相続税の申告と納税を無事に終えたはずなのに、ある日突然、税務署から「他の相続人が納めていない相続税を代わりに納めてください」という趣旨の通知が届く。そんな事態が起こり得るのかと、不安に感じる方は少なくありません。自分はきちんと期限内に納めたのだから関係ないはず、と考えるのが自然ですが、相続税には他の税目にはあまり見られない特別な仕組みがあります。
それが相続税の連帯納付義務です。同じ被相続人から財産を相続した人どうしは、互いの相続税について一定の範囲で責任を負い合う関係にあります。この記事では、なぜそのような義務が生じるのか、どこまで責任を負うのか、そしてどうすれば思わぬ請求を避けられるのかを、法令と公的資料に沿って整理します。
相続税の連帯納付義務とは
連帯納付義務とは、同一の被相続人から財産を取得した相続人や受遺者が、互いの相続税について連帯して納付する責任を負う仕組みです。自分が本来納めるべき相続税とは別に、他の相続人が納め切れなかった相続税について、税務署から納付を求められる場合があります。
国税庁の解説でも、相続税をすでに完納している人であっても、他の相続人が相続税を滞納していると、その滞納分を納付しなければならない場合があると明記されています。[国税庁 (問3) 私は相続税を完納していますが、他の相続人が相続税を滞納していると、その滞納している相続税を私が納付しなければならない場合があると聞きましたが本当ですか。]
連帯納付義務が生じる理由
連帯納付義務は、相続税法第34条に定められた法律上の義務です。当事者が契約で引き受けたものではなく、相続によって財産を取得した時点で自動的に発生します。同じ被相続人の財産をみんなで分け合った以上、その財産にかかる相続税についても関係者全体で責任を持つべき、という考え方に基づいています。[e-Gov法令検索 相続税法]
このため、他の相続人が相続税を納めないまま滞納した場合、税務署はその滞納者だけでなく、同じ相続に関わった他の人にも納付を求めることができます。特定の誰かが財産だけ受け取って納税から逃れる事態を防ぐための仕組みといえます。
連帯納付義務の責任の限度
自分以外の相続税を無制限に肩代わりさせられるわけではありません。連帯納付義務によって負う責任には限度があり、その範囲は相続によって受けた利益の価額までとされています。相続で得た財産の価額を超えて負担を求められることはありません。[e-Gov法令検索 相続税法]
ここでいう受けた利益の価額は、おおまかには次の考え方で示されます。
たとえば相続で3,000万円分の財産を取得した人であれば、その3,000万円という利益の範囲内で他の相続人の滞納分について責任を負う形になります。多額の財産を受け取った人ほど、負い得る責任の上限も大きくなる関係にあります。
連帯納付義務者へ請求される流れ
連帯納付義務者にいきなり請求が来るわけではなく、通常は次の順序で進みます。まず本来の納税義務者に納付を求め、それでも納付されない場合に連帯納付義務者へと段階が移ります。
| 段階 | 税務署の対応 |
|---|---|
| 本来の納税義務者 | 期限までに納付がない場合、督促が行われる |
| 連帯納付義務者 | 本来の納税義務者から徴収できないとき、完納を求める通知が送られる |
連帯納付義務者に対しては、納付を求める前に一定の通知が行われる取扱いが定められています。突然差押えに進むのではなく、まず状況を知らせる手続きを経る運用となっています。[国税庁 相続税法第34条に規定する連帯納付の義務に係る通知等について]
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連帯納付義務にかかる延滞税・利子税の扱い
他の相続人の滞納分を連帯納付義務者が納める場合、本来の滞納者に課される延滞税ではなく、利子税を納めることになる取扱いがあります。滞納に対する重い負担をそのまま引き受けるのではなく、相対的に負担の軽い利子税に置き換えられる形です。[国税庁 (問19) 物納に当たって、どのような場合に利子税がかかるのでしょうか。]
延滞税や利子税がどのような場面で発生し、どのように通知されるかについては、あわせて延滞税・利子税の納税通知はいつ届く?通知時期と対処法を解説もご確認ください。
連帯納付義務が及ばなくなる場合
連帯納付義務は永久に続くわけではありません。相続税の申告期限から一定の期間が経過し、その間に税務署から連帯納付義務についての通知等が行われなかった場合には、連帯納付義務を負わないこととされています。おおむね申告期限から5年を一つの区切りとする取扱いです。[e-Gov法令検索 相続税法]
ただし、期間の起算点や通知の有無によって結論が変わるため、自分のケースで義務が及ぶかどうかを独断で判断するのは避けたほうが安全です。個別の事情によっては、期間が経過していても注意が必要な場合があります。
トラブルを避けるための実務対策
連帯納付義務による思わぬ負担を避けるには、相続人全員が確実に納税を終えられる状態を、遺産分割の段階から意識しておくことが有効です。
遺産分割で納税資金を確保する
相続財産が不動産に偏っていると、財産は受け取ったものの納税に充てる現金が足りない相続人が出やすくなります。遺産分割の際に、それぞれが納めるべき相続税に見合う現預金を配分しておくことで、滞納の発生そのものを防ぎやすくなります。
延納・物納を検討する
金銭で一度に納めることが難しい場合には、分割で納める延納や、相続財産そのもので納める物納といった方法があります。ただし延滞税や連帯納付責任額などは延納や物納の対象外とされており、要件も細かく定められています。[国税庁 延納・物納申請等][国税庁 No.4211 相続税の延納]
延納と物納の要件や進め方については、相続税を現金で一括納付できない場合の延納と物納の要件で詳しく整理しています。また、滞納が長引くと税務署の目にとまりやすくなる面もあるため、相続税の税務調査で対象になりやすい人の特徴と備えもあわせて参考にしてください。
まとめ
相続税の連帯納付義務は、同じ被相続人から財産を取得した相続人が、互いの相続税について相続で受けた利益の範囲で責任を負い合う仕組みです。自分が完納していても、他の相続人の滞納によって納付を求められる場合があります。責任には限度があり、一定期間の経過で義務が及ばなくなる場合もありますが、判断には個別の確認が欠かせません。遺産分割の段階で納税資金を確保し、必要に応じて延納・物納を検討しておくことが、思わぬ負担を避ける近道です。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
参考文献
- e-Gov法令検索 相続税法
- 国税庁 (問3) 私は相続税を完納していますが、他の相続人が相続税を滞納していると、その滞納している相続税を私が納付しなければならない場合があると聞きましたが本当ですか。
- 国税庁 相続税法第34条に規定する連帯納付の義務に係る通知等について
- 国税庁 (問19) 物納に当たって、どのような場合に利子税がかかるのでしょうか。
- 国税庁 延納・物納申請等
- 国税庁 No.4211 相続税の延納
具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
相続税の連帯納付義務のよくある質問まとめ
Q.相続税を完納していれば連帯納付義務は関係ありませんか。
A.いいえ。自分の相続税を完納していても、他の相続人が相続税を滞納している場合には、その滞納分の納付を求められることがあります。
Q.連帯納付義務で負う金額に上限はありますか。
A.あります。相続によって受けた利益の価額が限度とされ、相続で得た財産の価額を超えて負担を求められることはありません。
Q.いきなり自分に請求が来ることはありますか。
A.通常はまず本来の納税義務者に納付を求め、そこから徴収できない場合に連帯納付義務者へ通知が送られる流れです。事前の通知を経る取扱いが定められています。
Q.連帯納付義務で納めるとき延滞税もかかりますか。
A.連帯納付義務者が納める場合、延滞税に代えて利子税を納める取扱いがあります。滞納者本人に課される延滞税とは扱いが異なります。
Q.連帯納付義務が消える場合はありますか。
A.申告期限から一定期間が経過し、その間に連帯納付義務についての通知等が行われなかった場合には義務を負わないとされています。おおむね5年が区切りですが、個別の確認が必要です。
Q.連帯納付義務を避けるにはどうすればよいですか。
A.遺産分割の段階で各相続人の納税資金を確保し、必要に応じて延納や物納を検討して、相続人全員が確実に納税できる状態を整えることが有効です。