この記事は、税務署(国税組織)の人事異動が、自社の税務調査の時期や進み方にどう影響するのかを知りたい事業者・経営者・経理担当の方に向けたものです。結論から申し上げます。税務署の事務は7月1日から翌年6月30日までを1単位とする「事務年度」で回っており、その区切りに合わせて例年7月に定期人事異動が行われます。そのため、実務では7月前後に調査の動きがいったん静まり、事務年度の前半(秋口)から実地調査が本格的に動き出す、という肌感があります。ただし「異動があるから調査は来ない」「異動まで引き延ばせば有利になる」という考え方は誤りです。以下、公表資料で裏の取れる事実と、税理士としての実務所感を分けて整理します。
税務署の事務年度と定期人事異動の時期
税務署の1年は、一般の会社や国の会計年度(4月〜3月)とは区切りが異なります。国税組織は「事務年度」という独自の年度単位で計画・評価・人事を回しており、ここを押さえると税務調査の季節感が理解しやすくなります。
事務年度の定義と国税庁の運営サイクル
国税庁は、事務年度を7月1日から翌年6月30日までを1単位とした年度と定義しています国税庁 国税庁の実績の評価。この事務年度に沿って、毎年6月末までに翌事務年度の「国税庁実績評価実施計画」が策定され、毎年10月頃に前事務年度の「国税庁実績評価書」が公表されます。つまり、目標を立てるのが6月末、実績を締めるのが6月末という設計です。
この区切りは統計にも表れています。国税庁が公表する法人税等の調査事績は「令和6年7月から令和7年6月までの間に処理を終了した実地調査に係るもの」として集計されており、調査の実績が6月末で締められることが明記されています国税庁 令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要。事務年度は単なる呼び方ではなく、実地調査の「処理を終了した」件数を数える器そのものだとご理解ください。
定期人事異動の時期に関する実務上の理解
国税組織の定期人事異動は、この事務年度の切り替わりに合わせて例年7月に行われると実務では理解されています。具体的な発令日については国税庁が一般向けに一律の日付を公表しているわけではないため、本記事では「例年7月」という表現にとどめます。実務では、6月下旬から7月上旬にかけて税務署への連絡が付きにくくなったり、進行中の案件の返答が遅くなったりする場面があり、この時期の切り替わりを実感します。
注意点として、異動の時期は税務署ごとに一律の運用が公表されているものではありません。国税局・税務署の規模や役職によって事情は異なりますし、7月以外の時期に担当者が替わることもあります。「7月に必ず全員が入れ替わる」といった単純な理解は避けたほうが安全です。
税務調査が動きやすい時期と止まりやすい時期
事務年度の構造を踏まえると、1年の中で調査の動きに濃淡が出ます。ここは公表資料に明記された事項ではないため、あくまで実務での肌感としてお読みください。
事務年度前半が実地調査の本格期
実務では、9月頃から12月頃までが実地調査の本格期という受け止めが一般的です。7月の異動で新しい体制が固まり、8月の夏季休暇期間を経て、秋から調査に着手する流れが自然だからです。事前通知の電話がこの時期に集中する印象があり、秋口に事前通知を受けたというご相談が増える傾向を毎年感じます。
確定申告期と事務年度末の動き
一方、1月から3月中旬までの確定申告期は、税務署の人員がその事務に割かれるため、実地調査の新規着手は動きにくくなります。年末年始も同様です。そして4月から6月にかけては、事務年度末に向けて手持ちの案件を処理し終える方向に力が働くのが実務での印象です。この時期に調査が始まった場合、比較的短期間で結論に向かう場面もあります。
ただし、これらはあくまで傾向にすぎません。無申告や高額・悪質な不正計算が見込まれる事案では、時期にかかわらず調査が動きます。「今は忙しい時期だから来ない」という前提で対応を先延ばしにすることは、実務上おすすめできません。
人事異動が税務調査の進み方に与える影響
異動そのものが調査の結論を変えることはありません。それでも、進み方や納税者側の手間には現実的な影響があります。以下は税理士としての実務所感です。
調査担当者の交代と引き継ぎ
事務年度をまたいで調査が継続した場合、実務では担当者が交代し、後任へ引き継がれることがあります。この際、これまでのやり取りが完全にそのまま引き継がれるとは限らず、後任者から改めて資料の提示を求められたり、同じ論点を再度説明することになったりする場面があります。納税者側の負担としては、この「二度手間」が最も実感しやすい影響です。
実務での取り扱いとして、調査の初日から提出した資料の一覧・提出日・口頭で説明した内容を時系列でメモに残すことをおすすめしています。ある製造業の法人の調査では、5月に着手して結論が出ないまま7月をまたぎ、後任の担当者から在庫計上の根拠資料を再度求められました。このとき、前任者へ提出済みの資料と説明内容のメモが残っていたため、同じ説明を一から繰り返さずに済み、結果として調査の長期化を避けられました。地味ですが、効き目のある備えです。
事務年度末に向けた決着の力学
実務では、事務年度の終わりが近づくほど、案件を処理し終える方向の力が働くと感じます。調査は結論が出るまで開いたままになるため、担当者としても年度をまたいで引き継ぐより、期間内に整理したいと考えるのは自然でしょう。この局面で、納税者側が求められた資料を速やかに出せるかどうかが、期間の長短を左右します。
注意すべきは、この力学を「引き延ばせば有利になる」と読み替えないことです。回答を遅らせても税額の判断が甘くなるわけではありませんし、調査が長引けば延滞税の負担も増えます。異動を待つ姿勢は、納税者側にとって得のない戦術です。
担当者が替わったときに確認しておくこと
担当者の交代が伝えられた場合、実務では次の点を早い段階で確認しておくと、その後の進行が整理しやすくなります。
- 後任者の氏名と所属官署、連絡先
- 調査の対象となっている税目・課税期間に変更がないか
- 前任者へ提出済みの資料のうち、返却されていないものの有無
- これまでに口頭で示された論点が、そのまま引き継がれているか
特に3点目は見落としがちです。帳簿書類等を預けたままにしていると、返却の時期があいまいになることがあります。法令上、留め置いた帳簿書類等は、留め置く必要がなくなったときは遅滞なく返還すべきこととされています国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)。何を預けているかを一覧にしておくことをおすすめします。
国税庁の調査事績にみる実地調査の規模
異動や時期の話に踏み込む前に、そもそも実地調査がどの程度の規模で行われているのかを、公表数値で押さえておきます。いずれも事務年度(7月〜翌年6月)ベースの集計です。
令和6事務年度における法人税・消費税の実地調査は、国税庁の公表資料によると次のとおりです。
| 実地調査件数 | 5万4千件(前事務年度比 92.6%) |
|---|---|
| 申告漏れ所得金額 | 8,198億円(同 84.2%) |
| 追徴税額 (法人税・消費税) |
3,407億円(同 106.6%) |
| 調査1件当たりの 追徴税額 |
6,342千円(同 115.4%) |
件数は前事務年度から減っている一方で、追徴税額の総額は3,407億円と直近10年で最も高い水準となり、1件当たりの追徴税額も増加しています。国税庁は、AIも活用しながら資料情報等や申告書の分析・検討を行い、調査必要度の高い法人を的確に抽出して実地調査を実施したと説明しています。件数を広く撒くのではなく、対象を絞って深く入る方向に動いていると読み取れます。
個人についても同様の傾向がみられます。令和6事務年度の所得税では、実地調査と簡易な接触を合わせた「調査等」の件数は73万6千件、うち追徴税額は1,431億円と過去最高でした。実地調査の件数は4万7千件で、1件当たりの追徴税額は241万円です国税庁 令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況。文書や電話による「簡易な接触」が大きく伸びている点も、押さえておきたい変化です。
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事前通知の方法と調査日程の調整
「異動の時期に調査の連絡が来た」という場面で慌てないために、事前通知のルールを確認しておきます。ここは公表資料で明確に定められている領域です。
事前通知は原則として電話による口頭
実地の調査の事前通知の方法は法令上規定されておらず、原則として電話により口頭で行うこととされています。納税者からの要望に応じて事前通知内容を記載した書面が交付されることはありません。また、事前通知が調査の何日前に行われるかについても法令に特段の規定はなく、一律に示すことは困難とされていますが、納税者が調査を受ける準備等をできるよう、調査開始日までに相当の時間的余裕を置いて行うこととされています。
なお、実地の調査を行う場合は原則として事前通知が行われますが、申告内容・過去の調査結果・事業内容などから、違法または不当な行為を容易にし正確な課税標準等の把握を困難にするおそれがあるなどと判断された場合には、事前通知をしないこともあります。この判断は事務運営指針でも定められています国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)。
調査開始日時の変更の申出
事前通知に際しては、あらかじめ納税者や税務代理人の都合が尋ねられ、申告業務や決算業務などの事務の繁閑にも配慮して調査開始日時を調整することとされています。事前通知の後であっても、合理的な理由があれば日時の変更を協議できます。申出の方法は法令で定められておらず、口頭で差し支えありません。決算期や繁忙期と重なる場合は、遠慮せず申し出るのが実務的な対応です。
また、税務代理権限証書に事前通知に関する同意を記載しておけば、事前通知は税理士に対して行えば足りることとされています。担当者が替わったあとの窓口を一本化する意味でも、この同意の有無は確認しておく価値があります。
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ここまで見てきたとおり、税務署の異動は調査の「時期の感覚」には影響しますが、調査の結論そのものを左右する要素ではありません。判断材料としては、①自社の事務年度上の位置(秋なのか申告期なのか)、②調査が年度をまたぎそうか、③預けている資料と説明した論点の記録が残っているか、の3点です。この3点を整理したうえで、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。調査の連絡を受けた段階、あるいは担当者の交代を告げられた段階で、まずは税理士にご相談ください。
納税者側の「異動届出書」と納税地の異動
「税務署 異動」という言葉には、国税組織の人事異動とは別に、納税者側が提出する「異動届出書」という意味もあります。移転や商号変更などがあった場合の手続で、税務調査とは直接関係しません。要点だけ整理します。
法人の場合、事業年度等の変更、納税地の異動、資本金の額等の異動、商号または名称の変更、代表者の変更、事業目的の変更、合併、法人区分の変更、解散・清算結了、支店・工場等の異動などをしたときに、異動事項に関する届出が必要です。提出時期は「異動等後速やかに」、提出先は異動前の納税地の所轄税務署長とされています国税庁 C1-8 異動事項に関する届出。提出先が「異動前」である点は間違えやすいので注意してください。
個人事業者の場合は取り扱いが異なります。所得税・消費税については、納税地の異動がある場合、異動後の納税地を記載した申告書を提出する方法が基本です。ただし、年の途中で異動があり、国税当局からの各種文書の送付先を異動後の納税地としたいときは、申出書を提出することができます国税庁 A1-6 所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する手続。転居後に税務署からの文書が届かないという事故は、この手続の抜けから起きることがあります。
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まとめ
税務署の事務年度は7月1日から翌年6月30日までで、その区切りに合わせて例年7月に定期人事異動が行われます。調査の実績もこの期間で締められるため、事務年度の構造を知っておくと、調査の連絡が来る時期や進み方の見通しが立てやすくなります。
一方で、異動は調査の結論を変える要素ではありません。令和6事務年度の法人税・消費税の実地調査では、件数が減る中で追徴税額の総額は3,407億円と直近10年で最高となり、対象を絞って深く調べる方向に動いています。異動を待つのではなく、資料と説明の記録を残し、求められたものを速やかに出せる状態を保つことが、結果として調査を短く終わらせる近道です。
なお、「税務署 異動」で調べる方のもう一つの目的である納税者側の異動届出書は、法人は異動後速やかに異動前の納税地の所轄税務署長へ、個人事業者は原則として申告書への記載で対応します。どちらのテーマも、自社の事情に当てはめた判断が必要になる場面が多い分野です。
参考文献
- 国税庁 国税庁の実績の評価
- 国税庁 令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要
- 国税庁 令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況
- 国税庁 税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
- 国税庁 調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)
- 国税庁 C1-8 異動事項に関する届出
- 国税庁 A1-6 所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する手続
税務署の異動のよくある質問まとめ
Q. 税務署の人事異動はいつ行われますか。
A. 国税組織の事務年度は7月1日から翌年6月30日までを1単位としており、その切り替わりに合わせて例年7月に定期人事異動が行われると実務では理解されています。具体的な発令日が一般向けに一律に公表されているわけではないため、時期の目安としてお考えください。
Q. 税務調査が多い時期はいつですか。
A. 実務では、7月の異動と夏季休暇期間を経た9月頃から12月頃までが実地調査の本格期という受け止めが一般的です。1月から3月中旬の確定申告期は新規着手が動きにくくなります。ただし傾向にすぎず、無申告や高額・悪質な事案では時期を問わず調査が動きます。
Q. 調査の途中で担当者が替わることはありますか。
A. 事務年度をまたいで調査が継続した場合、担当者が交代し後任へ引き継がれることがあります。実務では、同じ論点の再説明や資料の再提示を求められる場面があるため、提出した資料の一覧・提出日・説明内容を時系列で記録しておくと負担を抑えられます。
Q. 異動を待って回答を遅らせれば調査は有利になりますか。
A. 有利にはなりません。担当者が替わっても税額の判断が甘くなるわけではなく、調査が長引けば延滞税の負担も増えます。求められた資料を速やかに提示し、早期に論点を整理するほうが結果として負担は軽くなります。
Q. 税務調査の事前通知はどのように行われますか。
A. 事前通知の方法は法令上規定されておらず、原則として電話による口頭で行うこととされています。何日前に通知するかも法令に規定はありませんが、納税者が準備できるよう相当の時間的余裕を置いて行うこととされています。合理的な理由があれば日時の変更を協議でき、申出は口頭で差し支えありません。
Q. 事務所を移転した場合の異動届出書はどこへ提出しますか。
A. 法人の場合、異動事項に関する届出は異動等の後速やかに、異動前の納税地の所轄税務署長へ提出します。提出先が異動後ではなく異動前である点に注意が必要です。個人事業者の所得税・消費税については、異動後の納税地を記載した申告書を提出する方法が基本で、年の途中で送付先を変更したいときは申出書を提出できます。