ご自身の財産をしっかりと把握しておくことは、将来の安心や税務上のトラブルを防ぐためにとても大切なことです。その中でも、一定の基準を満たす方が税務署へ提出しなければならない「財産債務調書」という書類をご存知でしょうか。今回は、どのような方が提出義務者になるのか、その基準となる所得や財産額について、わかりやすく解説していきますね。
財産債務調書とは?目的や背景をわかりやすく解説
財産債務調書とは、ご自身が保有している財産や抱えている債務の状況を税務署に報告するための書類です。適正な課税を行うための重要な仕組みとして導入されました。
財産債務調書を必要とする背景
日本の所得税や相続税などは、納税者ご自身が計算して申告する「申告納税制度」が基本となっています。しかし、税務署が個人の保有する財産の全体像を正確に把握することは非常に難しいという課題がありました。そこで、納税者の方から自主的に財産と債務の状況を報告していただくことで、申告内容の確認や適正な課税に役立てるために、この制度が設けられたのです。
近年の税制改正における見直し
社会の状況に合わせて、財産債務調書の制度も少しずつ見直されています。特に2022年(令和4年)の税制改正では、より実態に合わせた制度にするため、いくつかの変更が行われました。具体的には、提出義務者の範囲が広がったことや、準備の負担を減らすために提出期限が後倒しになったことなどが挙げられます。この改正によって、これまで対象外だった方も新たに提出が必要になるケースが出てきましたので、注意が必要です。
提出が必要となる条件と提出義務者
それでは、具体的にどのような方が提出しなければならないのか、基準となる条件を見ていきましょう。判定の基準日は、その年の12月31日時点となります。
財産債務調書の提出義務者
提出義務者となるのは、主に以下の2つの条件のどちらかに当てはまる方です。
| 対象となる条件 | 具体的な要件 |
|---|---|
| 条件1(所得と財産の基準) | 所得の合計額が2,000万円を超え、かつ財産の合計額が3億円以上(または特定の対象財産が1億円以上)ある方 |
| 条件2(財産のみの基準) | 所得の金額に関係なく、財産の合計額が10億円以上ある方 |
以前は条件1のみでしたが、改正によって条件2が加わりました。そのため、収入が少なくても多くの資産を保有している方は、新たに提出義務が発生する可能性があります。
国外転出特例対象財産とは
条件1の中にある「特定の対象財産」とは、専門用語で「国外転出特例対象財産」と呼ばれます。これは、有価証券や未決済の信用取引などを指します。海外へ移住する際に、国内で得た資産に対する課税を逃れることを防ぐために設けられた特別なルールに関連する財産のことです。
各種所得金額を合計する際の注意点
条件1の「所得の合計額が2,000万円超」という基準を計算する際、給与所得や事業所得、不動産所得などすべての所得を合計します(退職所得は除きます)。株式の譲渡などで「申告分離課税」となる所得がある場合は、過去の損失を差し引く「繰越控除」を適用した後の金額で計算をしますので、計算漏れがないように気をつけましょう。
財産債務調書における財産の評価方法
財産債務調書を作成するにあたり、お持ちの財産をいくらとして計算すればよいのか、評価方法について解説します。
時価を求める主な評価方法
財産の価額は、原則としてその年の12月31日時点の時価で評価します。ただ、時価を出すのが難しい場合は、合理的な見積価格で記載しても良いことになっています。代表的な財産の評価方法は以下の通りです。
| 財産の種類 | 評価方法の目安 |
|---|---|
| 預貯金・上場株式 | 預貯金は年末の残高、上場株式は年末の最終価格(終値) |
| 土地や建物などの不動産 | 固定資産税評価額や路線価などを基に計算した価額 |
また、住宅ローンなどの借金(債務)がある場合、借金は財産の額から差し引くことはできません。財産は財産、債務は債務として分けて考えますのでご注意くださいね。
調書の提出義務が発生する具体的なケース
いくつか具体的なケースを挙げて、提出義務があるかどうかを一緒に確認してみましょう。
ケースA:所得が2,500万円、預貯金や不動産の合計が4億円の場合
所得が2,000万円を超えており、財産も3億円以上あるため、提出義務があります。
ケースB:所得が1,000万円、不動産の合計が12億円の場合
所得は2,000万円以下ですが、財産の合計が10億円以上あるため、提出義務があります。
ケースC:所得が3,000万円、財産が5億円、借金が3億円の場合
財産から借金を引くと2億円になりますが、判定の際は借金を差し引くことはできません。財産額は5億円として扱うため、提出義務があります。
財産債務調書の作成方法と記載事項
実際に財産債務調書を作成する際、どのような内容を記載すればよいのか、そして負担を減らすための簡略化ルールについてご説明します。
財産債務調書への記載事項
書類には、ご自身の氏名やマイナンバーのほか、お持ちの財産と債務について詳しく記載します。具体的には、財産の種類(不動産、預貯金、有価証券など)、一般用か事業用かの用途、どこにあるかの所在地、数量、そして評価した価額などです。これらをわかりやすく整理して記入していきます。
財産債務調書の記載簡略化について
すべての財産を細かく記載するのは大変ですよね。そこで、一定の基準以下の財産については、記載を簡略化したり省略したりできるルールがあります。たとえば、取得価額が300万円未満の家具や家電などの家庭用動産は記載を省略できます。また、年末の残高が50万円未満の預貯金については、口座ごとの詳細な金額を省略して総額でまとめることができるなど、作成の負担を軽くする工夫がされています。
財産債務調書の提出期限とペナルティ
せっかく作成した書類も、期限に遅れてしまっては元も子もありません。提出のルールと、ペナルティや優遇措置について確認しておきましょう。
提出期限と提出方法
財産債務調書の提出期限は、対象となる年の翌年6月30日までとなっています。以前は確定申告と同じ3月15日でしたが、準備に時間がかかることに配慮して期限が延びました。提出先は、ご自身の住所地を管轄する税務署です。窓口への持参や郵送のほか、インターネットを使った「e-Tax(電子申告)」でも提出が可能ですので、ご自身に合った方法を選んでくださいね。
提出した場合の優遇措置と未提出時のペナルティ
財産債務調書を期限内にきちんと提出すると、万が一、後から所得税や相続税の申告漏れが見つかってしまった場合でも、追加でかかる過少申告加算税などが5%軽減されるというメリットがあります。
一方で、提出義務があるのに提出しなかったり、重要な財産の記載が漏れていたりした場合は、申告漏れが見つかった際にかかる加算税が5%増しになってしまうというペナルティがあります。余計な税金を払わずに済むよう、正しく提出することが大切です。
まとめ
財産債務調書は、ご自身の資産状況を振り返る良い機会にもなります。所得が2,000万円超かつ財産3億円以上の方や、財産が10億円以上ある方は提出義務がありますので、毎年12月31日時点での財産を一度計算してみることをおすすめします。提出期限の6月30日までに余裕を持って準備を進め、ご不安な点があれば早めに専門家へ相談してみてくださいね。
参考文献
財産債務調書のよくある質問まとめ
Q.財産債務調書の提出義務者は誰ですか?
A.所得が2,000万円を超え、かつ財産が3億円以上ある方、または所得に関わらず財産が10億円以上ある方が対象となります。
Q.財産の金額を計算する際、借金は差し引けますか?
A.借金などの債務を差し引くことはできません。お持ちの財産全体の合計額で判定します。
Q.財産債務調書の提出期限はいつですか?
A.対象となる年の翌年6月30日が提出期限となっています。
Q.提出しなかった場合の罰則はありますか?
A.直接的な罰則はありませんが、申告漏れがあった際に加算税が5%増しになるペナルティがあります。
Q.不動産の評価はどのように行えばよいですか?
A.12月31日時点の時価が原則ですが、固定資産税評価額や路線価などを基にした合理的な見積価額でも差し支えありません。
Q.提出義務の判定基準日はいつですか?
A.その年の12月31日時点の状況で判定を行います。