令和8年度税制改正では、グローバル・ミニマム課税の中核となる調整後対象租税額の計算方法が見直されました。すでに制度への対応を進めてきた大企業の経理・税務担当の方にとって、どの金額をどこまで租税額に含められるのかは、実効税率の判定に直結する重要な論点です。この記事では、制度の全体像から今回の計算見直しの内容、そして実務への影響までを、順を追って整理します。
グローバル・ミニマム課税の全体像
まず、この制度がどのような目的で設けられたのかを確認します。グローバル・ミニマム課税は、OECDとG20が中心となって合意した国際的な枠組みであり、「第2の柱」とも呼ばれます。
第2の柱と15%の最低税率
この制度の核心は、国際的に合意された最低税率15%以上の税負担を確保することにあります。これによって、各国が企業を誘致するために法人税率を引き下げ合う競争を防止しようという狙いがあります。財務省 グローバル・ミニマム課税の法制化について
3つのルールの構成
グローバル・ミニマム課税は、単一の税ではなく3つのルールの組み合わせで成り立っています。それぞれが補完し合うことで、世界のどこかで最低税率に満たない部分が生じた場合に、確実に課税されるしくみです。
| ルール | 課税の考え方 |
|---|---|
| 所得合算ルール (IIR) |
子会社等の所在地国の実効税率が15%未満の場合に親会社等が課税します |
| 軽課税所得ルール (UTPR) |
所得合算ルールで課税しきれない残額をグループ内の他の会社が負担します |
| 国内最低課税額 (QDMTT) |
自国内の実効税率が15%未満の場合に、その国が先行して課税します |
日本では、令和5年度改正で所得合算ルールが導入され、令和7年度改正で軽課税所得ルールと国内最低課税額が加わりました。軽課税所得ルールと国内最低課税額は、令和8年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます。財務省 グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置
対象となる企業グループ
次に気になるのは、自社が対象になるのかという点です。グローバル・ミニマム課税は、すべての企業に及ぶわけではなく、一定の規模を超える多国籍企業グループに限られます。
年間総収入金額7億5,000万ユーロの基準
対象となるのは、グループの総収入金額が7億5,000万ユーロ以上であり、かつ複数の国や地域にグループ会社を持つ、財務会計上の連結企業グループです。この規模基準に達しない企業グループは、原則として制度の適用外となります。国税庁 グローバル・ミニマム課税関係
国別の実効税率で判定するしくみ
この制度は、会社ごとではなく、所在地国ごとにまとめて実効税率を計算します。国単位でグループの純所得金額に対する税負担を測り、それが15%に満たない場合に、上乗せ課税の対象となります。実効税率の計算は、次の考え方が基本です。
調整後対象租税額とは
ここで、今回の改正の対象である調整後対象租税額について整理します。この金額は、実効税率の分子にあたるため、その大きさが上乗せ課税の有無を左右します。
対象租税を基に調整する金額
調整後対象租税額とは、当期純損益金額に係る法人税等であって対象租税に当たるものの額を基に、一定の調整を加えた金額です。単純な納税額ではなく、外国子会社合算税制に係る税額や、税効果会計上の繰延税金といった要素を考慮して算定される点が特徴です。国税庁 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関するQ&A
なぜ調整が必要になるのか
財務会計上の税額をそのまま用いると、一時的な税額の増減が実効税率をゆがめてしまいます。そのため、期間帰属や税制の違いによるズレをならし、各国の実質的な税負担を適切に反映させる目的で、調整の手続きが設けられています。
令和8年度改正による計算の見直し
それでは、令和8年度税制改正で調整後対象租税額の計算がどのように見直されたのかを見ていきます。改正の中心は、一定の税額控除制度に係る金額を租税額に加算できる特例の新設です。
税額控除相当額を加算できる特例
今回の改正では、税額控除制度等の適用を受けることが認められる金額のうち一定の金額を、調整後対象租税額に加算することができる特例が設けられました。これにより、一定の税額控除を受けた場合でも、その分が実効税率を過度に押し下げないよう調整されます。
加算できる金額の上限
加算できる金額には上限が定められています。具体的には、一定の従業員の給与等の額の合計額に5.5%を乗じた金額と、一定の有形資産に係る減価償却費の合計額に5.5%を乗じた金額との、いずれか多い金額を基準として按分した金額が上限とされます。
対象となる税額控除制度の要件
この特例の対象となる税額控除制度には要件があります。支出の額を基礎として計算される制度、または所在地国における有形資産の生産量等を基礎として計算される制度が対象とされています。適用開始は、令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度からです。
実務への影響と申告時期
最後に、担当者として押さえておきたい実務上の留意点を整理します。制度は導入後も継続的に手直しが行われており、常に最新の取扱いを確認する姿勢が欠かせません。
実効税率計算への波及
調整後対象租税額は実効税率の分子であるため、今回の加算特例によって計算結果が変わる可能性があります。従業員の給与や有形資産の減価償却費といった、これまで租税額の計算では中心的でなかった数値の把握が、あらためて必要になります。
情報申告と継続的な確認
グローバル・ミニマム課税に関しては、税額の申告に加えて情報申告制度が設けられています。実務では、国税庁が公表するQ&Aや各種資料をそのつど確認し、算定根拠となる資料を整えておくことが重要です。
まとめ
グローバル・ミニマム課税は、最低税率15%を確保するための国際的な枠組みであり、総収入金額7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループが対象です。令和8年度税制改正では、一定の税額控除相当額を調整後対象租税額に加算できる特例が新設され、給与等または有形資産の減価償却費に5.5%を乗じた金額を基準とする上限が設けられました。適用は令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度からとなります。実効税率の分子である調整後対象租税額の見直しは判定結果に直結するため、算定資料の整備と最新情報の確認を進めておくことをおすすめします。
参考文献
- 財務省 グローバル・ミニマム課税の法制化について
- 財務省 グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置
- 国税庁 グローバル・ミニマム課税関係
- 国税庁 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税に関するQ&A
グローバル・ミニマム課税のよくある質問まとめ
Q.グローバル・ミニマム課税の最低税率は何%ですか。
A.国際的に合意された最低税率は15%です。各国ごとにこの税率以上の税負担を確保することで、法人税の引下げ競争を防ぐことを目的としています。
Q.どのくらいの規模の企業グループが対象になりますか。
A.グループの総収入金額が7億5,000万ユーロ以上で、複数の国や地域にグループ会社を持つ連結企業グループが対象です。これに満たない企業グループは原則として適用外です。
Q.調整後対象租税額とは何ですか。
A.当期純損益金額に係る法人税等のうち対象租税に当たるものの額を基に、一定の調整を加えた金額です。実効税率を計算する際の分子として用いられます。
Q.令和8年度改正で調整後対象租税額の計算はどう変わりましたか。
A.一定の税額控除制度の適用を受ける金額のうち一定額を調整後対象租税額に加算できる特例が設けられました。加算額には上限が定められています。
Q.加算できる金額の上限はどのように決まりますか。
A.一定の従業員の給与等の額の合計額に5.5%を乗じた金額と、一定の有形資産に係る減価償却費の合計額に5.5%を乗じた金額のいずれか多い金額を基準として按分した金額が上限とされます。
Q.今回の改正はいつから適用されますか。
A.調整後対象租税額に関する加算特例は、令和8年1月1日以後に開始する対象会計年度から適用されます。