ドラッグストアで市販の風邪薬や胃腸薬を購入する機会が多い方にとって、その購入費が所得税の負担軽減につながる仕組みが「セルフメディケーション税制」です。通常の医療費控除とは別に用意された特例で、一定の条件を満たせば、年間の対象医薬品の購入額をもとに所得控除を受けられます。この記事では、制度の基本となる下限額・上限額や要件、通常の医療費控除との関係を丁寧に整理したうえで、令和8年度税制改正の大綱で示された適用期限の見直しと対象医薬品の範囲の拡大について、やさしく解説します。
セルフメディケーション税制の基本
制度の概要と対象者の要件
セルフメディケーション税制は、正式には「特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例」といいます。健康の保持増進および疾病の予防への一定の取組を行っている居住者が、対象となる医薬品を購入した場合に、その購入費をもとに所得控除を受けられる制度です国税庁 No.1129 特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(医療費控除の特例)【セルフメディケーション税制】。
ここでいう一定の取組とは、その年に本人が受けた健康診査(人間ドックや各種健診)、予防接種、勤務先での定期健康診断、特定健康診査・特定保健指導、市区町村が実施するがん検診のいずれかを指します。いずれか一つでも受けていれば要件を満たします。
通常の医療費控除との選択適用
セルフメディケーション税制は通常の医療費控除の特例に位置づけられており、両方を同時に受けることはできません。この特例の適用を受ける場合は、通常の医療費控除を併せて受けることはできません。どちらか有利な方を選んで申告する形になります。医療機関での支払が多かった年は通常の医療費控除、市販薬の購入が中心だった年はこの特例、というように、その年の状況に応じて選択します。
控除額の計算(下限額と上限額)
下限額1万2千円と上限額8万8千円
控除額は、その年中に支払った対象医薬品の購入費の合計から1万2千円を差し引いた金額で、控除できる上限は8万8千円です。つまり、購入費が1万2千円を超えた部分が控除の対象となり、購入費が10万円のときに控除額が上限の8万8千円に達します。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 差し引く下限額 | 1万2千円 |
| 控除額の上限 | 8万8千円 |
控除額の計算式と考え方
控除額は次の式で求めます。購入費が1万2千円以下の場合は控除額が生じません。
たとえば対象医薬品を年間で4万円分購入した場合、4万円から1万2千円を差し引いた2万8千円が控除額となります。この金額が所得から差し引かれ、所得税や住民税の負担が軽くなる仕組みです。
対象となるスイッチOTC医薬品等
対象医薬品の範囲と確認方法
対象となるのは、医師によって処方される医薬品からドラッグストアなどで購入できる医薬品に転用された医薬品、いわゆるスイッチOTC医薬品等です。対象商品には購入時のレシートにセルフメディケーション税制の対象である旨が記載されるため、レシートで見分けることができます。申告の際は、対象医薬品の購入を証明できるレシートや領収書を保管しておく必要があります。
適用期限と確定申告での手続き
現行の適用期限
この特例は、平成29年1月1日から令和8年12月31日までに支払った対象医薬品の購入費について適用されます。この期限は、後述する令和8年度税制改正で見直しの対象となっています。
確定申告での手続き
この特例を受けるには、確定申告が必要です。会社員などで年末調整を受けている方も、控除を受けるためには別途確定申告を行います。申告書には対象医薬品の購入費の明細を記載し、一定の取組を行ったことを明らかにする書類やレシートを手元に保管しておきます。
令和8年度税制改正での見直し
適用期限の延長と撤廃
令和8年度税制改正の大綱では、この特例について適用期限の見直しが示されました。特例のうちスイッチOTC医薬品の購入の対価に係る部分は適用期限を撤廃し、それ以外の医薬品の購入の対価に係る部分は適用期限を5年延長することとされています財務省 令和8年度税制改正の大綱(1/9)。現行の適用期限は令和8年12月31日までであり、5年延長される部分は令和13年12月31日までとなります。
対象医薬品の範囲の見直し
あわせて、対象となる医薬品の範囲についても見直しが行われます。大綱では、スイッチOTC医薬品以外の一般用医薬品等について、消化器官用薬としての効能または効果を有する医薬品、および一定の生薬を有効成分として含有する鎮咳去痰薬としての効能または効果を有する医薬品を対象に加えるとされています。さらに、体外診断用医薬品である一般用医薬品等のうち一定のもの、および薬局製造販売医薬品で特例の対象となる一般用医薬品等と同じ成分を有効成分として含有するものも対象に加えられます。一方で、所要の経過措置を講じたうえで、痩身または美容を目的として使用される可能性がある医薬品は対象から除外されます。
| 対象に追加 | 消化器官用薬(胃腸薬など)、一定の生薬を含む鎮咳去痰薬、一定の体外診断用医薬品、一定の薬局製造販売医薬品 |
|---|---|
| 対象から除外 | 痩身または美容を目的として使用される可能性がある医薬品 |
改正の適用時期
この改正は、所得税については令和9年分以後の所得税について適用することとされています。なお、大綱は改正の方針を示すものであり、具体的な取扱いは今後の法令等で確認する必要があります。
まとめ
セルフメディケーション税制は、一定の取組を行っている方が対象の市販薬を購入した場合に、購入費から1万2千円を差し引いた金額(上限8万8千円)を所得控除できる制度です。通常の医療費控除とはどちらか一方を選んで適用します。令和8年度税制改正の大綱では、スイッチOTC医薬品部分の適用期限の撤廃、それ以外の部分の5年延長、そして胃腸薬などを含む対象医薬品の範囲の拡大が示されました。日ごろの市販薬の購入費を無駄なく節税につなげるため、レシートの保管と対象医薬品の確認を習慣にしておくと安心です。
参考文献
セルフメディケーション税制のよくある質問まとめ
Q.セルフメディケーション税制とは何ですか。
A.一定の取組を行っている方が対象の市販薬を購入した場合に、その購入費をもとに所得控除を受けられる医療費控除の特例です。控除額は購入費から1万2千円を差し引いた金額で、上限は8万8千円です。
Q.通常の医療費控除と一緒に受けられますか。
A.できません。セルフメディケーション税制と通常の医療費控除はどちらか一方を選んで適用します。その年の支払状況に応じて有利な方を選択します。
Q.控除を受けるための要件は何ですか。
A.健康診査、予防接種、勤務先の定期健康診断、特定健康診査・特定保健指導、市区町村のがん検診のいずれかを、その年に本人が受けていることが要件です。
Q.対象となる医薬品はどう見分ければよいですか。
A.医療用から転用されたスイッチOTC医薬品等が対象で、対象商品はレシートにセルフメディケーション税制の対象である旨が記載されます。レシートや領収書は申告のため保管してください。
Q.令和8年度税制改正で何が変わりますか。
A.スイッチOTC医薬品部分の適用期限を撤廃し、それ以外の部分の適用期限を5年延長するとともに、胃腸薬などを対象に加えるなど対象医薬品の範囲が見直されます。所得税については令和9年分以後に適用されます。
Q.控除を受けるには確定申告が必要ですか。
A.必要です。年末調整を受けている会社員の方も、この特例の適用を受けるには確定申告を行い、対象医薬品の購入費の明細を記載します。
本記事は令和8年度税制改正の大綱および公表資料に基づく一般的な解説であり、個別の税務の取扱いについては最新の法令等をご確認のうえ、税務署または税理士にご相談ください。
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