上場株式を相続したとき、多くの方が「亡くなった日の株価で評価するのだろう」と考えます。しかし相続税の計算では、実は4つの価額のうち最も低い価額を選んで評価できる仕組みが用意されています。株価は日々変動するため、この選び方を知っているかどうかで評価額、ひいては納める相続税額が変わります。この記事では、上場株式の相続税評価の具体的な方法を、株価の数値例や計算式を交えて相続税専門の税理士が解説します。
上場株式の相続税評価の基本
上場株式とは、金融商品取引所に上場されている株式をいいます。上場株式は、その株式が上場されている金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格(終値)によって評価するのが原則です。ここでいう課税時期とは、相続の場合は被相続人が亡くなった日を指します[国税庁 No.4632 上場株式の評価]。
ただし原則どおり亡くなった日の終値だけで評価すると、たまたまその日に株価が高騰していた場合に評価額が過大になってしまいます。そこで相続税では、後述する月平均額と比較して、より低い価額を選べる特例が設けられています。まずは基本となる評価の枠組みを整理します。
| 評価の対象 | 金融商品取引所に上場されている株式 |
|---|---|
| 課税時期 | 相続の場合は被相続人が死亡した日 |
| 原則の評価 | 課税時期の最終価格(終値) |
| 評価に使う資料 | 上場株式の評価明細書 |
4つの価額から最も低い価額を選ぶ評価方法
上場株式の相続税評価で最も重要なのが、4つの価額のうち最も低い価額を選べるという点です。具体的には、次の4つを比べて、いちばん低い金額をその株式1株当たりの評価額とします[国税庁 No.4632 上場株式の評価]。
- 課税時期の最終価格(亡くなった日の終値)
- 課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額(当月平均)
- 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額(前月平均)
- 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額(前々月平均)
正確には、国税庁は「課税時期の終値」を原則としたうえで、それが3つの月平均額のうち最も低い価額を超える場合には最も低い価額で評価してよい、と定めています。結果として、実務では終値を含めた4つの価額を並べて最も低いものを選ぶ、と理解しておくと分かりやすいです。
具体的な株価による計算例
実際の数値で確認してみます。ある上場株式を1,000株保有していた方が亡くなり、株価がそれぞれ次のようだったとします。この場合、4つの価額のうち最も低いのは前々月平均の1,450円です。
| 課税時期の終値 | 1,500円 |
|---|---|
| 当月平均 | 1,480円 |
| 前月平均 | 1,520円 |
| 前々月平均 | 1,450円(最も低い) |
この最も低い1,450円に保有株数を掛けたものが、相続税評価額になります。もし原則どおり終値の1,500円で評価していた場合と比べると、評価額を5万円圧縮できます。
実務では、証券会社が発行する残高証明書だけでは月平均額まで分からないことが多く、日本取引所グループなどが公表する株価データや評価明細書を用いて4つの価額を一つずつ確認します。1銘柄ごとに最も低い価額を選ぶため、複数銘柄を保有していた場合は銘柄ごとに計算する点に注意してください。
課税時期に終値がない場合と増資・権利落ちの修正
土日祝日など、亡くなった日に取引がなく終値が存在しないケースもあります。その場合は、課税時期に最も近い日の終値を用いるなど、一定のルールで補います。また、増資に伴う権利落ちや配当落ちがある期間の株価には、そのままでは評価に使えない歪みが生じるため、一定の修正計算を行うことになっています[国税庁 No.4632 上場株式の評価]。
増資・権利落ちがある場合の考え方
増資などで新株の割当てがあると、その権利を確定させる基準日の翌営業日に、理論上は株価が下がる権利落ちが起こります。課税時期がこの権利落ちの前後にまたがると、月平均額に高い株価と低い株価が混在してしまいます。そこで、権利落ちの影響を取り除くための修正を加えたうえで4つの価額を比較します。増資が絡む相続では計算が複雑になりやすいため、早めに専門家へ確認することをおすすめします。
端株(単元未満株)の評価
端株とは、1単元に満たない株式(単元未満株)のことです。端株であっても、上場株式である以上は前述の4つの価額のうち最も低い価額で評価する考え方が基本となります。端数の株式だからと評価を省略できるわけではなく、相続財産として1株単位まで拾い上げて計上する必要があります。
配当期待権・株式の割当てを受ける権利の評価
上場株式そのものだけでなく、株式に付随する権利も相続財産として評価の対象になります。代表的なものが配当期待権と、株式の割当てを受ける権利です。いずれも見落としやすいため、実務では基準日と課税時期の前後関係を必ず確認します。
配当期待権の評価
配当期待権とは、配当金の基準日は過ぎたものの、まだ配当金を受け取っていない状態で相続が発生した場合に生じる、配当を受け取れる権利です。この権利の価額は、課税時期後に受け取ると見込まれる予想配当の金額から、その金額について源泉徴収されるべき所得税等の額を差し引いた金額で評価します[国税庁 財産評価基本通達 株式の割当てを受ける権利の評価]。
受け取り前の配当は、株式本体の評価とは別に計上する必要があります。故人が受け取るはずだった配当金の扱いに迷ったときは、未受領配当金の受け取り手続きの流れもあわせて確認しておくと安心です。死亡後の未受領配当金の受け取り手続きについて詳しく解説した記事も参考になります。
株式の割当てを受ける権利の評価
株式の割当てを受ける権利とは、増資などで新株の割当てを受けられる権利をいいます。この権利の価額は、割当ての対象となる株式について上場株式の評価方法で求めた価額から、その株式1株当たりの払込金額を差し引いた金額で評価します[国税庁 財産評価基本通達 株式の割当てを受ける権利の評価]。たとえば割当対象株式の価額が1,450円、1株当たりの払込金額が1,000円であれば、次のように計算します。
相続税評価と名義変更手続きの違い
上場株式の相続で混同しやすいのが、相続税評価と名義変更手続きの違いです。相続税評価は、相続税を計算するために株式をいくらとみなすかという税務上の作業です。一方の名義変更は、証券会社の口座を故人から相続人へ移すための手続きであり、目的も窓口も異なります。
名義変更は原則として証券会社の口座間で行うため、遺産分割協議書や戸籍などの書類をそろえて証券会社へ申請します。評価額が確定していなくても名義変更は進められますし、逆に名義変更が終わっていなくても相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)は待ってくれません。両者を切り離して並行して進めるのが実務のコツです。株式の相続では、非上場株式の評価やNISA口座の扱いなど、銘柄や口座の種類によって論点が変わります。
- 非上場株式の相続税評価方法は上場株式とは全く異なる計算になります。
- NISA口座の相続手続きは非課税で引き継げるかどうかに注意が必要です。
- 申告漏れがあると相続税の税務調査で対象になりやすいため、株式の計上漏れには特に注意しましょう。
上場株式の評価は数値の確認が中心とはいえ、増資や配当期待権が絡むと判断に迷う場面が出てきます。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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まとめ
上場株式の相続税評価は、課税時期の終値・当月平均・前月平均・前々月平均という4つの価額のうち最も低い価額で評価できるのが最大のポイントです。株価は日々動くため、4つを必ず並べて比較し、銘柄ごとに最も有利な価額を選びましょう。あわせて、配当期待権や株式の割当てを受ける権利といった付随する権利の計上漏れ、増資・権利落ちの修正、端株の扱いにも目を配る必要があります。相続税評価と名義変更手続きは別物と割り切り、10か月の申告期限を意識して早めに準備を進めることが大切です。
参考文献
上場株式の相続税評価のよくある質問まとめ
Q.上場株式の相続税評価はいつの株価を使いますか?
A.原則は被相続人が亡くなった課税時期の終値ですが、当月・前月・前々月の毎日の終値の月平均額を含めた4つの価額のうち最も低い価額で評価できます。
Q.4つの価額とは具体的に何ですか?
A.課税時期の終値、課税時期の属する月の月平均額、その前月の月平均額、前々月の月平均額の4つです。この中で最も低い価額を1株当たりの評価額とします。
Q.亡くなった日に取引がなく終値がない場合はどうしますか?
A.課税時期に最も近い日の終値を用いるなど一定のルールで補います。増資に伴う権利落ちがある場合は、その影響を取り除く修正計算を行ったうえで評価します。
Q.配当期待権も相続税の対象になりますか?
A.配当の基準日を過ぎて未受領のまま相続が発生した場合は配当期待権として評価対象になります。予想配当額から源泉徴収されるべき所得税等を差し引いた金額で評価します。
Q.端株や単元未満株も評価が必要ですか?
A.必要です。端株も上場株式として4つの価額のうち最も低い価額で評価し、1株単位まで相続財産に計上します。
Q.相続税評価と名義変更手続きは同じものですか?
A.別のものです。相続税評価は税額計算のために株式の価額を求める作業で、名義変更は証券会社の口座を相続人へ移す手続きです。申告期限は名義変更を待ってくれないため並行して進めます。