相続税の申告では、相続人を確認するための戸籍関係書類から、土地や預貯金など財産の評価に用いる証明書、各種特例の適用を受けるための追加書類まで、多岐にわたる書類を準備する必要があります。書類の種類は財産の内容や適用する特例によって変わるため、全体像を把握しないまま準備を進めると、収集の漏れや二度手間が生じやすくなります。
本記事では、相続税申告に必要な書類を、すべての申告に共通して必要な書類と、財産の種類・適用特例ごとに追加で必要になる書類に分けて一覧で整理します。あわせて、書類の入手先や収集の際の留意点についても解説します。
相続税申告の必要書類を全体像で把握する重要性
相続税の申告書には、税額計算の基礎を裏づけるための多くの書類を添付します。これらの書類は、大きく次の3つの目的に分けて整理すると全体像を把握しやすくなります。
第一に、誰が相続人であるかを明らかにするための戸籍関係書類です。第二に、どのような財産がいくらあるかを証明するための財産評価に関する書類です。第三に、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの特例を適用するための追加書類です。
相続税の申告書は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署へ提出します[国税庁「B1-2 相続税の申告手続」]。戸籍の収集や不動産評価には時間を要するため、必要書類の全体像を早い段階で押さえ、期限に余裕を持って準備を進めることが重要です。
すべての相続税申告に共通して必要な書類
財産の内容にかかわらず、相続税を申告するほとんどの場合に共通して必要となる書類があります。相続人を確定するための戸籍関係書類と、遺産分割の内容を示す書類、相続人の本人確認書類が中心です。
相続人を確認するための戸籍関係書類
相続税の申告では、被相続人のすべての相続人を明らかにするため、戸籍関係の書類を提出します。相続開始の日から10日を経過した日以後に作成された被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本、または図形式の法定相続情報一覧図の写しなどを添付します[国税庁「B1-2 相続税の申告手続」]。
| 被相続人の出生から死亡までの 連続した戸籍謄本 |
被相続人の本籍地の市区町村役場。相続人を確定するために出生までさかのぼって取得する |
| 相続人全員の 戸籍謄本 |
各相続人の本籍地の市区町村役場 |
| 法定相続情報一覧図の写し | 登記所(法務局)。戸籍謄本一式に代えて添付できる |
| 被相続人の 住民票の除票 |
被相続人の住所地の市区町村役場 |
| 相続人全員の 住民票 |
各相続人の住所地の市区町村役場 |
戸籍を出生までさかのぼって収集する作業は、本籍地が複数回変わっている場合などに手間がかかります。この負担を軽減する制度として、登記所へ戸籍謄本一式と相続関係を示す一覧図を提出することで、認証された法定相続情報一覧図の写しの交付を無料で受けられる法定相続情報証明制度があります[法務局「「法定相続情報証明制度」について」]。この写しは相続税申告のほか、不動産の名義変更や預貯金の払戻しなど複数の手続きで戸籍謄本一式の代わりに利用できます。
遺産分割の内容を示す書類と本人確認書類
遺産をどのように分けたかを示す書類も、多くの場合に必要です。遺言書がある場合はその写しを、相続人間の話し合いで分割した場合は遺産分割協議書の写しを提出します。遺産分割協議書には相続人全員の印鑑証明書を添付します。
| 遺言書の写し (遺言がある場合) |
被相続人が残した遺言書。自筆証書遺言は検認済みのもの |
| 遺産分割協議書の写し (協議で分割した場合) |
相続人全員で作成。全員の実印を押印 |
| 相続人全員の 印鑑証明書 |
各相続人の住所地の市区町村役場。遺産分割協議書に添付する |
| 相続人全員の マイナンバー確認書類 |
マイナンバーカードの写し、通知カードの写し、マイナンバー記載の住民票など |
| 相続人の 本人確認書類 |
マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなどの写し |
相続税の申告書には各相続人のマイナンバー(個人番号)を記載するため、税務署での本人確認に用いるマイナンバー確認書類と本人確認書類の写しを添付します[国税庁「相続税」]。相続人の人数分が必要になる書類が多いため、早めに各相続人へ準備を依頼しておくと収集がスムーズです。
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財産の種類ごとに追加で必要な書類
共通書類に加えて、相続財産の種類に応じた評価資料を準備します。不動産、預貯金、有価証券、生命保険など、財産ごとに証明書類が異なります。ここでは代表的な財産についての追加書類を整理します。
不動産(土地・建物)に関する書類
土地や建物を相続した場合は、その評価額を算定するための書類が必要です。固定資産税の評価額や登記の内容、土地の形状を確認できる資料をそろえます。
| 固定資産評価証明書 | 不動産所在地の市区町村役場(東京23区は都税事務所) |
| 登記事項証明書 (登記簿謄本) |
登記所(法務局) |
| 公図・地積測量図 | 登記所(法務局) |
| 名寄帳 (固定資産課税台帳) |
不動産所在地の市区町村役場。所有不動産の一覧を確認できる |
| 賃貸借契約書 (貸地・貸家がある場合) |
被相続人が保管していた契約書 |
預貯金・有価証券に関する書類
金融資産については、相続開始日時点の残高や取引の内容を証明する書類を金融機関から取得します。
| 預貯金の残高証明書 | 取引先の金融機関。相続開始日現在の残高を記載したもの |
| 既経過利息計算書 (定期預金がある場合) |
取引先の金融機関 |
| 過去の預金通帳の写し | 被相続人が保管していた通帳。生前の資金移動の確認に用いる |
| 株式・投資信託の 残高証明書 |
取引先の証券会社。相続開始日現在の残高を記載したもの |
| 配当金の支払通知書 | 発行会社または証券会社 |
その他の財産・債務に関する書類
生命保険金や死亡退職金、債務や葬式費用に関する書類も、税額計算に影響するため準備します。債務や葬式費用は相続財産から差し引けるため、支払いを裏づける資料を残しておくことが大切です。
| 生命保険金の支払通知書 | 保険金を支払った生命保険会社 |
| 死亡退職金の支払通知書 | 被相続人の勤務先 |
| 借入金の残高証明書 (債務がある場合) |
借入先の金融機関 |
| 未払いの税金・医療費等の 請求書・領収書 |
各請求元 |
| 葬式費用の領収書・明細 | 葬儀社、寺院など。香典返しは対象外 |
特例の適用を受けるために必要な書類
相続税には税負担を軽減する特例があり、適用を受けるには申告書に一定の書類を添付する必要があります。特例は申告して初めて適用されるものが多く、書類の添付が要件となっている点に注意が必要です。ここでは利用機会の多い2つの特例を取り上げます。
小規模宅地等の特例に必要な書類
被相続人の自宅や事業に使っていた宅地について、一定の要件を満たすと評価額を大幅に減額できるのが小規模宅地等の特例です。この特例の適用を受けるには、申告書に適用を受ける旨を記載するとともに、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付します[国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」]。
| 小規模宅地等についての 課税価格の計算明細書 |
相続税の申告書の付表として作成 |
| 遺産分割協議書の写し または遺言書の写し |
宅地を取得した人が分かる書類 |
| 相続人全員の 印鑑証明書 |
遺産分割協議書に添付する |
特例の類型によっては、被相続人と同居していたことを示す書類や、相続開始前3年以内の持ち家の有無を確認できる書類など、追加の資料を求められる場合があります。適用しようとする宅地の区分に応じて、必要書類を事前に確認しておくことが重要です。
配偶者の税額軽減に必要な書類
被相続人の配偶者が取得した財産については、一定額まで相続税がかからない配偶者の税額軽減があります。この適用を受けるには、戸籍の謄本等に加えて、遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者が取得した財産が分かる書類を申告書に添付します。遺産分割協議書の写しには、相続人全員の印鑑証明書を添付します[国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」]。
| 戸籍の謄本等 | 被相続人の全ての相続人を明らかにするもの |
| 遺言書の写し または遺産分割協議書の写し |
配偶者が取得した財産が分かる書類 |
| 相続人全員の 印鑑証明書 |
遺産分割協議書に添付する |
なお、申告期限までに遺産分割が終わっていない場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は原則として適用できません。ただし、申告時に一定の手続きを行い、期限後に分割が確定した場合には適用を受けられる取扱いがあります。分割が難航しそうな場合は、専門家に早めに相談することをおすすめします。
相続する財産の種類が多い場合や特例の適用を検討している場合は、必要書類の判断が複雑になります。書類の収集や申告手続きを含めた相続全体の流れについては、【完全ガイド】遺産整理手続きの流れを徹底解説!期限や必要書類も丸わかりもあわせてご覧ください。
必要書類を収集する際の留意点
書類の収集を効率よく進めるために、いくつか押さえておきたい点があります。第一に、戸籍謄本や残高証明書などの公的書類は取得に日数がかかることがあるため、申告期限から逆算して早めに着手することが大切です。
第二に、有効期限や作成時期の指定がある書類に注意します。たとえば相続人を明らかにする戸籍の謄本は、相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたものが求められます[国税庁「B1-2 相続税の申告手続」]。
第三に、原本を提出する書類と写しで足りる書類の区別を確認します。多くの添付書類は写しで差し支えありませんが、書類によって取扱いが異なるため、提出前に確認しておくと安心です。なお、e-Taxを利用して申告する場合は、一定の添付書類をイメージデータで提出できる仕組みも整備されています。
まとめ
相続税の申告に必要な書類は、相続人を確認するための戸籍関係書類、財産を評価するための証明書類、特例の適用を受けるための追加書類の3つに整理できます。すべての申告に共通する書類として、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書、遺産分割協議書または遺言書の写しなどがあります。これに加えて、不動産の固定資産評価証明書、預貯金や有価証券の残高証明書といった財産ごとの書類、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を受けるための書類をそろえます。
書類の種類は財産の内容や適用する特例によって変わり、収集にも時間を要します。全体像を早い段階で把握し、申告期限に余裕を持って準備を進めることが、円滑な相続税申告につながります。判断に迷う場合は、相続税を専門とする税理士に相談することで、収集の漏れや評価の誤りを防ぐことができます。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案への適用を保証するものではありません。具体的な申告手続きにあたっては、税務署または税理士等の専門家にご確認ください。
参考文献
- 国税庁「相続税」
- 国税庁「B1-2 相続税の申告手続」
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
- 国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
- 法務局「「法定相続情報証明制度」について」
相続税申告の必要書類に関するよくある質問まとめ
Q. 相続税申告に共通して必要な書類は何ですか。
A. 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、被相続人の住民票の除票、相続人全員の住民票と印鑑証明書、遺言書または遺産分割協議書の写し、相続人のマイナンバー確認書類と本人確認書類などが、財産の内容にかかわらず多くの申告で共通して必要になります。
Q. 戸籍謄本の代わりに使える書類はありますか。
A. 法定相続情報一覧図の写しを利用できます。登記所へ戸籍謄本一式と相続関係を示す一覧図を提出すると、認証された写しの交付を無料で受けられ、相続税申告のほか不動産の名義変更や預貯金の払戻しなど複数の手続きで戸籍謄本一式の代わりに使えます。
Q. 不動産を相続した場合に追加で必要な書類は何ですか。
A. 固定資産評価証明書、登記事項証明書、公図・地積測量図、名寄帳などが必要です。貸地や貸家がある場合は賃貸借契約書も準備します。これらは評価額の算定に用いるため、市区町村役場や登記所で取得します。
Q. 小規模宅地等の特例を受けるにはどのような書類が必要ですか。
A. 申告書に適用を受ける旨を記載したうえで、小規模宅地等についての課税価格の計算明細書や、遺産分割協議書の写しなど宅地を取得した人が分かる書類を添付します。宅地の区分によっては同居を示す書類など追加資料が必要になる場合があります。
Q. 配偶者の税額軽減を受けるための書類は何ですか。
A. 被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本等に加えて、遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者が取得した財産が分かる書類を添付します。遺産分割協議書の写しには相続人全員の印鑑証明書を添付します。
Q. 申告期限までに遺産分割が終わらない場合はどうなりますか。
A. 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、原則として遺産分割が終わっていないと適用できません。ただし、申告時に一定の手続きを行い、期限後に分割が確定した場合には適用を受けられる取扱いがあります。分割が難航しそうな場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。