税理士法人プライムパートナーズ

相続した国外財産の売却益、税金はどっちの国?譲渡所得税の申告先を解説

2026-01-31
目次

ご両親などから海外の不動産や株式を相続された方もいらっしゃるかもしれません。いざその国外財産を売却して利益が出たとき、「税金の申告は日本?それとも現地の国?」と迷ってしまいますよね。実は、多くの場合で両方の国での手続きが必要になることがあります。このとても複雑な国外財産の譲渡所得税について、基本的なルールから申告手続きまで、分かりやすく解説していきます。

国外財産売却時の譲渡所得税、申告の基本ルール

日本にお住まいの方が、相続によって取得した国外財産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、税金の申告はどの国で行うのでしょうか。まずは、大前提となる基本的なルールから見ていきましょう。

日本の「居住者」は日本での申告が必須

日本の所得税法では、国内に住所がある、または現在まで1年以上日本に住んでいる方を「居住者」と定義しています。そして、この「居住者」にあたる方は、世界中のどこで得た所得であっても、原則としてすべて日本で申告し、納税する義務があります。これを「全世界所得課税」と呼んでいます。したがって、相続した財産がアメリカの不動産であっても、ヨーロッパの株式であっても、売却して利益が出た場合は、日本の税務署に対して確定申告を行う必要があります。

財産がある国(現地国)でも課税される可能性

一方で、財産が所在する国(例えばアメリカに不動産があればアメリカ)でも、その国内の資産から生じた利益に対しては課税する権利を持っています。これを「源泉地国課税」といいます。その結果、同じ売却益に対して、日本と財産のある国の両方から税金が課される「国際的二重課税」という状態が発生する可能性が非常に高くなります。

「国際的二重課税」は外国税額控除で調整

「同じ利益に対して二重で税金を払うのは負担が大きい」と感じますよね。ご安心ください。この国際的な二重課税を調整するために、「外国税額控除」という制度が設けられています。これは、現地国で納めた所得税額のうち、日本の税法に基づいて計算した一定の限度額までを、日本で納めるべき所得税額から直接差し引くことができる仕組みです。この外国税額控除を適用するためには、必ず確定申告が必要になります。

日本で申告する譲渡所得の計算方法

日本で確定申告をする際の譲渡所得の金額は、日本の税法に沿って計算します。計算の基本的な考え方は国内の財産を売却した場合と同じですが、国外財産ならではの特に注意すべきポイントがあります。

基本的な計算式

譲渡所得は、以下の計算式で求めます。この計算式自体は、国内の不動産や株式を売却した場合と変わりません。

譲渡所得 = 売却価額 - (取得費 + 譲渡費用)

相続した財産の場合、「取得費」には被相続人(亡くなった方)がその財産を購入したときの代金や手数料などが引き継がれます。

為替レートの換算ルールに注意

国外財産の売却で最も重要で、かつ複雑なのが、外貨で取引した金額を日本円に換算する際のルールです。購入した時と売却した時で異なる為替レートを適用するため、為替相場の変動だけで日本円建ての利益や損失が発生することがあります。

原則として、下記の為替レート(TTM:電信仲値)を使って円換算を行います。

売却価額 財産を売却した日(通常は引き渡し日)の為替レート
取得費・譲渡費用 被相続人が財産を購入した日や、諸費用を支払った日の為替レート

為替差益も課税対象になる具体例

為替レートの変動がどのように影響するのか、具体例で見てみましょう。例えば、親が10万ドル(購入当時1ドル=100円)で購入したアメリカの不動産を相続し、あなたが10万ドル(売却時1ドル=150円)で売却したケースを考えてみます。(簡略化のため、手数料や減価償却は考慮しません)

・円換算した売却価額:10万ドル × 150円 = 1,500万円

・円換算した取得費:10万ドル × 100円 = 1,000万円

・譲渡所得:1,500万円 - 1,000万円 = 500万円

この例では、ドル建ての不動産価格は購入時と売却時で同じ10万ドルです。しかし、円安が進んだことにより、日本円に換算すると500万円の為替差益が生まれています。この為替差益も譲渡所得に含まれ、課税の対象となります。

譲渡所得にかかる日本の税率

日本円で譲渡所得の金額が計算できたら、次はその所得に対してかかる税金を計算します。税率は、その財産の所有期間によって大きく異なります。

所有期間で税率が変わる「申告分離課税」

土地、建物、株式などの譲渡所得は、給与所得や事業所得といった他の所得とは合算せず、独立して税額を計算する「申告分離課税」という方式がとられます。税率は、被相続人がその財産を取得した日から数えて、売却した年の1月1日時点での所有期間が5年を超えているかどうかで判断されます。

長期譲渡所得(所有期間5年超) 所得税15.315% + 住民税5% = 合計20.315%
短期譲渡所得(所有期間5年以下) 所得税30.63% + 住民税9% = 合計39.63%

※所得税率には、復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が含まれています。

大切なポイントは、相続した財産の場合、所有期間は亡くなった方がその財産を取得した日から引き継いで計算するという点です。ご自身が相続してから5年経っていなくても、被相続人の所有期間と合わせれば長期譲渡所得になるケースが多くあります。

国外財産の売却で使える特例・使えない特例

国内のマイホームを売却した際には、譲渡所得から最大3,000万円を控除できるなど、税金の負担を大きく軽減できる特例制度があります。では、相続した国外の不動産の場合、これらの特例は利用できるのでしょうか。

「居住用財産の3,000万円特別控除」は適用できる可能性あり

もし相続した国外の不動産が、亡くなった方やあなた自身が住んでいた家(居住用財産)である場合、一定の要件を満たすことで「居住用財産の3,000万円特別控除」を適用できる可能性があります。この特例の対象となる資産は「国内」にあるものに限定されていないためです。ただし、実際にそこに居住していた事実を客観的に証明する書類(現地の公共料金の領収書やビザなど)を準備する必要があり、国内不動産に比べて適用のハードルは高くなる傾向があります。

軽減税率など、適用できない特例も多い

一方で、同じ居住用財産の特例であっても、所有期間が10年を超える場合に適用される軽減税率の特例や、特定の居住用財産の買換え特例などは、適用対象が「国内」の資産に限定されているため、国外の不動産には適用できません。国外財産を売却する際は、国内財産と同じ感覚で特例を当てにしないよう注意が必要です。

日本での確定申告の手続きと必要書類

国外財産の売却で利益が出た場合や、外国税額控除、居住用財産の3,000万円特別控除などの特例を使う場合は、必ず確定申告が必要です。手続きをスムーズに進めるために、あらかじめ必要なものを確認しておきましょう。

申告時期と提出書類

確定申告は、財産を売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に、ご自身の住所地を管轄する税務署に行います。

申告には、主に以下の書類が必要です。

・確定申告書

・確定申告書第三表(分離課税用)

・譲渡所得の内訳書(土地建物等・株式等用)

外国税額控除を受けるための追加書類

国際的な二重課税を避けるために外国税額控除の適用を受ける場合は、上記の書類に加えて、以下の書類の添付が必要になります。

・外国税額控除に関する明細書

・外国で所得税を納付したことを証明する書類(現地の申告書控えや納税証明書など)

・海外での売買契約書や費用の領収書など、所得金額の計算に関する明細がわかる書類(日本語訳が必要になる場合もあります)

これらの書類は、税務調査などで提示を求められた場合に備えて、必ず大切に保管しておくようにしましょう。

まとめ

相続した国外財産を売却して利益が出た場合の、譲渡所得税の申告について解説しました。最後に、今回の重要なポイントをまとめます。

・日本の居住者は、国外財産の売却益も日本で申告する義務があります。

・財産がある国と日本の両方で課税される「二重課税」は、「外国税額控除」を適用して調整します。

・譲渡所得の計算では、購入時と売却時の為替レートの変動によって生じる「為替差益」も課税対象になります。

・税率は所有期間が5年を超えるかどうかで大きく変わり、長期(約20%)短期(約40%)に分かれます。

・国外財産の場合、国内財産に比べて適用できる税金の特例は限られます

国際的な税務は、各国の税法や租税条約が絡み合い、非常に複雑です。計算ミスや申告漏れは、後からペナルティが課されるリスクもあります。ご自身での判断が難しいと感じた場合は、国外資産の税務に詳しい専門家へ早めに相談することをおすすめします。

参考文献

国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法

国税庁 No.1240 居住者に係る外国税額控除

国税庁 国外財産調書制度(FAQ)

国外財産の譲渡所得に関するよくある質問

Q.日本の居住者が国外財産を売却した場合、必ず日本で確定申告が必要ですか?

A.はい、売却して利益(譲渡所得)が生じた場合は、日本の「全世界所得課税」の原則に基づき、必ず日本で確定申告をする必要があります。

Q.国外財産の売却で、日本と現地国の両方で税金を払うことになるのですか?

A.はい、その可能性があります。しかし、国際的な二重課税を調整するため、現地で支払った税額を日本の所得税から控除できる「外国税額控除」という制度があります。

Q.相続した国外財産の所有期間はいつから数えますか?

A.あなたが相続した日からではなく、亡くなった被相続人がその財産を取得した日から通算して計算します。この所有期間によって譲渡所得の税率が変わります。

Q.国外不動産の売却で、国内のマイホームと同じように3,000万円の特別控除は使えますか?

A.その不動産が居住用財産としての要件を満たせば、適用できる可能性があります。ただし、居住の事実を証明する必要があるなど、国内不動産よりも手続きが複雑になる場合があります。

Q.譲渡所得の計算で、ドル建ての価格が変わらなくても利益が出ることはありますか?

A.はい、あります。購入時よりも売却時に円安になっている場合、円に換算したときに利益(為替差益)が生じ、その差益も課税対象となります。

Q.外国税額控除を受けるために必要な書類は何ですか?

A.通常の確定申告書類に加え、「外国税額控除に関する明細書」や、外国で税金を納めたことを証明する書類(現地の申告書控えや納税証明書など)が必要です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

\ 相続の不安、専門家にまずは無料相談 /
士業の先生向け専門家AI
士業AI【税務】
\ 相続の不安、専門家にまずは無料相談 /