毎年届く固定資産税の納税通知書に書かれた評価額を見て、「この金額で相続税がかかるのだろうか」と不安になる方は少なくありません。結論から申し上げますと、家屋は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になり、土地は地域によって固定資産税評価額を使う場合と使わない場合があります。つまり、固定資産税評価額は相続税を考えるうえで有力な手がかりになりますが、そのまま相続税評価額になるとは限りません。この記事では、固定資産税評価額と相続税評価額の関係を整理したうえで、手元の課税明細書から相続税の目安をつかむ手順と、概算だけで判断すると危険な場面をやさしく解説します。
固定資産税評価額と相続税評価額の関係
まず押さえておきたいのは、二つの評価額がまったく別の税金のために作られた数字だという点です。同じ不動産についていながら、目的も決める人も異なります。ここを混同すると、相続税の見込みを大きく読み違えてしまいます。
二つの評価額の役割の違い
固定資産税評価額は、固定資産税や都市計画税を計算するために市区町村(東京23区は都)が決めて課税台帳に登録している価格です。相続税の場面でも参照する場面がありますが、その場合は都税事務所や市(区)役所、町村役場で確認することになります。国税庁 No.4602 土地家屋の評価
一方の相続税評価額は、相続税や贈与税を申告するために納税者自身が計算する価額です。土地や家屋は時価で評価することとされていますが、申告の便宜と課税の公平を図る観点から、国税局が毎年、路線価と評価倍率を定めて公開しています。国税庁 令和8年分の路線価等について
| 固定資産税 評価額 |
固定資産税・都市計画税などを課税するために市区町村が決定し、課税台帳に登録している価格。毎年の納税通知書に同封される課税明細書で確認できる。 |
|---|---|
| 相続税 評価額 |
相続税・贈与税の申告のために納税者が自ら計算する価額。土地は路線価方式または倍率方式、家屋は固定資産税評価額をもとに算出する。 |
家屋は固定資産税評価額がそのまま相続税評価額
家屋については、話は非常にシンプルです。固定資産税評価額に1.0を乗じた金額で評価するため、結果として相続税評価額は固定資産税評価額と同じ金額になります。財産評価基本通達でも、家屋の価額は固定資産課税台帳に登録された価格に別表1に定める倍率を乗じて計算すると定められています。国税庁 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利
建築費が3,000万円かかった自宅であっても、固定資産税評価額が1,500万円であれば、相続税の計算上の価額は1,500万円です。建物は建築費や売却相場ではなく固定資産税評価額を基準に評価するため、実感より低い金額になることが多くあります。
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土地は地域によって使う数字が変わる
土地の評価方法には路線価方式と倍率方式の二つがあります。路線価が定められている地域(路線価地域)では路線価方式で評価し、路線価が定められていない地域(倍率地域)では倍率方式で評価します。つまり、倍率地域の土地では固定資産税評価額が計算の出発点になり、路線価地域の土地では固定資産税評価額を直接は使いません。この分岐が、固定資産税評価額と相続税の関係をわかりにくくしている最大の理由です。
一物四価における固定資産税評価額の位置づけ
一つの土地に複数の価格が付いていることを、実務では「一物四価」と呼びます。数字が食い違うのは誤りではなく、それぞれ目的が違うためです。全体像をつかんでおくと、手元の評価額がどの位置にある数字なのかが見えてきます。
四つの価格の役割
| 価格の種類 | 主な役割 |
|---|---|
| 実勢価格 | 実際に売買が成立する取引価格 |
| 地価公示価格 | 土地取引や公共用地取得の指標となる価格 |
| 相続税路線価 | 相続税・贈与税の土地評価の基準 |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税・都市計画税などの課税標準の基礎 |
路線価は地価公示価格の80%程度
相続税路線価と評価倍率は、その年の1月1日を評価時点として、1年間の地価変動などを考慮し、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定められています。この80%という水準は国税庁が公表している目安であり、相続税評価額が実際の取引価格より低めに算定される傾向がある理由でもあります。
なお、固定資産税評価額がどの水準に設定されているかについて、国税庁は具体的な割合を示していません。インターネット上では「固定資産税評価額は公示価格の7割程度」という説明を見かけますが、これは相続税の法令や通達で定められた数値ではありません。あくまで実務上の経験則として扱い、正式な評価は後述の方法で行う必要があります。
固定資産税評価額から相続税評価額を求める手順
ここからは、手元の課税明細書の数字を使って相続税評価額を求める具体的な手順を見ていきます。倍率地域かどうかで扱いが分かれる点が最大のポイントです。
倍率地域は倍率方式で正式に計算できる
倍率方式では、その土地の固定資産税評価額に、地価事情の類似する地域ごとに定められた評価倍率を乗じて評価額を算出します。国税庁 No.4606 倍率方式による土地の評価倍率は国税庁の「評価倍率表」で地域ごとに確認します。
たとえば固定資産税評価額が1,400万円、その地域の宅地の評価倍率が1.1倍であれば、次のように計算します。
倍率地域の場合、これは概算ではなく申告にそのまま使える正式な評価額です。固定資産税評価額が判明していれば、土地の評価は比較的シンプルに済みます。
路線価地域では路線価方式が原則
路線価地域では、評価する宅地が面する路線の路線価を基礎に、奥行価格補正率などの各種補正率で補正したうえで地積を乗じて計算します。国税庁 No.4604 路線価方式による宅地の評価この方式では固定資産税評価額を使わないため、課税明細書の金額をそのまま当てはめることはできません。
それでも、固定資産税評価額しか手元にない段階で概算をつかみたい場面はあります。その場合、実務では固定資産税評価額を一度時価の水準に割り戻し、そこに相続税評価の水準を掛け直す考え方が用いられることがあります。
ただし、この計算はあくまで目安であり、国税庁が定めた評価方法ではありません。割り戻しに使う0.7という数値は法令上の根拠がなく、土地の形状や接道状況による補正も反映されていません。申告のための金額としては使えず、「おおよその規模感をつかむための試算」と位置づけてください。
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評価額から相続税の要否を見通す
土地と家屋の評価額が概算できたら、預貯金などほかの財産と合算し、遺産に係る基礎控除額と比べます。相続税の申告と納税は、取得した財産の価額の合計額から債務などを差し引いた金額が遺産に係る基礎控除額を超える場合に必要となり、基礎控除額の範囲内であれば申告も納税も不要です。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
申告が必要な場合の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。不動産の評価に時間がかかることを考えると、早めの着手が安心につながります。
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課税明細書と固定資産評価証明書の見方
ここまでの計算は、すべて正しい固定資産税評価額を把握できていることが前提です。手元の書類のどこを見ればよいのか、確認しておきましょう。
課税明細書で確認する欄
固定資産税の納税通知書に同封されている課税明細書には、土地と家屋それぞれの評価額が記載されています。ここで注意したいのが、似た名称の欄が並んでいる点です。
| 価格 (評価額) |
相続税評価で使うのはこの金額。市区町村が決定した固定資産税評価額そのもの。 |
|---|---|
| 課税標準額 | 住宅用地の特例や負担調整措置を適用した後の金額。固定資産税の計算用であり、相続税評価には使わない。 |
住宅が建っている土地では特例により課税標準額が価格より大幅に低くなっていることがあります。課税標準額を使ってしまうと相続税評価額を過小に見積もるため、必ず「価格」欄の金額を確認してください。
固定資産評価証明書の取得
課税明細書が見つからない場合や、共有物件・非課税物件で金額が読み取りにくい場合は、固定資産評価証明書を取得します。国税庁も、固定資産税評価額は都税事務所や市(区)役所または町村役場で確認できると案内しています。相続手続では、被相続人名義の証明書を相続人が請求することになるため、戸籍謄本など相続関係を示す書類と本人確認書類を持参するのが一般的です。
年度の取り違えに注意
固定資産税評価額は3年ごとに評価替えが行われます。相続税の評価に用いるのは相続が発生した年度の固定資産税評価額です。前年の課税明細書をそのまま使うと、評価替えの年をまたいだ場合に金額がずれてしまいます。手元の書類が何年度のものかを必ず確かめましょう。
概算だけで判断すると危険なケース
固定資産税評価額からの概算はあくまで出発点です。実際の相続税評価では、評価額が大きく下がる要素や、逆に計算が複雑になる要素が数多く存在します。ここを見落とすと、本来納めなくてよい税額を払ってしまうおそれがあります。
土地の形状や接道による補正
路線価方式では、奥行距離、不整形の度合い、角地といった土地の形状等に基づき価額を補正する画地調整率が適用されます。間口が狭い土地、極端に細長い土地、いびつな形の土地などは、補正によって評価額が下がる可能性があります。固定資産税評価額からの単純な概算では、こうした減額要素は一切反映されません。
賃貸している土地・建物
賃貸されている土地や家屋については、権利関係に応じて評価額が調整されます。たとえばアパートの敷地は貸家建付地として、自用地としての価額から借地権割合・借家権割合・賃貸割合を乗じた金額を控除して評価します。国税庁 No.4614 貸家建付地の評価賃貸物件をお持ちの場合、概算より評価額が下がることが少なくありません。
小規模宅地等の特例
被相続人等の事業用または居住用に使われていた宅地等のうち一定のものについては、限度面積までの部分の評価額を一定割合減額する特例があります。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)自宅の敷地に適用できれば税額が大きく変わるため、概算段階で「相続税がかかりそうだ」と判断した場合でも、特例の適用により結果が変わることがあります。
分譲マンションの評価
マンションは、敷地利用権(土地部分)の価額と区分所有権(家屋部分)の価額の合計で評価します。さらに、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産については、それぞれの価額に区分所有補正率を乗じて計算する場合があります。国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価固定資産税評価額をそのまま足し合わせる方法では、正しい評価額にたどり着けません。
税理士に評価を依頼すべきケース
ご自身で概算するだけで十分な場合と、専門家の関与が必要な場合があります。次のいずれかに当てはまるときは、早めに相続税に詳しい税理士へご相談いただくことをおすすめします。
- 概算した財産の合計が基礎控除額の8割を超えている場合。補正や特例の判断で申告要否そのものが変わります。
- 土地の形が整っていない、間口が狭い、二方向以上の道路に接しているなど、補正の判断が必要な場合。
- アパート、貸店舗、貸地など、賃貸している不動産がある場合。
- 自宅の敷地や事業用の敷地について、小規模宅地等の特例の適用を検討したい場合。
- 分譲マンションや複数の市区町村にまたがる不動産を相続した場合。
- 相続開始から時間が経っており、10か月の申告期限が迫っている場合。
不動産の評価は、同じ土地でも判断の積み重ねによって結果が変わります。概算で不安が残るときほど、早い段階で専門家の目を入れておくと安心です。
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まとめ
固定資産税評価額は、相続税を考えるうえで最も身近な手がかりです。家屋は固定資産税評価額に1.0を乗じた金額がそのまま相続税評価額となり、倍率地域の土地は固定資産税評価額に評価倍率を乗じて正式に評価できます。一方、路線価地域の土地は路線価方式で計算するため、固定資産税評価額から求める金額はあくまで目安にとどまります。
課税明細書では「課税標準額」ではなく「価格」欄を見ること、相続が発生した年度の評価額を使うこと。この二点を守るだけでも、見込み違いはかなり防げます。そのうえで、土地の形状補正、貸家建付地、小規模宅地等の特例といった減額要素は概算に反映されないため、実際の税額は概算より低くなる可能性があることも覚えておいてください。
関連コラム相続税のシミュレーション|自分でできる試算6ステップと計算例▸
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務判断を保証するものではありません。具体的な取扱いは、税務署または税理士にご確認ください。
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- 国税庁 No.4602 土地家屋の評価
- 国税庁 令和8年分の路線価等について
- 国税庁 第3章 家屋及び家屋の上に存する権利
- 国税庁 No.4606 倍率方式による土地の評価
- 国税庁 No.4604 路線価方式による宅地の評価
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4614 貸家建付地の評価
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価
固定資産税評価額と相続税のよくある質問まとめ
Q. 固定資産税評価額と相続税評価額は同じ金額ですか。
A. 家屋は固定資産税評価額に1.0を乗じて評価するため、相続税評価額は固定資産税評価額と同じ金額になります。土地は地域によって異なり、倍率地域では固定資産税評価額に評価倍率を乗じた金額、路線価地域では路線価を基礎に補正率と地積を乗じた金額が相続税評価額となります。
Q. 固定資産税評価額を0.7で割って0.8を掛ける計算で申告できますか。
A. 申告には使えません。この計算は実務上おおよその規模感をつかむための目安であり、国税庁が定めた評価方法ではありません。正式には、路線価地域は路線価方式、倍率地域は倍率方式で計算します。
Q. 課税明細書のどの欄を見ればよいですか。
A. 相続税評価で使うのは「価格」または「評価額」と書かれた欄の金額です。「課税標準額」は住宅用地の特例や負担調整措置を適用した後の固定資産税計算用の金額であり、相続税評価には使いません。
Q. 何年度の固定資産税評価額を使えばよいですか。
A. 相続が発生した年度の固定資産税評価額を使います。固定資産税評価額は3年ごとに評価替えが行われるため、前年の課税明細書をそのまま使うと金額がずれる場合があります。
Q. 相続税路線価は実際の取引価格とどのくらい違いますか。
A. 国税庁は、路線価等について1月1日を評価時点とし、1年間の地価変動などを考慮して地価公示価格等を基にした価格の80パーセント程度を目途に定めていると公表しています。実際の取引価格は個別事情で変動するため、必ずしも一定の比率にはなりません。
Q. 固定資産税評価額から概算した金額より相続税が安くなることはありますか。
A. あります。土地の形状等に応じた補正、貸家建付地としての調整、小規模宅地等の特例など、概算には反映されない減額要素が多数あります。概算で申告が必要と思われる場合でも、正式な評価により結果が変わることがあります。