令和8年度(2026年度)税制改正大綱で、貸付事業用不動産を使った相続税対策に大きな変更が加えられることになりました。特に、亡くなる直前に不動産を取得して節税する、いわゆる「駆け込み対策」が難しくなります。今回は、新たに導入される「5年以内ルール」について、いつから適用されるのか、具体的にどう変わるのかを、わかりやすく解説していきますね。
貸付事業用不動産の相続税評価はどう変わる?新ルール「5年以内ルール」とは
これまで、貸付事業用不動産(賃貸アパートやマンションなど)は、相続税を計算する際の評価額が実際の購入価格(時価)よりも低くなるため、人気の相続税対策でした。しかし、この仕組みを利用した過度な節税を防ぐため、新しいルールが導入されることになったんです。それが「5年以内ルール」です。
ルールの概要:亡くなる5年以内の取得がポイント
この新しいルールのポイントは、「亡くなる前5年以内」に取得または新築した貸付事業用不動産が対象になるという点です。もしこの期間内に相続が発生した場合、これまでの評価方法ではなく、新しい計算方法が適用されます。つまり、相続開始のタイミングが重要になってくるんですね。
新しい評価方法:取得価額の80%で評価
具体的にどう評価が変わるかというと、従来の路線価や固定資産税評価額ではなく、「取得価額をもとに計算した価額の80%」で評価されることになります。簡単に言うと、「購入した金額の8割」が相続税評価額になるイメージです。これまでは時価の3割~5割程度まで評価額を圧縮できるケースもありましたが、今後は8割まで引き上げられるため、節税効果は大幅に下がることになります。
| 改正前(一例) | 時価の3割~5割程度で評価 |
| 改正後(5年以内ルール対象) | 取得価額を基にした価額の80%で評価 |
適用開始はいつから?
この新しい「5年以内ルール」は、令和9年(2027年)1月1日以降の相続や贈与から適用されます。注意したいのは、不動産を取得した時期ではなく、相続が発生した日が基準になるという点です。例えば、令和8年(2026年)中に不動産を購入したとしても、相続発生が令和9年1月1日以降で、かつ取得から5年以内であれば、新ルールが適用されてしまうんです。
なぜ貸付事業用不動産の評価が見直されたの?
今回の改正の背景には、時価と相続税評価額の大きな差を利用した「行き過ぎた節税対策」への懸念がありました。特に、相続開始直前に多額の借金をして賃貸マンションなどを購入し、相続税を大幅に減らすようなケースが問題視されていたんです。
これまでの評価方法とその節税効果
従来の評価方法を簡単にご説明しますね。土地は時価の約8割とされる「路線価」、建物は時価の5~7割程度の「固定資産税評価額」で評価されていました。現金1億円を不動産に変えるだけで、評価額は7,000万円~8,000万円程度に下がります。さらに、その不動産を人に貸していると、「貸家建付地」や「貸家」として評価額がさらに下がり、小規模宅地等の特例(200㎡まで50%減額)も適用できる場合がありました。これらの組み合わせで、評価額を大きく圧縮できていたのです。
改正の目的は「課税の公平性」
国税庁としては、こうした仕組みが、特に富裕層による過度な租税回避につながっていると考えていました。同じ価値の資産を持っていても、現金で持っている人と、直前に不動産に組み替えた人で税負担が大きく変わるのは公平ではない、という考え方です。今回の改正は、こうした不公平感をなくし、課税の公平性を確保することを目的としています。
不動産小口化商品も評価が変わる?
今回の改正では、アパートやマンションだけでなく、「不動産小口化商品」の評価方法も厳しく見直されました。不動産小口化商品は、少ない資金から都心の優良物件などに投資できるため人気でしたが、こちらも相続税対策として利用されることが多かったんです。
不動産小口化商品の新しい評価方法
不動産小口化商品は、通常の貸付用不動産よりもさらに厳しく、取得時期にかかわらず「通常の取引価額(時価)」で評価されることになります。つまり、5年経てば節税効果が戻るという「逃げ道」がありません。これまでは、こちらも路線価などを基準に評価額を大きく下げることができましたが、今後はその節税効果はほぼ期待できなくなると言えるでしょう。
なぜ不動産小口化商品はもっと厳しいの?
不動産小口化商品は、実質的に金融商品に近い性質を持っていると見なされています。現金とほぼ同じように換金できるにもかかわらず、不動産というだけで評価額が大きく下がるのは、制度の趣旨から外れていると判断されたためです。そのため、一棟物件などとは区別され、より厳しいルールが設けられることになりました。
どんなケースが「5年以内ルール」の対象になる?
では、具体的にどのようなケースが新ルールの対象になるのか、見ていきましょう。ポイントは「対価を伴う取引」で「5年以内に取得」した「貸付用」の不動産であることです。
対象となる不動産
対象となるのは、亡くなった方(被相続人)が、相続開始前5年以内に購入したり、新築したりした「一定の貸付用不動産」です。一棟アパートや賃貸マンション、貸家などが該当します。贈与などで無償で取得した不動産は、このルールの対象外と考えられています。
経過措置はある?すでに持っている土地にアパートを建てる場合
「昔から持っている土地に、これからアパートを建てる場合はどうなるの?」と気になりますよね。この点については、経過措置が検討されています。具体的には、「改正を通達に定める日」の5年前から所有している土地に、その日までに着工(建築中でもOK)した建物を新築した場合、新ルールの対象外となる可能性があります。ただし、この「通達に定める日」はまだ明確になっていないため、今後の情報に注意が必要です。
| ケース | 適用の見込み |
| 5年以上前から所有する土地に、通達の日までにアパートを着工 | 対象外になる可能性が高い |
| 最近購入した土地にアパートを新築 | 土地・建物ともに対象になる可能性が高い |
今後の相続税対策はどうすればいい?
今回の改正で、相続直前の駆け込み対策は難しくなりました。では、これからはどのような対策を考えれば良いのでしょうか。
長期的な視点での対策が重要に
これからは、時間をかけた長期的な対策がより一層重要になります。例えば、不動産を活用するにしても、5年以上前から計画的に取得・運用する、あるいは生前贈与を計画的に活用するといった方法が考えられます。特に、暦年贈与や相続時精算課税制度をうまく組み合わせることで、次世代へスムーズに資産を移転させることができます。
専門家への相談のすすめ
相続税対策は、ご家族の状況や資産内容によって最適な方法が大きく異なります。また、税制は毎年のように変わるため、最新の知識が不可欠です。ご自身の状況に合った対策を立てるためにも、一度、相続に詳しい税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。資産全体を見渡して、最適なプランを一緒に考えてもらうのが安心ですね。
まとめ
今回は、貸付事業用不動産の相続税評価に関する新しい「5年以内ルール」について解説しました。この改正は、令和9年1月1日以降の相続から適用され、相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産は、取得価額を基にした価額の80%で評価されることになります。これにより、これまでのような駆け込みでの相続税対策は難しくなります。不動産小口化商品はさらに厳しく、取得時期に関わらず時価評価となります。これからの相続税対策は、短期的な節税効果を狙うのではなく、長期的な視点で計画的に進めることが何よりも大切です。ご自身の資産状況を把握し、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
参考文献
国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
貸付事業用不動産の評価改正に関するよくある質問
Q.新しい「5年以内ルール」はいつから始まりますか?
A.令和9年(2027年)1月1日以降に発生した相続や贈与から適用されます。不動産の取得日ではなく、相続の開始日が基準となります。
Q.5年以上前に購入した貸付アパートも対象になりますか?
A.いいえ、対象外です。このルールは、相続開始前「5年以内」に取得または新築した貸付事業用不動産が対象となります。
Q.新しいルールでは、評価額は具体的にいくらになりますか?
A.従来の路線価評価などではなく、「取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%」で評価されることになります。
Q.贈与で取得した貸付不動産も対象ですか?
A.いいえ、このルールは購入や新築といった「対価を伴う取引」で取得した不動産が対象です。そのため、贈与によって無償で取得した不動産は対象外と考えられています。
Q.新ルールの対象となった不動産でも、小規模宅地等の特例は使えますか?
A.評価方法の変更に関する改正であり、小規模宅地等の特例の適用要件自体が変わるわけではありません。したがって、要件を満たせば適用できると考えられますが、評価額のベースが高くなる点に注意が必要です。
Q.令和8年中に駆け込みで不動産を購入すれば、節税できますか?
A.相続の発生が令和9年1月1日以降になると、取得から5年以内であれば新ルールが適用されるため、節税効果は限定的です。また、過度な節税行為とみなされるリスクもあるため、慎重な判断が必要です。