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不動産売買の「所有権移転時期」特約が相続税に与える意外な影響

2026-03-10
目次

不動産の売買契約を結んだ後、引き渡しが完了する前に亡くなってしまうと、相続税の計算はどうなるのでしょうか。実は契約書に書かれている「所有権移転時期」の特約が、相続税の金額に大きな影響を与えることがあります。今回はこの特約の仕組みと、相続税への意外な影響についてわかりやすく解説していきます。

所有権移転時期の特約とは何か?

不動産取引において、契約書に記載される所有権が移るタイミングは非常に重要です。まずは基本的なルールと特約の意味を確認していきましょう。

不動産売買における一般的なルール

不動産を売買する際、売主と買主が契約書にサインをして手付金を支払っただけでは、まだ手続きは完了していません。通常は1ヶ月から2ヶ月ほど後に、残りの代金をすべて支払い、鍵を受け取る決済という手続きを行います。この決済のタイミングで、不動産の所有権が売主から買主へと移るのが一般的な不動産取引のルールとなっています。

なぜ特約を付ける必要があるのか

なぜわざわざ特約を付けるのかというと、契約直後に所有権が移ってしまうと、買主はまだ代金を全額払っていないのに持ち主になってしまうからです。もし買主が残りの代金5,000万円を支払えなくなった場合、売主は所有権を取り戻すために大変な手間がかかります。そのようなトラブルを防ぐために、「代金を全額支払った時に所有権が移る」という特約を契約書に盛り込むことが実務上の常識となっています。

民法上の原則と特約による違い

そもそも民法という法律の原則では、当事者同士の「売ります」「買います」という意思表示が合致した時点、つまり契約を結んだ時点で所有権が移るとされています。しかし、法律には当事者同士の特別な約束があればそちらを優先するというルールがあります。

基準 所有権が移るタイミング
民法の原則 売買契約を結んだ日
特約がある場合 売買代金を全額支払った日(決済日)

売買契約直後に相続が発生した場合の基本

契約から決済までの間にご不幸があった場合、財産はどのように引き継がれるのでしょうか。売主と買主それぞれの立場から見ていきましょう。

売主が亡くなった場合の財産評価

不動産を売る契約をした後、残金を受け取る前に売主が亡くなってしまった場合、まだ所有権は売主に残っています。しかし、すでに売買契約は成立しているため、相続人は不動産そのものではなく、不動産を引き渡して残りの代金を受け取る権利(売買代金請求権)を引き継ぐことになります。

買主が亡くなった場合の財産評価

逆に、不動産を買う契約をした後、残金を支払う前に買主が亡くなってしまった場合はどうでしょうか。この場合、相続人は残りの代金を支払って不動産を受け取る権利を引き継ぎます。同時に、まだ支払っていない残金があれば、それは亡くなった方の借金として相続財産から差し引くことができます。

原則的な相続税の考え方

国税庁の取り扱いでは、売買契約中に相続が発生した場合、その財産は契約がすでに効力を持っているものとして扱われます。そのため、売主の相続では残りの代金を受け取る権利として金銭債権で評価し、買主の相続では不動産を受け取る権利として評価するのが原則的なルールとなっています。

所有権移転時期の特約が相続税評価に与える影響

この特約があることで、相続税の計算基準が大きく変わる可能性があります。どのような違いがあるのかを詳しく解説します。

財産が「不動産」か「現金・債権」かの違い

ここで重要になるのが、相続税の計算において財産を不動産として評価するのか、現金や債権として評価するのかという違いです。現金の5,000万円はそのまま5,000万円として評価されます。一方で、不動産は国が定める路線価などで評価されるため、実際の売買価格よりも評価額が低くなるのが一般的です。所有権移転時期の特約によって所有権が誰にあるのかが明確になるため、この評価方法の分かれ道となります。

評価額の差がもたらす相続税へのインパクト

具体的にどれくらい金額が変わるのかを見てみましょう。例えば、5,000万円で売買契約をした土地があるとします。この土地の路線価による相続税評価額が3,500万円だった場合、不動産として申告できれば3,500万円の評価で済みます。しかし、代金を受け取る権利として申告すると、売買代金そのままの5,000万円の評価となってしまいます。

評価の方法 相続税の評価額の例
売買代金請求権(債権)として評価 5,000万円(実際の売買価格)
不動産(土地)として評価 3,500万円(路線価などの評価額)

特約の有無で変わる申告上の選択肢

本来であれば売買代金請求権として評価するのが原則ですが、特約によって所有権がまだ移っていない状態であれば、例外的に不動産として評価することが認められるケースがあります。つまり、この特約があることによって、ご家族にとって有利な不動産評価を選択できる可能性が残されているのです。

売主の相続における具体的な計算と注意点

売主側で相続が起きた場合、具体的な計算や手続きにはどのような注意が必要なのでしょうか。

代金請求権として評価するケース

売主の立場で代金請求権として評価する場合の具体的な計算方法です。売買代金が5,000万円で、契約時に手付金として500万円を受け取っていたとします。この場合、まだ受け取っていない残金4,500万円が売買代金請求権として相続財産に加わります。すでに受け取った500万円は現金や預金として残っていれば、それも併せて評価されます。

不動産として評価するケースと要件

特約に基づいて不動産として評価する場合、先ほどの例で土地の評価額が3,500万円であれば、3,500万円を相続財産として計上します。ただし、この選択をするためには、相続税の申告期限までに売買契約が白紙解除された場合や、引き渡しが完了していないなど、一定の条件を満たす必要があります。自己判断は難しいため、専門家への確認が欠かせません。

相続人が引き継ぐ契約上の義務

不動産として評価した場合でも、売買契約そのものが消滅するわけではありません。相続人は、亡くなった方に代わって買主に不動産を引き渡す義務を引き継ぎます。もし相続人が「やっぱり売りたくない」と一方的に契約をキャンセルしようとすると、買主から売買代金の10パーセントから20パーセント程度の違約金を請求されてしまうおそれがあります。

買主の相続における具体的な計算と注意点

買主側で相続が発生した場合も、特有の注意点があります。住宅ローンを利用しているケースも含めて見ていきましょう。

引渡請求権と未払代金の債務控除

買主の立場で相続が発生した場合、まだ所有権は移っていませんが、将来不動産を受け取る権利を持っています。この権利は、契約した不動産の相続税評価額(例えば3,500万円)で評価します。そして、まだ支払っていない残金4,500万円については、亡くなった方の借金として、全体の相続財産からマイナスすることができます。これを債務控除と呼びます。

手付金や中間金の取り扱い

契約時に支払った手付金については、すでに支払済みの金額ですので債務控除の対象にはなりません。先ほどの例で言えば、手付金500万円は支払い済みであり、残りの4,500万円だけがマイナスできる借金となります。支払った手付金は、不動産を受け取る権利の価値の中にすでに含まれていると考えます。

住宅ローン特約との絡み

買主が住宅ローンを利用して購入する予定だった場合、住宅ローン特約が付いていることが一般的です。これは、住宅ローンの審査に通らなかった場合に契約を白紙に戻せる特約です。買主が亡くなったことでローンが組めなくなり、この特約を使って契約が白紙解除された場合は、支払っていた手付金500万円がそのまま戻ってきます。この場合は、戻ってきた手付金を現金として相続財産に含めることになります。

まとめ

不動産売買の契約をしてから引き渡しまでの間に相続が発生するというケースは、決して珍しいことではありません。その際、契約書に記載された「所有権移転時期」の特約が、相続税の評価額を大きく左右する重要なポイントとなります。不動産として評価するのか、現金の権利として評価するのかで、納める相続税の金額に数百万円単位の差が出ることもあります。不動産の売却や購入を進めている最中にご家族にご不幸があった場合は、一人で悩まずに、まずは相続税に詳しい専門家に相談して最適な評価方法を選択してくださいね。

参考文献

国税庁:No.4602 土地家屋の評価

不動産売買の「所有権移転時期」特約に関するよくある質問まとめ

Q.所有権移転時期の特約とはどのようなものですか?

A.不動産の売買代金を全額支払ったタイミングで、売主から買主へ所有権が移ることを定めた契約上の特別な約束のことです。

Q.売買契約直後に売主が死亡した場合、相続税はどうなりますか?

A.原則として、不動産ではなく売買代金を受け取る権利(債権)として、実際の売買価格で相続税の評価が行われます。

Q.売買契約直後に買主が死亡した場合の借金はどう扱われますか?

A.まだ支払っていない残金については、亡くなった方の債務として扱い、全体の相続財産から差し引く(債務控除する)ことができます。

Q.特約がある場合、必ず不動産として評価できるのですか?

A.必ずではありません。原則は金銭債権としての評価ですが、所有権が移転していないことを理由に不動産評価が認められる一定のケースがあります。

Q.手付金だけを支払って買主が死亡し、契約が解除された場合はどうなりますか?

A.住宅ローン特約などで契約が白紙解除され手付金が戻ってきた場合は、戻ってきた手付金を現金として相続財産に含めて計算します。

Q.売買代金請求権と不動産評価ではどちらが相続税に有利ですか?

A.一般的に、路線価などで計算される不動産評価の方が、実際の売買価格より2割から3割程度低くなるため、相続税の負担は軽くなる傾向があります。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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