領収書の宛名が「上様」でも、小売業や飲食店業など「適格簡易請求書(簡易インボイス)」を交付できる事業からもらったものであれば、そのまま消費税の仕入税額控除に使えます。一方で、通常の事業者間の取引でもらった領収書は、原則として自社の正式な名称が宛名に必要です。そして意外と知られていないのが、宛名などの記載に誤りがあっても、受け取った側が自分で書き直すことは原則として認められていないという点です。この記事では、「上様」とは何かという基本から、インボイス制度での取り扱い、税務調査で実際に何を見られるのか、そして不備が見つかったときの正しい直し方までを、順を追ってご説明しますね。
領収書の宛名に書かれる「上様」とは?
領収書の宛名に記載される「上様」とは、会社名や個人名の代わりに使われる慣用的な表現です。お店が混雑しているときや、長い会社名を伝える手間を省きたいときに、お互いのやり取りを簡略化する目的で古くから使われてきました。
なぜ「上様」と書かれるのか
レジ前で正式名称を聞き取って書き写すには、どうしても時間がかかります。とくにスーパーや飲食店のように、次々とお客様が入れ替わるお店では、宛名の確認が行列の原因になってしまいます。そこで「どなたが支払ったかをあえて特定しない書き方」として、「上様」が使われてきたという経緯があります。
実は、こうした不特定多数のお客様を相手にする事業については、インボイス制度でも「宛名の記載を省略してよい」と法令上はっきり認められています(消費税法57条の4第2項、消費税法施行令70条の11)。つまり「上様」は、単なる慣習ではなく、制度上も一定の範囲で受け入れられている書き方なのです。
「上様」の領収書に税務上の効力はあるのか
よくいただくのが「上様の領収書は無効なのでは?」というご質問ですが、「上様だから一律に無効」ということはありません。税務上は、次の2つを分けて考えると整理しやすくなります。
| 論点 | 「上様」の場合の考え方 |
|---|---|
| 消費税(仕入税額控除) | 簡易インボイスを交付できる事業からのものなら宛名なしでも可。それ以外は原則として正式名称が必要 |
| 法人税・所得税(経費) | 宛名にかかわらず、業務のために支出したことを説明できるかどうかで判断される |
とはいえ、「上様」の領収書は書面だけでは誰が支払ったのかがわかりません。後ほどご説明するとおり、支払った目的や相手をあわせて記録しておくことが大切になります。
「上様」宛の領収書はインボイスとして認められる?
原則として、インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、「上様」と記載された領収書は正式なインボイス(適格請求書)としては認められません。消費税の仕入税額控除を受けるためには、書類を受け取る事業者の正式な氏名または名称が記載されている必要があるからです。
インボイス(適格請求書)の必須記載項目
正式なインボイスとして認められるためには、以下の項目がすべて記載されている必要があります。記載漏れがあると、消費税の控除が受けられなくなるため注意が必要です。
| 項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 発行者の氏名または名称 | 株式会社〇〇など |
| 登録番号 | T+13桁の数字 |
| 取引年月日 | 令和〇年〇月〇日 |
| 取引内容 | 文房具代など(軽減税率対象ならその旨) |
| 税率ごとの合計金額と適用税率 | 10%対象 11,000円など |
| 税率ごとの消費税額等 | 消費税額 1,000円など |
| 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 | お客様の正式な会社名や屋号 |
「上様」でも認められる特例(適格簡易請求書)
ただし、すべての業種で正式名称が必要なわけではありません。国税庁は、不特定かつ多数の方に販売やサービス提供を行う次の事業について、宛名の記載を省略できる適格簡易請求書(簡易インボイス)の交付を認めています。
| 簡易インボイスを交付できる事業 | 補足 |
|---|---|
| ①小売業 ②飲食店業 ③写真業 ④旅行業 ⑤タクシー業 | 「不特定かつ多数の者に対するもの」という限定はなく、事業の形態を問わず交付できます |
| ⑥駐車場業 | 不特定かつ多数の方に対するものに限られます |
| ⑦その他これらに準ずる事業で、不特定かつ多数の方に資産の譲渡等を行う事業 | 個々の事業の性質により判断されます。国税庁のQ&Aでは、ホテル・旅館等の宿泊サービス、航空サービス、レンタカー事業などが例として挙げられています |
これらの事業でお買い物をしたレシートや領収書であれば、宛名が「上様」であったり空欄であっても、インボイスとして消費税の控除を受けることができます。なお、簡易インボイスは正式なインボイスと比べて、「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」が不要である点に加えて、「税率ごとに区分した消費税額等」と「適用税率」はどちらか一方の記載で足りる点も異なります。
一方で、相手方を一つに特定したうえで契約を結び、その契約内容に応じて個々に提供されるもの(電気・ガス・水道水の供給、電話料金など)は、一般的には簡易インボイスを交付できる事業には当たらないとされています。こうした取引の請求書に「上様」と書かれていたら、正式名称への訂正が必要だと考えてください。
税務調査で「上様」の領収書・インボイスの不備はどう見られるか
ここが、多くの経理ご担当者が気にされるところですね。税務調査で消費税が問題になるとき、調査官が見ているのはシンプルに「仕入税額控除の要件を満たす帳簿と請求書等が、きちんと保存されているか」です。順にご説明します。
保存がなければ、その分の仕入税額控除は認められない
消費税法30条7項は、帳簿および請求書等を保存しない場合には、その保存がない課税仕入れに係る税額について仕入税額控除の規定を「適用しない」と定めています(災害その他やむを得ない事情により保存できなかったことを事業者が証明した場合を除きます)。
つまり、要件を満たす書類が手元にないと、消費税の計算上は控除そのものが落ちてしまうということです。「上様」の領収書が問題になるのは、まさにこの場面です。簡易インボイスを交付できる事業からのものであれば宛名がなくても要件を満たしますが、そうでない取引で宛名が「上様」のままだと、要件を満たさない書類として扱われる可能性があります。
宛名や金額の誤りを、自分で書き直してはいけない
もっとも見落とされやすいのがこの点です。国税庁のQ&A(問92)は、記載事項に誤りがあるインボイスの交付を受けた買手の対応について、次のように整理しています。
| 対応方法 | 内容 |
|---|---|
| 原則 | 売手に「修正した適格請求書(適格簡易請求書)」の交付を求め、それを保存する。買手が自ら追記や修正を行うことは原則としてできない |
| 仕入明細書等による方法 | 買手が誤りを修正した仕入明細書等を作成し、売手の確認を受けたうえで保存する方法も認められる |
| 修正内容を売手に確認してもらう方法 | 買手が修正した事項について売手の確認を受ければ、その書類は適格請求書であると同時に仕入明細書等にも該当するため、保存によって控除が認められる |
いずれの方法でも共通しているのは、「売手の確認」が必ず要るということです。自分の判断で二重線を引いて会社名を書き足す、といった対応は、税務調査で改ざんを疑われるだけでなく、そもそも要件を満たす書類になりません。
どこまでさかのぼって確認されるのか
保存期間と、税務署が更正・決定を行える期間は、それぞれ次のとおり定められています。
| 項目 | 期間 |
|---|---|
| 請求書等・帳簿の保存期間 | その課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間 |
| 更正・決定ができる期間(原則) | 法定申告期限から5年 |
| 偽りその他不正の行為があった場合 | 法定申告期限から7年 |
「去年の分だけ整えておけば大丈夫」というものではない、ということですね。日々の受け取り方と保存の仕方を整えておくことが、いちばんの調査対策になります。
調査で慌てないための5つの備え
- 簡易インボイスを交付できる事業かどうかで、宛名の要否を仕分けしておく
- 通常の事業者間取引の領収書は、その場で正式名称を伝えて書いてもらう
- 登録番号(T+13桁)や税率ごとの区分が抜けていないかを受け取った時点で確認する
- 誤りに気づいたら、自分で直さず、速やかに発行者へ修正を依頼する
- 接待や会議の支出は、相手先・人数・目的をあわせて記録しておく
宛名を訂正したい場合の正しい対応方法
会社の経費ルールで「上様」や宛名なしの領収書が認められず、宛名を訂正する必要がある場合、自分で書き加えるのは絶対にやめましょう。前章のとおり、書類を受け取った側が勝手に追記や修正を行うことは、インボイスとしての要件を満たさないうえ、改ざんとみなされる恐れがあります。
発行者に訂正を依頼する
領収書の宛名を訂正したい場合は、必ず発行したお店や企業にお願いして、新しく正しい宛名で再発行してもらうか、訂正印を押して修正してもらいましょう。修正液や修正テープを使用した訂正は無効となる可能性が高いため、二重線で消して発行者の訂正印を押してもらうのが正しいルールです。
依頼するときの伝え方
発行者にとっても、修正したインボイスを交付することは制度上想定された対応です。「登録番号の記載が漏れていました」「宛名を弊社の正式名称に直していただけますか」と、直してほしい箇所を具体的に伝えると、やり取りが一度で済みます。日が経つほど発行者側でも取引の確認が難しくなりますので、気づいた時点で早めにご連絡されるのがおすすめです。
宛名の記載がない領収書の取り扱いとリスク
宛名が全く記載されていない領収書も、「上様」と同様に、簡易インボイスを交付できる事業以外では原則としてインボイスの要件を満たしません。ただし、インボイスの保存そのものが不要とされる取引も定められています。
帳簿のみの保存で控除が認められる取引
国税庁のQ&A(問104)は、そもそも請求書等を受け取りにくい取引などを挙げ、次のものについては一定の事項を記載した帳簿だけを保存していれば仕入税額控除が認められるとしています。身近なものを抜粋してご紹介しますね。
| 取引の種類 | 取り扱い |
|---|---|
| 3万円未満の公共交通機関(鉄道・バス・船舶)による旅客の運送 | 帳簿のみの保存で控除可能 |
| 3万円未満の自動販売機・自動サービス機からの商品の購入等 | 帳簿のみの保存で控除可能 |
| 簡易インボイスの記載事項(取引年月日を除く)が記載された入場券等で、使用の際に回収されるもの | 帳簿のみの保存で控除可能 |
| 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る) | 帳簿のみの保存で控除可能 |
| 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当) | 帳簿のみの保存で控除可能 |
| 小売店や飲食店での購入(金額問わず) | 簡易インボイス(宛名なし・上様でも可)の保存が必要 |
| 上記以外の通常の取引(金額問わず) | 原則としてインボイスが必要(正式な宛名が必要) |
このほか、古物商・質屋・宅地建物取引業を営む方がインボイス発行事業者でない方から棚卸資産を買い受ける場合など、業種ごとの特例も定められています。
1万円未満なら不要になる「少額特例」
一定規模以下の事業者については、税込1万円未満の課税仕入れであれば、インボイスの保存がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる「少額特例」が設けられています。適用のポイントは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象となる事業者 | 基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者 |
| 対象期間 | 令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行う課税仕入れ |
| 1万円未満の判定 | 一回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)で判定。商品1点ごとの金額では判定しない |
たとえば5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合は、合計12,000円となるため少額特例の対象にはなりません。また、特定期間の課税売上高については、納税義務の判定の場合と異なり、給与支払額の合計額による判定に代えることはできない点にもご注意ください。
なお、この特例はあくまで買手側の保存の話です。インボイス発行事業者の交付義務が免除されるわけではありませんので、課税事業者から求められた場合には交付する必要があります。
経費精算時の領収書の取り扱いにおける注意点
インボイスとして消費税の計算に使えるかどうかだけでなく、法人税や所得税の計算において経費として認められるかも重要なポイントです。「上様」と書かれた領収書を経費精算に回す場合、私的な支払いではないことを証明するために、追加の資料を求められることがあります。
経費性を証明する補足資料の準備
領収書だけでは業務との関連性が薄いと判断されかねないため、社内の稟議書、会議の議事録、取引先とのメールのやり取りなどを一緒に保管しておくと安心です。また、領収書の裏面や余白に、一緒に食事をした相手の会社名や人数、打ち合わせの目的などをメモしておくことも、税務調査対策として非常に有効です。
従業員名義のレシートを会社の経費にするとき
従業員が立て替えて購入したときに受け取るレシートは、宛名が「上様」ではなく「従業員の氏名」になっていることがあります。この場合、国税庁のQ&A(問94-2)では、本来宛名の記載を求められない簡易インボイスであっても、控除を行う事業者以外の氏名または名称が記載されているときは、そのまま保存するだけでは仕入税額控除を行うことはできないとされています。
ただし、その従業員が自社に所属していることが明らかとなる従業員名簿等をあわせて保存していれば、そのレシートと名簿の保存によって要件を満たすものとして取り扱って差し支えないとされています。従業員名簿等がなく立替払をした従業員を特定できない場合には、従業員が作成した立替金精算書の交付を受けて保存する必要があります。立替経費の運用ルールを決めるときの、実務的な分かれ目になるところですね。
まとめ
「上様」と記載された領収書は、小売業・飲食店業・写真業・旅行業・タクシー業・駐車場業などが発行する適格簡易請求書に該当する場合を除き、原則としてインボイスとしては認められません。通常の事業者間の取引では、領収書を受け取る際に会社や個人の正式名称を記載してもらうよう心がけましょう。
そして税務調査の観点では、「要件を満たす書類を7年間きちんと保存できているか」「不備を自分で直してしまっていないか」の2点が要になります。宛名だけでなく登録番号や消費税額などの必須項目が正しく記載されているかを、受け取ったその場で確認する習慣をつけておくと安心です。
自社の取引がどの区分に当たるのか、少額特例の対象になるのか、立替経費の運用をどう整えるべきか——このあたりは業種や規模によって判断が変わります。判断に迷われたときは、お早めに税理士へご相談ください。
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参考文献
国税庁:インボイス制度の概要
国税庁:インボイス制度に関するQ&A目次一覧
国税庁:少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)の概要
e-Gov法令検索:消費税法
e-Gov法令検索:国税通則法
領収書の宛名やインボイスに関するよくある質問まとめ
Q.宛名が「上様」の領収書はインボイスとして使えますか?
A.原則として使えませんが、小売業や飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業などが発行する適格簡易請求書であれば「上様」でもインボイスとして認められます。
Q.「上様」の領収書は税務調査で否認されますか?
A.「上様」だから一律に否認されるわけではありません。簡易インボイスを交付できる事業からのものであれば宛名がなくても要件を満たします。一方、通常の事業者間取引で宛名が「上様」のままの場合は、仕入税額控除の要件を満たす書類として扱われない可能性があります。
Q.受け取ったインボイスの宛名や金額に誤りがあったとき、自分で直してもいいですか?
A.原則として買手が自ら追記や修正を行うことはできません。売手に修正した適格請求書の交付を求めるか、誤りを修正した仕入明細書等を作成して売手の確認を受けたうえで保存する必要があります。
Q.領収書や帳簿は何年間保存すればよいですか?
A.仕入税額控除の要件として保存すべき請求書等や帳簿は、その課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間の保存が必要です。なお、更正・決定ができる期間は原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為があった場合は7年とされています。
Q.1万円未満の支払いならインボイスは要りませんか?
A.基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5千万円以下の事業者であれば、令和5年10月1日から令和11年9月30日までに行う税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる少額特例があります。1万円未満かどうかは一回の取引単位で判定します。
Q.宛名が空欄の領収書に自分で会社名を書き足してもいいですか?
A.自分で宛名を書き足すことは改ざんとみなされる恐れがあるため絶対にやめましょう。必ず発行者に依頼して修正した書類の交付を受けてください。
Q.従業員の名前が宛名になっているレシートで仕入税額控除はできますか?
A.その従業員が自社に所属していることが明らかとなる従業員名簿等をあわせて保存していれば、控除を行って差し支えないとされています。名簿等がなく立替払をした従業員を特定できない場合は、従業員が作成した立替金精算書の交付を受けて保存する必要があります。
Q.「上様」の領収書でも経費として落とせますか?
A.業務に関係する支払いであれば経費として落とすことは可能です。ただし、証明力が低くなるため、打ち合わせの相手や目的などを領収書の裏にメモしておくことをおすすめします。


