海外の通販サイトから少額の商品を取り寄せると、消費税を意識せずに買い物ができる。そうした感覚をお持ちの方は少なくないと思います。ところが令和8年度税制改正の大綱では、こうした国境を越えた電子商取引に対する消費課税のあり方が大きく見直されました。なかでも注目されるのが、通信販売によって国外から国内へ発送される特定少額資産の譲渡を消費税の課税対象に取り込む改正です。「自分の買い物にどう影響するのか」「海外へ商品を売る事業者は何を準備すればよいのか」と不安に感じる方に向けて、大綱に示された内容を丁寧に整理してお伝えします。
越境ECをめぐる消費課税の見直しの背景
これまで、海外の事業者が国内の消費者へ直接商品を送る取引は、その多くが国外で行われる譲渡として消費税の課税の外に置かれてきました。一方で、国内の店舗や事業者が同じ商品を販売すれば消費税がかかります。同じ商品でありながら販売経路によって税負担が変わる状況は、公平性の観点から見過ごせないものになっていました。
令和8年度税制改正の大綱では、この不均衡を是正するため、少額の輸入品の販売についても資産の譲渡等に係る消費税の課税の対象とし、あわせてプラットフォーム事業者に納税義務を転換する仕組みを導入する方針が示されています。財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
国内取引との公平性
越境ECの拡大により、海外から国内消費者へ直接届く商品は年々増えています。税務執行上の難しさから課税が及びにくかった領域に手当てをすることで、国内で販売する事業者と海外から販売する事業者の間の税負担をそろえることが、今回の見直しの狙いといえます。
特定少額資産の譲渡の定義
今回の改正の中心にあるのが、特定少額資産の譲渡という新しい考え方です。大綱では、通信販売の方法により国内以外の地域から国内に宛てて発送される資産で、一の資産の対価の額が1万円(税抜き)以下であるものの譲渡を「特定少額資産の譲渡」(仮称)とし、これを消費税の課税の対象とするとされています。財務省 令和8年度税制改正の大綱(4/9)
ポイントは、商品一つあたりの税抜対価が1万円以下という金額基準と、海外から国内の宛先へ発送される通信販売であるという取引形態の両方を満たすものが対象になる点です。金額の判定は、まとめ買いの合計ではなく一の資産ごとに行う建て付けとされています。
課税対象となる要件
特定少額資産の譲渡に該当するかどうかを整理すると、次のようになります。
| 発送元 | 国内以外の地域(海外)から国内に宛てて発送されるもの |
|---|---|
| 取引形態 | 通信販売の方法によるもの |
| 金額基準 | 一の資産の対価の額が1万円(税抜き)以下 |
| 課税上の扱い | 資産の譲渡等に係る消費税の 課税の対象とする |
なお、簡易課税制度を適用している場合の仕入控除税額の計算では、その計算の基礎となる課税資産の譲渡等の範囲から特定少額資産の譲渡に該当するものを除外する取扱いも示されています。
特定少額資産販売事業者の登録制度
特定少額資産の譲渡を行う事業者については、新たな登録制度が設けられます。大綱では、特定少額資産の譲渡を行う事業者(免税事業者を除く)であって、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、税務署長の登録を受けた事業者を「特定少額資産販売事業者」(仮称)とするとされています。
登録を受けた日の属する課税期間の翌課税期間以後は、取消しを求める届出書を提出しない限り、事業者免税点制度は適用されません。つまり、登録後は継続的に消費税の申告と納付を行う立場になります。海外に事務所等を持たない特定国外事業者が登録を受ける場合には、消費税に関する税務代理人があること等が要件に加えられます。
輸入時の消費税との調整
同じ商品に、販売としての消費税と輸入時の消費税が二重にかかることを避けるための手当ても用意されています。特定少額資産販売事業者が行った特定少額資産の譲渡に係る課税貨物について、登録番号などの一定事項が輸入申告書等に付記されているものは、保税地域からの引取りの際に輸入に係る消費税が課税されないための措置が講じられます。郵便物として輸入される場合には、税関告知書への付記が対象とされています。
仮に輸入時の消費税が課された場合でも、輸入許可書等の保存を要件として、その課税期間の消費税額から特定少額資産の譲渡に係る消費税額を控除できる仕組みが設けられています。
物品販売に係るプラットフォーム課税
今回の見直しでは、物品販売についてもプラットフォーム課税が導入されます。デジタルプラットフォームを介して行われる一定の資産の譲渡のうち、指定を受けたプラットフォーム事業者(第2種プラットフォーム事業者(仮称))を介して対価を収受するものは、その第2種プラットフォーム事業者が行ったものとみなされます。対象には、国外事業者が国内で行う資産の譲渡と、事業者が行う特定少額資産の譲渡が含まれます。
この指定は、対象となる資産の譲渡に係る対価の額の合計額が、その課税期間において50億円(税込み)を超えるプラットフォーム事業者に対して行われ、あわせて国税庁長官への届出義務が課されます。個々の小規模な販売者ではなく、大規模なプラットフォームに納税義務を集約することで、執行の実効性を確保する狙いがあります。
第1種と第2種の区分
従来、電気通信利用役務の提供について設けられていた特定プラットフォーム事業者は、今回の見直しに伴い名称が「第1種プラットフォーム事業者」(仮称)とされます。役務の提供を対象とする第1種と、物品販売を対象とする第2種という整理になる点をおさえておくと、制度の全体像を把握しやすくなります。
適用時期と事業者に求められる準備
この改正は段階的に施行されます。基本となる課税対象化などの改正は、経過措置等を除き、令和10年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等および課税仕入れ、ならびに保税地域から引き取られる課税貨物について適用されます。物品販売に係るプラットフォーム課税に関する改正は令和9年4月1日から適用され、特定少額資産販売事業者の登録申請は令和9年10月1日から受け付けることとされています。
| 時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 令和9年4月1日 | 物品販売に係るプラットフォーム課税に関する改正の適用開始 |
| 令和9年10月1日 | 特定少額資産販売事業者の登録申請の受付開始 |
| 令和10年4月1日 | 特定少額資産の譲渡の課税対象化など基本的な改正の適用開始 |
海外販売を行う事業者の視点
海外から国内消費者へ少額商品を販売している事業者にとっては、登録の要否の検討や、輸入申告書等への登録番号の付記、仕入書等への必要事項の記載といった実務対応が求められます。大綱は現時点の方針を示すものであり、具体的な手続や様式は今後の法令や国税庁の案内で明らかになります。適用開始まで一定の準備期間がありますので、早めに情報を確認しながら備えておくと安心です。
まとめ
令和8年度税制改正の大綱では、通信販売により海外から国内へ発送される1万円以下の商品の譲渡を特定少額資産の譲渡として消費税の課税対象に取り込み、あわせて事業者の登録制度と物品販売に係るプラットフォーム課税を整備する方針が示されました。国内取引との公平性を確保するための大きな見直しであり、基本的な改正は令和10年4月1日から適用されます。海外へ商品を販売する事業者は、登録の要否や輸入・発送時の実務対応を早めに確認しておくことが大切です。
参考文献
具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸国境を越えた電子商取引の消費課税に関するよくある質問まとめ
Q.特定少額資産の譲渡とは何ですか。
A.通信販売の方法により国内以外の地域から国内に宛てて発送される資産で、一の資産の対価の額が1万円(税抜き)以下であるものの譲渡をいい、消費税の課税の対象とされます。
Q.金額の1万円はどのように判定しますか。
A.まとめ買いの合計額ではなく、一の資産ごとの税抜対価が1万円以下かどうかで判定する建て付けとされています。
Q.いつから適用されますか。
A.基本的な改正は経過措置等を除き令和10年4月1日以後の取引について適用されます。物品販売に係るプラットフォーム課税は令和9年4月1日から適用されます。
Q.特定少額資産販売事業者の登録はいつから申請できますか。
A.登録の申請は令和9年10月1日から受け付けることとされています。登録できるのは免税事業者を除く事業者です。
Q.販売の消費税と輸入時の消費税が二重にかかりませんか。
A.登録番号などの一定事項を輸入申告書等に付記した課税貨物は、引取り時に輸入の消費税が課されないための措置が設けられています。輸入時に課された場合も一定の控除が認められます。
Q.プラットフォーム課税の対象となる事業者はどのような規模ですか。
A.対象取引に係る対価の額の合計額が課税期間において50億円(税込み)を超えるプラットフォーム事業者が、第2種プラットフォーム事業者として指定されます。