アパートやマンションの賃貸経営をしている大家さんにとって、入居者が退去する際の精算業務はとても重要ですよね。そのなかでも迷いやすいのが、個人のお客様から退去費用として受け取るルームクリーニング代や原状回復費用の消費税の取扱いです。この記事では、それらの費用が課税売上になるのか非課税売上になるのか、そして簡易課税で申告する場合の事業区分について、具体的な例を交えながら優しく分かりやすく解説していきます。
退去費用として受け取るルームクリーニング代等の課税区分
まず結論からお伝えしますと、退去時に賃借人から受け取るルームクリーニング代や原状回復費用は、原則として課税売上に該当します。家賃収入の消費税の取扱いと混同しやすい部分ですので、しっかりと整理しておきましょう。
原則として消費税の課税売上になります
建物を借りていた人には、退去する際に部屋を元の状態に戻す「原状回復義務」があります。本来は借りていた人が自分で行うべき作業ですが、代わりに大家さんが業者を手配してクリーニングや修繕を行いますよね。消費税法上、この「大家さんが代わりに行う」という行為は、大家さんから借りていた人への役務の提供(サービスの提供)とみなされます。そのため、対価として受け取るルームクリーニング代などは課税対象となるのです。
敷金や保証金から差し引く場合の注意点
実務では、入居時にお預かりしていた敷金や保証金から、退去費用を差し引いて残額を返金するケースがほとんどだと思います。例えば、敷金15万円をお預かりしていて、ルームクリーニング代として5万円を差し引き、10万円を返金したとします。この場合、差し引いた5万円はお手元に残る金額ですが、これは預り金の精算ではなく5万円の課税売上が発生したという扱いになります。差し引いた金額そのものが消費税の計算に含まれる点にご注意ください。
居住用賃貸物件でも課税される理由とは
「居住用アパートの家賃は非課税売上なのに、なぜ退去費用は課税売上になるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、住宅の貸付け(毎月の家賃や共益費など)は原則として非課税売上です。しかし、退去時のルームクリーニングや原状回復工事は「建物を貸すこと」そのものではなく、あくまで「傷んだ箇所を直す・綺麗にする」という別のサービスを提供していると解釈されます。そのため、居住用の物件であっても例外なく課税売上として取り扱うルールになっています。
消費税の簡易課税制度で申告する場合の事業区分
消費税の計算方法として簡易課税制度を選択している場合、売上を第1種から第6種までの事業区分に分ける必要があります。退去費用に関しても、作業の内容によって区分が変わってくるため、正しく判定することが大切です。
原状回復工事やリフォームを伴う場合は第3種事業
退去費用の中に、壁紙(クロス)の張り替え、床の修繕、設備の交換など、建物の内装工事を伴う内容が含まれている場合、その修繕費として受け取った金額は第3種事業(建設業)に区分されます。大家さんご自身が直接工事を行わず、専門のリフォーム業者へ外注した場合であっても、大家さんから賃借人への請求という視点では「建築リフォーム工事業」として第3種事業に該当します。この場合のみなし仕入率は70%となります。
内装工事を伴わないルームクリーニングのみの場合は第5種事業
一方で、壁紙の張り替えなどの修繕工事は一切行わず、専門業者によるハウスクリーニングや畳の表替えといった「単なる清掃やお手入れ」にとどまる費用を受け取った場合はどうでしょうか。この場合、工事には該当しないため第5種事業(サービス業)に区分することになります。みなし仕入率は50%となりますので、第3種とは消費税の計算結果が大きく変わってきます。
通常の不動産賃貸収入との違いに注意
不動産賃貸業を営んでいる場合、毎月のテナント家賃収入(課税売上)や更新料などは、原則として第6種事業(不動産業)に該当し、みなし仕入率は40%です。「大家さんの収入だからすべて第6種だろう」と思い込んでしまうと、簡易課税の計算を間違えてしまい、本来より多くの消費税を納めてしまう可能性があります。退去時の費用は第6種にはならないということをしっかり覚えておきましょう。
具体的な計算例と経理処理のポイント
それでは、実際に退去費用を精算したときのイメージをつかんでいただくために、具体的な金額を使った例や、表を用いた経理処理のポイントをご紹介します。
お預かりした敷金から精算する際の仕訳と分類
退去精算書の明細を確認し、どの項目がどの売上に該当するのかを正確に分類する必要があります。以下の表は、一般的な退去費用の項目ごとの課税区分と簡易課税の事業区分をまとめたものです。
| 費用の項目 | 消費税の区分(簡易課税) |
|---|---|
| テナントの家賃・更新料 | 課税売上(第6種事業) |
| 居住用アパートの家賃 | 非課税売上(対象外) |
| クロス張替等の原状回復費用 | 課税売上(第3種事業) |
| ハウスクリーニング代のみ | 課税売上(第5種事業) |
課税売上高を正しく把握して申告漏れを防ぐ
敷金から退去費用を差し引いたとき、「手元に直接お金が入ってきたわけではないから」と売上の計上を忘れてしまうミスがよく起こります。たとえ現金で直接受け取っていなくても、敷金と相殺した時点で立派な課税売上となります。とくに、消費税の納税義務があるかどうかを判定する「基準期間の課税売上高(1,000万円を超えるかどうか)」の計算にも大きく影響してきますので、1円単位で正確に拾い出すようにしてくださいね。
まとめ
今回は、個人のお客様から受け取る退去費用やルームクリーニング代の消費税の取扱いについて解説しました。ポイントは、居住用物件であっても退去費用は課税売上になること、そして簡易課税を選択している場合は工事を伴うなら第3種事業、清掃のみなら第5種事業になることです。家賃収入の第6種事業とは異なりますので、ご自身の精算書をしっかり確認して、正しい消費税の申告を行ってくださいね。
参考文献
退去費用と消費税のよくある質問まとめ
Q.敷金から差し引く原状回復費用は消費税の課税売上になりますか?
A.はい、大家さんが賃借人に代わって行う役務の提供となるため、敷金から差し引く金額であっても課税売上として計上する必要があります。
Q.居住用アパートの退去費用でも消費税はかかりますか?
A.はい、居住用の家賃自体は非課税ですが、退去時の原状回復やクリーニングは別のサービス提供とみなされるため、課税売上となります。
Q.ルームクリーニング代のみを請求した場合、簡易課税の事業区分は何種になりますか?
A.壁紙の張替などの工事を伴わない単なる清掃やクリーニングのみの場合は、第5種事業(サービス業)に該当します。
Q.壁紙の張り替えや設備の修繕が含まれる場合、簡易課税の事業区分は何種ですか?
A.内装工事を伴う原状回復費用の場合は、建築リフォーム工事業として第3種事業(建設業)に区分されます。
Q.大家自身が修繕工事を行わず、業者に外注した場合でも第3種事業になりますか?
A.はい、修繕業者に外注した場合であっても、大家さんから賃借人への請求という取引上は建設業の扱いとなり、第3種事業に該当します。
Q.退去費用について、通常の家賃収入と同じ第6種事業として計算してはいけませんか?
A.いけません。通常の不動産賃貸収入は第6種事業ですが、退去時の工事や清掃は第3種または第5種となるため、分けて計算する必要があります。