相続が発生し、税理士に手続きを依頼しようとしたとき、「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集めてください」と言われて驚いた経験はありませんか。なぜそんなに昔の戸籍まで必要なのか、疑問に思う方も多いでしょう。この記事では、税理士が相続受任時に過去の戸籍がすべて必要になる理由や、具体的な取得方法、費用について、分かりやすく解説します。
相続手続きで出生から死亡までの戸籍が必要な理由
税理士が相続の業務をお受けする際、一番最初にお願いするのが戸籍の収集です。これには、非常に重要で具体的な理由がいくつかあります。
法定相続人を正確に特定するため
相続税の計算において、誰が法定相続人になるかは最も重要なポイントです。相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除額があり、相続人の数が1人変わるだけで非課税となる枠が600万円も変動します。そのため、税理士はすべての戸籍を隅々まで確認し、相続人の数を1人も漏らさずに正確に把握する必要があるのです。
隠れた相続人の有無を確認するため
現在の戸籍を見ただけでは、過去の結婚歴や離婚歴、以前の配偶者との間に生まれたお子様、あるいは認知したお子様、養子縁組をした方の存在は分かりません。もし、遺産分割協議を終えた後に新たな相続人が判明した場合、その遺産分割協議は無効となってやり直しになってしまいます。後々の大きなトラブルを防ぐためにも、出生までさかのぼった確認が欠かせません。
金融機関や法務局での手続きに必須となるため
税理士が行う相続税申告だけでなく、亡くなった方の銀行預金の解約や名義変更、法務局での不動産の相続登記など、あらゆる手続きの窓口で「出生から死亡までの連続した戸籍」の原本の提出を求められます。これは、預金額が10万円であっても1,000万円であっても変わらない厳しいルールです。
出生から死亡までの戸籍とはどのようなものか
では、出生から死亡までの戸籍とは具体的にどのような書類なのでしょうか。実は、一生を通じて1つの戸籍に留まる方はほとんどいらっしゃいません。
戸籍謄本と除籍謄本、改製原戸籍の違い
戸籍にはいくつかの種類があり、それぞれ役割が異なります。以下の表で分かりやすく整理しました。
| 種類 | 記載されている内容の特徴 |
|---|---|
| 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 現在その戸籍に入っている方全員の身分事項が記載された最新の証明書です。 |
| 除籍謄本・改製原戸籍 | 結婚や死亡で誰もいなくなった戸籍や、法改正によって様式が新しく作り直される前の古い戸籍です。 |
結婚や転籍で戸籍が新しくなる仕組み
ご結婚されると、親の戸籍から抜けてご夫婦の新しい戸籍が作られます。また、本籍地を別の住所に移す「転籍」をした場合も戸籍が新しくなります。新しく作られた戸籍には、直前の情報しか引き継がれないため、過去の兄弟関係などを知るためには、戸籍が作られた理由をたどって古い戸籍を取得していく必要があります。
必要な戸籍が何通になるかは人によって違う
被相続人(亡くなった方)の過去の転籍の回数や、結婚・離婚の有無によって必要な通数は変わります。一般的には3通から5通程度になることが多いですが、お引越しにあわせて本籍地を何度も変更されていた方の場合は、10通以上になることも珍しくありません。
戸籍の具体的な取り寄せ方法と手順
昔はとても大変だった戸籍の収集ですが、現在は少し便利な制度も始まっています。具体的な取り寄せ方を見ていきましょう。
令和6年から始まった戸籍の広域交付制度
これまで戸籍は、それぞれの本籍地がある市区町村役場に個別に請求する必要がありました。しかし、令和6年(2024年)3月1日から戸籍の広域交付という制度が始まりました。これにより、ご自身の配偶者やご両親、祖父母などの戸籍であれば、お住まいの最寄りの市区町村役場の窓口でまとめて取得できるようになり、大変便利になりました。
本籍地の市区町村役場への窓口請求
広域交付を利用せず、従来通り本籍地の役所に出向いて取得することも可能です。窓口で請求する際は、担当の方に「相続手続きに使うので、出生から死亡までの戸籍をすべて出してください」とお伝えいただくと、その役所で発行できる過去の戸籍を順番に探して出してもらえます。
遠方の場合に便利な郵送での請求方法
代理人に頼む場合や、事情があって広域交付が利用できない場合で本籍地が遠方にあるときは、郵送での請求も可能です。各市区町村のホームページから「交付請求書」をダウンロードして印刷し、必要事項を記入して郵送します。
戸籍を取り寄せる際にかかる具体的な費用と必要書類
実際に戸籍を取得する際にかかる費用や、持参すべき書類について具体的にご案内します。
取得にかかる1通あたりの手数料
戸籍の証明書は、全国一律で以下の手数料が定められています。広域交付でまとめて請求する場合、すべて取得すると3,000円から4,000円程度の手数料がかかることが多いです。
| 証明書の種類 | 1通あたりの金額 |
|---|---|
| 戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 450円 |
| 除籍全部事項証明書・改製原戸籍 | 750円 |
窓口や郵送で請求する際の必要書類
窓口で請求する際は、必ず本人確認書類の提示が必要です。また、郵送で請求する場合は、手数料を現金ではなく「定額小為替」で支払うルールになっています。
| 確認点数 | 必要な本人確認書類の具体例 |
|---|---|
| 1点でよいもの | マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなどの顔写真付き公的証明書 |
| 2点必要なもの | 健康保険証、年金手帳、介護保険証などの顔写真がない公的証明書 |
戸籍集めの負担を軽くする法定相続情報証明制度
苦労して集めた戸籍の束を、銀行や法務局などいくつもの窓口にその都度提出して確認してもらうのは、とても時間がかかります。そこでおすすめしたいのが「法定相続情報証明制度」です。
何度も戸籍の束を提出する手間が省けるメリット
この制度は、集めた戸籍の束と家系図のような「法定相続情報一覧図」を法務局に提出すると、法務局の登記官が内容を確認し、認証文付きの証明書を必要な枚数だけ無料で発行してくれるというものです。この証明書が1枚あれば、分厚い戸籍の束を持ち歩く必要がなくなり、各金融機関での手続きが劇的にスムーズになります。
法務局での具体的な手続きと費用
手続きは管轄の法務局に申出書と関係書類を提出して行います。この制度の最大の魅力は、法務局での申出や一覧図の写しの交付自体は無料(0円)であることです。税理士や司法書士に手続きの代行を依頼することも可能ですので、提出先が多い場合はぜひご検討ください。
まとめ
相続受任時に税理士が被相続人の出生から死亡までの戸籍をお願いするのは、正確な法定相続人の特定と正しい相続税の計算、そして確実な遺産分割を行うためです。令和6年からは広域交付制度が始まり、以前より戸籍を集める手間は軽減されました。それでも戸籍の読み解きや収集にご不安がある場合は、相続に詳しい税理士に早めにご相談いただき、スムーズな相続手続きを進めていきましょう。
参考文献
被相続人の戸籍収集に関するよくある質問まとめ
Q.なぜ死亡時の戸籍だけではダメなのですか?
A.死亡時の戸籍にはその時点での情報しか記載されておらず、過去の結婚や認知したお子様などの情報が引き継がれないため、すべての相続人を特定できないからです。
Q.出生から死亡までの戸籍は何通くらいになりますか?
A.結婚や転籍、法改正による作り替えなどがあるため、平均して3通から5通程度になることが多いですが、お引越しの多い方などは10通以上になることもあります。
Q.戸籍の広域交付制度とは何ですか?
A.令和6年3月1日から開始された制度で、本籍地以外の最寄りの市区町村役場でも、マイナンバーカード等の顔写真付き身分証があれば全国の戸籍をまとめて請求できる仕組みです。
Q.郵送で戸籍を請求する際の手数料はどうやって支払いますか?
A.郵便局で定額小為替を購入し、請求書と一緒に郵送して支払います。現金や切手での支払いは原則としてできません。
Q.法定相続情報証明制度を利用するにはいくらかかりますか?
A.法務局への申出および証明書の交付自体は無料(0円)です。ただし、事前に戸籍を集めるための手数料はかかります。
Q.相続税の申告期限までに戸籍が集まらない場合はどうなりますか?
A.申告期限は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。戸籍収集が遅れると期限に間に合わない恐れがあるため、早めの着手をおすすめします。