研究開発への投資を行う法人にとって、令和8年度税制改正大綱に盛り込まれた研究開発税制の見直しは大きな関心事ではないでしょうか。とくに注目されるのが、AIや量子といった先端技術分野を対象に新設される重点産業技術試験研究費の額に係る税額控除制度です。「自社の研究開発は対象になるのか」「控除率や上限はどの程度か」といった疑問を持つ方も多いはずです。本記事では、大綱に明記された範囲で対象分野・控除の仕組み・従来制度との関係・適用時期を整理します。なお本制度は大綱(提案段階)の内容であり、関連法の改正を前提とした未確定の枠組みである点にご留意ください。
研究開発税制見直しの背景
日本の産業競争力を維持・強化するうえで、AI・量子・半導体などの先端技術分野への投資をいかに促すかが政策課題となっています。令和8年度税制改正大綱では、重点産業技術と位置づけられる分野の研究開発を集中的に後押しするため、既存の研究開発税制とは別枠の新たな税額控除制度を設けることが示されました。財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)
従来の研究開発税制は試験研究費の増減などに応じて控除率が変動する仕組みですが、新制度は特定の先端分野に限って高い控除率を適用する点に特徴があります。国として優先度の高い技術領域に投資を誘導する狙いがうかがえます。
重点産業技術試験研究費の額に係る税額控除制度の対象
新設される重点産業技術試験研究費の額に係る税額控除制度は、青色申告書を提出する法人のうち、産業技術力強化法の改正法の施行日から令和11年3月31日までの間に、同法の重点研究開発計画について認定を受けた法人(認定研究開発法人)が対象とされています。単に先端分野の研究を行うだけでなく、法律に基づく計画認定を受けることが前提です。財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)
対象となる重点産業技術の分野として、大綱では次の6つが挙げられています。いずれも国際競争が激しく、早期の実用化・企業化が期待される領域です。
| 対象分野(大綱記載) | AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙 |
|---|---|
| 対象法人 | 青色申告書を提出し、産業技術力強化法の重点研究開発計画の認定を受けた法人 |
認定にあたっては、投資計画の内容や資金調達手段、取締役会等による意思決定などが要件として想定されており、経営として腰を据えた研究開発投資であることが求められます。
控除の仕組みと上限の考え方
控除率は、対象となる試験研究費の区分に応じて2段階が設けられています。通常の重点産業技術試験研究費は40%、より重点度の高い特別重点産業技術試験研究費は50%の税額控除ができるとされています。増減割合に応じて率が動く従来型と比べ、高い固定的な控除率が適用される点が大きな違いです。財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)
ただし控除額は無制限ではありません。当期の法人税額の10%が控除の上限とされ、この上限を超えて控除しきれなかった額(控除限度超過額)は3年間の繰越しができるとされています。単年度で控除しきれない場合でも、翌年度以降に持ち越して活用できる設計です。
| 項目 | 大綱に示された内容 |
|---|---|
| 控除率 | 40%(特別重点は50%) |
| 控除上限 | 当期の法人税額の10% |
| 繰越し | 控除限度超過額を3年間繰越し |
従来の研究開発税制との関係・見直し点
現行の研究開発税制は、「一般試験研究費の額に係る税額控除制度」「中小企業技術基盤強化税制」「特別試験研究費の額に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)」の3つの制度で構成されています。国税庁 No.5441 研究開発税制について(概要)
新設の重点産業技術試験研究費の額に係る税額控除制度は、これら既存3制度とは別枠の制度として位置づけられます。大綱では、重点産業技術試験研究費の額から、一般型・中小企業技術基盤強化税制・特別試験研究費(オープンイノベーション型)の適用を受ける金額を除くとされており、同一の費用について両方で二重に控除を受けることはできない整理となっています。財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)
つまり、先端分野の研究開発費のうち新制度の対象とする部分は新制度で、それ以外の一般的な研究開発費は従来制度で、という切り分けが必要になります。自社の研究開発費をどの制度に割り振るかが、実務上の検討ポイントになると考えられます。
適用時期と認定手続き
新制度は、産業技術力強化法の改正法の施行日から令和11年3月31日までの間に重点研究開発計画の認定を受けた法人が対象とされています。税額控除を適用できる期間は、その計画の認定を受けた日から同日以後5年を経過する日までの期間とされています。財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)
制度の利用には、税務上の手続きに先立って産業技術力強化法に基づく計画の認定を受ける必要があります。施行日など具体的な日程は関連法の改正状況によって決まるため、最新の情報は財務省や国税庁の公表資料で確認することが重要です。なお、ここまでの内容は令和8年度税制改正大綱に基づくものであり、今後の法案審議によって内容が変わる可能性があります。
制度の適用可否や自社の研究開発費の区分など、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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令和8年度税制改正大綱では、AI・量子などの先端技術分野を対象とする重点産業技術試験研究費の額に係る税額控除制度の新設が示されました。対象は産業技術力強化法の認定を受けた法人で、控除率は40%(特別重点は50%)、控除上限は法人税額の10%、超過額は3年間繰り越せる枠組みです。従来の研究開発税制とは別枠で、同一費用の二重控除はできません。あくまで大綱段階の未確定の内容であるため、今後の法改正の動向を注視し、適用を検討する際は専門家に相談しながら準備を進めることが望まれます。
参考文献
研究開発税制の見直しに関するよくある質問まとめ
Q.重点産業技術試験研究費の額に係る税額控除制度とは何ですか。
A.令和8年度税制改正大綱で新設が示された、AI・量子などの先端技術分野の研究開発を対象とする税額控除制度です。産業技術力強化法の認定を受けた法人が対象とされています。
Q.対象となる重点産業技術の分野は何ですか。
A.大綱では、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙の6分野が挙げられています。
Q.控除率はどのくらいですか。
A.重点産業技術試験研究費の額は40%、特別重点産業技術試験研究費の額は50%の税額控除ができるとされています。
Q.控除額に上限はありますか。
A.当期の法人税額の10%が上限とされています。控除しきれなかった超過額は3年間の繰越しができるとされています。
Q.従来の研究開発税制と併用できますか。
A.新制度は既存の研究開発税制とは別枠です。一般型・中小企業技術基盤強化税制・特別試験研究費の適用を受ける金額は除かれ、同一費用の二重控除はできない整理とされています。
Q.いつから適用されますか。
A.産業技術力強化法の改正法の施行日から令和11年3月31日までに計画認定を受けた法人が対象で、認定日から5年を経過する日までが適用期間とされています。大綱段階の内容のため今後変わる可能性があります。