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前年の株式繰越譲渡損失と確定申告:後期高齢者医療保険への影響

2025-08-20
目次

株式投資で利益が出たとき、前年の損失と相殺して税金を取り戻せる「繰越譲渡損失の利用」はとても便利な仕組みですね。しかし、確定申告を行うことで、後期高齢者医療保険の保険料や窓口での負担割合に思わぬ影響が出てしまうケースがあるのをご存知でしょうか。目先の税金が安くなっても、医療費の負担が増えて結果的に損をしてしまうこともあります。ここでは、制度の仕組みや具体的な計算例を交えながら、損をしないためのポイントを優しく分かりやすく解説いたします。

株式の繰越譲渡損失と確定申告の基本的な仕組み

まずは、株式の取引で出た損失を翌年以降に持ち越す仕組みと、確定申告の基本についておさらいしておきましょう。この仕組みを正しく理解することが、最適な選択をするための第一歩となります。

繰越譲渡損失とはどのような制度か

株式投資では、ある年に利益が出て税金を支払っても、別の年に大きな損失を出してしまうことがありますよね。このような場合に、その年に引ききれなかった損失を翌年以降に最大3年間持ち越すことができるのが繰越譲渡損失の制度です。たとえば、前年に300万円の損失を出し、今年200万円の利益が出たとします。この場合、確定申告をすることで今年の利益200万円と前年の損失を相殺でき、今年分の税金がゼロになるというメリットがあります。

特定口座での確定申告のメリット

証券会社で「源泉徴収ありの特定口座」を開設している場合、利益が出ると自動的に所得税15.315%と住民税5%が差し引かれます。そのため本来は確定申告をする必要はありません。しかし、あえて確定申告をして前年の損失と今年の利益を相殺することで、すでに証券会社によって天引きされた税金を手元に還付してもらうことができます。税負担を直接的に減らせるのが一番の魅力ですね。

申告不要制度と確定申告の違い

源泉徴収ありの特定口座を利用している場合、「申告不要」を選ぶか、「確定申告」をするかを自由に選べました。それぞれの選択による違いを比較してみましょう。確定申告をすると税金が戻る一方で、その所得がさまざまな公的制度の計算基準に含まれる点に注意が必要です。

選択する申告方法 所得の取り扱いと影響
確定申告をしない(申告不要制度) 利益は合計所得金額に含まれず、公的保険料などへの影響は一切ありません。
確定申告をする(総合・分離課税) 相殺後の利益が合計所得金額に含まれ、医療保険料や窓口負担の判定対象となります。

確定申告が後期高齢者医療保険に与える影響

株式の利益を確定申告すると、具体的に後期高齢者医療保険にどのような影響があるのでしょうか。税金が戻ってくる喜びの裏で、毎月支払う保険料や病院での支払いが増えてしまう仕組みを詳しく見ていきましょう。

所得が合計所得金額に加算される仕組み

後期高齢者医療保険の保険料や窓口での負担割合は、前年の「合計所得金額」や「総所得金額等」を基準にして決められています。源泉徴収ありの特定口座の利益は、申告しなければこれらの所得には含まれません。しかし、繰越損失を利用するために確定申告を行うと、損失を差し引いた後の利益が所得として正式に合算されてしまいます。これにより、見かけ上の所得が増えてしまうのです。

保険料が上がってしまう具体的なケース

保険料は、被保険者全員が等しく負担する「均等割額」と、所得に応じて負担する「所得割額」の合計で決まります。株式の利益を申告して所得が増えると、この「所得割額」の部分が高くなります。たとえば、前年の損失が200万円、今年の利益が300万円だった場合、相殺しても100万円の利益が残ります。この100万円が所得として追加されるため、翌年の医療保険料が目に見えて上がってしまうケースがあるのです。

医療費の窓口負担割合が上がる基準

後期高齢者医療制度の窓口負担は通常1割ですが、所得が増えると2割や3割に跳ね上がります。具体的には、同じ世帯の被保険者の住民税の「課税標準額」が28万円以上になると2割負担、145万円以上になると3割負担に該当する可能性があります。株式の利益を申告したことでこの基準額を超えてしまい、通院や入院の際の自己負担額が急増してしまうことには十分な注意が必要です。

住民税の課税標準額(目安) 病院窓口での自己負担割合
28万円未満 原則として1割負担
28万円以上 ~ 145万円未満 2割負担(一定の年金収入等の条件あり)
145万円以上 3割負担(一定の年金収入等の条件あり)

損失と利益の金額で変わる影響の具体例

実際のところ、前年の損失と今年の利益の金額のバランスによって、後期高齢者医療保険への影響は大きく変わります。3つの具体的なパターンを挙げて、どのように判断すべきかを見ていきましょう。

前年の損失が今年の利益よりも大きい場合

たとえば、前年の損失が300万円あり、今年の利益が200万円だったとします。この場合、利益200万円から損失300万円を差し引くと、差引所得は0円(翌年への繰越損失100万円)となります。申告しても追加される所得がないため、後期高齢者医療保険の保険料や窓口負担割合には基本的に影響しません。このケースであれば、安心して確定申告を行い、税金の還付を受けることができますね。

今年の利益が前年の損失を上回る場合

逆に、前年の損失が200万円で、今年の利益が300万円だった場合はどうでしょうか。利益から損失を差し引いても、100万円の所得が残ってしまいます。確定申告をすると、この100万円が「総所得金額等」に加算されます。その結果、所得税や住民税の一部は還付・減額されるかもしれませんが、後期高齢者医療保険の保険料が上がり、場合によっては医療費の窓口負担が2割や3割に引き上げられてしまいます。

申告しない方が結果的に有利になるケース

今年の利益が前年の損失を大きく上回る場合、確定申告をして税金を数万円取り戻せたとしても、医療保険料が年間で数万円上がり、さらに頻繁に通院している方の場合は医療費の負担増が年間十万円を超えることもあり得ます。このように、還付される税額よりも保険料や医療費の増加分が大きくなるケースでは、あえて確定申告を行わず「申告不要制度」のままにしておいた方が、最終的な手元に残るお金は多くなります。

令和6年度からの制度改正による注意点

株式の税金と確定申告のルールについて、令和6年度(令和5年分の所得)から非常に重要な制度改正が行われました。以前の知識のままで申告してしまうと取り返しのつかないことになるため、しっかりと確認しておきましょう。

所得税と住民税の課税方式が統一されました

令和5年度までは、「所得税は確定申告をして税金の還付を受け、住民税は申告不要を選択して保険料への影響を防ぐ」という、いわゆる「いいとこ取り」の手続きが可能でした。しかし、令和6年度からは所得税と住民税の課税方式を一致させなければならないというルールに変更されました。つまり、所得税で確定申告をすると、強制的に住民税でも申告したことになり、医療保険料に直接影響するようになったのです。

繰越控除の取り扱いに関する変更点

課税方式の統一に伴い、上場株式等の譲渡損失の繰越控除額についても、所得税と住民税で金額を一致させることになりました。過去に異なる課税方式を選択していて、所得税と住民税で繰越控除額にズレが生じていた方についても、令和6年度以降は所得税の繰越控除額に合わせる形で計算されます。自治体へ別途提出していた「異なる課税方式を選択するための申告書」も不要になりました。

今後の確定申告で気をつけるべきポイント

これからは「税金を取り戻すこと」と「公的保険の負担が増えること」が完全に連動します。そのため、証券会社から送られてくる特定口座年間取引報告書を見て「税金が戻るからとりあえず申告しよう」と安易に決めてはいけません。ご自身の年金収入や他の所得と合算して、保険料の算定基準や窓口負担の判定基準のボーダーラインを超えないか、慎重に見極める必要があります。

確定申告を行う前の確認ステップ

最終的に確定申告をするべきか、しないべきかを決めるためには、いくつかの確認ステップを踏むことが大切です。手間はかかりますが、家計を守るためにぜひ実行してみてくださいね。

還付される税金の額を計算する

まずは、確定申告をすることで手元に戻ってくる所得税と住民税の合計額を計算しましょう。源泉徴収ありの特定口座の場合、利益に対して約20.315%の税金が引かれています。前年の損失と相殺できる金額にこの税率を掛けた額が、おおよその還付金額となります。この「プラスになる金額」をしっかりと把握することが第一歩です。

保険料と医療費の増加分をシミュレーションする

次に、申告によって残った利益が所得に加算された場合、後期高齢者医療保険料がいくら増えるかをお住まいの市区町村の窓口などで確認しましょう。また、現在の医療費の自己負担割合が1割から2割、あるいは3割に上がらないかもチェックします。もし割合が上がる場合、毎月かかっている病院代や薬代から、年間でどれくらい支払額が増えるかを計算してみます。

トータルでの損得をしっかり見極める

最後に、「還付される税金の額」と「増える保険料・医療費の合計額」を天秤にかけます。還付金が10万円でも、保険料と医療費が15万円増えてしまえば、結果的に5万円の損をしてしまいます。ご自身の健康状態(通院の頻度)やこれからの生活を考慮した上で、家計全体で見て一番お金が残る選択をするように心がけてくださいね。

まとめ

前年の株式の繰越譲渡損失を利用するために確定申告を行うと、所得税や住民税が還付されるという大きなメリットがあります。しかし、令和6年度からの課税方式の統一により、申告した所得は後期高齢者医療保険の保険料算定や、医療費の窓口負担割合の判定に直接影響するようになりました。前年の損失が今年の利益を上回る場合は影響が出にくいですが、今年の利益の方が大きい場合は負担が増えるリスクが高まります。申告を行う前には、税金の還付額と保険料などの増加額をしっかりと比較し、ご自身にとって最も有利な選択をしてください。

参考文献

国税庁 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)

国税庁 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除

株式の繰越損失と医療保険に関するよくある質問まとめ

Q.前年の株式の損失を今年の利益と相殺するために確定申告をすると、医療保険料は上がりますか?

A.前年の損失が今年の利益を上回る場合は所得がゼロとなるため影響ありませんが、今年の利益が前年の損失を上回り差引所得がプラスになる場合、その分が所得に加算され保険料が上がる可能性があります。

Q.確定申告をすることで、病院での窓口負担割合が変わることはありますか?

A.はい、あります。申告によって住民税の課税標準額が28万円以上になれば2割負担、145万円以上になれば3割負担へと引き上げられる基準に該当してしまうケースがあります。

Q.証券会社の特定口座(源泉徴収あり)を使っていますが、申告しない選択もできますか?

A.可能です。源泉徴収ありの特定口座であればすでに税金が差し引かれているため申告不要を選択できます。申告不要にすれば医療保険料などに影響を与えることはありません。

Q.所得税だけ確定申告して、住民税は申告不要にすることはできますか?

A.令和6年度(令和5年分の所得)から所得税と住民税の課税方式が統一されたため、所得税のみを申告して住民税を申告不要にするといった異なる課税方式を選ぶことはできなくなりました。

Q.税金が戻ってくるのと保険料が上がるのとでは、どちらを優先すべきですか?

A.ご自身の状況によります。還付される税額と、増加する保険料および病院での医療費の増加分を具体的に計算し、トータルで手元に残る金額が多くなる方を選択することが重要です。

Q.今年の利益より前年の損失の方が大きい場合でも、申告のデメリットはありますか?

A.相殺した結果の差引所得が0円になるため、基本的には後期高齢者医療保険料や窓口負担への悪影響はありません。翌年以降に損失を繰り越すためにも申告した方が有利なケースが多いです。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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