ご家族が亡くなられた後、会社からDB(確定給付企業年金)やCB(キャッシュバランスプラン)といった企業年金制度から「死亡一時金」や「遺族給付金」が支払われることがあります。これは大切な収入源になりますが、同時に「これって相続税の対象になるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。特に、相続税の申告書を作成する上で、この給付金を「死亡退職金」として扱って良いのかは重要なポイントです。この記事では、DBやCBからの死亡給付金が相続税法上どのように扱われるのか、そして申告の際に知っておきたい非課税枠や注意点について、分かりやすく解説していきますね。
DB・CBからの死亡給付金は「死亡退職金」として扱われる
結論からお伝えすると、DB(確定給付企業年金)やCB(キャッシュバランスプラン)から遺族が受け取る死亡一時金は、相続税法上「死亡退職金」として扱われ、相続税の課税対象となります。なぜそうなるのか、基本的な仕組みから見ていきましょう。
DB・CB(企業年金)の基本的な仕組み
まず、DBとCBについて簡単にご説明しますね。これらはどちらも会社が従業員のために掛金を拠出し、将来の年金給付を約束する制度です。
DB(確定給付企業年金) | 将来受け取る年金額が規約によってあらかじめ定められている企業年金制度です。 |
CB(キャッシュバランスプラン) | DBの一種ですが、掛金の拠出実績と市場金利に応じた利息で仮想的な個人勘定残高を管理し、それを基に年金額が決まる制度です。 |
これらの制度では、加入者が在職中または退職後に亡くなった場合に、ご遺族に対して一時金や年金が支払われる仕組みが備わっていることが一般的です。
死亡給付金は「みなし相続財産」
亡くなった方が持っていた預貯金や不動産といった財産は「本来の相続財産」と呼ばれます。一方で、DB・CBからの死亡給付金は、亡くなった方の財産ではありません。あくまで年金規約に基づいて遺族に支払われる「受取人固有の財産」です。
しかし、亡くなったことを原因として遺族が受け取るお金であるため、実質的には遺産を相続したのと同じ経済的効果があります。そこで、税金の公平性を保つために、相続税法ではこれを「みなし相続財産」として、相続税の計算に含めることになっているのです。
相続税の対象となる要件
すべての死亡給付金が相続税の対象になるわけではありません。重要な要件があります。
それは、「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」であることです。もし、会社の都合などで支給の確定が死亡から3年を超えてしまった場合は、相続税ではなく、受け取った遺族の「一時所得」として所得税の対象になります。ほとんどのケースでは3年以内に確定しますが、念のため覚えておきましょう。
死亡退職金の非課税枠を最大限に活用しよう
DB・CBの死亡給付金が死亡退職金として扱われる最大のメリットは、相続税の非課税枠が使えることです。これは残されたご家族の生活保障という側面を考慮した、とてもありがたい制度です。
非課税限度額の計算方法
死亡退職金の非課税限度額は、以下の計算式で求められます。
【計算式】 500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人いる場合、非課税限度額は「500万円 × 3人 = 1,500万円」となります。もし受け取った死亡退職金の合計が1,500万円以下であれば、その全額に相続税はかかりません。超えた分だけが課税対象となります。
「法定相続人の数」の数え方の注意点
計算式の「法定相続人の数」には、いくつか注意点があります。間違えやすいポイントなので、しっかり確認しましょう。
相続放棄した人 | 相続を放棄した人がいても、その放棄がなかったものとして人数に含めます。 |
養子 | 法定相続人に含められる養子の数には制限があります。 ・実子がいる場合:1人まで ・実子がいない場合:2人まで |
生命保険金の非課税枠との併用は可能?
「生命保険金にも同じような非課税枠があったけど、両方使えるの?」というご質問もよくいただきます。ご安心ください、死亡退職金の非課税枠と生命保険金の非課税枠は、それぞれ別々に使えます。
つまり、法定相続人が3人なら、死亡退職金で1,500万円、生命保険金で1,500万円、合計で最大3,000万円まで非課税で受け取れる可能性があるということです。
相続税申告書での具体的な書き方
実際に相続税の申告をする際、DB・CBの死亡給付金をどこにどのように書けばよいのでしょうか。手続きについても見ていきましょう。
記載するのは「第10表」
DB・CBの死亡給付金(死亡退職金)に関する情報は、「相続税の申告書 第10表 退職手当金等の明細書」に記載します。
この書類で、誰が、どこから、いくら受け取ったのかを明らかにし、非課税額の計算も行います。
第10表の記載ポイント
第10表には、主に以下の内容を記載します。
- 退職手当金等を支払った者の名称・所在地:年金基金や運営管理機関の情報を記載します。
- 退職手当金等を受け取った人:実際に給付金を受け取った相続人の氏名を記載します。
- 受け取った日・金額:支給通知書などに記載された日付と金額を正確に書きます。
- 非課税金額の計算:法定相続人の数を基に非課税限度額を計算し、各相続人が受け取った金額に応じて非課税額を按分します。
この表で計算された課税対象額が、他の相続財産と合算されて、最終的な相続税額が計算される流れになります。
DB・CBの死亡給付金に関するその他の注意点
最後に、DB・CBの死亡給付金に関して間違いやすい点や、知っておくと役立つ知識をいくつかご紹介します。
年金形式で受け取る場合
死亡給付金を一時金ではなく、分割して年金形式で受け取る選択ができる場合もあります。この場合、相続税の課税対象になるのは「年金を受け取る権利」そのものです。この権利を「年金受給権」として、解約返戻金相当額などで評価し、相続財産に加算します。
そして、相続税の課税とは別に、毎年受け取る年金は受取人の「雑所得」として所得税の対象となるため、注意が必要です。
弔慰金との違い
会社からは、死亡退職金とは別に「弔慰金(ちょういきん)」が支払われることがあります。弔慰金は、お悔やみの気持ちとして支払われるもので、原則として相続税はかかりません。
ただし、あまりに高額な場合は、実質的に退職金の一部とみなされます。以下の金額を超える部分は、死亡退職金として扱われるので注意してください。
- 業務上の死亡の場合:死亡時の給与の3年分に相当する額
- 業務外の死亡の場合:死亡時の給与の半年分に相当する額
相続放棄をしても受け取れるが…
DB・CBの死亡給付金は、受取人固有の財産であるため、仮に家庭裁判所で相続放棄の手続きをしても受け取ることができます。
ただし、大きなデメリットがあります。それは、死亡退職金の非課税枠が使えなくなることです。相続放棄をした人は税法上「相続人」ではないと扱われるため、受け取った給付金の全額が課税対象になってしまいます。
まとめ
今回は、DB・CBからの死亡給付金と相続税の関係について解説しました。ポイントをもう一度おさらいしましょう。
- DB・CBからの死亡給付金は、相続税法上「死亡退職金」として扱われ、相続税の課税対象となります。
- 「500万円 × 法定相続人の数」で計算される非課税枠が適用でき、大きな節税効果が期待できます。
- 生命保険金の非課税枠とは別枠で併用可能です。
- 相続放棄をしても受け取れますが、その場合は非課税枠が使えなくなるので注意が必要です。
- 申告の際は、相続税申告書第10表に正確に記載する必要があります。
企業年金の扱いは複雑な部分もあり、規約によっても取り扱いが異なる場合があります。ご自身のケースで判断に迷う場合は、無理せず税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
DB・CBの死亡一時金と相続税のよくある質問まとめ
Q. 確定給付企業年金(DB)や確定拠出年金(CB)の死亡一時金は相続税の対象になりますか?
A. はい、被相続人(亡くなった方)の死亡によって遺族が受け取るDB・CBの死亡一時金は、「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。
Q. DB・CBの死亡一時金は、相続税の「死亡退職金」として扱えますか?
A. はい、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡一時金は、相続税法上の「死亡退職金」として扱われ、非課税枠の適用対象となります。
Q. 死亡退職金として扱われると、どんなメリットがありますか?
A. 「500万円 × 法定相続人の数」で計算される非課税枠を適用できます。この金額までは相続税がかからないため、相続税の負担を軽減できるメリットがあります。
Q. 死亡退職金の非課税枠は、生命保険の非課税枠と併用できますか?
A. はい、併用できます。死亡退職金の非課税枠と、死亡保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)は、それぞれ別に設けられているため、両方の適用が可能です。
Q. 確定給付企業年金(DB)と確定拠出年金(CB)で、死亡一時金の扱いに違いはありますか?
A. 相続税法上の扱いに違いはありません。どちらの制度の死亡一時金も、死亡後3年以内に支給が確定すれば「死亡退職金」として非課税枠の対象となります。
Q. 死亡一時金ではなく、遺族が年金形式で受け取る場合はどうなりますか?
A. 年金形式で受け取る権利(年金受給権)が相続税の課税対象となりますが、死亡退職金の非課税枠は適用できません。また、毎年受け取る年金は受取人自身の「雑所得」として所得税の対象になります。