暗号資産を売却したときに消費税がかかるのか、気になったことはないでしょうか。令和8年度税制改正では、暗号資産の譲渡について消費税の取扱いが見直されました。結論から申し上げると、暗号資産の譲渡は引き続き消費税は非課税のままです。ただし、消費税の計算で使う課税売上割合の求め方が変わり、これまで計算に反映されなかった暗号資産の譲渡対価が一部反映されるようになります。ここでは、非課税とされる根拠から課税売上割合の見直し内容、そして事業者が押さえておきたい実務上の留意点までを、順を追って整理します。
令和8年度税制改正における暗号資産と消費税の概要
まず、今回の改正で何が変わり、何が変わらないのかを整理します。改正の対象は「消費税が課されるかどうか」ではなく、「消費税の計算で使う割合への反映のしかた」です。課税か非課税かという結論そのものは変わりません。
改正の要点
令和8年度税制改正の大綱では、暗号資産の譲渡を有価証券に類するもの(現行は支払手段に類するもの)の譲渡として位置付け、引き続き消費税を非課税とすることが示されています。あわせて、消費税の課税売上割合の計算上、暗号資産の譲渡についてはその譲渡に係る対価の額の5パーセント相当額を資産の譲渡等の対価の額に算入することとされました。さらに、暗号資産の貸付けについても消費税を非課税とするほか、所要の措置を講ずるとされています。財務省 令和8年度税制改正の大綱(4/9)
適用時期
この改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行われる暗号資産の譲渡等について適用するとされています。施行日を起点とした翌年からの適用となるため、実際に計算へ反映するタイミングは、改正法の施行日を確認しながら見極める必要があります。
暗号資産の譲渡が消費税非課税である理由と根拠
そもそも、なぜ暗号資産の譲渡には消費税がかからないのでしょうか。ここには、消費税が「消費」に負担を求める税である一方で、支払手段そのものの受け渡しには消費という性格がなじまない、という考え方があります。
非課税とされる取引の考え方
消費税法では、消費に負担を求める税としての性格から課税の対象になじまないものや、社会政策的な配慮から課税すべきでないものを非課税取引として定めています。土地の譲渡や有価証券の譲渡、支払手段の譲渡などがこれにあたります。暗号資産の譲渡は、この支払手段に類するものの譲渡として非課税とされてきました。国税庁 No.6201 非課税となる取引これらの非課税となる取引は、消費税法の別表に列挙されています。e-Gov法令検索 消費税法
位置付けの変更と非課税の継続
今回の改正で変わるのは、暗号資産の譲渡の「位置付け」です。従来の支払手段に類するものから有価証券に類するものへと位置付けが改められます。もっとも、位置付けが変わっても消費税を非課税とする取扱いそのものは維持されるため、暗号資産を売却したときに消費税を負担するという結論に変化はありません。読者の関心が高い「課税されるようになるのか」という点については、心配は不要ということになります。
課税売上割合とは
次に、今回の見直しで影響を受ける課税売上割合について確認します。聞き慣れない用語かもしれませんが、消費税の納税額を計算するうえで欠かせない指標です。
計算の基本式
課税売上割合とは、課税期間中の総売上高のうち課税売上高が占める割合をいいます。式で表すと次のとおりです。
分母は国内における資産の譲渡等の対価の額の合計額で、課税売上高に輸出免税売上高と非課税売上高を加えたものです。分子は課税資産の譲渡等の対価の額の合計額で、輸出免税売上高を含みます。ここで重要なのは、支払手段の譲渡に係る売上高は、分母にも分子にも含めないという点です。国税庁 No.6405 課税売上割合の計算方法
仕入税額控除における役割
課税売上割合は、支払った消費税のうちいくらを控除できるかを決める場面で使われます。課税期間中の課税売上高が5億円超、または課税売上割合が95パーセント未満の場合には、支払った消費税の全額を控除できず、個別対応方式または一括比例配分方式によって控除額を計算します。一括比例配分方式では、課税仕入れ等に係る消費税額に課税売上割合を乗じて控除額を求めるため、割合が下がると控除できる税額も小さくなります。国税庁 No.6401 仕入控除税額の計算方法
課税売上割合の計算方法の見直し内容
ここが今回の改正の核心です。暗号資産の譲渡が課税売上割合の計算にどう反映されるようになるのかを見ていきます。
譲渡対価の5パーセント相当額の算入
改正後は、暗号資産の譲渡について、その譲渡に係る対価の額の5パーセント相当額を資産の譲渡等の対価の額に算入します。つまり、暗号資産の譲渡対価の全額ではなく、5パーセントに相当する金額だけが課税売上割合の分母に加わることになります。これは、有価証券や金銭債権といった他の非課税資産の譲渡について、対価の額の5パーセントを分母に含める従来の取扱いと考え方をそろえたものです。
従来の取扱いとの比較
現行と改正後で何がどう変わるのかを、二つの表で整理します。まず現行の取扱いです。
| 消費税の課税関係 | 非課税 |
|---|---|
| 譲渡の位置付け | 支払手段に類するもの |
| 課税売上割合への算入 | 算入しない |
続いて改正後の取扱いです。
| 消費税の課税関係 | 非課税(変更なし) |
|---|---|
| 譲渡の位置付け | 有価証券に類するもの |
| 課税売上割合への算入 | 対価の額の5パーセント相当額を算入 |
このように、非課税である点は変わらない一方で、これまで割合の計算に反映されなかった暗号資産の譲渡が、5パーセント相当額という形で分母に加わる点が大きな違いです。
事業者への影響と実務上の留意点
最後に、この見直しが事業者の消費税計算にどのような影響を与えるのか、そして何を準備しておくべきかを整理します。
影響を受けやすい事業者
影響が出やすいのは、事業として暗号資産を頻繁に売却する事業者です。暗号資産の譲渡対価の5パーセント相当額が課税売上割合の分母に加わることで、割合がわずかに下がる可能性があります。課税売上高が5億円を超える、あるいは課税売上割合が95パーセントを下回る事業者では、割合の低下が仕入税額控除の金額に影響することがあります。反対に、暗号資産の譲渡がない、または全額控除の要件を満たす事業者では、実務上の影響はほとんど生じません。
準備しておきたい実務対応
まず、暗号資産の譲渡対価を他の売上と区分して集計できる体制を整えておくことが大切です。5パーセント相当額を正しく分母に算入するには、譲渡対価の総額を把握しておく必要があるためです。あわせて、自社が全額控除の対象か、個別対応方式か一括比例配分方式かを確認し、割合の変動が控除税額に及ぼす影響を試算しておくと安心です。適用時期は改正法の施行日を起点とするため、施行日の確定を待って対応スケジュールを具体化するとよいでしょう。
まとめ
令和8年度税制改正では、暗号資産の譲渡は有価証券に類するものへと位置付けが改められましたが、消費税は引き続き非課税とされ、課税か非課税かの結論は変わりません。変わるのは課税売上割合の計算で、暗号資産の譲渡対価の5パーセント相当額が分母に算入されるようになります。適用は金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後の譲渡等からです。暗号資産を継続的に譲渡する事業者は、譲渡対価の区分集計と控除税額への影響試算を早めに進めておくことをおすすめします。
参考文献
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱(4/9)
- 国税庁 No.6201 非課税となる取引
- 国税庁 No.6405 課税売上割合の計算方法
- 国税庁 No.6401 仕入控除税額の計算方法
- e-Gov法令検索 消費税法
暗号資産の消費税に関するよくある質問まとめ
Q.暗号資産を売却すると消費税はかかりますか。
A.かかりません。暗号資産の譲渡は消費税の非課税取引とされており、令和8年度税制改正後も引き続き非課税です。位置付けは支払手段に類するものから有価証券に類するものへ改められますが、非課税である結論は変わりません。
Q.令和8年度税制改正で暗号資産の消費税は何が変わりますか。
A.課税か非課税かは変わりません。変わるのは課税売上割合の計算方法で、暗号資産の譲渡に係る対価の額の5パーセント相当額を資産の譲渡等の対価の額に算入するようになります。
Q.課税売上割合とは何ですか。
A.課税期間中の総売上高のうち課税売上高が占める割合をいい、課税売上高を課税売上高と非課税売上高の合計で割って求めます。仕入れにかかった消費税のうちいくらを控除できるかを計算する際に使われます。
Q.改正はいつから適用されますか。
A.金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行われる暗号資産の譲渡等について適用されます。施行日を起点とした翌年からの適用となります。
Q.暗号資産の譲渡対価はどのくらい課税売上割合に反映されますか。
A.譲渡対価の全額ではなく、対価の額の5パーセント相当額が課税売上割合の分母に算入されます。有価証券など他の非課税資産の譲渡と同じ考え方に整えられたものです。
Q.どのような事業者が影響を受けますか。
A.暗号資産を継続的に譲渡する事業者が影響を受けやすくなります。特に課税売上高が5億円を超える、または課税売上割合が95パーセント未満の事業者では、割合の低下が仕入税額控除の金額に影響することがあります。