法人住民税の均等割は、会社の赤字や黒字に関わらず毎年必ず納める必要がある税金です。少しでも負担を抑えたいと考える中で、「無償減資で欠損塡補を行えば均等割が安くなるのでは?」と疑問に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、単純に帳簿上の資本金を減らす無償減資を行っただけでは、均等割は下がりません。しかし、正しい手続きを行い、申告時に適切な調整をすることで税負担を適正化できる場合があります。この記事では、法人が無償減資等による欠損塡補を行った場合が均等割にどのような影響を与えるのか、そして資本金等の額に行うべき加減算の調整方法について、具体的な要件を交えながら分かりやすく解説します。
法人住民税の均等割とは?資本金等の額との基本的な関係
法人住民税の均等割について正しく理解するためには、まずその仕組みと、税額を決める基準について知っておくことが大切です。ここでは、均等割の基本と資本金等の額との関係について分かりやすくご説明します。
均等割の基本的な仕組みと税率区分
均等割は、法人が地方自治体の行政サービスを利用していることに対する負担金として、所得の有無に関係なく定額で課される税金です。この税額は、法人の規模を示す指標である資本金等の額と、従業員の数によって区分されています。例えば、東京都の23区内にのみ事務所がある場合、均等割の年額は以下のように定められています。
| 資本金等の額と従業員数の基準 | 均等割の年額 |
|---|---|
| 資本金等の額が1,000万円以下かつ従業員数50人以下 | 70,000円 |
| 資本金等の額が1億円以下かつ従業員数50人以下 | 160,000円 |
このように、基準となる金額の枠を超えると、納めるべき税額が大きく跳ね上がる仕組みになっています。そのため、この基準額を正しく計算することが非常に重要になります。
均等割の基準となる資本金等の額とは
均等割の判定に使われる資本金等の額は、決算書(貸借対照表)に記載されている「資本金」の金額とは異なります。税法上では、株主から会社に払い込まれた出資金の合計額(資本金と資本剰余金の合計に近い金額)を基準とします。そのため、お金の払い戻しを伴わない無償減資を行って会計上の資本金を減らしたとしても、株主から払い込まれた金額自体は会社に残っているため、原則として税法上の資本金等の額は変わらないことになっています。
無償減資等で欠損塡補をした場合の均等割への影響
原則として無償減資を行っても資本金等の額は変わらないとお伝えしましたが、平成27年度の税制改正により、過去の赤字(欠損)を埋めるための減資を行った場合には、特別なルールが設けられました。これにより、均等割を計算する際の基準額を引き下げられる可能性があります。
無償減資による欠損塡補の基本
無償減資とは、株主に現金などを払い戻すことなく、帳簿上の資本金を減らす手続きのことです。この減らした資本金を、会社に積み重なったマイナス(繰越利益剰余金のマイナス)と相殺することを欠損塡補と呼びます。この欠損塡補に充てた金額については、一定の要件を満たすことで、申告の際に資本金等の額から差し引く(減算する)ことが認められています。
資本金等の額への減算調整の要件
減算調整を行うためには、いつ、どのような手続きを行ったかによって厳格な要件が定められています。ご自身の会社が以下のどちらの期間に当てはまるかをご確認ください。
| 実施した期間 | 減算調整ができる具体的な要件 |
|---|---|
| 平成13年4月1日〜平成18年4月30日 | 無償減資または資本準備金の減少により、欠損の塡補に充てた金額を減算できます。 |
| 平成18年5月1日以後 | 資本金または資本準備金を減額してその他資本剰余金に振り替えた日から1年以内に、損失の塡補に充てた金額に限って減算できます。 |
特に平成18年5月1日以降の場合、「その他資本剰余金として計上してから1年以内」という厳しい期限が設けられている点に注意が必要です。1年を過ぎてから欠損塡補に充てても、均等割の減算対象にはなりません。
無償増資を行った場合の加算調整について
減算ができる一方で、会社が過去に無償増資を行っていた場合には、資本金等の額に金額を加算しなければならないルールも同時に導入されました。均等割の額が上がってしまう可能性があるため、見落とさないように気をつけましょう。
無償増資とは?
無償増資とは、株主から新たに資金を集めるのではなく、会社がこれまで稼いで蓄積してきた利益(利益剰余金など)を、帳簿上で資本金に組み入れる手続きのことです。手元の資金は増えませんが、会社の信用力を高める目的などで活用されます。
加算調整の具体的な要件
平成22年4月1日以後に、利益準備金またはその他利益剰余金を使って無償増資を行った場合は、その増資に充てた金額を加算調整する必要があります。過去の事業年度に行った無償増資であっても、現在の均等割を計算する際に加算しなければならないため、法人の過去の履歴をしっかりと確認しておくことが大切です。
均等割の基準額の最終的な判定方法
加減算のルールが分かったところで、実際にどのように均等割の基準額を決定するのかを見ていきましょう。単純に計算した金額がそのまま基準になるわけではなく、最終的な比較判定が必要になります。
資本金と資本準備金の合計額との比較
均等割の判定に使う金額は、以下の2つの金額を計算し、どちらか大きい方の金額を採用することになります。
① 税法上の資本金等の額 + 無償増資の加算額 - 無償減資等の欠損塡補による減算額
② 会計上の「資本金」と「資本準備金」の合計額
つまり、無償減資による減算調整をどれだけたくさん行ったとしても、決算書上の「資本金と資本準備金の合計額」を下回ることはできない仕組みになっています。
具体例で見る均等割の判定手順
少し複雑ですので、具体的な数字を当てはめて計算してみましょう。
| 会社の状況 | 金額 |
|---|---|
| 税法上の資本金等の額 | 5,000万円 |
| 無償減資による欠損塡補額(要件適合) | 3,000万円 |
| 決算書上の資本金+資本準備金 | 3,000万円 |
この場合、まず①の計算をすると、5,000万円から3,000万円を引き、残りは2,000万円になります。次に、②の金額は3,000万円です。この2つを比較すると、大きい金額は②の3,000万円となります。したがって、この法人の均等割の基準額は2,000万円ではなく、3,000万円として扱われます。
申告時に必要な添付書類と注意点
要件を満たして減算調整を行う場合、申告書に数字を記入するだけでは認められません。欠損塡補の手続きを正しく行ったことを証明するために、いくつかの重要な書類を税務署や自治体に提出する必要があります。
欠損塡補を証明するための必須書類
減算調整の適用を受けるためには、事実関係と金額を証明するために以下の書類を申告書に添付しなければなりません。
・株主総会議事録や取締役会議事録のコピー
・債権者に対する異議申立の公告(官報の抜粋など)
・貸借対照表および株主資本等変動計算書
・承認済みの損失処理案
これらの書類が揃っていないと、せっかくの減算調整が否認されてしまう恐れがありますので、大切に保管して確実に添付してください。
税務申告での記載と手続き上の注意点
実際の申告では、法人税申告書の「別表5(1)」という書類に正しい記載を行う必要があります。また、適格合併によって引き継いだ被合併法人の過去の減算額は、合併後の法人が引き継いで減算することはできないなど、組織再編が絡むと取り扱いがさらに複雑になります。手続きに漏れがないよう、スケジュール管理を含めて慎重に進めることが求められます。
まとめ
法人が無償減資等による欠損塡補を行った場合、所定の要件を満たすことで均等割の基準となる資本金等の額から減算調整を行うことができ、税負担を適正化できる可能性があります。ただし、平成18年5月1日以後の減資については「その他資本剰余金に計上してから1年以内」という厳しい期限があり、また過去の無償増資に対する加算調整も考慮しなければなりません。最終的には「資本金と資本準備金の合計額」との比較判定も必要となります。手続きには官報公告や株主総会の決議など時間と手間がかかるため、決算日を見据えた早めの計画と、確実な書類準備を心がけましょう。
参考文献
東京都主税局 均等割の税率区分の基準となる「資本金等の額」チェックポイント
無償減資と均等割の加減算調整に関するよくある質問まとめ
Q.無償減資を行うだけで法人住民税の均等割は安くなりますか?
A.単に帳簿上の資本金を減らす無償減資を行っただけでは、税法上の資本金等の額は変わらないため均等割は安くなりません。所定の要件を満たした上で、欠損塡補に充て、申告時に減算調整を行う必要があります。
Q.資本金等の額から減算するための要件は何ですか?
A.平成18年5月1日以後の場合、資本金や資本準備金を減額して「その他資本剰余金」として計上してから、1年以内に損失の塡補に充てた金額に限り減算が認められます。
Q.無償増資を行っていた場合、どのような影響がありますか?
A.平成22年4月1日以後に、利益準備金やその他利益剰余金を使って無償増資を行った場合、その増資に充てた金額を資本金等の額に加算して均等割を計算しなければならないというルールがあります。
Q.減算調整をすれば、均等割の基準額はどこまでも下がりますか?
A.加減算の調整をした後の「税法上の資本金等の額」と、「決算書上の資本金と資本準備金の合計額」を比較し、大きい方の金額が基準となるため、資本金と資本準備金の合計額を下回ることはありません。
Q.申告の際に必要な添付書類は何ですか?
A.減算調整を受けるには、株主総会議事録、債権者に対する異議申立の公告(官報の抜粋)、貸借対照表、株主資本等変動計算書などの事実と金額を証明する書類の添付が必要です。
Q.合併をした場合、消滅した会社の減算額は引き継げますか?
A.適格合併であっても、被合併法人が合併前に行った資本の欠損塡補等による減算額を、合併法人が引き継いで自社の資本金等の額から減算することはできません。