相続税の申告を終えたあとに、「税務署から連絡が来るのではないか」「自分の申告は税務調査の対象になりやすいのだろうか」と、不安を感じている方は少なくありません。相続税は財産の種類も金額も大きくなりやすいため、ほかの税目に比べて調査が入りやすい税金だといわれています。
ただし、調査対象になりやすい申告には、いくつかのはっきりとした特徴があります。逆にいえば、その特徴を知って正しく備えておけば、過度に恐れる必要はありません。この記事では、相続税の税務調査で対象になりやすい人の特徴と、そうならないための備えを、実務の視点から丁寧にご説明します。
相続税の税務調査の実態
まずは、相続税の税務調査が実際にどの程度行われているのかを、公的な統計から確認しておきましょう。「どれくらいの割合で調査が入るのか」を知っておくと、必要以上に不安を抱えずにすみます。
実地調査の件数と非違割合
国税庁が公表している資料によると、令和5事務年度に行われた相続税の実地調査(調査官が自宅などを訪れて行う本格的な調査)の件数は8,556件で、そのうち申告内容に誤りなどの問題(非違)が見つかった件数は7,200件でした。つまり非違割合は84.2%にのぼり、調査に入られた場合の多くで何らかの指摘を受けているのが実情です[国税庁令和5事務年度における相続税の調査等の状況]。
もっとも、相続税の申告そのものは年間で十数万件あり、そのすべてが実地調査の対象になるわけではありません。調査は「申告漏れが疑われる事案」を選んで行われます。適正に申告していれば、確率としては高くないという点も、あわせて知っておいていただきたいところです。
追徴税額と申告漏れの傾向
同じ資料では、令和5事務年度の実地調査による追徴税額(本来の税額に加えて追加で課された税額)は総額735億円で、実地調査1件あたりの申告漏れ課税価格は3,208万円でした[国税庁令和5事務年度における相続税の調査等の状況]。1件あたりの金額が大きいのは、相続財産のなかでも把握しにくい財産の申告漏れが指摘されやすいためです。
なお、相続税の調査状況は毎年公表されており、直近では令和6事務年度分も公表されています[国税庁令和6事務年度における相続税の調査等の状況]。傾向として、申告漏れとして指摘される財産では現金・預貯金といった金融資産が大きな割合を占めています。この点は、次の章で見る「対象になりやすい人の特徴」と深く関係しています。
税務調査で対象になりやすい人の特徴
ここからは、実務のうえで調査対象になりやすいとされる代表的な類型を整理します。ご自身の申告に当てはまるものがないか、確認しながら読み進めてみてください。
名義預金がある場合
名義預金とは、口座の名義は配偶者や子・孫になっているものの、実際にお金を出していたのは被相続人(亡くなった方)で、管理も被相続人が行っていた預金のことです。名義が家族であっても、実質的に被相続人の財産と判断されれば、相続税の課税対象になります。相続税は、被相続人が持っていた財産のほか、名義にかかわらず実質的に被相続人に帰属する財産にもかかります[国税庁No.4105 相続税がかかる財産]。
税務署は、被相続人だけでなく家族名義の口座の入出金の流れも確認できます。専業主婦だった配偶者の名義に多額の預金があるのに収入源が説明できない、といったケースは典型的に注目されやすい類型です。申告漏れとして指摘される財産に現金・預貯金が多いのも、この名義預金が背景にあることが少なくありません。名義預金の詳しい考え方については、名義預金が相続税でバレる理由と申告漏れを防ぐ対策もあわせてご確認ください。
多額の現金や金融資産がある場合
亡くなる直前に預金口座から多額の現金を引き出し、そのまま自宅で保管していた、というケースも調査で注目されやすい類型です。引き出された現金は「手元現金」として相続財産に含める必要がありますが、これを申告に含め忘れると申告漏れになります。預金の動きは記録に残るため、大きな出金があれば、その使い道は確認されやすいと考えておくとよいでしょう。
また、株式・投資信託・生命保険金など金融資産の種類が多く、金額も大きい場合は、評価や計上の誤りが起きやすく、その分だけ確認の対象になりやすくなります。
海外資産や国外財産がある場合
海外の預金口座や不動産といった国外財産も、相続税の課税対象です。被相続人の財産は、原則として国内・国外を問わず相続税がかかります[国税庁No.4102 相続税がかかる場合]。国外財産は把握が難しいと考えられがちですが、金融機関の国際的な情報交換の仕組みなどにより、税務署も一定の情報を得られる状況になっています。国外財産の申告漏れは指摘されやすいため、注意が必要です。
税理士に依頼せず申告した場合
相続税の申告は、財産の評価や特例の適用など専門的な判断が多く、税理士に依頼せずご自身だけで作成した申告書は、評価誤りや計上漏れが生じやすい傾向があります。誤りが多い申告は、結果として調査で問題が見つかる確率も高くなります。ご自身で申告すること自体が問題なのではなく、「誤りに気づかないまま提出してしまう」リスクが高まる点に注意が必要です。
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財産評価に誤りがある場合
土地などの不動産は、評価の方法によって金額が大きく変わります。評価額を誤って低く申告していると、正しい評価との差額について申告漏れを指摘されます。とくに、形がいびつな土地や、貸している土地・建物などは評価が複雑で、誤りが生じやすい部分です。適正な評価ができているかどうかは、調査で重点的に確認されるポイントのひとつです。
無申告・申告期限を過ぎている場合
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内と定められています[国税庁No.4205 相続税の申告と納税]。本来は申告が必要なのに申告していない「無申告」の状態は、調査対象として特に注目されやすい類型です。無申告のまま放置していると、あとから重いペナルティを課されることになりかねません。無申告のリスクについては、相続税申告しないとどうなる?無申告の罰金と税務署にバレる理由で詳しく解説しています。
申告漏れが見つかった場合のペナルティ
調査によって申告漏れや無申告が判明すると、本来の相続税に加えて追加の税金がかかります。「どのような負担が生じるのか」を知っておくと、正しく申告することの大切さがより実感できます。
加算税の種類
申告期限までに申告しなかった場合や、実際より少ない額で申告していた場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合があります[国税庁No.4205 相続税の申告と納税]。加算税には主に次のような種類があり、意図的に財産を隠していたと判断された場合には、特に重い重加算税が課されます。
| 加算税の種類 | 課される主な場面 |
|---|---|
| 過少申告加算税 | 申告した税額が本来より少なかったとき |
| 無申告加算税 | 申告期限までに申告しなかったとき |
| 重加算税 | 財産を意図的に隠すなど 悪質と判断されたとき |
延滞税の負担
税金を期限までに納めなかったときは、納付が遅れた期間に応じて、利息にあたる延滞税がかかる場合があります[国税庁No.9205 延滞税について]。延滞税は納付が遅れるほど積み上がっていくため、申告漏れに気づいた場合は、できるだけ早く対応することが負担を抑えるうえで大切です。
税務調査の対象にならないための備え
ここまで見てきた「対象になりやすい特徴」は、裏を返せば「事前に備えておくべきポイント」でもあります。適正な申告を心がけることで、調査への不安は大きく減らせます。
財産の把握と正確な申告
まずは、被相続人の財産をもれなく把握することが出発点です。預金通帳や証券口座はもちろん、家族名義の口座や、亡くなる前の大きな出金の使い道、海外の資産まで含めて確認しましょう。名義にかかわらず、実質的に被相続人の財産といえるものは申告に含める必要があります[国税庁No.4105 相続税がかかる財産]。財産を正しく把握し、期限内に正確な申告を行うことが、最も確実な備えになります。
専門家への相談
財産の評価や特例の適用に少しでも迷いがある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。とくに不動産の評価や名義預金の判断は個別性が高く、自己判断で進めると誤りにつながりやすい部分です。適正な申告をしておけば、万一調査が入っても落ち着いて対応できます。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
まとめ
相続税の税務調査で対象になりやすいのは、名義預金がある、多額の現金や海外資産がある、税理士に依頼せず申告した、財産評価に誤りがある、無申告のままである、といった特徴を持つ申告です。令和5事務年度の実地調査では非違割合が84.2%と高く、いったん調査に入られると誤りが指摘されやすいのが実情です[国税庁令和5事務年度における相続税の調査等の状況]。
一方で、相続税の申告全体からみれば実地調査の割合は高くなく、財産をもれなく把握して期限内に正確に申告していれば、過度に恐れる必要はありません。不安を感じたときこそ、早めに専門家へ相談し、正しい申告で備えておくことが安心につながります。
参考文献
- 国税庁 令和5事務年度における相続税の調査等の状況
- 国税庁 令和6事務年度における相続税の調査等の状況
- 国税庁 No.4105 相続税がかかる財産
- 国税庁 No.4102 相続税がかかる場合
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.9205 延滞税について
相続税の税務調査のよくある質問まとめ
Q.相続税の税務調査はどのくらいの割合で入りますか?
A.相続税の申告全体からみると実地調査が行われる割合は高くありません。ただし調査に入られた場合は誤りが指摘されやすく、令和5事務年度の実地調査では非違割合が84.2%でした。
Q.税務調査で対象になりやすいのはどんな人ですか?
A.名義預金がある方、多額の現金や海外資産がある方、税理士に依頼せず申告した方、財産評価に誤りがある方、無申告のままの方などが対象になりやすい傾向があります。
Q.名義預金はなぜ問題になるのですか?
A.名義が家族でも、実際に資金を出し管理していたのが被相続人であれば、実質的に被相続人の財産として相続税の課税対象になります。申告に含め忘れると申告漏れを指摘されやすいためです。
Q.海外の資産も相続税の対象になりますか?
A.被相続人の財産は原則として国内・国外を問わず相続税の対象です。国外財産は情報交換の仕組みなどで税務署も把握でき、申告漏れは指摘されやすいため注意が必要です。
Q.申告漏れが見つかるとどのようなペナルティがありますか?
A.本来の税額に加えて、過少申告加算税・無申告加算税・重加算税などの加算税や、納付の遅れに対する延滞税がかかる場合があります。意図的な隠ぺいは特に重く扱われます。
Q.税務調査の対象にならないためにはどうすればよいですか?
A.家族名義の口座や現金、海外資産まで含めて財産をもれなく把握し、期限内に正確に申告することが基本です。評価や特例に迷いがある場合は早めに税理士へ相談すると安心です。