配偶者が遺産を相続する場合、配偶者の税額軽減によって最大で1億6,000万円まで相続税がかからない仕組みがあります。この制度を最大限に使えば一次相続の相続税を大きく減らせますが、その配偶者が亡くなったときの二次相続では、かえって家族全体の税負担が増えることがあります。本記事では、配偶者の税額軽減の基本を簡潔に押さえたうえで、一次相続と二次相続を通算して税負担を最適化する視点を、具体的な試算で解説します。
配偶者の税額軽減の基本
配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した正味の遺産額のうち、1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないという制度です[国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減]。
ここで押さえておきたいのは、非課税となる枠は「1億6,000万円」で固定されているわけではないという点です。配偶者の法定相続分に相当する金額が1億6,000万円を超える場合は、その法定相続分相当額まで非課税になります。たとえば遺産が10億円で配偶者と子が相続人であれば、配偶者の法定相続分は2分の1の5億円となり、5億円まで相続税がかかりません。つまり「1億6,000万円と法定相続分相当額のいずれか多い方まで」が正確な理解です。
適用を受けるための要件
配偶者の税額軽減の適用を受けるには、原則として相続税の申告書を提出する必要があります。税額軽減を適用した結果、納付する相続税がゼロになる場合でも、申告書の提出が要件です[国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減]。
また、適用の対象となるのは実際に取得が確定した財産です。申告期限までに遺産分割が終わっていない財産は、いったん軽減の対象から外れます。ただし、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しておけば、申告期限から3年以内に分割が成立した場合に、あらためて軽減の適用を受けられます[国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減]。なお、隠蔽または仮装されていた財産は軽減の対象になりません。
法定相続人が配偶者のみで子や親がいないケースについては、別の記事で詳しく整理しています。あわせてご確認ください。
法定相続人が配偶者のみ!相続税の配偶者控除で全額非課税になる?
一次相続で配偶者に集中させると二次相続が重くなる理由
配偶者の税額軽減は一次相続の税負担を軽くする強力な制度ですが、二次相続まで含めて考えると必ずしも有利とは限りません。理由は次の2点です。
1つ目は、相続人の数が減ることによる基礎控除の縮小です。相続税の基礎控除額は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算されます[国税庁 No.4152 相続税の計算]。一次相続で配偶者と子が相続人であっても、二次相続では配偶者本人はすでに亡くなっているため、相続人は子だけになります。相続人が1人減れば基礎控除は600万円縮みます。
2つ目は、二次相続では配偶者の税額軽減が使えないことです。一次相続で配偶者に多くの財産を寄せると、その財産は配偶者自身の元々の財産と合算されて二次相続の課税対象となり、軽減制度のない状態で子に課税されます。相続税は取得金額が大きいほど税率が上がる超過累進課税であるため[国税庁 No.4155 相続税の税率]、財産が二次相続に集中するほど高い税率が適用されやすくなります。
具体的な試算による比較
ここからが本記事の核心です。夫が亡くなり、相続人が妻と子1人のケースを例に、一次相続と二次相続を通算した相続税を試算します。前提を次のとおり置きます。
夫の遺産は1億6,000万円、妻自身が元々持っている財産は0円とします。二次相続(妻の死亡)では、妻が一次相続で取得した財産がそのまま残り、相続人は子1人とします。適用する速算表は次のとおりです[国税庁 No.4155 相続税の税率]。
| 法定相続分に応ずる 取得金額 |
税率と控除額 |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 税率10%・控除額なし |
| 3,000万円以下 | 税率15%・控除額50万円 |
| 5,000万円以下 | 税率20%・控除額200万円 |
| 1億円以下 | 税率30%・控除額700万円 |
| 2億円以下 | 税率40%・控除額1,700万円 |
| 3億円以下 | 税率45%・控除額2,700万円 |
| 6億円以下 | 税率50%・控除額4,200万円 |
| 6億円超 | 税率55%・控除額7,200万円 |
パターンA 配偶者の税額軽減を最大限使う場合
一次相続で妻が全財産1億6,000万円を取得し、配偶者の税額軽減で妻の相続税をゼロにするパターンです。まず一次相続の相続税の総額を計算します。基礎控除は相続人2人で4,200万円です。
= 1億6,000万円 - (3,000万円 + 600万円 × 2人)
= 1億6,000万円 - 4,200万円 = 1億1,800万円
= 1億1,800万円 × 1/2 × 30% - 700万円
= 5,900万円 × 30% - 700万円 = 1,070万円
子の法定相続分(2分の1)に対する税額
= 1億1,800万円 × 1/2 × 30% - 700万円 = 1,070万円
相続税の総額 = 1,070万円 + 1,070万円 = 2,140万円
この総額2,140万円を、実際の取得割合に応じて配分します。妻が全額を取得するため、妻の税額は2,140万円ですが、配偶者の税額軽減により全額が非課税となり、一次相続の納税額はゼロです。
= 2,140万円 × (軽減適用) = 0円
続いて、妻が取得した1億6,000万円がそのまま残った状態での二次相続です。相続人は子1人のみで、基礎控除は3,600万円になります。
= 1億6,000万円 - (3,000万円 + 600万円 × 1人)
= 1億6,000万円 - 3,600万円 = 1億2,400万円
= 1億2,400万円 × 40% - 1,700万円 = 3,260万円
= 0円 + 3,260万円 = 3,260万円
パターンB 配偶者の取得を法定相続分に抑える場合
一次相続で妻の取得を法定相続分の2分の1(8,000万円)に抑え、残りの8,000万円を子が取得するパターンです。一次相続の相続税の総額はパターンAと同じ2,140万円で、これを取得割合で半分ずつ配分します。妻の分は税額軽減でゼロになります。
妻の税額 = 2,140万円 × 1/2 = 1,070万円 → 軽減適用で0円
子の税額 = 2,140万円 × 1/2 = 1,070万円
一次相続の納税額 = 1,070万円
二次相続では、妻が取得した8,000万円がそのまま残ります。相続人は子1人、基礎控除は3,600万円です。
= 8,000万円 - 3,600万円 = 4,400万円
= 4,400万円 × 20% - 200万円 = 680万円
= 1,070万円 + 680万円 = 1,750万円
2つのパターンの比較
一次相続だけを見ればパターンAが納税ゼロで有利ですが、二次相続まで通算するとパターンBの方が税負担は軽くなります。
| 比較項目 | パターンAとパターンB |
|---|---|
| 一次相続の納税額 | A: 0円/ B: 1,070万円 |
| 二次相続の納税額 | A: 3,260万円/ B: 680万円 |
| 一次・二次の合計 | A: 3,260万円/ B: 1,750万円 |
この例では、配偶者の取得を法定相続分に抑えたパターンBの方が、通算で1,510万円も税負担が少なくなりました。配偶者の税額軽減を一次相続で目一杯使うことが、家族全体で見ると必ずしも最善ではないことがわかります。
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配分バランスを決めるときの実務的な注意点
上記の試算はあくまで単純化した一例です。実際には、次の要素によって最適な配分は変わります。
まず、配偶者自身が元々保有する財産の大小です。配偶者が既に多額の財産を持っている場合、一次相続でさらに財産を上乗せすると二次相続の課税額が急増しやすくなります。逆に配偶者の固有財産が少なければ、二次相続での税率上昇は緩やかになります。
次に、二次相続までの想定期間や財産の増減です。配偶者が取得した財産を生活費として費消したり、生前贈与を活用したりすれば、二次相続の課税対象は減少します。反対に、収益不動産などから財産が増えるケースもあります。
さらに、小規模宅地等の特例や生命保険金の非課税枠など、二次相続で使える他の制度の有無も判断材料になります。これらを踏まえると、配偶者の取得割合は「法定相続分」「1億6,000万円」「全額」のいずれか一律ではなく、財産構成と家族状況に応じて個別に検討する必要があります。
まとめ
配偶者の税額軽減は、1億6,000万円と法定相続分相当額のいずれか多い金額まで配偶者の相続税を非課税にできる制度で、一次相続の負担を大きく軽くします。一方で二次相続では、相続人が減って基礎控除が縮小し、配偶者の税額軽減も使えないため、財産を配偶者に集中させると通算の税負担が増えることがあります。本記事の試算では、配偶者の取得を法定相続分に抑えた方が、一次・二次を通算して税負担が軽くなりました。最適な配分は配偶者の固有財産や将来の財産変動、他の特例の適用可否によって変わるため、二次相続まで見据えた早めのシミュレーションが有効です。具体的な配分の検討は、相続税に詳しい税理士へご相談ください。
参考文献
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断を保証するものではありません。実際の申告や対策にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
配偶者控除と二次相続に関するよくある質問まとめ
Q. 配偶者の税額軽減は必ず1億6000万円まで非課税ですか。
A. 1億6000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで非課税です。法定相続分相当額が1億6000万円を超える場合は、その法定相続分相当額まで非課税になります。
Q. 配偶者の税額軽減を使うと申告は不要ですか。
A. 軽減を適用して納税額がゼロになる場合でも、相続税の申告書の提出が要件です。申告をしなければ軽減は適用されません。
Q. なぜ二次相続で税負担が増えるのですか。
A. 二次相続では相続人が減って基礎控除が縮小し、配偶者の税額軽減も使えないためです。財産を配偶者に集中させるほど、二次相続で高い税率が適用されやすくなります。
Q. 一次相続で配偶者はどのくらい取得するのがよいですか。
A. 一律の正解はありません。配偶者の固有財産や将来の財産変動、他の特例の適用可否によって最適な取得割合は変わるため、二次相続まで通算した試算が必要です。
Q. 遺産分割が申告期限に間に合わない場合はどうなりますか。
A. 未分割の財産は一旦軽減の対象外となりますが、申告書に申告期限後3年以内の分割見込書を添付すれば、申告期限から3年以内に分割が成立した際に軽減の適用を受けられます。
Q. 相続税の税率はどのように決まりますか。
A. 法定相続分に応ずる取得金額に応じた超過累進課税で、10パーセントから55パーセントの8段階です。取得金額が大きいほど高い税率が適用されます。