大型の設備投資を計画している法人にとって、令和8年度の税制改正は見逃せない内容を含んでいます。令和8年度税制改正の大綱では、「強い経済」の実現に向けた柱の一つとして、特定生産性向上設備等を取得した場合に特別償却(即時償却)または税額控除を選択できる新しい投資促進税制が創設されました。取得価額の全額を初年度に償却するのか、法人税額から一定割合を差し引くのか、どちらが自社に有利なのか迷う方も多いはずです。本記事では、この制度の背景から対象設備、二つの優遇措置の違い、適用要件と適用時期までを、大綱に明記された数値を根拠に整理します。
制度創設の背景と「強い経済」の実現
今回の設備投資促進税制は、令和7年12月26日に閣議決定された令和8年度税制改正の大綱に盛り込まれました。大綱では「『強い経済』の実現に向けた対応として、大胆な設備投資の促進に向けた税制措置を創設する」と位置づけられています。財務省 令和8年度税制改正の大綱の概要
正式名称は特定生産性向上設備等投資促進税制です。生産性の向上に資する設備への投資を後押しし、企業の成長力と収益力を高めることを狙いとしています。近年の物価上昇や人手不足を背景に、省力化・自動化に向けた大規模投資を税制面から支援する枠組みといえます。
この制度は法人課税の項目として大綱に規定されています。設備投資を検討している法人にとっては、投資の意思決定そのものに影響する重要な改正であるため、大綱段階のうちから内容を押さえておく意義があります。
対象となる特定生産性向上設備等の考え方
対象となる資産は幅広く定められています。大綱では、青色申告書を提出する法人が取得する機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物及びソフトウエア(一定の規模以上のものに限る。)が対象とされています。財務省 令和8年度税制改正の大綱(3/9)
従来の設備投資減税では機械装置やソフトウエアが中心となる例が多い一方、この制度では建物や建物附属設備、構築物までが対象に含まれている点が特徴です。工場の新設や大規模な生産ラインの構築など、建物と設備を一体で導入するケースを想定した設計になっています。
ただし、いずれの資産も「一定の規模以上のもの」に限られます。単体の少額な設備を細かく積み上げる投資ではなく、後述する投資計画全体で一定の規模と収益性を満たす、まとまった投資が前提となります。
特別償却(即時償却)と税額控除の選択制の仕組み
この制度の中心は、特別償却(即時償却)と税額控除の選択適用ができる点にあります。大綱では「特別償却(即時償却)とその取得価額の7%(建物、建物附属設備及び構築物については、4%)の税額控除との選択適用ができる」と明記されています。どちらか一方を選ぶ仕組みであり、両方を同時に受けることはできません。
特別償却(即時償却)は、普通償却限度額との合計で取得価額まで償却できる措置です。通常は複数年にわたって費用化する減価償却費を初年度に前倒しで計上できるため、取得した年度の課税所得を大きく圧縮し、納税を将来へ繰り延べる効果があります。
一方の税額控除は、取得価額に一定率を掛けた金額を法人税額から直接差し引く措置です。控除率は機械装置等が7%、建物・建物附属設備・構築物が4%で、控除税額は当期の法人税額の20%が上限とされています。上限を超えた控除限度超過額は3年間の繰越しができます。
両者の主な違いを整理すると次のとおりです。特別償却は「いつ課税されるか」を動かす繰延べの措置であり、税額控除は「いくら納めるか」を直接軽減する措置であるという性格の違いを押さえることが選択の出発点となります。
| 特別償却(即時償却) | 税額控除 |
|---|---|
| 取得価額まで初年度に償却 | 取得価額の7%(建物等は4%)を法人税額から控除 |
| 課税所得を圧縮し納税を繰り延べる | 法人税額そのものを直接軽減する |
| 上限の定めは大綱に記載なし | 当期の法人税額の20%が上限 |
| 繰越しの定めは大綱に記載なし | 控除限度超過額は3年間繰越し可 |
特別償却は投資初年度に大きな所得が見込まれる場合に手元資金を厚くする効果があり、税額控除は複数年で見た通算の税負担を軽くする効果があります。自社の利益計画やキャッシュフローの状況によって有利な選択は変わるため、シミュレーションのうえで判断することが重要です。
適用要件と対象となる投資計画の規模
この税制は、規模の大きな投資計画を対象としています。大綱では、投資計画に記載された生産等設備を構成する生産性向上設備等の取得価額の合計額が35億円以上(中小企業者又は農業協同組合等については、5億円以上)であることが要件とされています。
さらに、その投資計画について年平均の投資利益率が15%以上となることが見込まれるものであることも要件です。単に高額な設備を導入するだけでなく、投資に見合う収益性が計画上示されている必要があります。
これらの要件は経済産業大臣の確認を通じてチェックされます。設備単体ではなく投資計画全体で判定される仕組みであるため、計画の立て方や設備構成の段階から要件を意識しておくことが求められます。
適用時期と確認から取得までの流れ
適用時期は確認と取得の二段階で区切られています。大綱によれば、産業競争力強化法の改正法の施行の日から令和11年3月31日までの間に経済産業大臣の確認を受け、その確認を受けた日から令和11年3月31日までの間に特定機械装置等の取得等をし、事業の用に供した場合に適用されます。
つまり、確認だけでなく実際の取得と事業供用までを令和11年3月31日までに完了させる必要があります。大規模な設備投資は計画から稼働まで期間を要するため、期限から逆算して工程を組むことが不可欠です。
なお、控除率や上限、要件の金額はいずれも大綱段階で示された内容です。今後の法案化や政省令の整備によって細部が具体化・変更される可能性があるため、大綱段階では最新の一次情報を確認しながら計画を進めることをおすすめします。
具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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令和8年度税制改正で創設される特定生産性向上設備等投資促進税制は、青色申告法人が対象設備を取得した場合に、取得価額までの特別償却(即時償却)と、取得価額の7%(建物等は4%)の税額控除とを選択適用できる制度です。税額控除には当期の法人税額の20%という上限があり、超過額は3年間繰り越せます。適用には投資計画の取得価額合計35億円以上(中小企業者等は5億円以上)かつ年平均投資利益率15%以上という要件と、令和11年3月31日までの確認・取得・供用が求められます。数値は大綱段階のものであり、今後の法案化で具体化される点に留意しつつ、自社に有利な選択を早めに検討することが重要です。
参考文献
特定生産性向上設備等投資促進税制のよくある質問まとめ
Q.特別償却と税額控除はどちらも受けられますか。
A.どちらか一方を選ぶ選択適用です。特別償却(即時償却)と取得価額の7%(建物等は4%)の税額控除を同時に受けることはできません。
Q.税額控除の上限はありますか。
A.控除税額は当期の法人税額の20%が上限です。上限を超えた控除限度超過額は3年間繰り越すことができます。
Q.対象となる設備は何ですか。
A.機械装置、工具、器具備品、建物、建物附属設備、構築物およびソフトウエアのうち一定の規模以上のものが対象です。青色申告法人が取得したものが対象となります。
Q.投資計画にはどのような規模要件がありますか。
A.投資計画上の生産性向上設備等の取得価額の合計が35億円以上(中小企業者等は5億円以上)で、年平均の投資利益率が15%以上と見込まれることが要件です。
Q.いつまでに設備を取得すればよいですか。
A.改正法の施行日から令和11年3月31日までに経済産業大臣の確認を受け、その確認日から令和11年3月31日までに取得し事業の用に供する必要があります。
Q.大綱の数値は確定していますか。
A.控除率や上限、要件の金額は大綱段階で示された内容です。今後の法案化や政省令で具体化・変更される可能性があるため最新情報の確認が必要です。