国外転出特例対象財産という言葉を聞いたことはありますでしょうか。海外へ移住する際や、海外にお住まいのご家族に財産を譲る際に、とても重要になるキーワードです。この記事では、どのような財産が対象になるのか、そしてどのような税金のルールが関係してくるのかを、できるだけわかりやすくお話ししていきますね。海外への移住や財産の引き継ぎを検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
国外転出特例対象財産とはどのような財産ですか?
国外転出特例対象財産とは、日本から海外へ生活の拠点を移す際などに、日本の税金である所得税などの計算対象となる特別な財産のことです。これまで日本で生活していた方が海外へお引越しをする際に、本来日本に納めるべき税金を納めずに海外へ財産を持ち出してしまうことを防ぐために作られたルールに基づいています。具体的には、現金や不動産ではなく、主に株式などの金融資産が対象となります。
国外転出特例対象財産の具体的な種類
対象となる財産は、主に金融商品です。わかりやすく表にまとめましたので、確認してみましょう。
| 財産の分類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 有価証券等 | 上場株式、非上場株式、投資信託、国債など |
| 匿名組合契約の出資持分 | 匿名組合に対する出資の持分 |
| 未決済の信用取引等 | 決済が済んでいない信用取引や発行日取引 |
| 未決済デリバティブ取引 | 先物取引やオプション取引などに係る権利 |
対象外となる財産について
全ての財産が対象になるわけではありません。たとえば、現金や預貯金、そして土地や建物といった不動産は、国外転出特例対象財産には含まれません。また、仮想通貨などの暗号資産についても、現在のルールでは対象外とされています。株式や投資信託といった特定の金融商品だけが対象になると覚えておいてくださいね。
財産の価額はどのように評価するの?
財産の価値は、原則として国外転出をする日の時価(市場価格)で計算します。もし、出国する前に確定申告をする場合は、出国予定日の3ヶ月前の日の時価を基準にして計算することになります。上場株式であれば証券取引所が公表している最終価格、非上場株式であれば会社の純資産などから算出した価格が用いられます。
国外転出時課税制度の対象となる人の具体的な要件
対象の財産を持っているからといって、すべての方が税金の対象になるわけではありません。国外転出時課税制度(出国税)の対象となるには、財産の金額と日本に住んでいた期間という2つの条件を両方とも満たす必要があります。
所有している対象財産の金額基準
1つ目の条件は、国外へ転出する時点で保有している国外転出特例対象財産の合計額が1億円以上であることです。この1億円という金額は、購入したときの金額ではなく、出国するときの時価で計算します。1億円未満であれば、この制度の対象にはなりません。
日本国内での居住期間の要件
2つ目の条件は、日本に住んでいた期間です。具体的には、国外転出をする日からさかのぼって過去10年間のうち、日本国内に住んでいた期間の合計が5年を超えていることが条件となります。長く日本で生活していた方が海外へ移住する場合に、この制度が適用される仕組みになっています。
短期的な海外赴任や留学の場合はどうなる?
会社のお仕事による1年未満の短期的な海外赴任や、数ヶ月から1年程度の語学留学などで、生活の拠点が引き続き日本にあると認められる場合は、そもそも国外転出には当たりません。あくまで、中長期的に生活の拠点を海外へ移す場合が対象となります。
財産債務調書における国外転出特例対象財産の扱い
財産債務調書とは、ご自身の財産や借入金などの状況を税務署に報告するための書類です。ここでも国外転出特例対象財産が関わってきます。
財産債務調書の提出義務者となる条件
毎年12月31日の時点で、以下のいずれかの条件を満たす方は、翌年の6月30日までに財産債務調書を提出する義務があります。
| 提出義務の条件 | 具体的な基準 |
|---|---|
| 条件1 | 1年間の所得金額の合計が2,000万円を超え、かつ、財産合計が3億円以上、または国外転出特例対象財産が1億円以上ある方 |
| 条件2 | 1年間の所得金額に関係なく、財産の合計額が10億円以上ある方 |
提出しなかった場合のペナルティ
もし提出の義務があるにもかかわらず、期限までに財産債務調書を提出しなかった場合、厳しいペナルティが用意されています。後から税務調査などで申告漏れが見つかった際、通常かかる過少申告加算税や無申告加算税の税率が、さらに5パーセント加重されてしまいます。税金の負担が大きく増えてしまうため、必ず期限を守ることが大切です。
提出した場合のメリットや軽減措置
逆に、正しく財産債務調書を提出していればメリットもあります。万が一、後から計算間違いなどで税金の申告漏れが見つかったとしても、提出された調書に記載されている財産に関するものであれば、過少申告加算税や無申告加算税の税率が5パーセント軽減されます。正直に報告しておくことで、もしもの時の負担を軽くすることができるのですね。
納税を猶予してもらうための手続きと条件
国外転出特例対象財産を1億円以上持っていると、株式を売却していなくても含み益に対して所得税がかかります。しかし、手元に現金がない場合もありますよね。そのような時は、納税を5年間、手続きによっては最長10年間まで待ってもらえる納税猶予という仕組みがあります。
納税管理人の選任と届出
納税猶予を受けるためには、ご自身が海外にいる間に税金の手続きを代わりに行ってくれる納税管理人を選び、出国するまでに税務署へ届け出る必要があります。納税管理人は日本に住んでいる方であれば、ご親族でも専門家でもなることができます。
担保の提供と必要な手続き
納税を待ってもらう代わりに、猶予してもらう税金と利子に相当する額の担保を税務署に提供しなければなりません。担保にできるのは、国債や地方債、確実と認められる有価証券、不動産などです。また、確定申告書に納税猶予を受けたい旨を記載し、期限までに提出することも必須条件となります。
帰国した場合の課税の取り消しについて
もし、納税猶予の期間中である原則として出国から5年以内に日本へ帰国し、その対象財産を売却せずに保有し続けていた場合は、手続きを行うことで課税の取り消しを受けることができます。帰国した日から4ヶ月以内に更正の請求という手続きを行うことで、出国時にかけられた税金がなかったことになります。
相続や贈与で海外に財産が移る場合の注意点
国外転出特例対象財産のルールは、ご自身が海外へ行くときだけでなく、海外に住んでいるご家族に財産を引き継ぐときにも適用されます。
国外に住む親族への贈与時の課税
日本に住んでいる方が、1億円以上の国外転出特例対象財産を、海外に住んでいるお子様やお孫様などに贈与した場合、その財産を譲った贈与者に対して所得税がかかります。海外へ財産が移るタイミングで、株式などの含み益に対して税金が精算される仕組みになっています。
海外居住者が財産を相続する場合の手続き
亡くなった方が日本に住んでいて、1億円以上の対象財産を持っていた場合、その財産を海外に住んでいるご家族が相続するときも同様に課税の対象となります。この場合、亡くなった方に所得税がかかるという扱いになるため、財産を受け継いだ相続人が代わりにお手続きをする必要があります。
準確定申告の期限と申告方法
亡くなった方の代わりに相続人が行う税金の申告を準確定申告と呼びます。この申告と納税は、相続が開始されたことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行わなければなりません。期限が通常の確定申告よりも短いため、早めに準備を進めることがとても大切です。
まとめ
国外転出特例対象財産は、株式や投資信託などで1億円以上の価値がある場合に、海外移住や海外居住者への贈与や相続の際に所得税がかかるという重要なルールの対象となる財産です。現金や不動産は含まれませんが、条件に当てはまる方は事前の対策や納税管理人の選任、財産債務調書の提出など、期限の決まった手続きが必要になります。多額の財産をお持ちで海外への移住や財産の引き渡しを検討されている方は、どのような手続きが必要になるのか、お早めに確認しておくことをおすすめします。
参考文献
国税庁 No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例
国税庁 No.7457 財産債務調書の提出義務
国外転出特例対象財産のよくある質問まとめ
Q.国外転出特例対象財産とは何ですか?
A.日本から海外へ移住する際などに所得税の課税対象となる、株式や投資信託などの有価証券や未決済の信用取引などの金融資産のことです。
Q.いくら以上の財産を持っていると課税の対象になりますか?
A.国外転出時などに保有している国外転出特例対象財産の合計額が、時価で1億円以上ある場合に対象となります。
Q.現金や不動産は国外転出特例対象財産に含まれますか?
A.含まれません。現金、預貯金、土地や建物といった不動産は対象外となります。
Q.財産債務調書はどのような人が提出するのですか?
A.1年間の所得が2,000万円を超え、かつ財産が3億円以上または国外転出特例対象財産が1億円以上ある方、または所得に関わらず財産が10億円以上ある方が対象です。
Q.出国時に税金を支払えない場合はどうすればいいですか?
A.事前に納税管理人を選任して税務署に届け出を行い、担保を提供することで、最長10年間まで納税を猶予してもらうことができます。
Q.海外に住む家族に株式を相続させる場合も対象になりますか?
A.はい、対象になります。1億円以上の対象財産を海外居住の親族に相続させる場合、亡くなった日から4ヶ月以内に準確定申告を行う必要があります。