長年働いてきた複数の職場から、年をまたいで別々に退職金を受け取る場合、「税金はどうなるの?」「確定申告の控除額はいくら?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。退職金は税制上とても優遇されていますが、短期間に複数回受け取ると控除の計算方法が少し複雑になります。とくに、以前の退職金を受け取った年から4年以内に次の退職金を受け取ると、2つの職場で同時に働いていた重複期間の控除額が差し引かれるルールがあります。この記事では、2か所から年をまたいで退職金を受領した際の控除額の計算方法や、確定申告の注意点について、具体的な金額を交えながらわかりやすく解説していきます。
退職金にかかる税金と退職所得控除の基本
退職金は、老後の大切な生活資金となるため、ほかの収入とは分けて税金を計算する「分離課税」という仕組みが採用されています。税金の計算では、退職所得控除という大きな非課税枠を差し引くことができるため、税負担がとても軽くなります。
退職所得控除の具体的な計算方法
退職所得控除の金額は、お勤めになった年数(勤続年数)によって決まります。勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1日に満たなくても1年として切り上げて計算します。具体的な計算式は以下の表のとおりです。
| 勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
たとえば勤続年数が35年の場合、800万円+70万円×(35年-20年)となり、1,850万円までなら税金がかかりません。
退職所得と税額の計算手順
退職金から退職所得控除を差し引いたあと、さらにその金額を半分にしたものが課税対象となる退職所得です。この退職所得に所得税率(5%から45%)と住民税率(一律10%)をかけて税額を出します。
| 計算ステップ | 計算式 |
|---|---|
| 退職所得の計算 | (退職金の額-退職所得控除額)×2分の1 |
| 税額の計算 | 退職所得×税率-控除額 |
※勤続年数5年以下の役員等ではない従業員で、控除後の金額が300万円を超える部分は「2分の1」の優遇が一部受けられませんのでご注意ください。
2か所から年をまたいで退職金を受領した場合の控除額ルール
別の年に2か所から退職金を受け取った場合、基本的にはそれぞれの職場の勤続年数で控除額を計算します。しかし、前回の退職金を受け取った年から前年以前4年以内に別の退職金を受け取る場合は、控除の重複を防ぐための特別な調整計算が必要です。
重複期間の退職所得控除額を差し引く
2つの職場で同時に在籍していた期間(重複期間)がある場合、新しく受け取る退職金の控除額から、重複している期間分の控除額を差し引かなければなりません。これは、同じ期間に対して2回も退職所得控除を適用させないためのルールです。
| 重複期間の計算方法 | 控除額からの減額分 |
|---|---|
| 同時期に働いていた年数 | 40万円×重複期間の年数 |
たとえば、重複期間が5年ある場合、40万円×5年=200万円を、新しい退職金の退職所得控除額からマイナスします。
前回の退職金が4年以上前なら影響なし
前回の退職金を受け取った年から5年以上経過して次の退職金を受け取る場合、重複期間の調整は必要ありません。それぞれの退職金に対して、満額の退職所得控除を適用することができます。退職のタイミングを少しずらすだけで、手元に残る金額が大きく変わるケースもあります。
具体的な控除額の計算シミュレーション
ここでは、A社とB社から年をまたいで退職金を受け取り、在籍期間が一部かぶっているケースで、控除額がいくらになるのか具体的な金額を使って計算してみましょう。
A社での退職金と控除額の計算
A社に2010年4月1日から2023年3月31日まで13年間勤務し、1,000万円の退職金を受け取ったとします。この場合、A社の退職所得控除額は「40万円×13年=520万円」です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| A社の退職金 | 1,000万円 |
| A社の退職所得控除額 | 520万円 |
退職所得は(1,000万円-520万円)×2分の1=240万円となり、この240万円に税金がかかります。
B社での退職金と控除額の調整
続いて、B社に2018年4月1日から2025年3月31日まで7年間勤務し、700万円の退職金を受け取ったとします。A社とB社は2018年4月1日から2023年3月31日までの5年間、在籍期間が重複しています。A社の退職金をもらってから4年以内にB社の退職金をもらうため、調整が必要です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| B社の本来の控除額 | 40万円×7年=280万円 |
| 重複期間(5年)の減額分 | 40万円×5年=200万円 |
B社の退職所得控除額は、本来の280万円から減額分200万円を引いた80万円になります。そのため、B社の退職所得は(700万円-80万円)×2分の1=310万円となります。
確定申告が必要なケースと不要なケース
退職金を受け取ったあとに確定申告をしなければならないのかどうかは、退職前に勤め先へ提出する書類の有無によって決まります。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出した場合
退職するまでに勤務先へ退職所得の受給に関する申告書を提出していれば、原則として確定申告は不要です。会社が正しい退職所得控除額を計算し、必要な税金(所得税や住民税)を天引きして代わりに納めてくれます。
| 申告書の提出 | 確定申告の要否 |
|---|---|
| 提出した | 原則不要(税金の精算は完了) |
確定申告をしたほうが有利になる場合
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合、退職金の総額に対して一律20.42%の税金が天引きされてしまいます。この場合は確定申告をおこなうことで、本来の退職所得控除を適用でき、払いすぎた税金を取り戻すことができます。また、申告書を提出していても、年間の医療費が10万円を超えて医療費控除を受けたい場合などは、確定申告で税金が安くなることがあります。
まとめ
2か所から年をまたいで退職金を受領した場合、前回の退職金受給から4年以内だと、在籍期間が重複している部分の退職所得控除額が差し引かれるというルールがあります。退職金は金額が大きいため、この控除額の調整によって納める税金が数十万円単位で変わることもめずらしくありません。まずはご自身の勤続年数と、重複している期間が何年あるかをしっかり確認しましょう。会社に所定の書類を提出しておけば面倒な確定申告は原則不要ですが、提出を忘れた場合はご自身で確定申告をおこない、払いすぎた税金の還付を受けることを忘れないでくださいね。
参考文献
国税庁:No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき
退職金と確定申告のよくある質問まとめ
Q. 2か所から年をまたいで退職金を受け取ると税金はどうなりますか?
A. 前回の退職金を受け取ってから4年以内に次の退職金を受け取る場合、2つの職場で同時に働いていた重複期間の退職所得控除額が差し引かれて税金が計算されます。
Q. 重複期間の退職所得控除額はどのように計算しますか?
A. 重複していた年数に40万円をかけた金額を、新しく受け取る退職金の本来の控除額から差し引きます。端数の月数は1年に切り上げて計算します。
Q. 確定申告は必ずしなければなりませんか?
A. 退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していれば、税金の精算は終わっているため原則として確定申告は不要です。
Q. 退職所得の受給に関する申告書を出し忘れるとどうなりますか?
A. 退職所得控除が適用されず、退職金額の20.42%が税金として天引きされてしまいます。この場合、自分で確定申告をすれば払いすぎた税金を取り戻せます。
Q. 5年以上前に退職金をもらっていた場合はどうなりますか?
A. 前回の退職金から5年以上経過している場合は、在籍期間の重複を気にする必要はなく、新しい職場の勤続年数に応じた満額の退職所得控除を受けることができます。
Q. 医療費控除を受けたい場合、退職金も確定申告に書くべきですか?
A. はい。医療費控除などの適用を受けるために確定申告をおこなう場合は、確定申告書に退職所得の金額も正確に記載する必要があります。