相続手続きに欠かせない戸籍謄本の収集は、2024年(令和6年)3月1日に始まった「広域交付」で大きく楽になりました。本籍地が遠方にあっても、お住まいの近くの市区町村窓口1か所で、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍をまとめて請求できる制度です。
ただし、広域交付には「兄弟姉妹の戸籍は取得できない」「郵送や代理人による請求はできない」「コンピュータ化されていない古い戸籍は対象外」という3つの大きな注意点があります。仕組みを知らずに窓口へ行くと、必要な戸籍が揃わず二度手間になることもあるのです。
この記事では、相続税申告を専門とする税理士法人プライムパートナーズが、広域交付で取得できる戸籍の範囲、請求できる人、必要書類と手数料、取得できない場合の対処法までを順にご説明しますね。相続税申告の期限(10か月)から逆算した戸籍収集の段取りも、あわせて確認していきましょう。
戸籍の広域交付とは|本籍地以外の窓口で相続の戸籍をまとめて取得できる制度
広域交付とは、戸籍法の改正(戸籍法第120条の2)により始まった、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本や除籍謄本を請求できる制度です。全国の市区町村がオンラインで戸籍情報を共有する仕組みが整ったことで、1つの窓口から他の市区町村の戸籍をまとめて取り寄せられるようになりました。
2024年3月1日から全国の市区町村窓口で請求できるようになった
広域交付が始まったのは2024年(令和6年)3月1日です。それまでは、戸籍謄本は本籍地の市区町村にしか請求できませんでした。たとえば東京にお住まいの方が、鹿児島に本籍のある親の戸籍を取るには、鹿児島の市区町村へ郵送で請求するか、現地へ出向く必要があったのです。
広域交付を使えば、お住まいやお勤め先の近くなど、都合のよい市区町村の窓口1か所で請求が完結します。政府広報オンラインの相続の基本を解説する記事でも、令和6年3月1日以降は本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍・除籍証明書を請求できるようになったと案内されています。
相続手続きでは被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要になる
相続手続きでまず行うのは、「誰が相続人か」を戸籍で証明することです。結婚や転籍、戸籍の様式変更(改製)のたびに新しい戸籍が作られるため、被相続人の出生から死亡までをたどると、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本が合計で数通から10通前後になるのが通常です。
これらの戸籍一式は、相続税申告だけでなく、預貯金の解約や払い戻し、不動産の相続登記など、ほぼ全ての相続手続きで求められます。従来は本籍地ごとに1通ずつ請求して郵送を待ち、届いた戸籍を読んでさらに前の本籍地へ請求する、という作業の繰り返しでした。広域交付は、この負担を大きく減らしてくれる制度なのです。
広域交付で取得できる戸籍・取得できない戸籍
結論からお伝えすると、広域交付で取得できるのは「コンピュータ化された戸籍謄本・除籍謄本(全部事項証明書)」だけです。まず、可否を一覧で確認しましょう。
| 証明書の種類 | 広域交付での取得可否 |
|---|---|
| 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 取得できます |
| 除籍謄本(除籍全部事項証明書) | コンピュータ化されていれば取得できます |
| コンピュータ化されていない戸籍・除籍・改製原戸籍 | 取得できません |
| 戸籍抄本(個人事項証明書・一部事項証明書) | 取得できません |
| 戸籍の附票の写し | 取得できません |
取得できるのはコンピュータ化された戸籍謄本・除籍謄本
広域交付の対象は、戸籍法第120条の2により、磁気ディスクで調製された(コンピュータ化された)戸籍と除籍に限られます。取得できるのは戸籍に記録された事項の全部を証明する「謄本(全部事項証明書)」で、特定の人の分だけを抜き出した抄本は対象外です。
相続で必要になるのは基本的に謄本ですから、抄本が取れない点は実務上ほとんど支障になりません。被相続人の死亡の記載がある戸籍から出生時の戸籍へさかのぼる一連の請求を、1つの窓口でまとめて行えます。
改製原戸籍の多くと戸籍の附票は取得できない
注意したいのは、コンピュータ化される前の古い戸籍です。昭和や平成の様式変更前に作られた改製原戸籍や古い除籍には、紙のままコンピュータ化されていないものがあり、これらは広域交付では取得できません。被相続人の出生までさかのぼる相続の戸籍収集では、この「取れない戸籍」に行き当たることが珍しくないのです。
また、住所の履歴を証明する戸籍の附票の写しも広域交付の対象外です。附票は、相続時精算課税の適用を受けた人がいる相続税申告や、被相続人が老人ホームに入所していた場合の小規模宅地等の特例などで必要になるため、必要な場合は本籍地の市区町村へ別途請求します。
広域交付を請求できる人|兄弟姉妹の戸籍は取得できない
広域交付を利用できるのは、戸籍法第10条第1項に定められた次の方だけです。取りたい戸籍に記載されている本人との関係で判断します。
- 戸籍に記載されている本人
- その配偶者(夫・妻)
- その直系尊属(父母・祖父母など)
- その直系卑属(子・孫など)
たとえば亡くなった父親の戸籍は、子であるあなたが直系卑属として請求できます。祖父母の戸籍も直系卑属として請求できるため、数世代分の戸籍をまとめて集められるのが強みです。
兄弟姉妹が相続人になるケースでは広域交付だけで完結しない
一方、兄弟姉妹の戸籍は直系ではないため、広域交付では請求できません。被相続人に子がなく親も他界している相続では兄弟姉妹が相続人となり、その生存を確認する現在の戸籍が必要になりますが、この分は従来どおり本籍地の市区町村へ請求することになります。
また、弁護士・司法書士・税理士などの専門家による職務上請求や、委任状を持った代理人による請求も広域交付では認められていません。広域交付は「本人が窓口に出向く」ことが大前提の制度だと覚えておいてくださいね。
広域交付での戸籍謄本の取り方|窓口・必要書類・手数料
広域交付の利用方法はシンプルです。実際の流れを順にご説明します。
- 最寄りの市区町村役場の戸籍担当窓口へ、請求者本人が出向く
- 戸籍証明書等の請求書に、被相続人の氏名・本籍地など分かる範囲の情報と、必要な戸籍の範囲(出生から死亡まで等)を記入する
- 顔写真付きの本人確認書類を提示する
- 手数料を納めて戸籍謄本を受け取る
被相続人の戸籍を出生までさかのぼる場合、複数の市区町村の戸籍を順にたどって発行するため、窓口での待ち時間は通常の戸籍請求より長くなりがちです。時間に余裕を持って、午前中など早めの時間帯に窓口へ行くことをおすすめします。
必要書類は顔写真付きの本人確認書類|郵送・代理人は不可
広域交付では、マイナンバーカード、運転免許証、パスポート(旅券)、在留カードなど、官公署が発行した顔写真付きの本人確認書類の提示が必須です(戸籍法施行規則第73条の2・第11条の2第1号)。健康保険の資格確認書や年金証書など、顔写真のない書類を2点組み合わせる方法は、広域交付では認められていません。
本人確認書類を窓口で直接提示する必要があるため、郵送での広域交付請求はできません。代理人による請求もできませんので、顔写真付きの本人確認書類をお持ちでない方は、従来どおり本籍地の市区町村へ請求する方法を選ぶことになります。
手数料の標準額は戸籍謄本450円・除籍謄本750円
手数料は各市区町村の条例で定められており、国が政令で示す標準額は次のとおりです。広域交付だからといって割増になることはなく、本籍地で取得する場合と同じ水準です。
| 証明書の種類 | 手数料の標準額(1通あたり) |
|---|---|
| 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) | 450円 |
| 除籍謄本・改製原戸籍謄本 | 750円 |
出生から死亡まで7通集めるケースを標準額で計算すると、戸籍謄本2通と除籍・改製原戸籍5通で合計4,650円です。まとまった通数になることが多いため、小銭やお札を多めに用意して窓口へ向かうと安心ですね。
広域交付で戸籍が揃わない場合の対処法
広域交付を使っても、コンピュータ化されていない古い戸籍や兄弟姉妹の戸籍は取得できません。ここでは、足りない戸籍を補う2つの方法をご紹介します。
取れなかった戸籍は本籍地の市区町村へ郵送請求する
広域交付の対象外だった戸籍は、従来どおり本籍地の市区町村へ請求します。本籍地への請求であれば郵送が使えます(戸籍法第10条第3項)ので、遠方でも現地へ出向く必要はありません。
先に広域交付で取れる分をまとめて取得しておくと、窓口の担当者が発行できなかった戸籍の本籍地と筆頭者を教えてくれますから、郵送請求すべき先が明確になります。「まず広域交付、足りない分だけ郵送請求」という順番が、最も効率のよい集め方です。
法定相続情報証明制度で戸籍の束を1枚にまとめる
戸籍が揃ったら、法務局の「法定相続情報証明制度」の利用を検討しましょう。集めた戸籍の束と相続関係を一覧にした図(法定相続情報一覧図)を法務局に提出すると、登記官が内容を確認したうえで、認証文付きの一覧図の写しを無料で必要な通数だけ交付してくれます。
この一覧図の写しは、相続登記、預貯金の払い戻し、相続税申告などで戸籍の束の代わりとして使えるため、複数の手続きを並行して進められます。不動産をご自身で登記する予定の方は、相続登記を自分で進める手順を解説した記事もあわせてお読みください。
相続税申告と戸籍収集|期限10か月から逆算して早めに動く
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月以内です(国税庁タックスアンサーNo.4205)。10か月と聞くと長く感じますが、戸籍収集は遺産分割協議や財産調査の前提となるため、実務では最初の1〜2か月のうちに終わらせておきたい作業です。
相続税申告に必要な戸籍書類と作成時期の要件
相続税申告では、「被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍の謄本」を提出します。この戸籍は相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたものである必要があるため、亡くなった直後に取得した戸籍は申告には使えない点にご注意ください。図形式の法定相続情報一覧図の写しや、これらをコピー機で複写したものでも提出できます。
戸籍のほかにも、遺言書または遺産分割協議書の写し、財産の評価資料など、申告に必要な書類は多岐にわたります。全体像は相続税申告の必要書類の一覧を整理した記事で確認できますので、チェックリストとしてご活用ください。
戸籍一式は使い回す場面が多い|名義変更も見据えて段取りする
集めた戸籍一式は、相続税申告のほか、金融機関での手続きにもそのまま使います。亡くなった方の口座は死亡の連絡により凍結されるため、葬儀費用や当面の生活費の引き出しにも戸籍が関わってきます。具体的な流れは預金の名義変更手続きをまとめた記事で解説しています。
実務では、戸籍収集と並行して財産目録の作成や不動産・非上場株式の評価を進め、期限の2〜3か月前には申告書の作成に入るのが理想的なスケジュールです。戸籍集めに想定以上の時間を取られて申告準備が圧迫される前に、専門家へ任せるのも有効な選択肢ですよ。当法人では戸籍の収集からの相続税申告のサポートも行っています。
相続税申告のご相談はこちら(税理士法人プライムパートナーズ)
まとめ|広域交付で戸籍集めの負担を減らし、期限に余裕を持つ
戸籍の広域交付は、相続の戸籍集めを「本籍地ごとの請求」から「最寄り窓口での一括請求」へ変えた、2024年3月開始の新しい制度です。マイナンバーカードや運転免許証を持って窓口へ行けば、被相続人の出生から死亡までのコンピュータ化された戸籍を1か所で取得できます。
一方で、兄弟姉妹の戸籍や電算化前の古い戸籍は対象外のため、郵送請求との併用が現実的です。取得した戸籍は法定相続情報一覧図にまとめると、相続税申告・相続登記・預金の解約を並行して進められます。10か月の申告期限から逆算し、早めに動き出しましょう。
相続の戸籍広域交付のよくある質問まとめ
Q. 戸籍の広域交付はどこの市区町村でも利用できますか?
A. 全国の市区町村の戸籍担当窓口で利用できます。お住まいの市区町村である必要はなく、お勤め先の近くなど都合のよい窓口を選べます。請求者本人が窓口へ出向き、顔写真付きの本人確認書類を提示することが条件です。
Q. 広域交付で兄弟姉妹の戸籍謄本は取得できますか?
A. 取得できません。広域交付で請求できるのは、本人・配偶者・直系尊属(父母や祖父母)・直系卑属(子や孫)の戸籍だけです。兄弟姉妹が相続人になる場合、その戸籍は従来どおり本籍地の市区町村へ請求します。
Q. 広域交付は郵送や代理人でも請求できますか?
A. できません。広域交付は本人が窓口に出向いて請求する制度で、郵送請求も、委任状による代理人請求も、専門家の職務上請求も認められていません。窓口に行けない場合は、本籍地の市区町村への郵送請求を利用します。
Q. 広域交付の手数料はいくらですか?
A. 標準額は戸籍謄本が1通450円、除籍謄本・改製原戸籍謄本が1通750円で、本籍地で取得する場合と同じです。金額は各市区町村の条例で定められています。
Q. 相続税申告には戸籍謄本の原本が必要ですか?
A. 原本でなくても提出できます。被相続人の全ての相続人を明らかにする戸籍謄本(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの)のほか、図形式の法定相続情報一覧図の写しや、それらをコピー機で複写したものでも認められています。
広域交付で戸籍集めのハードルは下がりましたが、相続人の確定や財産評価、特例適用の判断には専門的な検討が欠かせません。相続の状況はご家庭ごとに異なりますので、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。相続税専門の税理士法人プライムパートナーズが、戸籍収集の段取りから申告まで一貫してサポートいたします。