動産を売却した後、その場所で診療を続けることはできますか?

A.はい、可能です。売却後に買主と賃貸借契約を結ぶ「セールス・アンド・リースバック」という手法がよく用いられます。これにより、資金を確保しつつ診療を継続できます。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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