アパート経営をしていると、管理会社から毎月家賃が振り込まれますよね。その入金額は、家賃収入から管理手数料や修繕費などの費用が差し引かれた後の金額になっていることがほとんどです。この差し引かれた後の金額だけをポンと青色申告の帳簿に入力してしまうと、実は税務上間違った処理になってしまい、後から修正が必要になることがあります。この記事では、管理会社からの入金額を正しく記帳し、青色申告をスムーズに進めるための具体的な方法や注意点をわかりやすく解説します。
アパート管理会社の入金額で帳簿をつけるとどうなる?
毎月通帳に振り込まれる金額だけを見て、そのまま売上高として帳簿に入力してしまうと、さまざまな問題が発生してしまいます。なぜそのまま入力してはいけないのか、具体的な理由を見ていきましょう。
収入と経費が相殺された金額での記帳はNG
管理会社からの入金額は、本来の家賃収入から管理手数料や清掃代などが引かれた結果の金額です。例えば、家賃が100,000円で管理手数料が5,000円の場合、通帳には95,000円が振り込まれます。この95,000円だけを売上として記帳する方法を純額主義と呼びますが、青色申告では収入と経費を別々に分けて記載する総額主義が義務付けられています。そのため、正しくは100,000円の収入と、5,000円の経費をそれぞれ帳簿に記載しなければなりません。
青色申告の特別控除要件を満たさなくなるリスク
最大65万円や55万円の青色申告特別控除を受けるためには、正規の簿記の原則である複式簿記で正しく帳簿をつける必要があります。入金額の差額だけで記帳してしまうと、この複式簿記の要件を満たしていないとみなされるリスクがあります。もし要件から外れてしまうと、特別控除が10万円に減額されてしまい、結果として支払う所得税や住民税が大幅に増えてしまうことになります。
税務調査で指摘されやすいポイント
税務署の調査が入った場合、収入が正しく申告されているかは厳しくチェックされます。本来100,000円の家賃収入があるのに、通帳の95,000円を売上として申告していると、売上の過少申告を疑われてしまいます。故意ではなくても、正しい書き方をしていないと加算税や延滞税といったペナルティを科される可能性があるため、日頃から正しい記帳を心がけることが大切です。
なぜ差額ではなく総額で記帳する必要があるの?
少し手間に感じるかもしれませんが、収入と経費を分けて総額で記帳することには、青色申告における明確なルールと理由があります。詳しく解説していきますね。
複式簿記の「総額主義」とは
複式簿記では、お金の出入りだけでなく、その理由や内訳まで細かく記録することが求められます。相殺された後の金額だけを記録すると、実際にはいくら稼いで、いくら経費として支払ったのかが帳簿から読み取れなくなってしまいます。事業の正しい成績を把握するためにも、家賃100,000円という総額と、管理手数料5,000円という経費を隠さずに両方記録する必要があるのです。
消費税の免税事業者判定に影響する理由
アパートの1階を店舗として貸し出している場合や、駐車場収入がある場合は消費税が関係してきます。消費税の納税義務があるかどうかは、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかで判定されます。この判定額は、経費を引く前の総額で計算しなければなりません。もし差額の金額で計算していると、本当は1,000万円を超えているのに免税事業者だと勘違いしてしまい、後から多額の消費税を請求される恐れがあります。
差し引かれた経費の正確な科目分け
管理会社から差し引かれているお金の中には、管理手数料だけでなく、お部屋の原状回復費用や、入居者募集のための広告宣伝費、振込手数料などが含まれていることがあります。これらはそれぞれ、支払手数料や修繕費、広告宣伝費といった正しい勘定科目に振り分けて記帳しなければなりません。差額で処理してしまうと、これらの経費の明細がわからなくなり、後からどの経費にいくら使ったのか分析できなくなってしまいます。
管理会社からの入金時の正しい記帳方法(仕訳例)
それでは、実際にどのように帳簿に入力すればよいのか、具体的な仕訳の例を見てみましょう。ここでは、家賃100,000円に対して、管理手数料が5,000円引かれ、95,000円が普通預金に振り込まれたケースで解説します。
家賃が発生した月末の仕訳(発生主義)
青色申告では、お金が入金された日ではなく、家賃を請求する権利が発生した日(通常は月末)に売上を計上する発生主義で記帳します。例えば1月末に2月分の家賃が確定した場合、以下のように記帳します。
| 借方(左側) | 貸方(右側) |
|---|---|
| 売掛金 100,000円 | 売上高 100,000円 |
これで、100,000円の家賃収入が発生したことと、まだお金は受け取っていない(売掛金)という状態を記録できます。
管理会社から実際に入金された日の仕訳
次に、実際に管理会社から普通預金に95,000円が振り込まれた日の仕訳です。ここで、事前に発生していた売掛金100,000円を消し込み、同時に引かれた5,000円を経費として計上します。
| 借方(左側) | 貸方(右側) |
|---|---|
| 普通預金 95,000円 支払手数料 5,000円 |
売掛金 100,000円 |
このように記帳することで、通帳の入金額95,000円と帳簿の金額がピッタリ一致し、管理手数料5,000円も正しく経費として計上されます。
敷金や礼金が含まれている場合の処理
新しい入居者が決まり、敷金100,000円と礼金100,000円が家賃と一緒に振り込まれた場合は注意が必要です。礼金は返還しないお金なので売上に含めますが、敷金は退去時に返す預かり金なので、売上にはなりません。預り金という科目を使って分けて記帳します。
| 借方(左側) | 貸方(右側) |
|---|---|
| 普通預金 200,000円 | 売上高 100,000円 預り金 100,000円 |
このように、敷金は収入とは別のお金としてしっかり管理しておきましょう。
記帳ミスを防ぐための具体的な対策
毎月のことなので、少しでも楽に、そして正確に帳簿をつけるための工夫をご紹介します。
毎月の送金明細書で総額を確認する
通帳の金額だけを見て記帳するのはミスの元です。管理会社からは毎月、家賃の内訳や引かれた経費の明細が書かれた送金明細書が送られてきます。この明細書を毎月必ず確認し、家賃の総額と経費の内訳を把握してから帳簿に入力する習慣をつけましょう。明細書は税務調査でも必要になる重要な書類ですので、7年間大切に保管してください。
確定申告ソフトの辞書登録やテンプレートを活用する
毎月同じような仕訳を手入力するのは大変ですよね。最近の確定申告ソフトには、よく使う仕訳を登録しておける機能があります。「家賃入金」というテンプレートを作っておき、家賃100,000円、管理手数料5,000円という金額をあらかじめセットしておけば、毎月ワンクリックで正しい総額主義の仕訳が完了します。ぜひソフトの便利な機能を活用して時間を短縮しましょう。
アパート経営専用の銀行口座を作る
生活費とアパート経営のお金が同じ口座に混ざっていると、どれが家賃の入金でどれが私的な出費なのかわからなくなってしまいます。アパート経営を始めたら、必ず事業専用の普通預金口座を1つ新しく作りましょう。管理会社からの入金や、固定資産税の引き落としなどをすべてこの専用口座にまとめることで、帳簿と通帳の残高を合わせやすくなり、ミスを劇的に減らすことができます。
アパート経営の青色申告で経費にできる費用
正しく総額で記帳する際、引かれたお金が経費になるのかならないのか、迷うこともありますよね。アパート経営で経費として認められるものと認められないものをしっかり区別しておきましょう。
経費として認められる具体的な項目
アパート経営に直接関係して発生した出費は、必要経費として計上できます。管理会社に引かれるお金以外にも、ご自身で支払うお金が含まれます。
| 勘定科目 | 具体例と金額の目安 |
|---|---|
| 租税公課 | 固定資産税150,000円、不動産取得税200,000円など |
| 損害保険料 | アパートの火災保険料50,000円など |
| 修繕費 | エアコンの交換費用80,000円、壁紙の張り替え50,000円など |
| 支払手数料 | 管理会社への業務委託料5,000円、入居者募集の仲介手数料など |
これらはすべてアパートからの収入を得るために必要な経費として認められます。
経費として認められない具体的な項目
一方で、事業に関係のない個人的な出費や、特定の税金は経費にはなりません。誤って帳簿に入れないように注意してください。
| 経費にならないもの | 具体的な理由 |
|---|---|
| 所得税や住民税 | 個人の所得に対してかかる税金であり、事業の経費ではないため |
| アパートローンの元金返済 | お金を返しているだけであり、利息部分しか経費にならないため |
| プライベートな飲食代 | 家族での食事など、アパート経営に全く関係のない出費であるため |
| 交通反則金や罰金 | スピード違反の罰金15,000円などは、ペナルティであり経費対象外 |
20万円以上の修繕費に関する注意点
退去後のリフォームなどで修繕費が高額になった場合は気をつけましょう。目安として、ひとつの修理につき20万円以上かかり、さらにアパートの価値を高めたり使用できる期間を延ばしたりする工事(例えば最新のシステムキッチンの導入など)は、その年の修繕費として一括で経費にすることができません。これらは資本的支出と呼ばれ、資産として計上したあとに、数年かけて減価償却費として少しずつ経費にしていく必要があります。
まとめ
アパートの管理会社からの入金額を、通帳の金額通りにそのまま売上にしてしまうと、青色申告のルールである総額主義に違反してしまいます。家賃の総額を売上とし、差し引かれた管理手数料などを経費としてきちんと分けて記帳することが、青色申告特別控除を受け、正しく節税するための最大のポイントです。毎月送られてくる送金明細書をしっかり確認し、確定申告ソフトのテンプレート機能などを活用しながら、正確な帳簿づくりを心がけてくださいね。
参考文献
国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
アパート経営の帳簿づけに関するよくある質問まとめ
Q.管理会社からの入金額をそのまま売上にして記帳してもいいですか?
A.いいえ、入金額をそのまま売上にするのは間違いです。家賃収入の総額を売上とし、引かれた管理手数料や修繕費などを経費として分けて記帳する総額主義のルールを守る必要があります。
Q.入金額だけで記帳するとどのようなペナルティがありますか?
A.複式簿記の要件を満たしていないと判断され、最大65万円の青色申告特別控除が取り消されて10万円になる恐れがあります。また、売上の過少申告として税務調査で指摘されるリスクもあります。
Q.管理手数料以外に引かれるお金はどう仕訳すればいいですか?
A.送金明細書を確認し、原状回復の費用なら修繕費、入居者募集の費用なら広告宣伝費、振込手数料なら支払手数料といったように、内容に合わせて正確な勘定科目に分けて経費計上します。
Q.入居者から預かった敷金はどう処理すればいいですか?
A.敷金は将来退去する際に返還するお金なので、売上には含めません。預り金という勘定科目を使って、収入とは別のお金として帳簿に記帳して管理します。
Q.アパートローンの返済額は全額経費になりますか?
A.いいえ、毎月のローン返済額のうち、経費として認められるのは利息部分のみです。元金の返済部分は借金を返しているだけなので、経費にはなりません。
Q.高額なリフォーム費用は一括で経費にできますか?
A.20万円未満であれば一括で修繕費として経費にできますが、20万円以上で物件の価値を高めるような工事の場合は資本的支出となり、数年に分けて減価償却費として経費にしていく必要があります。