税理士法人プライムパートナーズ

遺留分制度改正と経営承継円滑化法!中小企業を守る事業承継の特例

2026-01-31
目次

中小企業の経営者の皆様、将来の事業承継について不安を感じていませんか。特に複数の相続人がいる場合、後継者に自社株式や事業用資産を集中させたくても、他の相続人から遺留分を主張されてしまい、事業の継続が困難になるケースが少なくありません。本記事では、遺留分制度の基本的な仕組みや近年の改正内容を踏まえ、自社の事業承継をスムーズに進めるための「経営承継円滑化法」に基づく民法の特例について、具体的な要件や制度を分かりやすく解説いたします。

遺留分制度の基本と改正による事業承継への影響

事業承継を考える上で避けて通れないのが遺留分の問題です。まずは制度の基本と、近年の法改正が事業承継にどのような影響を与えているのかを確認していきましょう。

遺留分とはどのような制度か

遺留分とは、亡くなった方(被相続人)の兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障されている遺産の取得割合のことです。遺言書で「長男にすべての財産を譲る」と書き残したとしても、配偶者や他の子供には一定の財産を受け取る権利が法律で守られています。具体的な遺留分の割合は以下の表のようになります。

相続人の構成 遺留分の割合(全体に対する割合)
配偶者と子供 遺産の2分の1(配偶者1/4、子供全員で1/4)
配偶者と父母 遺産の2分の1(配偶者1/3、父母全員で1/6)
配偶者のみ 遺産の2分の1
父母などの直系尊属のみ 遺産の3分の1

遺留分侵害額請求への法改正ポイント

2019年(令和元年)7月1日に施行された民法改正により、従来の「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へと制度が見直されました。以前は、遺留分を請求されると自社株式や不動産などの現物が共有状態になり、経営の意思決定に支障をきたす恐れがありました。しかし改正後は、遺留分を侵害された相続人は原則として金銭での支払いを請求する形に変更されました。現物の共有は避けられるようになりましたが、後継者は多額の現金を準備しなければならないという新たな資金繰りの問題が生じています。

事業承継において遺留分が問題になるケース

中小企業の事業承継では、会社の資産価値(自社株式の評価額)が個人の財産の大半を占めることがよくあります。例えば、総資産1億円のうち、自社株式が8,000万円、預貯金が2,000万円というケースです。長男を後継者として自社株式8,000万円を相続させようとすると、次男から遺留分(この場合2,500万円)を請求された際に、預貯金だけでは支払えません。その結果、後継者が個人の資産を持ち出したり、借入をしたりして金銭を工面する必要に迫られてしまいます。

経営承継円滑化法とは何か

このような事業承継の壁を乗り越えるためにつくられたのが「経営承継円滑化法」です。この法律がどのようなものか、分かりやすく解説します。

中小企業を守る経営承継円滑化法の概要

経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)は、中小企業が安定して事業を引き継げるように国がサポートする法律です。遺留分に関する民法の特例のほか、事業承継税制(贈与税や相続税の納税猶予・免除)、金融支援(低利融資など)といった複数の支援策が用意されています。これにより、後継者の負担を大幅に減らし、会社の存続を後押ししてくれます。

事業承継を助ける遺留分に関する民法の特例

この法律の中でも特に重要なのが、遺留分に関する民法の特例です。通常、生前贈与された自社株式は、相続が発生した時に遺留分を計算するための財産に足し戻されてしまいます。しかし、この特例を活用すると、後継者が先代経営者から生前贈与などで取得した自社株式を、遺留分の対象から外したり、評価額を一定の時点で固定したりすることができます。

遺留分に関する民法の特例の具体的な内容

特例には大きく分けて「除外合意」と「固定合意」の2つの仕組みがあります。それぞれの違いと効果を詳しく見てみましょう。

除外合意(遺留分の計算から除外する)

除外合意とは、後継者が先代から贈与を受けた自社株式について、他の相続人全員の合意を得ることで、遺留分を計算する際の基礎財産から完全に除外する仕組みです。例えば、贈与時に5,000万円だった株式が、後継者の努力で相続時に2億円に値上がりしていたとしても、この2億円は他の相続人の遺留分計算には一切含まれません。これにより、後継者は将来の遺留分請求を気にすることなく、安心して経営に専念できます。

固定合意(遺留分の算定価額を固定する)

固定合意とは、贈与を受けた自社株式の価値を、合意した時点での評価額に固定する仕組みです。例えば、贈与時の評価額が3,000万円の時に固定合意をしておけば、相続時に会社の業績が良くなって株価が1億円に上がっていたとしても、遺留分の計算では3,000万円として扱われます。ただし、固定する評価額は専門家が適正に算出した証明書が必要です。

特例の種類 具体的な効果
除外合意 贈与された自社株式を遺留分の計算財産に含めない
固定合意 贈与された自社株式の評価額を合意時の金額で固定する

特例を利用するための要件と手続き

非常に便利な特例ですが、誰でもすぐに使えるわけではありません。利用するためには、いくつかの条件を満たし、決められた手続きを踏む必要があります。

特例の対象となる要件

この特例を利用できるのは、中小企業基本法で定められた中小企業者です。主な要件として、会社が3年以上継続して事業を行っている非上場企業であることや、後継者が過去の代表者から株式を取得して議決権の過半数(50%超)を持っていることなどが求められます。また、後継者は現実に会社の代表権を持っている必要があります。

経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可

手続きの流れとしては、まず推定相続人全員で書面による合意を行います。その後、合意した日から1ヶ月以内に、経済産業大臣に申請をして確認書を発行してもらいます。確認書を受け取ったら、さらに1ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行い、許可をもらう必要があります。これらの厳しい期限を守らなければならないため、事前の準備が非常に大切です。

特例を活用する際の注意点

強力な効果を持つ特例だからこそ、進める上で気をつけておくべき注意点があります。

推定相続人全員の合意が必要

最大のハードルとなるのが、推定相続人全員の合意が不可欠である点です。後継者以外の相続人から見れば、自分たちが将来もらえるはずの遺留分が減る可能性があるため、簡単には納得してくれないことがあります。そのため、生命保険を活用して代償金(現金)を準備したり、別の個人の財産を譲ったりするなど、他の相続人も納得できるような配慮と丁寧な話し合いが求められます。

手続きにかかる期間と費用

全員の合意を取り付けた後も、株式の評価算定を依頼したり、必要書類を集めて経済産業局や家庭裁判所で手続きを行ったりするため、数ヶ月単位の時間がかかります。また、裁判所への収入印紙代(合意の当事者1名につき800円)などの実費も発生します。ギリギリになって焦らないよう、生前の早い段階から計画的に進めることが成功の秘訣です。

まとめ

遺留分制度の改正により、遺留分を侵害された場合は金銭で請求されるようになったため、中小企業の事業承継において後継者の資金繰りリスクが高まっています。しかし、経営承継円滑化法に基づく民法の特例(除外合意や固定合意)を正しく活用すれば、自社株式を遺留分のトラブルから守り、安心して会社を引き継ぐことができます。ただし、推定相続人全員の合意や厳格な手続きが必要となるため、生前対策として早めに親族間で話し合いを始め、専門家のサポートを受けながら慎重に進めていきましょう。

参考文献

中小企業庁:経営承継円滑化法
国税庁:相続人の範囲と法定相続分

経営承継円滑化法と遺留分のよくある質問まとめ

Q.遺留分とは何ですか?

A.亡くなった方の配偶者や子供など、一定の法定相続人に法律で保障された最低限の遺産受け取り割合のことです。

Q.遺留分制度の改正で何が変わりましたか?

A.2019年7月の法改正により、遺留分を請求された場合は、原則として現物ではなく金銭で支払う遺留分侵害額請求に変わりました。

Q.経営承継円滑化法の民法の特例とは何ですか?

A.後継者が生前贈与された自社株式について、他の相続人全員の合意を得ることで、遺留分の計算から除外したり、評価額を固定したりできる制度です。

Q.除外合意と固定合意の違いは何ですか?

A.除外合意は贈与された自社株式を遺留分の計算から完全に外す仕組みで、固定合意は贈与時の評価額で価値を固定する仕組みです。

Q.民法の特例を利用するための主な要件を教えてください。

A.3年以上継続して事業を行っている非上場企業であることや、後継者が議決権の過半数を持ち代表権を有していることなどが挙げられます。

Q.特例の手続きにはどのようなステップが必要ですか?

A.推定相続人全員での書面合意の後、1ヶ月以内に経済産業大臣の確認を受け、さらに1ヶ月以内に家庭裁判所の許可を得る必要があります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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