相続税の申告では、各相続人が取得した財産の額をそのまま合計するのではなく、まず一人ひとりの課税価格を求め、その合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算出します。この二つの段階を正確に押さえておくことが、相続税額を正しく計算する出発点となります。本記事では、課税価格の算出から基礎控除の適用までの計算手順を、ステップごとの計算式で具体的に示します。
基礎控除の基本的な考え方や「相続税は誰にでもかかるのか」という入り口の疑問については、入門記事である相続税は誰でも払うの?基礎控除のカンタンな仕組みを解説!もあわせてご覧ください。
相続税計算の全体像と課税価格の位置づけ
相続税の計算は、大きく分けて三つの段階で進みます。第一段階で各人の課税価格を求めてその合計額を算出し、第二段階で基礎控除を差し引いて課税遺産総額を求め、第三段階で相続税の総額を計算して各人に按分します。本記事の中心となるのは、この第一段階と第二段階です。
国税庁は相続税の計算の全体的な流れを、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を求め、そこから相続税の総額を計算するという構成で示しています[国税庁No.4152 相続税の計算]。
課税価格とは何か
課税価格とは、各相続人や受遺者が取得した財産の価額から、その人が負担する債務や葬式費用を差し引いた後の金額を指します。相続や遺贈で取得したプラスの財産だけでなく、生命保険金や死亡退職金といったみなし相続財産、相続開始前の一定期間内に受けた贈与財産も加算したうえで、マイナスの要素を控除して求めます。
この各人の課税価格をすべて合計したものが課税価格の合計額であり、基礎控除を差し引く前の相続財産全体の評価額となります。
ステップ1 各人の課税価格を算出する
最初のステップは、相続人や受遺者ごとに課税価格を計算することです。課税価格は、取得財産の価額にみなし相続財産などを加え、非課税財産を除いたうえで、債務と葬式費用を差し引いて求めます。基本的な計算式は次のとおりです。
ここで差し引くことができる債務とは、被相続人が死亡したときに現に存在していた債務で、確実と認められるものです[国税庁No.4126 相続財産から控除できる債務]。一方で、相続人の責任によって納付することになった延滞税や加算税などは控除できません。
債務控除の対象になるものとならないもの
債務として課税価格から差し引けるかどうかは、その債務が被相続人の死亡時点で確実に存在していたかどうかで判断します。主な区分は次のとおりです。
| 区分 | 債務控除の可否 |
|---|---|
| 借入金・未払いの医療費 | 控除できる |
| 被相続人が納めるべき 未納の税金 |
控除できる |
| 非課税財産である墓地の 未払代金 |
控除できない |
| 相続人の責任による 延滞税・加算税 |
控除できない |
葬式費用の取扱い
葬式費用は本来の債務ではありませんが、相続財産から差し引くことが認められています[国税庁No.4129 相続財産から控除できる葬式費用]。控除できるものとできないものは明確に区分されているため、領収書の保管とあわせて内容を確認しておくことが重要です。
| 費用の内容 | 控除の可否 |
|---|---|
| 火葬・埋葬・納骨の費用 | 控除できる |
| 通夜など通常葬式に 欠かせない費用 |
控除できる |
| お寺への読経料などのお礼 | 控除できる |
| 香典返しのための費用 | 控除できない |
| 墓石・墓地の買入れ費用 | 控除できない |
| 初七日など法事の費用 | 控除できない |
課税価格の算出例
たとえば、ある相続人が取得した財産が5,000万円、負担する債務が300万円、葬式費用が200万円であった場合、その人の課税価格は次のように計算します。
このように各相続人の課税価格を一人ずつ求め、それらを合計して次のステップに進みます。
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ステップ2 課税価格の合計額を求める
各相続人の課税価格が確定したら、それらをすべて合計して課税価格の合計額を求めます。相続人が配偶者と子ども2人の合計3人で、それぞれの課税価格が配偶者6,000万円、子2人がそれぞれ2,000万円であった場合、合計額は次のとおりです。
この合計額が、次に基礎控除額を差し引く対象となる金額です。ここでは各人の課税価格を単純に足し合わせるだけであり、税率の適用などはまだ行いません。
ステップ3 基礎控除額を計算する
基礎控除額は、相続税がかからない部分にあたる非課税枠です。国税庁は基礎控除額を「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」と定めています[国税庁No.4152 相続税の計算]。計算式は次のとおりです。
法定相続人の数の数え方
基礎控除額を左右するのが法定相続人の数です。被相続人に配偶者と子ども2人がいる場合、法定相続人は3人となります。この人数を計算式に当てはめると、基礎控除額は次のように求められます。
法定相続人の数は、原則として被相続人の死亡当時の家族構成に基づいて算定されます。相続放棄をした人がいる場合でも、放棄がなかったものとして数えるなど、実際の相続人の人数と一致しないことがある点に注意が必要です。
法定相続人の数と基礎控除額の対応
法定相続人の数が1人増えるごとに、基礎控除額は600万円ずつ増加します。主な人数ごとの基礎控除額は次のとおりです。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
ステップ4 課税遺産総額を算出する
課税価格の合計額から基礎控除額を差し引くことで、実際に相続税がかかる部分である課税遺産総額が求められます。国税庁は「課税価格の合計額 - 基礎控除額 = 課税遺産総額」という計算式を示しています[国税庁No.4152 相続税の計算]。
先ほどの例では、課税価格の合計額が1億円、法定相続人が3人で基礎控除額が4,800万円でした。これを当てはめると、課税遺産総額は次のように計算されます。
この5,200万円が、税率を適用して相続税の総額を計算するもととなる金額です。仮に課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば課税遺産総額はゼロとなり、原則として相続税の申告や納税は不要になります。
参考 課税遺産総額から相続税の総額を求める流れ
課税遺産総額を求めた後は、これを法定相続分で分けた金額に税率を適用して各人の税額を算出し、それらを合計して相続税の総額を求めます。相続税の総額は、その後「相続税の総額 × 各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額」により各人へ按分されます[国税庁No.4152 相続税の計算]。
税率は法定相続分に応ずる取得金額に応じて段階的に定められており、次の速算表を用います[国税庁No.4155 相続税の税率]。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% |
| 3,000万円以下 | 15% |
| 5,000万円以下 | 20% |
| 1億円以下 | 30% |
| 2億円以下 | 40% |
| 3億円以下 | 45% |
| 6億円以下 | 50% |
| 6億円超 | 55% |
速算表を用いる際は、税率を掛けた後に区分ごとの控除額を差し引きます。控除額は法定相続分に応ずる取得金額の区分ごとに定められています[国税庁No.4155 相続税の税率]。
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 控除額 |
|---|---|
| 1,000万円以下 | なし |
| 3,000万円以下 | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 200万円 |
| 1億円以下 | 700万円 |
| 2億円以下 | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 4,200万円 |
| 6億円超 | 7,200万円 |
まとめ
相続税の計算では、まず各人の取得財産から債務と葬式費用を差し引いて課税価格を求め、その合計額から「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」で計算した基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を算出します。この課税遺産総額がゼロであれば、原則として相続税はかかりません。債務控除や葬式費用の範囲、法定相続人の数の数え方には細かい判断が伴い、財産評価や適用できる特例によって最終的な税額は大きく変わります。正確な試算や申告要否の判断が必要な場合は、専門家へご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の相続税申告に関する助言を行うものではありません。実際の計算や申告にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
参考文献
相続税の課税価格と基礎控除の計算に関するよくある質問まとめ
Q. 課税価格とは何ですか
A. 各相続人や受遺者が取得した財産の価額から、その人が負担する債務や葬式費用を差し引いた後の金額です。これをすべて合計したものが課税価格の合計額となります。
Q. 基礎控除額はどのように計算しますか
A. 基礎控除額は3,000万円に600万円を法定相続人の数で掛けた金額を加えて計算します。法定相続人が3人であれば3,000万円+600万円×3人で4,800万円となります。
Q. 課税遺産総額はどのように求めますか
A. 課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて求めます。合計額が1億円で基礎控除額が4,800万円であれば、課税遺産総額は5,200万円です。
Q. 債務は課税価格からどこまで差し引けますか
A. 被相続人が死亡したときに現に存在し確実と認められる債務が対象です。借入金や未納の税金は差し引けますが、相続人の責任による延滞税や加算税は差し引けません。
Q. 葬式費用は差し引くことができますか
A. 火葬や埋葬の費用、通夜など通常の葬式に欠かせない費用、お寺への読経料などは差し引けます。一方で香典返しや墓石の購入費用、初七日などの法事の費用は差し引けません。
Q. 課税価格の合計額が基礎控除額以下ならどうなりますか
A. 課税価格の合計額が基礎控除額以下であれば課税遺産総額はゼロとなり、原則として相続税の申告や納税は不要です。ただし特例の適用を受ける場合など申告が必要なケースもあります。