「相続税がどのくらいかかるのか、自分で計算してみたい」とお考えの方は多いのではないでしょうか。相続税は、財産の合計額にそのまま税率をかけて求めるものではなく、いくつかの段階を踏んで計算する仕組みになっています。手順を知らないまま電卓を叩くと、実際の税額と大きくかけ離れた数字が出てしまいます。
この記事では、ご自身で相続税をシミュレーションするための手順を、6つのステップに分けてご説明しますね。各ステップで実際の数字を当てはめながら進められるよう、計算式を一つずつ示していきます。後半では、配偶者と子2人のご家庭など3つの世帯モデルで最後まで計算しきった例もご紹介します。読み終える頃には、ご自宅のケースに置き換えて試算できる状態になっているはずです。
相続税シミュレーションの全体像
相続税の計算は、「財産を集計する」「基礎控除を引く」「いったん法定相続分で分けて税率をかける」「実際の取得割合で割り振る」という流れで進みます。実際に取得した財産に直接税率をかけるわけではない、という点が最初のつまずきどころです国税庁 No.4152 相続税の計算。
試算に必要な6つのステップ
シミュレーションの全体像は、次の6段階です。まずはこの順序を頭に入れてから、順に数字を入れていきましょう。
| ステップ1 | 財産の棚卸しをして正味の遺産額を求める |
|---|---|
| ステップ2 | 法定相続人の数から基礎控除額を計算する |
| ステップ3 | 正味の遺産額から基礎控除額を引いて課税遺産総額を出す |
| ステップ4 | 課税遺産総額を法定相続分で按分する |
| ステップ5 | 速算表を使って相続税の総額を計算する |
| ステップ6 | 実際の取得割合で按分し、税額控除を差し引く |
ステップ4で一度「法定相続分で分けたものと仮定して」計算するのが、相続税ならではの特徴です。ここを飛ばして遺産総額に直接税率をかけてしまうと、税額が過大に出てしまいます。
試算の前提となる法定相続人の数え方
すべての計算の土台になるのが法定相続人の数です。配偶者は常に相続人になり、そこに第1順位の子、子がいなければ第2順位の直系尊属(父母など)、いずれもいなければ第3順位の兄弟姉妹が加わります国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分。
試算の際に注意したいのは、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとした場合の人数で数える点です。また養子がいる場合、法定相続人の数に含められる養子は、実子がいるときは1人、実子がいないときは2人までに制限されます。この人数の取り違えは、基礎控除額を600万円単位でずらしてしまうため、最初に必ず確認しておきましょう。
ステップ1 財産の棚卸しと正味の遺産額の算出
最初に行うのは、亡くなった方(被相続人)の財産をすべて洗い出す作業です。ここで漏れがあると、その後の計算をどれだけ正確に行っても結果は狂ってしまいます。
課税対象となる財産の範囲
相続税の対象になるのは、現金や預貯金、土地・建物、有価証券、貸付金、書画骨とうなど、金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべての財産です国税庁 No.4105 相続税がかかる財産。実務では、通帳の残高だけを集計して、名義預金や貸金庫の中身、ネット証券の口座を見落とすケースがよくあります。
さらに、被相続人が亡くなったことによって受け取る死亡保険金や死亡退職金も、民法上の相続財産ではないものの、相続税では課税対象として扱われます。これらを「保険金だから関係ない」と外してしまうと、試算額が実際より小さく出てしまいます。
非課税枠と債務・葬式費用の控除
死亡保険金と死亡退職金には、それぞれ独立した非課税限度額が設けられています。いずれも「500万円×法定相続人の数」で計算し、この枠を超えた部分だけが課税対象になります国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金。
一方、借入金や未払いの医療費・税金といった債務は財産から差し引けます国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務。通夜や本葬にかかった葬式費用も同様に控除できますが、香典返しの費用や墓碑・墓地の購入費、初七日など法会に要する費用は対象外とされています国税庁 No.4129 相続財産から控除できる葬式費用。
加えて、被相続人から生前に暦年課税の贈与を受けていた場合、加算対象期間内の贈与財産を課税価格に加算します。被相続人の相続開始日が令和8年12月31日以前であれば、加算対象期間は相続開始前3年以内です国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)。
ここまでを整理すると、ステップ1の計算式は次のようになります。
試しに、自宅土地建物3,000万円・預貯金3,700万円・有価証券1,000万円・死亡保険金2,000万円・債務および葬式費用200万円、法定相続人が3人というご家庭で計算してみます。
ステップ2 基礎控除額の計算
正味の遺産額が出たら、次に基礎控除額を計算します。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で求めます国税庁 No.4102 相続税がかかる場合。
法定相続人の数ごとの基礎控除額は、次のとおりです。試算のたびに計算し直さなくて済むよう、目安として押さえておくと便利です。
| 1人 | 3,600万円 |
|---|---|
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
先ほどの例では法定相続人が3人でしたので、基礎控除額は4,800万円になります。
ステップ3 課税遺産総額の算出
ステップ1で求めた正味の遺産額から、ステップ2の基礎控除額を差し引きます。この残りが課税遺産総額で、実際に税率をかける対象になる金額です。
例に当てはめると、次のとおりです。
この段階で計算結果がゼロ以下になれば、相続税はかからず、原則として申告も不要です。プラスの数字が残った場合だけ、ステップ4以降に進みます。「うちは課税対象になるのだろうか」という判定だけを知りたい方は、ここまでの3ステップで答えが出ます。
ステップ4 法定相続分による按分
課税遺産総額が出たら、それを各法定相続人が法定相続分どおりに取得したものと仮定して分けます。実際の遺産分割の内容がどうであれ、この段階では必ず法定相続分を使います。遺産分割の割合によって国全体の税収が変わってしまわないようにするための仕組みです。
主な組み合わせの法定相続分は次のとおりです。
| 配偶者と子 | 配偶者2分の1、子(全員)2分の1 |
|---|---|
| 配偶者と直系尊属 | 配偶者3分の2、直系尊属(全員)3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者4分の3、兄弟姉妹(全員)4分の1 |
| 子のみ | 子(全員)で全額を均等に分ける |
子や兄弟姉妹が複数いる場合は、その順位の相続分をさらに人数で均等に分けます。配偶者と子2人であれば、配偶者2分の1、子はそれぞれ4分の1ずつという計算です。
課税遺産総額3,200万円を配偶者と子2人で按分すると、次のようになります。なお、この金額に1,000円未満の端数があるときは切り捨てて計算します。
ステップ5 速算表による相続税の総額の算出
ステップ4で求めた「法定相続分に応ずる取得金額」を、相続税の速算表に当てはめます。相続税は取得金額が大きいほど税率が上がる超過累進税率になっており、速算表の控除額を引くことで一度の掛け算で税額を求められる仕組みです国税庁 No.4155 相続税の税率。
| 1,000万円以下 | 税率10%・控除額なし |
|---|---|
| 1,000万円超から 3,000万円以下 |
税率15%・控除額50万円 |
| 3,000万円超から 5,000万円以下 |
税率20%・控除額200万円 |
| 5,000万円超から 1億円以下 |
税率30%・控除額700万円 |
| 1億円超から 2億円以下 |
税率40%・控除額1,700万円 |
| 2億円超から 3億円以下 |
税率45%・控除額2,700万円 |
| 3億円超から 6億円以下 |
税率50%・控除額4,200万円 |
| 6億円超 | 税率55%・控除額7,200万円 |
ここで気をつけたいのは、相続人1人ひとりについて速算表を当てはめるという点です。課税遺産総額そのものに税率をかけると、より高い税率区分に入ってしまい、税額が大きく膨らんでしまいます。
先ほどの配偶者1,600万円・子800万円ずつのケースで計算してみます。
この350万円が、この家庭全体で負担する相続税の総額です。次のステップで、実際に誰がいくら納めるのかを決めていきます。
ステップ6 各人への按分と税額控除
相続税の総額が出たら、今度は実際に取得した財産の割合で各人に割り振ります。ステップ4の法定相続分とは違い、ここでは遺産分割協議で決まった実際の取り分を使います。
そのうえで、それぞれの事情に応じた税額控除を差し引いた残りが、実際の納付税額になります。試算でよく使う控除は次のとおりです。
| 配偶者の税額の軽減 | 1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額まで、配偶者に相続税はかからない |
|---|---|
| 未成年者の税額控除 | 18歳になるまでの年数1年につき10万円 |
| 障害者の税額控除 | 85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者は20万円) |
配偶者の税額の軽減は影響が最も大きい制度で、配偶者が実際に取得した正味の遺産額が1億6,000万円以下であれば、配偶者の相続税は生じません国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減。ただし、この軽減を受けるには相続税の申告書の提出が必要で、申告期限までに分割されていない財産は対象になりません。
未成年者の税額控除は、18歳になるまでの年数1年につき10万円で計算します。1年未満の期間は切り上げるため、15歳9か月であれば3年分の30万円が控除額です国税庁 No.4164 未成年者の税額控除。障害者の税額控除は、85歳になるまでの年数1年につき10万円、特別障害者の場合は20万円で計算します国税庁 No.4167 障害者の税額控除。
逆に、税額が増えるケースもあります。財産を取得した人が被相続人の配偶者・父母・子のいずれでもない場合、その人の相続税額に2割が加算されます。孫やきょうだい、お世話になった方への遺贈を試算に含めるときは、この加算を忘れないようにしてください国税庁 No.4157 相続税額の2割加算。
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世帯モデル別のシミュレーション例
ここからは、6つのステップを最後まで通した計算例を3つご紹介します。ご自身の家族構成に近いモデルを選び、金額を置き換えながら読み進めてみてください。
配偶者と子2人で8,000万円のケース
正味の遺産額8,000万円、法定相続人は配偶者と子2人の合計3人、実際の分割も法定相続分どおり(配偶者2分の1、子それぞれ4分の1)とします。
配偶者が実際に取得した4,000万円は1億6,000万円以下ですので、配偶者の税額の軽減により配偶者の納付税額は0円になります。
子2人のみで8,000万円のケース
同じ8,000万円でも、配偶者が既に亡くなっていて子2人だけが相続人になると、結果は大きく変わります。法定相続人が1人減って基礎控除額が下がり、配偶者の税額の軽減も使えなくなるためです。
財産額は同じ8,000万円なのに、納付税額は175万円から470万円へと約2.7倍になりました。父母それぞれの相続を通算した負担を考えるときは、一次相続の分け方が二次相続の税額を左右します。
関連コラム二次相続対策は一次相続の分割割合で決まる|按分別試算▸
配偶者と子1人で1億5,000万円のケース
財産額が大きく、法定相続人が少ない場合の例です。正味の遺産額1億5,000万円、法定相続人は配偶者と子1人の合計2人、分割は法定相続分どおり(各2分の1)とします。
配偶者が取得した7,500万円は1億6,000万円以下ですので、配偶者の納付税額は0円です。結果として、子が920万円を納めることになります。
3つのモデルを並べると、財産額そのものよりも法定相続人の数と配偶者の有無が税額を大きく動かすことが分かります。
| 配偶者と子2人・8,000万円 | 納付税額の合計175万円 |
|---|---|
| 子2人のみ・8,000万円 | 納付税額の合計470万円 |
| 配偶者と子1人・1億5,000万円 | 納付税額の合計920万円 |
ご自身の家族構成での税額の目安をもう少し広く見比べたい方は、遺産総額と相続人の数の組み合わせを一覧にした早見表もあわせてご覧ください。
関連コラム相続税の早見表|遺産総額と相続人の数で税額の目安が一目でわかる▸
試算結果を扱う際の注意点
ご自身で計算した数字は、あくまで目安として受け止めていただくのが安全です。実際の申告額とずれる主な原因は、次の3点にあります。
1つ目は不動産の評価額です。土地は路線価方式または倍率方式で評価しますが、形がいびつな土地や間口が狭い土地、私道に接する土地などは補正が入り、単純な路線価×面積では求められません。試算では固定資産税評価額や路線価をもとにした概算を使い、正確な金額は評価の段階で確定させることになります。
2つ目は特例の適用です。とくに小規模宅地等の特例は、被相続人の居住用宅地等について330平方メートルまでの部分の評価額を80%減額できる制度で、適用の有無で税額が大きく変わります国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)。ただし要件が細かく、同居していたかどうかや申告期限まで保有していたかなどで判定が分かれます。
関連コラム小規模宅地の特例とは|4区分の限度面積と80%減額を徹底解説▸
3つ目は申告と納付の期限です。相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります国税庁 No.4205 相続税の申告と納税。配偶者の税額の軽減や小規模宅地等の特例は、適用した結果として税額が0円になる場合でも申告書の提出が必要です。「試算したら0円だったので何もしなくてよい」と判断してしまうのは、実務で最も多い誤解の一つです。
相続税は個別の事情によって結論が変わりやすい税金です。試算の結果、納税が生じそうな場合や不動産の評価に不安が残る場合は、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
まとめ
相続税のシミュレーションは、財産の棚卸しから始まり、基礎控除額の計算、課税遺産総額の算出、法定相続分での按分、速算表による税額計算、実際の取得割合での按分と税額控除という6つのステップで進みます。とくに「いったん法定相続分で分けてから税率をかける」という4番目と5番目の手順を押さえておけば、大きく外れた数字が出ることはありません。
今回の3つのモデルが示すとおり、相続税額を左右するのは財産額だけではありません。法定相続人が何人いるか、配偶者が相続するかどうかによって、同じ8,000万円でも納付税額は175万円にも470万円にもなります。まずはご家庭の法定相続人を確定させ、基礎控除額を計算するところから始めてみてください。
参考文献
- 国税庁 No.4102 相続税がかかる場合
- 国税庁 No.4105 相続税がかかる財産
- 国税庁 No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
- 国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 No.4126 相続財産から控除できる債務
- 国税庁 No.4129 相続財産から控除できる葬式費用
- 国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
- 国税庁 No.4152 相続税の計算
- 国税庁 No.4155 相続税の税率
- 国税庁 No.4157 相続税額の2割加算
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
- 国税庁 No.4164 未成年者の税額控除
- 国税庁 No.4167 障害者の税額控除
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
相続税のシミュレーションのよくある質問まとめ
Q.相続税のシミュレーションは何から始めればよいですか。
A.まず法定相続人を確定させ、次に財産の棚卸しをして正味の遺産額を求めます。その後に基礎控除額を計算し、差額が残るかどうかで課税の有無が分かります。
Q.基礎控除額はどのように計算しますか。
A.3,000万円に600万円と法定相続人の数を掛けた金額を加えて計算します。法定相続人が3人であれば4,800万円です。
Q.遺産総額にそのまま税率をかけてもよいですか。
A.いいえ。基礎控除額を引いた課税遺産総額を法定相続分で按分し、その一人ひとりの金額に速算表の税率を当てはめます。総額に直接税率をかけると税額が過大になります。
Q.配偶者がいると相続税はどれくらい変わりますか。
A.配偶者の税額の軽減により、配偶者が取得した正味の遺産額が1億6,000万円と法定相続分相当額のいずれか多い金額までは配偶者に相続税がかかりません。正味の遺産額8,000万円の例では、配偶者と子2人で合計175万円、子2人のみで合計470万円になります。
Q.死亡保険金も試算に含める必要がありますか。
A.含めます。ただし500万円に法定相続人の数を掛けた金額までは非課税となり、その枠を超えた部分だけが課税対象です。死亡退職金にも同じ非課税限度額があります。
Q.試算の結果が0円なら申告は不要ですか。
A.基礎控除額以下で0円になる場合は原則として申告不要です。ただし配偶者の税額の軽減や小規模宅地等の特例を使った結果0円になる場合は、申告期限までに申告書を提出する必要があります。