インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった小規模な個人事業者の方にとって、消費税の納税額を売上税額の2割に抑えられる「2割特例」は、大きな支えになってきた制度です。「この2割特例はいつまで続くのだろう」「令和8年度の税制改正で何かが変わると聞いたけれど、自分にどう影響するのか分からない」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
令和8年度税制改正大綱では、この2割特例の取扱いが大きく見直され、あわせて免税事業者からの仕入れに関する経過措置も変更される方針が示されました。この記事では、2割特例の基本的な仕組みをおさらいしたうえで、令和8年度税制改正大綱で示された継続・見直しの内容を、公的機関の情報に沿って丁寧にご説明します。
2割特例の基本的な仕組み
まず、見直しの内容を理解する前提として、現在の2割特例がどのような制度なのかを確認しておきましょう。名前は聞いたことがあっても、対象者や計算方法まで正確に押さえている方は意外と少ないものです。
2割特例とは
2割特例とは、正式には「適格請求書発行事業者となる小規模個人事業者等に対する税額控除に関する経過措置」と呼ばれるものです。インボイス制度を機に、これまで消費税の納税義務が免除されていた免税事業者が、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)の登録を受けて課税事業者になった場合に、納付する消費税額を大きく軽減できる仕組みです。国税庁 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
そもそもインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、令和5年10月1日から始まった消費税の仕入税額控除の方式です。取引先が仕入税額控除を受けるためには、原則として登録を受けた事業者が発行するインボイスが必要になります。国税庁 No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)この制度への対応として課税事業者になった小規模事業者の負担を和らげるために設けられたのが、2割特例です。
対象者と適用対象期間
2割特例の対象となるのは、インボイス制度を機に免税事業者から適格請求書発行事業者として課税事業者になった方です。もともと基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていて課税事業者である方などは対象になりません。適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間とされています。
個人事業者の場合、この対象期間の考え方から、令和5年分(10月から12月分)、令和6年分、令和7年分、そして令和8年分までが2割特例を使える申告になります。ここが、次にご説明する令和8年度税制改正大綱の見直しと深く関わってくる部分です。
納税額の計算方法
2割特例を使うと、消費税の納付税額は売上に係る消費税額(売上税額)の2割だけで済みます。言い換えると、売上税額の8割を控除できる仕組みです。実際の仕入や経費の金額を細かく集計する必要がなく、売上を把握していれば納税額を計算できる点が、小規模事業者にとって大きな利点になっています。
たとえば、課税売上に対する消費税額が100万円だった場合、通常であれば実際の仕入税額を差し引いて納付額を計算しますが、2割特例では次のように売上税額の8割を控除し、残りの2割を納めることになります。
令和8年度税制改正大綱による見直しの全体像
ここからが本題です。令和8年度税制改正大綱では、インボイス制度導入に係る経過措置の見直しとして、2割特例に関わる大きな方針が示されました。まずは全体像をつかんでおきましょう。
大綱で示された方針
令和8年度税制改正大綱では、いわゆる2割特例の終了後も、個人事業者については納税額を売上税額の3割とすることができる措置を2年に限り講じるとされました。あわせて、免税事業者からの仕入れに係る経過措置についても、最終的な適用期限を延長したうえで、控除割合の引下げのペースや幅を緩和する方針が示されています。財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
「継続・見直し」という言葉のとおり、2割特例そのものがそのまま延長されるわけではなく、対象を個人事業者に絞った新しい特例へと形を変えて引き継がれる、という点がポイントです。次の見出しで具体的に見ていきます。
見直しの要点
今回の見直しは、大きく分けて次の2つの柱で構成されています。ひとつは小規模事業者の納税額そのものに関わる特例(2割特例から3割特例への移行)、もうひとつは取引先が免税事業者から仕入れる場合の経過措置の見直しです。それぞれの対象と内容を整理すると、次のようになります。
| 見直しの柱 | おもな内容 |
|---|---|
| 2割特例の終了と3割特例の創設 | 2割特例は令和8年9月30日の属する課税期間で終了し、個人事業者には令和9年・令和10年分に売上税額の3割とする特例を新設 |
| 免税事業者からの仕入れに係る 経過措置の見直し |
適用期限を2年延長し、控除割合の引下げペースを緩和。年間の適用上限仕入額を10億円から1億円へ引下げ |
2割特例の終了と3割特例の創設
もっとも多くの小規模事業者に影響するのが、この2割特例の終了と、それに代わる3割特例の創設です。「特例がなくなって急に負担が増えるのでは」と心配される方もいますが、実際には激変を和らげる新しい措置が用意されています。
2割特例の適用期限
令和8年度税制改正大綱の内容によると、現行の2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間をもって終了します。国税庁 令和8年度税制改正特集個人事業者の場合、消費税の課税期間は暦年(1月から12月)ですので、令和8年分の申告までが2割特例の対象となります。
3割特例の内容
2割特例の終了後、個人事業者については、これまで2割特例の対象となっていた方も含め、令和9年分および令和10年分の消費税申告について、納付税額を売上税額の3割とすることができる措置が新たに設けられます。これがいわゆる3割特例です。売上税額の7割を控除し、残りの3割を納める形になります。
2割特例のときと同じ売上税額100万円の例で比べると、納付税額は20万円から30万円へと段階的に増えていくことになります。負担がゼロから一気に本来の水準へ戻るのではなく、2割・3割と段階を踏んで移行できるように配慮されている点が、この措置の趣旨といえます。
3割特例の対象と対象外
ここで注意しておきたいのは、3割特例の対象が個人事業者に限られるという点です。令和8年度税制改正大綱では、3割特例の対象として個人事業者が示されており、法人はこの新しい措置の対象として挙げられていません。
つまり、これまで2割特例を使ってきた法人にとっては、令和8年9月30日の属する課税期間の終了後は、簡易課税制度や本則課税による計算に移ることになります。ご自身が個人事業者なのか法人なのかによって、令和9年以降の消費税の計算方法が変わってくる点は、早めに確認しておくと安心です。
免税事業者からの仕入れに係る経過措置の見直し
もうひとつの見直しは、免税事業者などインボイスを発行できない相手から仕入れを行う「買い手側」に関わる経過措置です。こちらは、2割特例を使う小規模事業者だけでなく、その取引先にも影響する内容になっています。
控除割合のスケジュール変更
インボイス制度では、免税事業者などインボイスを発行できない相手からの課税仕入れについても、一定割合を仕入税額控除できる経過措置が設けられています。令和8年度税制改正大綱では、この経過措置の最終的な適用期限を2年延長したうえで、控除割合の引下げのペースと幅を緩和する方針が示されました。
具体的な控除割合のスケジュールは、次のとおりとされています。段階的に割合を下げながら、最終的な期限を後ろ倒しにすることで、急激な負担増を避ける狙いがあります。
| 期間 | 仕入税額控除の割合 |
|---|---|
| 令和8年10月から令和10年9月まで | 7割(70%) |
| 令和10年10月から令和12年9月まで | 5割(50%) |
| 令和12年10月から令和13年9月末まで | 3割(30%) |
この見直しにより、免税事業者などからの仕入れについて一定割合を控除できる期間が、これまでよりも長く確保されることになります。
年間適用上限額の引下げ
あわせて、この経過措置には年間の適用上限が設けられている点にも注意が必要です。令和8年度税制改正大綱では、1つの免税事業者などからの課税仕入れの合計額について、年間の適用上限仕入額を、現行の10億円から1億円に引き下げるとされました。
この上限を超えた部分の課税仕入れについては、経過措置による控除が使えなくなります。多くの小規模事業者にとっては直接影響しにくい金額水準ですが、免税事業者との取引規模が大きい事業者にとっては、控除できる範囲が狭まる可能性がある点を押さえておきましょう。
小規模事業者への影響と実務上の留意点
ここまでの見直しを踏まえて、実際にご自身の消費税の申告にどう関わってくるのかを整理しておきましょう。特に、令和9年以降に納税額がどう変わるのかは、多くの方が気になるところだと思います。
個人事業者への影響
個人事業者の場合、令和8年分までは2割特例、令和9年分と令和10年分は3割特例を使うことができ、令和11年分以降は原則的な計算方法(本則課税または簡易課税)へ移行していくことになります。段階的に負担が増えていくため、令和11年以降を見据えて、早めに納税額の見通しを立てておくことが大切です。
法人が対象外となる点
前述のとおり、3割特例の対象は個人事業者に限られます。法人としてインボイス制度を機に課税事業者になった方は、令和8年9月30日の属する課税期間の終了後、2割特例に代わる特例は用意されていないため、簡易課税制度の適用を検討するなどの準備が必要になります。ご自身の事業形態に応じて、どの計算方法が有利になるかを見極めることが重要です。
申告時の注意点
今回ご紹介した内容は、あくまで令和8年度税制改正大綱に示された方針であり、最終的な取扱いは成立する法令や国税庁の公表資料で確認する必要があります。控除割合や適用期間、対象者の範囲などは細かな要件が定められているため、実際の申告にあたっては最新の情報を確認し、判断に迷う場合は専門家に相談されることをおすすめします。
まとめ
令和8年度税制改正大綱では、インボイス制度を機に課税事業者となった小規模個人事業者を支えてきた2割特例が、令和8年9月30日の属する課税期間で終了し、個人事業者に対しては令和9年・令和10年分に売上税額の3割とする3割特例が新たに設けられる方針が示されました。あわせて、免税事業者からの仕入れに係る経過措置も、適用期限の延長と控除割合の緩和、年間上限額の引下げという形で見直されます。
2割特例から3割特例へと段階的に移行し、その後は原則的な計算方法へと進んでいく流れを早めに理解しておくことで、将来の納税額の見通しを立てやすくなります。ご自身が個人事業者か法人かによって取扱いが変わる点も含め、最新の情報を確認しながら準備を進めていきましょう。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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- 財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
- 国税庁 令和8年度税制改正特集
- 国税庁 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
- 国税庁 No.6498 適格請求書等保存方式(インボイス制度)
2割特例の見直しに関するよくある質問まとめ
Q.2割特例はいつまで使えますか。
A.現行の2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。個人事業者の場合は令和8年分の申告までが対象です。
Q.3割特例とはどのような制度ですか。
A.2割特例の終了後、個人事業者について令和9年分と令和10年分の消費税申告で納付税額を売上税額の3割とすることができる新しい措置です。
Q.3割特例は法人も使えますか。
A.3割特例の対象は個人事業者に限られます。法人は対象外で、簡易課税制度の適用などを検討する必要があります。
Q.2割特例と3割特例で納税額はどれくらい変わりますか。
A.売上税額が100万円の場合、2割特例では納付税額20万円、3割特例では30万円となり、段階的に負担が増えていきます。
Q.免税事業者からの仕入れに係る経過措置はどう変わりますか。
A.適用期限が2年延長され、控除割合は令和8年10月から7割、令和10年10月から5割、令和12年10月から3割と緩やかに引き下げられます。
Q.経過措置の年間上限額はいくらになりますか。
A.1つの免税事業者などからの課税仕入れについて、年間の適用上限仕入額が現行の10億円から1億円に引き下げられます。