従業員の給与を引き上げた法人が使える賃上げ促進税制は、令和8年度税制改正の大綱で大きく姿を変えます。とくに「自社はこれまで通り使えるのか」「控除の割合は下がるのか」と不安に感じている経営者や経理担当者は少なくありません。結論として、全法人が使えた基本の措置は令和8年3月末で廃止となり、規模の小さい法人向けの措置は要件が引き上げられたうえで期限が延長されます。この記事では、大綱に明記された内容だけを根拠付きで整理し、まだ確定していない部分は確定していないと明示して解説します。
賃上げ促進税制の概要
賃上げ促進税制は、正式には「給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度」といい、従業員への給与支給額を前年度より増やした法人が、その増加額の一定割合を法人税額から差し引ける制度です。所得税でも同様の取扱いが設けられており、個人事業主にも関係します。財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)
現行制度は、企業規模に応じて複数の措置に分かれています。すべての法人が使える基本的な措置に加え、規模の小さい法人ほど控除の割合が手厚くなる仕組みです。給与の増加割合が一定の水準を超えると税額控除率が上乗せされ、教育訓練費を増やした場合などにもさらに上乗せされる設計になっています。令和8年度税制改正の大綱では、この全体像に手が入り、廃止される措置と見直しのうえで残る措置に整理されました。
全法人向け措置の令和8年3月末廃止
令和8年度税制改正の大綱では、給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度のうち全法人向けの措置は、令和8年3月31日をもって廃止するとされました。これは、規模の大小を問わずすべての法人が利用できた基本の措置が対象で、令和8年3月末で使えなくなることを意味します。
全法人向けの措置は本来より前倒しで区切られる形となります。近年は賃上げの水準が全般に高い伸びを示しており、一定規模の企業では税制上の支援がなくても賃上げを続けられると判断されたことが背景にあります。廃止後、給与を増やしても法人税額から直接差し引ける措置を利用できるのは、規模の小さい法人に限られることになります。
中小企業向け等の措置の見直し内容
全法人向け措置が廃止される一方で、規模の小さい法人向けの措置は要件を見直したうえで残されます。ここで注意したいのは、見直しの対象が「常時使用する従業員の数が2,000人以下である法人向けの措置」と「中小企業向けの措置」の二つに分かれている点です。それぞれ内容が異なります。
常時使用従業員2,000人以下の法人向け措置
常時使用する従業員の数が2,000人以下である法人向けの措置は、適用期限が令和9年3月31日の到来をもって廃止とされ、実質的に1年間延長されます。ただし、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度については、次の見直しが行われます。財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
まず、原則の税額控除率である10%を適用できる場面が絞られます。現行では継続雇用者給与等支給額の増加割合が3%以上であれば適用できましたが、改正後は4%以上であることが要件となります。給与の増やし方が同じでも、控除を受けられる基準が引き上げられる形です。
上乗せ措置も見直されます。現行では増加割合が4%以上の場合に税額控除率へ15%を加算していましたが、改正後は増加割合が5%以上の場合に5%を加算し、6%以上の場合には15%を加算する仕組みへと変わります。さらに、教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止されます。全体として、より高い賃上げを行わなければ従来と同じ控除率に届きにくくなる設計です。
中小企業向け措置の見直し
中小企業向けの措置について、令和8年度税制改正の大綱に示された見直しは、教育訓練費に係る上乗せ措置の廃止です。従業員の教育訓練費を増やした場合の上乗せが使えなくなるため、その分だけ受けられる最大の控除率は縮小します。一方で、これ以外の枠組みの廃止は大綱に記載されておらず、中小企業向けの措置そのものは引き続き利用できる見込みです。
大企業・中堅・中小での変更点の比較
企業規模ごとに扱いが分かれるため、大綱に明記された取扱いを区分別に整理します。下表は令和8年度税制改正の大綱の内容に基づくもので、法案の成立により最終的に確定します。
| 区分 | 令和8年度改正での取扱い |
|---|---|
| 全法人向けの措置 (大企業を含む全法人) |
令和8年3月31日をもって廃止 |
| 常時使用従業員2,000人以下 の法人向け措置 |
令和9年3月31日まで延長。原則の控除率10%の要件を増加割合4%以上(現行3%以上)へ引上げ、上乗せ措置を見直し、教育訓練費の上乗せは廃止 |
| 中小企業向けの措置 | 教育訓練費に係る上乗せ措置を廃止(その他の枠組みは継続の見込み) |
全法人向けの措置がなくなることで、規模の大きい企業ほど影響が大きくなります。規模の小さい法人でも、教育訓練費による上乗せが使えなくなる点は共通しており、賃上げの計画を立てる際には控除率の前提が変わることを織り込む必要があります。
適用時期と実務上の注意
全法人向けの措置は令和8年3月31日で廃止され、それ以降に開始する事業年度では利用できません。常時使用従業員2,000人以下の法人向け措置の見直しは、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度に適用されます。自社の事業年度がいつ始まるかによって、旧来の要件と新しい要件のどちらが適用されるかが変わるため、決算期を基準に確認することが重要です。
また、ここで解説した内容は令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)に基づくものです。大綱は改正の方針を示す段階の文書であり、実際の適用は関連法案が国会で成立し、施行されることによって最終的に確定します。細かな要件や様式は今後の法令・通達で定まる部分があり、現時点で確定していない点は確定していないものとして扱ってください。
賃上げ促進税制は給与の増加割合の計算や上乗せ要件の判定が細かく、自社がどの措置に該当し、どの控除率を使えるかは個別の状況で異なります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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令和8年度税制改正の大綱では、賃上げ促進税制の全法人向け措置が令和8年3月31日をもって廃止されます。常時使用従業員2,000人以下の法人向け措置は令和9年3月31日まで延長される一方、原則の控除率10%を使うための増加割合が4%以上へ引き上げられ、上乗せ措置の見直しと教育訓練費の上乗せ廃止が行われます。中小企業向けの措置も教育訓練費の上乗せが廃止されます。自社の事業年度を基準に、どの措置がいつ適用されるかを早めに確認し、賃上げ計画に反映させることが大切です。
参考文献
賃上げ促進税制の令和8年度改正のよくある質問まとめ
Q.賃上げ促進税制の全法人向け措置はいつ廃止されますか。
A.令和8年度税制改正の大綱では、給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度のうち全法人向けの措置を、令和8年3月31日をもって廃止するとされています。
Q.中小企業向けの措置も廃止されますか。
A.中小企業向けの措置そのものは残る見込みです。ただし教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止されるため、受けられる最大の控除率は縮小します。
Q.従業員2,000人以下の法人向け措置はどう変わりますか。
A.適用期限が令和9年3月31日まで延長される一方、原則の控除率10%を使う要件が継続雇用者給与等支給額の増加割合4%以上へ引き上げられ、上乗せ措置の見直しと教育訓練費の上乗せ廃止が行われます。
Q.見直しはいつ開始する事業年度から適用されますか。
A.従業員2,000人以下の法人向け措置の見直しは、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度について適用されます。
Q.原則の税額控除率を使う要件はどう変わりますか。
A.従業員2,000人以下の法人向け措置では、原則の税額控除率10%を適用できる場合が、継続雇用者給与等支給額の増加割合4%以上(現行3%以上)である場合へ引き上げられます。
Q.大綱の内容はそのまま確定していますか。
A.大綱は改正の方針を示す段階の文書です。実際の適用は関連法案が国会で成立し施行されることで最終的に確定するため、確定していない点は確定していないものとして扱う必要があります。