同族会社の株式を家族や親族に譲り渡す際、「身内だから少し安く売ろう」と考えていませんか。実はそのお考え、税務調査で思わぬ税金がかかる原因になるかもしれません。当事者同士が納得した金額であっても、税務署が定める時価より著しく低い金額で株式を売買すると、その差額に対して贈与税がかかることがあります。これを「みなし贈与」と呼びます。本記事では、同族会社の株式譲渡で発生しやすいみなし贈与のリスクや、税務上の正しい時価の考え方、そして高額な税金を避けるための具体的な回避策について優しく分かりやすく解説していきます。
みなし贈与とは?同族会社の株式譲渡で発生するリスク
会社の株式を売買するとき、相場よりも極端に安い金額で取引をすると、買手は実質的に得をしたことになりますよね。税務署はこの「得をした部分」をプレゼント(贈与)されたものと考えて贈与税をかけます。これがみなし贈与の基本的な考え方です。
みなし贈与の基本的な仕組みと要件
通常、贈与税は「これをあげます」「もらいます」というお互いの合意があって初めて発生します。しかし、相続税法第7条では、合意がなくても著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、適正な時価との差額分を贈与されたものとみなして課税すると定めています。たとえば、税務上の時価が5,000万円の株式を100万円で子供に売った場合、差額の4,900万円がみなし贈与の対象となります。年間110万円の基礎控除額を超えた部分には、最大で55%の贈与税がかかるため注意が必要です。
なぜ同族会社の株式譲渡でリスクが高まるのか
上場企業の株式なら、日々の株価がニュースで流れているため時価は誰の目にも明らかです。しかし、同族会社の非上場株式には市場価格がありません。そのため、身内同士の取引では「これくらいでいいだろう」と感覚で値段を決めてしまいがちです。また、親から子へ会社を引き継ぐ際、買い取る子供の資金負担を減らすために意図的に株価を低く設定するケースも多く見られます。このように、客観的な価格が分かりにくく、かつ身内びいきが入りやすい同族会社の株式譲渡は、税務調査でみなし贈与を指摘されるリスクが非常に高いのです。
みなし贈与が認定された場合のペナルティと税率
もし税務調査でみなし贈与と認定されてしまうと、本来の贈与税に加えて重いペナルティが課されます。期限内に申告していなかったことに対する無申告加算税(原則15%から20%)や、納付が遅れたことに対する延滞税(年率最高14.6%)が上乗せされます。贈与税の税率は、親から成人した子への贈与(特例贈与)の場合でも、基礎控除後の金額が4,500万円を超えると最高税率の55%が適用されます。安く譲ったつもりが、手元に残る現金以上の税金を請求される事態になりかねません。
非上場株式の税務上の時価はどう決まる?
非上場株式の適正な時価は、国税庁が定める財産評価基本通達というルールに従って計算します。この計算方法は、株式を買い取る人が会社を経営・支配する立場になるか、それとも単なる少数株主になるかによって大きく2つに分かれます。
原則的評価方式が適用されるケースと計算方法
株式を買い取った人が、その会社の経営権を握る同族株主(中心的な株主グループで議決権の30%以上を保有するなど)になる場合は、原則的評価方式を使います。この方式には、似ている業種の上場企業の株価を参考にする類似業種比準方式と、会社の資産から負債を引いた純資産の額から株価を計算する純資産価額方式の2種類があります。会社が持つ土地や現預金、これまでの利益の蓄積がそのまま株価に反映されるため、業績が良い会社や歴史が長い会社ほど、株価が非常に高くなる傾向があります。
| 評価方式の種類 | 特徴と適用されるケース |
|---|---|
| 類似業種比準方式 | 事業内容が似ている上場企業の株価を参考に計算。比較的株価が抑えられやすい |
| 純資産価額方式 | 会社が解散したと仮定し、残る純資産から計算。内部留保が多いと株価が高くなる |
特例的評価方式が使えるケース
一方で、株式を買い取っても経営権を持たない少数株主(議決権割合が5%未満など)になる場合は、特例的評価方式(配当還元方式)という特別な計算方法を使います。これは、会社から受け取る1年間の配当金の額を基準に株価を計算する仕組みです。同族会社は配当を少なく設定していることが多いため、この方式を使うと株価が1株あたり数百円程度と、原則的評価方式に比べて驚くほど低く計算されるのが特徴です。買い手の立場によって、同じ会社の株式でも税務上の時価が全く異なる金額になる点に注意しましょう。
ケース別に見る株式譲渡における課税関係と注意点
株式を誰から誰に売却するかによって、かかる税金の種類やルールがガラリと変わります。ここでは代表的な3つのパターンを整理してみましょう。
個人から個人へ譲渡する場合
親から子、親族間など、個人同士で株式を売買するケースです。売り手には、売った利益(譲渡価格から取得費用などを引いた額)に対して一律20.315%の譲渡所得税がかかります。買い手には通常税金はかかりませんが、前述の通り、税務上の時価より著しく低い価格で買った場合には、時価との差額に対してみなし贈与課税が発生し、高額な贈与税を支払うことになります。
| 取引の当事者 | 発生する主な税金とリスク |
|---|---|
| 売り手(個人) | 譲渡益に対して20.315%の所得税および住民税 |
| 買い手(個人) | 時価より著しく安いと差額に最大55%の贈与税 |
個人から法人へ譲渡する場合のみなし譲渡リスク
個人が保有する株式を、他の会社(法人)に売却するケースです。ここで怖いのがみなし譲渡課税です。もし時価の2分の1未満の金額で法人に売却した場合、売り手である個人は「本当は時価で売って儲けたはずだ」とみなされ、実際には受け取っていない金額に対して所得税がかかってしまいます。一方、安く買えた買い手の法人側にも、時価との差額分だけ得をしたとして、その利益(受贈益)に対して約30%の法人税がかかります。双方にダブルで税金がかかる可能性があるため、時価の半額未満での取引は絶対に避けなければなりません。
個人から発行会社へ譲渡する場合
個人が自分の会社の株式を、その会社自身に買い取ってもらう(自己株式の取得)ケースです。この場合、売り手である個人が受け取ったお金のうち、会社の資本金部分を超える金額については、株式の売却代金ではなく「会社に貯まった利益の払い戻し(配当)」として扱われます。これをみなし配当と呼びます。配当所得は総合課税となるため、給与など他の収入と合算され、所得が多い人だと最大で約55%の重い所得税・住民税がかかることになります。
みなし贈与リスクを回避するための具体的な対策
厳しい税制がある中でも、事前に正しい手順を踏めば、不当な税負担を避けてスムーズに株式を引き継ぐことができます。具体的な3つの対策をご紹介します。
適正な株価算定を事前に行う
最も確実で基本となる対策は、売買契約を結ぶ前に、専門家に依頼して税務上の正しい時価を計算してもらうことです。財産評価基本通達に基づき、会社の決算書や保有財産の状況を細かく分析して株価を算出します。その計算書を根拠にして売買価格を決定すれば、後から税務署に「安すぎる」と指摘されるリスクを大幅に減らすことができます。自己流での計算は非常に危険ですので避けましょう。
特例的評価方式を活用するための株主構成の調整
株価が低く計算される特例的評価方式(配当還元方式)を合法的に使えるように、株主構成を工夫するのも一つの手です。たとえば、経営権を持たない親族(少数株主)へ先に株式を移動させるなどの対策が考えられます。ただし、取引の直前だけ形を整えたり、不自然に株を分散させたりすると、税務署から「税金逃れのための不当な行為」として否認される可能性があります。長期的な視点で計画を立てることが重要です。
事業承継税制の活用を検討する
もし、後継者へ会社を譲る目的で株式を動かすのであれば、国が用意している法人版事業承継税制の利用を強くおすすめします。これは、一定の要件を満たして都道府県知事の認定を受ければ、株式の贈与や相続にかかる税金の全額(100%)が納税猶予され、最終的には免除されるという非常に強力な制度です。令和9年(2027年)12月31日までの期間限定の特例措置ですので、早めに検討を始めるのが賢明です。
過去の判例から学ぶ!否認されないためのポイント
ルール通りに計算したつもりでも、後から税務署に否認されて裁判に発展するケースがあります。過去の裁判例から、私たちが気をつけるべきポイントを学びましょう。
形式的な評価通達の適用が否認された事例
税務上の時価は財産評価基本通達で計算するのが原則ですが、このルールを逆手にとった極端な節税対策は裁判で否認されています。たとえば、評価額を下げるためだけに取引の直前に多額の借金をして不動産を購入し、すぐに株式を贈与したようなケースです。裁判所は「他の納税者との公平性を著しく害する特別な事情がある」として、通達による低い株価を認めず、国税庁が再計算した高い株価での課税を適法と判断しました。やりすぎた節税は逆効果になります。
第三者間取引でも時価と認められなかった事例
通常、親族ではない全くの第三者との取引価格は、お互いの損得勘定が働くため適正な時価として認められやすいです。しかし過去の判例では、会社の社長が従業員持株会や取引先から株式を買い集めた際、社長が圧倒的に優位な立場で一方的に価格を決めていたケースがありました。この場合、対等な立場での自由な取引とは言えないため、たとえ第三者との合意があっても、その価格は適正な時価(客観的交換価値)ではないと判断され、原則的な評価方式での課税が認められました。
まとめ
同族会社の株式譲渡は、当事者同士の合意だけで進めてしまうと、後からみなし贈与やみなし譲渡といった重い税金が課される危険性が潜んでいます。非上場株式の適正な時価は、買い手の立場や会社の状況によって複雑に変化するため、ご自身の判断で価格を決めるのは避けましょう。余計な税金を支払わず、円滑に株式を引き継ぐためには、事前に会社の正確な株価を算定し、事業承継税制などの優遇措置を上手に活用することが大切です。早い段階から計画を立て、安心できる生前対策を進めていきましょう。
参考文献
国税庁:No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
国税庁:No.1464 譲渡した株式等の取得費
国税庁:No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)
同族会社の株式譲渡とみなし贈与のよくある質問まとめ
Q.みなし贈与とは何ですか?
A.実際の贈与契約がなくても、適正な時価より著しく低い価格で株式などを譲り受けた場合に、時価との差額分をプレゼントされたとみなして贈与税が課される仕組みのことです。
Q.同族会社の株式譲渡でみなし贈与になりやすいのはなぜですか?
A.非上場株式には市場の相場がないため価格が不透明になりやすく、さらに親族間での取引が多いため、意図的に価格を低く設定してしまいがちだからです。
Q.非上場株式の税務上の時価はどうやって計算しますか?
A.国税庁の財産評価基本通達に基づき、買い手が経営権を握る場合は原則的評価方式(類似業種比準方式など)、経営権を持たない少数株主の場合は特例的評価方式(配当還元方式)を使って計算します。
Q.個人から法人へ株式を安く売るとどうなりますか?
A.時価の2分の1未満の金額で売却した場合、売り手には時価で売ったとみなされる「みなし譲渡課税(所得税)」が、買い手の法人には得をした分に対する「受贈益課税(法人税)」がダブルでかかるリスクがあります。
Q.みなし贈与を防ぐための最も効果的な対策は何ですか?
A.売買を行う前に、専門家に依頼して会社の業績や資産状況から税務上の正しい株価(時価)を算定してもらい、その適正価格を基準にして取引を行うことです。
Q.事業承継税制とはどのような制度ですか?
A.後継者に会社を譲る際、一定の要件を満たして都道府県の認定を受ければ、株式の贈与や相続にかかる税金の支払いが全額猶予・免除される国の特別な優遇制度です。