令和8年度税制改正の大綱では、個人の所得課税についていくつかの見直しが示されました。そのなかでも、高い所得のある方にとって特に気になるのが「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」の改正です。これは、いわゆるミニマムタックス(最低限の税負担を確保する仕組み)と呼ばれるもので、今回の大綱で対象となる金額の基準が引き下げられ、税率が引き上げられることになりました。今までは自分には関係がないと考えていた方でも、今後は対象に含まれる可能性があります。この記事では、制度の仕組みと今回の改正点を、できるだけやさしく整理します。
制度の趣旨と基本的な仕組み
負担の適正化措置の目的
この措置は、税負担の公平性を確保する観点から、令和5年度税制改正で導入された仕組みです。日本の所得税は所得が高くなるほど税率が上がる累進課税を採用していますが、株式の譲渡益などの金融所得は一律の税率で分離課税されるため、所得が極めて高い方ほど全体の実質的な税負担率がかえって下がる場合があります。この逆転をならすために、一定額を超える所得のある方へ追加の税負担を求めるのがこの制度です。国税庁 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について
基準所得金額の考え方
基準所得金額とは、給与所得や事業所得だけでなく、株式等の譲渡による所得、土地建物の譲渡による所得、その他の各種所得を合算して計算した金額です。通常の所得税では分けて計算される所得も、この制度ではまとめて把握される点が特徴です。財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
現行制度の内容
現行の基準額と税率
令和8年度税制改正の適用前の現行制度では、その年分の基準所得金額が3億3,000万円を超える方が対象です。この措置は租税特別措置法第41条の19に規定される「特定の基準所得金額の課税の特例」として定められています。
| 特別控除額 | 3億3,000万円 |
|---|---|
| 税率 | 22.5% |
| 対象 | 基準所得金額が3億3,000万円を超える個人 |
現行の計算方法
基準所得金額から特別控除額を差し引いた残りに税率をかけ、そこからその年分の基準所得税額(通常計算した所得税額)を控除します。控除しきれない差額があれば、その金額を追加で納めます。
令和8年度税制改正による見直し
改正後の基準額と税率
令和8年度税制改正の大綱では、追加の税負担を計算する基礎となる特別控除額を1億6,500万円(現行3億3,000万円)に引き下げるとともに、税率を30%(現行22.5%)に引き上げることとされました。対象となる所得の水準が下がり、負担割合も高まることになります。
| 特別控除額 | 1億6,500万円 |
|---|---|
| 税率 | 30% |
| 適用時期 | 令和9年分以後の所得税 |
改正後の計算方法
計算の流れ自体は現行と同じですが、差し引く特別控除額と税率が変わります。改正後は次のように計算します。
適用開始の時期
この改正は、令和9年分以後の所得税について適用されます。大綱は令和7年12月26日に閣議決定された段階の内容であり、今後の法案審議を経て確定します。実際に申告へ影響が出るのは令和9年分の確定申告からとなる見込みです。
対象となる方が確認したいポイント
合算される所得の範囲
この制度で見られるのは通常の総合課税の所得だけではありません。株式等の譲渡益や土地建物の譲渡益といった、ふだんは分離課税で完結する所得も基準所得金額に合算されます。特定の年に大きな譲渡益が生じた場合には、その年だけ対象になる可能性があります。
予定納税への影響
この特例の適用が見込まれる場合には、予定納税額の減額申請の対象となることがあります。手続や判定の考え方は国税庁の案内で確認できます。国税庁 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(租税特別措置法第41条の19に規定する「特定の基準所得金額の課税の特例」)の適用が見込まれる場合の所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請について
まとめ
令和8年度税制改正の大綱では、極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について、特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へ引き下げられ、税率が22.5%から30%へ引き上げられました。適用は令和9年分以後の所得税からです。対象の水準が下がることで、これまで対象外だった方が新たに対象となる可能性があります。ご自身の基準所得金額がどの程度になるか、特に大きな譲渡益が見込まれる年は早めに確認しておくと安心です。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
参考文献
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
- 国税庁 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について
- 国税庁 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(租税特別措置法第41条の19に規定する「特定の基準所得金額の課税の特例」)の適用が見込まれる場合の所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請について
極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置のよくある質問まとめ
Q.極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置とは何ですか。
A.税負担の公平性を確保する観点から、極めて高い所得のある方に一定の追加的な所得税負担を求める措置です。基準所得金額から特別控除額を差し引いた残りに税率をかけ、通常の所得税額を上回る部分を追加で納めます。
Q.令和8年度税制改正で何が変わりますか。
A.特別控除額が3億3,000万円から1億6,500万円へ引き下げられ、税率が22.5%から30%へ引き上げられます。対象となる所得の水準が下がり、負担割合も高くなります。
Q.改正はいつから適用されますか。
A.令和9年分以後の所得税について適用されます。大綱は令和7年12月26日に閣議決定された段階の内容で、今後の法案審議を経て確定します。
Q.基準所得金額にはどのような所得が含まれますか。
A.給与所得や事業所得のほか、株式等の譲渡による所得、土地建物の譲渡による所得、その他の各種所得を合算して計算します。ふだんは分離課税となる所得も合算される点が特徴です。
Q.株式の譲渡益しかない年でも対象になりますか。
A.分離課税の譲渡益も基準所得金額に合算されるため、その年の基準所得金額が基準を超えれば対象になり得ます。大きな譲渡益が生じる年は特に確認が必要です。
Q.予定納税に影響はありますか。
A.この特例の適用が見込まれる場合は、予定納税額の減額申請の対象となることがあります。手続や判定の考え方は国税庁の案内で確認できます。