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信託契約でも小規模宅地等の特例は適用可?要件と注意点を解説

2025-09-18
目次

家族信託を利用している最中に相続が発生した場合、ご自宅や賃貸アパートなどの土地について「小規模宅地等の特例」が適用できるのか不安に思う方は少なくありません。結論からお伝えすると、信託契約中でも要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用して、土地の評価額を最大80%減額することが可能です。ただし、信託の内容や財産の取得方法によって適用の可否が分かれるため、正しい知識を身につけておくことが大切です。この記事では、信託契約と小規模宅地等の特例の関係について、具体的な要件や注意点を分かりやすく解説していきます。

小規模宅地等の特例とは?

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方(被相続人)がご自宅や事業、賃貸アパートの経営などで使っていた土地を相続する際、その土地の相続税評価額を大幅に減額できる制度です。残されたご家族の生活基盤や事業を守ることを目的としています。この特例を利用することで、相続税の負担を大きく減らすことができます。

減額される割合と面積の上限

土地の使い道によって、減額される割合と対象となる面積の上限が具体的に決まっています。ご自宅用の土地であれば最大80%も評価額が下がるため、非常に効果的です。

用  途 限度面積と減額割合
特定居住用宅地等(ご自宅) 330平方メートルまで80%減額
特定事業用宅地等(お店や工場) 400平方メートルまで80%減額
貸付事業用宅地等(賃貸アパートなど) 200平方メートルまで50%減額

適用を受けるための主な要件

ご自宅用の「特定居住用宅地等」として80%の減額を受けるためには、誰が土地を相続するかが重要です。具体的には、亡くなった方の配偶者、同居していた親族、または過去3年以内に持ち家に住んだことがない別居の親族(通称「家なき子」)のいずれかが相続し、申告期限(亡くなってから10ヶ月以内)まで引き続き住み、かつその土地を所有し続ける必要があります。

特例を使わないとどうなる?

もし小規模宅地等の特例を使えない場合、土地の評価額がそのまま相続税の計算の基礎となります。例えば、路線価などで計算したご自宅の土地の評価額が5,000万円で、330平方メートル以下だった場合、特例を使えば評価額は1,000万円まで下がります。しかし、特例が使えなければ5,000万円に対してそのまま相続税がかかるため、数百万円から数千万円の税金負担の差が生まれることもめずらしくありません。

信託契約の基本的な仕組み

近年、認知症対策などでよく利用される「家族信託(民事信託)」は、財産の管理を信頼できる家族に任せる仕組みです。財産を預ける人を「委託者」、財産を管理・運用する人を「受託者」、そこから家賃などの利益を受け取る人を「受益者」と呼びます。

委託者・受託者・受益者の関係

一般的に多く見られるのは、親が委託者かつ受益者となり、子供が受託者として財産を管理するケースです。この場合、名義は受託者である子供に移りますが、実質的な権利や利益は受益者である親が持っている状態になります。税金の計算では、この実質的な権利(信託受益権)を持っている人が財産の持ち主として扱われます。

信託財産に小規模宅地等の特例は適用可能か?

ご自宅やアパートを信託財産にしている場合でも、小規模宅地等の特例は適用可能です。信託契約を結んで受託者に名義が変わっていても、税務上は信託に関する権利を取得した人が、その土地を直接相続したものとみなされるからです。ただし、相続が発生したタイミングで信託が継続するか、終了するかによって扱いが少し異なります。

信託が継続する場合(信託受益権の相続)

親が亡くなった後も信託契約が続き、子供などが新たな受益者として信託受益権を引き継ぐパターンです。この場合、相続税法上は信託財産である土地そのものを取得したものとみなされます。そのため、新たに受益者となった人が、同居している、事業を引き継ぐなどの特例の条件を満たしていれば、特例の適用を受けることができます。

信託が終了する場合(残余財産の取得)

親の死亡をきっかけに信託契約が終了し、信託財産が元の不動産の形に戻って、指定された人(帰属権利者)に引き継がれるパターンです。この場合、引き継いだ人は信託受益権ではなく、不動産そのものを遺贈(遺言のような形で譲り受けること)で取得したとみなされます。このケースでも、受け取った人が居住の継続などの要件を満たせば、通常の相続と同じように小規模宅地等の特例を適用できます。

信託契約で特例を適用する際の注意点

信託契約と小規模宅地等の特例を併用する際、契約内容によっては特例が使えなくなってしまう落とし穴が存在します。せっかくの減額制度を無駄にしないためにも、以下の点に注意が必要です。

誰が受益権を取得するかが重要

特例を受けるためには、ご自宅なら同居の親族、賃貸アパートなら事業を引き継ぐ親族が受益権(または残余財産)を取得する設計になっていなければなりません。例えば、親と同居していない別居の子供がご自宅の受益権を引き継ぐ契約になっていると、居住の要件を満たせず、特例の80%減額は受けられなくなってしまいます。

賃貸不動産の場合の事業継続要件

賃貸アパートなどの貸付事業用宅地等の場合、200平方メートルまで50%減額されます。これを適用するには、亡くなった方の貸付事業を親族が引き継ぎ、申告期限まで事業を継続し、かつ土地を所有し続ける必要があります。信託終了後に不動産を取得する人が賃貸経営を引き継がない場合や、相続直後に売却してしまうと特例の対象外となるため、契約段階での将来の見通しが肝心です。

信託契約書の内容を十分に確認

相続が発生した際に、「誰が次の受益者になるのか」、あるいは信託が終了するなら「誰が残余財産を受け取るのか」を、信託契約書に明確に記載しておく必要があります。契約書の記載が曖昧で、誰が権利を引き継ぐのか申告期限から3年以内に決まらないような場合、小規模宅地等の特例を適用できなくなる恐れがあります。

家族信託の設計段階で行うべき対策

家族信託は一度契約を結ぶと、後から内容を変更するのが難しい場合があります。そのため、信託を始める前の設計段階で、相続税の負担がどうなるかをシミュレーションしておくことが不可欠です。

将来の相続を見据えた受益者の指定

ご自宅を信託する場合、将来誰が親と同居して介護などを担うのかを想定し、その同居する子供が信託受益権や不動産を引き継ぐように契約書で指定します。配偶者が健在であれば、配偶者が亡くなったときの二次相続まで視野に入れ、配偶者に権利を移すのか、直接子供に移すのかを検討し、特例が最も有効に使えるルートを選びます。

専門家を交えたシミュレーション

小規模宅地等の特例や信託の税務は非常に複雑で、法律の条文や通達に基づいた厳密な判断が求められます。「信託を使えば安心」と安易に考えるのではなく、信託契約を結ぶ前に、税金に詳しい専門家に相談して特例が使えるかどうかのシミュレーションを行うことが、財産を安全に引き継ぐための近道です。

まとめ

信託契約を結んでいるご自宅や賃貸不動産であっても、要件を正しく満たせば小規模宅地等の特例を適用することは十分に可能です。信託が続く場合は「信託受益権」として、終了する場合は「残余財産」として、引き継ぐ人が同居や事業継続といった条件をクリアしているかがポイントになります。信託のメリットである柔軟な財産管理と、小規模宅地等の特例による税負担の軽減を両立させるためには、将来の取得者を明確にした精緻な契約書の作成が欠かせません。これから信託を検討される方や、すでに契約中で不安がある方は、一度契約内容を見直してみることをおすすめします。

参考文献

国税庁:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

信託契約と小規模宅地等の特例に関するよくある質問まとめ

Q.信託契約中でも小規模宅地等の特例は適用できますか?

A.はい、適用可能です。信託契約中であっても、信託財産である土地の実質的な権利(信託受益権)を引き継ぐ人が、同居要件や事業継続要件などを満たせば、最大80%の評価額減額を受けられます。

Q.親が亡くなって信託が終了し、不動産そのものを受け取った場合も特例は使えますか?

A.使えます。信託が終了して残余財産として不動産そのものを取得した場合でも、遺贈により取得したものとみなされるため、要件を満たせば小規模宅地等の特例の対象となります。

Q.別居している子供が実家の信託受益権を引き継いだ場合、80%減額は適用されますか?

A.原則として適用されません。80%減額の適用を受けるには、亡くなった方と同居している親族であるか、過去3年以内に自分の持ち家に住んだことがない(家なき子)などの居住要件を満たす必要があります。

Q.賃貸アパートを信託している場合、50%減額の特例を受けるには何が必要ですか?

A.賃貸アパートなどの貸付事業用宅地等として50%減額を受けるには、亡くなった方の貸付事業を引き継ぐ親族が受益権等を取得し、相続税の申告期限まで事業を継続し、かつその土地を所有し続ける必要があります。

Q.信託契約書に残余財産の受け取り人が書かれていないとどうなりますか?

A.受け取り人が明確でないと、相続発生時に誰が財産を取得したかが確定できず、未分割状態と同じ扱いになる可能性があります。その結果、小規模宅地等の特例が適用できなくなる恐れがあるため注意が必要です。

Q.信託財産の中に現金や有価証券が混ざっていても、土地の特例に影響はありませんか?

A.影響はありません。小規模宅地等の特例はあくまで信託財産の中の土地部分に対して適用可否を判断します。現金などの他の資産が含まれていても、土地部分について要件を満たしていれば特例を適用できます。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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