身近な方が亡くなった直後に、「亡くなった親の準確定申告は必要なのだろうか」と不安になる方は少なくありません。結論から申し上げますと、給与を1か所から受けていて年末調整が済んでいた方や、公的年金等の収入金額が400万円以下でそれ以外の所得金額が20万円以下だった方は、準確定申告が不要な場合にあたります。生前の収入が年金だけだったご家庭では、そのまま手続きが要らないケースも多くあります。
ただし、不要と判定された場合でも、医療費控除や源泉徴収税額の精算によって税金が戻ってくることがあります。この記事では、準確定申告の基本から、不要となる判定基準、還付を受けられるケース、逆に必ず必要となる代表例までを、国税庁の公表資料に沿って順に整理いたします。
準確定申告の基本
準確定申告とは、年の途中で亡くなった方について、その年の1月1日から死亡した日までの所得金額と税額を計算し、相続人が代わりに申告と納税を行う手続きです。通常の確定申告が翌年の決められた時期に行われるのに対し、準確定申告は相続の開始を知った時点から数えて期限が定まります。まずは期限と担い手を押さえておくことが、判断の出発点になります。
申告と納付の期限
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)。相続税の申告期限が10か月であるのに比べて短く、葬儀や各種の名義変更に追われるうちに過ぎてしまいやすい期限です。納付が必要な場合は、申告と同じ期限までに納税も済ませる必要があります。
| 申告と納付の期限 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内 |
|---|---|
| 申告する人 | 亡くなった方の相続人および包括受遺者 |
| 提出先 | 亡くなった方の死亡当時の納税地を所轄する税務署 |
申告を行う人と提出先
準確定申告は、亡くなった方の相続人や包括受遺者が行います。相続人が複数いる場合は、連署によって1通の申告書を提出する方法と、各相続人がそれぞれ提出する方法のいずれも認められています。提出先は、亡くなった方の死亡当時の納税地を所轄する税務署です。なお、還付金の受け取りを代表者にまとめる場合は、別途委任状の提出が必要になります。
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準確定申告が不要な場合の判定基準
準確定申告は、亡くなった方が生前に確定申告を必要とする状態だったかどうかで判断します。つまり、その方がもし生きていたとして確定申告が不要な立場であったなら、準確定申告も不要という考え方です。国税庁は確定申告が必要な方の区分を公表しており、この区分に当てはまらなければ申告義務は生じません国税庁 確定申告が必要な方。
給与所得のみで年末調整済みのケース
会社にお勤めだった方の多くは、勤務先の年末調整によって所得税の精算が完了しています。給与を1か所から受けていて、その給与の全部が源泉徴収の対象となっており、給与所得と退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円以下であれば、確定申告は必要ありません。したがって、この状態のまま亡くなった場合は準確定申告も不要と判定されます。副業の収入や年金の受給がなかったかどうかを、通帳や源泉徴収票で確認しておくと安心です。
公的年金等の収入金額400万円以下のケース
読者の方から最も多いご質問が、収入が年金だけだった場合の取扱いです。公的年金等については確定申告不要制度が設けられており、その全部が源泉徴収の対象となる公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下であるという要件のいずれにも該当する場合は、計算の結果として納税額が生じるときであっても確定申告は必要ありません国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係。年金以外にまとまった所得がなければ、この基準で不要と判断できるご家庭が多くなります。
注意していただきたいのは、この2つの要件が「いずれにも該当すること」を求めている点です。年金収入が400万円以下であっても、生命保険の一時金や不動産の売却による所得などで20万円を超える所得があった場合は、不要制度の対象から外れます。また、公的年金等以外の所得金額が20万円以下で所得税の確定申告が必要ない場合であっても、住民税の申告が必要になることがあります。
所得控除により納税額が生じないケース
所得が公的年金等の雑所得だけの方については、公的年金等の雑所得の金額から所得控除を差し引いて残額がある場合に確定申告が必要とされています。逆にいえば、基礎控除や社会保険料控除、配偶者控除などを差し引いた結果として残額が生じないのであれば、そもそも申告義務はありません。年金額が公的年金等控除と各種所得控除の範囲内に収まっていた方は、この考え方で不要と整理できます。
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不要でも申告すると還付を受けられるケース
準確定申告が不要と判定された場合でも、申告をすれば税金が戻ってくることがあります。公的年金等の確定申告不要制度に該当する方であっても、医療費控除や社会保険料控除など各種の所得控除の適用による所得税の還付を受けるための確定申告をすることは可能です。とくに、亡くなる前に入院や通院が続いていたご家庭では、還付が生じる可能性を一度確認しておく価値があります。
医療費控除の適用
その年に支払った医療費が一定額を超えるときは、医療費控除として所得控除を受けることができます。控除額は次の式で計算し、最高で200万円が限度です国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)。
差し引く10万円は、その年の総所得金額等が200万円未満の方の場合、総所得金額等の5パーセントの金額となります。年金収入が中心だった方は、この5パーセント基準が適用されて控除を受けやすくなることがあります。ただし準確定申告では、亡くなった日までに支払った医療費だけが控除の対象です。死亡後に相続人が支払った入院費は、準確定申告の医療費控除には含められない点にご注意ください。
源泉徴収税額の精算
公的年金や給与からは、あらかじめ所得税が源泉徴収されています。年の途中で亡くなった場合、その年の所得は1月から死亡日までの分だけになる一方で、所得控除は死亡日時点の状況で判定され、月割計算は行いません。そのため、源泉徴収された税額が本来の税額を上回り、納め過ぎの状態になっていることがあります。この差額は準確定申告によって還付を受けられます。
還付申告の提出期限
還付を受けるための申告は、還付申告としてその年の翌年1月1日から5年間提出することができます国税庁 No.2030 還付申告。4か月という期限は納税義務がある場合の期限ですので、還付だけを目的とする場合は落ち着いて準備を進めることもできます。とはいえ、医療費の領収書や源泉徴収票は時間が経つほど集めにくくなりますので、他の相続手続きと並行して早めに整理しておくことをおすすめします。
準確定申告が必要な場合の代表例
ここまでとは反対に、申告を省略できないケースも整理しておきます。以下に当てはまる方が亡くなった場合は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内という期限に間に合うよう、早めに着手する必要があります。
事業所得や不動産所得がある場合
自営業を営んでいた方や、アパート・駐車場などの賃貸収入があった方は、給与所得者や年金のみの方の区分に当てはまりません。各種の所得の合計額から所得控除を差し引いて課税される所得金額を求め、税額を計算した結果に残額があれば、確定申告が必要な方に該当します。青色申告をしていた場合は、承認申請の手続きも併せて検討することになります。
給与収入が2,000万円を超える場合
給与の収入金額が2,000万円を超える方は、勤務先で年末調整が行われないため、確定申告が必要です国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人。また、給与を1か所から受けていた方でも、給与所得と退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える場合は申告が必要です。年金と給与の両方を受け取っていた方は、この基準に触れていないかを確認してください。
同族会社の役員として支払を受けていた場合
同族会社の役員やその親族などで、その同族会社から給与のほかに貸付金の利子や店舗・工場などの賃貸料、機械・器具の使用料の支払を受けていた場合は、金額の多少にかかわらず確定申告が必要とされています。会社を経営されていた方や、法人に不動産を貸していた方は、この区分に該当していないかを必ず確認しましょう。
判定の手順と相続税との関係
最後に、実際に判定を進める手順と、相続税の申告に影響する注意点をまとめます。準確定申告は所得税の手続きですが、その結果は相続税の計算にも関わってきますので、両方をあわせて把握しておくことが大切です。
判定の手順
まずは亡くなった方の収入の種類を洗い出すことから始めます。年金の振込通知書、給与や年金の源泉徴収票、確定申告書の控え、家賃の入金記録などを集めると、前年までにどのような申告をしていたかが分かります。前年に確定申告をしていなかった方であれば、収入の状況が大きく変わっていない限り、準確定申告も不要である可能性が高いといえます。逆に毎年確定申告をしていた方は、原則として準確定申告が必要になると考えて準備を進めてください。
相続税との関係
準確定申告によって所得税を納付した場合、その未納の所得税は被相続人の債務として遺産総額から差し引くことができます。被相続人に課される税金で、被相続人の死亡後に相続人などが納付することになった所得税などについては、死亡したときに確定していないものであっても債務控除の対象です国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務。ただし、相続人の責任に基づいて納付することになった延滞税や加算税は差し引くことができません。
還付金と還付加算金の取扱い
準確定申告で戻ってきた還付金は、相続人が受け取るものであっても本来の相続財産として相続税の課税対象になります。還付金請求権は被相続人の生存中に潜在的な請求権として帰属しており、死亡によって顕在化したものと考えられるためです。一方、還付金に付く還付加算金は、相続人が申告書の提出によって原始的に取得するものとされ、相続税ではなく所得税の雑所得として課税されます国税庁 被相続人の準確定申告に係る還付金等。金額の大小にかかわらず取扱いが分かれますので、相続税の申告書を作成する際は忘れずに反映してください。
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まとめ
準確定申告が不要な場合とは、亡くなった方がもし生きていたとしても確定申告を必要としない状態だった場合です。給与を1か所から受けて年末調整が済んでいた方、公的年金等の収入金額が400万円以下でそれ以外の所得金額が20万円以下だった方は、原則として手続きが要りません。反対に、事業所得や不動産所得があった方、給与収入が2,000万円を超えていた方は、4か月という短い期限の中で申告を進める必要があります。
そして不要と判定された場合でも、医療費控除や源泉徴収税額の精算によって還付を受けられることがあります。還付申告は翌年1月1日から5年間提出できますので、領収書や源泉徴収票が手元にある間に一度検討してみてください。判定の基準は収入の種類ごとに細かく分かれており、相続税の債務控除や還付金の取扱いにも影響します。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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- 国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
- 国税庁 確定申告が必要な方
- 国税庁 No.1600 公的年金等の課税関係
- 国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
- 国税庁 No.2030 還付申告
- 国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
- 国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務
- 国税庁 被相続人の準確定申告に係る還付金等
準確定申告が不要な場合のよくある質問まとめ
Q.年金だけを受け取っていた親の準確定申告は不要ですか。
A.その全部が源泉徴収の対象となる公的年金等の収入金額が400万円以下で、かつ公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下であれば、確定申告不要制度により準確定申告は必要ありません。年金以外に20万円を超える所得があった場合は対象外となります。
Q.会社員だった父の準確定申告は必要ですか。
A.給与を1か所から受けていて全部が源泉徴収の対象であり、給与所得と退職所得を除く所得金額の合計が20万円以下であれば不要です。ただし給与収入が2,000万円を超えていた場合や、年末調整が行われていない場合は申告が必要になります。
Q.準確定申告が不要でも申告した方がよい場合はありますか。
A.医療費控除や社会保険料控除などの所得控除を適用すると、源泉徴収された所得税が還付される場合があります。入院や通院が続いていた場合は、還付が生じないか確認することをおすすめします。
Q.準確定申告の期限はいつまでですか。
A.相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。納付が必要な場合は同じ期限までに納税も行います。還付を受けるための申告であれば、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。
Q.準確定申告で戻ってきた還付金に相続税はかかりますか。
A.還付金請求権は本来の相続財産として相続税の課税対象になります。一方、還付金に付く還付加算金は相続人が申告により取得するものとされ、所得税の雑所得として課税されます。
Q.死亡後に支払った入院費は医療費控除の対象になりますか。
A.準確定申告の医療費控除は、亡くなった日までに支払った医療費が対象です。死亡後に相続人が支払った入院費は準確定申告では控除できず、相続税の債務控除の対象になるかどうかを別途検討します。