分譲マンションを相続する場面では、これまで相続税評価額と実際の売買価格との間に大きな開きが生じ、その差を利用した節税が問題視されてきました。この状況を是正するため、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産については、新しい評価ルールが適用されています。このページでは、評価乖離率・評価水準・区分所有補正率という三つの指標を用いた計算方法を、具体的な数値例とともに丁寧に解説いたします。
居住用の区分所有財産の評価見直しの概要
今回の見直しは、財産評価基本通達とは別に定められた法令解釈通達によるものです。従来の評価方法では、建物の固定資産税評価額と土地の路線価をもとに評価額を算出していましたが、とりわけ高層階のタワーマンションでは、この評価額が市場価格の3割程度にとどまる例も見られました。この乖離を縮小するため、統計的な分析にもとづく補正率を市場価格に近づける形で導入したものが、今回の新ルールです。
新ルールは、令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産の評価に適用されます[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。それより前に取得した財産には従来の評価方法が適用されるため、取得の時期を正しく確認することが第一歩となります。
新ルールの対象となる財産
この新ルールは、いわゆる分譲マンションを対象としています。具体的には、区分所有登記がされた一棟の区分所有建物のうち、居住の用に供する専有部分に係る区分所有権と敷地利用権が該当します。居住の用とは、構造上、主として居住の用途に供することができるものをいい、原則として登記簿上の建物の種類に「居宅」を含むものが該当します[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。
一方で、次のような財産は新ルールの対象外となり、従来どおりの評価方法が用いられます。
| 一戸建て住宅 | 区分所有登記がされていないため対象外です。地階を除く階数が2以下の建物も対象から除かれます。 |
|---|---|
| 事業用のテナント 物件 |
居住の用に供するものではないため、対象となりません。 |
| 二世帯住宅 | 居住用の専有部分の全てを被相続人またはその親族が居住目的で所有していた場合など、一定のものは対象から除かれます。 |
| たな卸商品等 | 販売目的で保有する不動産は、たな卸商品等の評価によります。 |
このように、対象が分譲マンションに限られ、一戸建てには適用されない点は、今回の見直しを理解するうえで重要な区別となります[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。
評価乖離率の計算方法
新しい評価額は、まず評価乖離率を求めることから始まります。評価乖離率は、マンション一室の相続税評価額が市場価格からどの程度乖離しているかを、四つの指数を用いて統計的に推計する数値です。算式は次のとおりです[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。
AからDまでの各要素は、それぞれ次の指数と係数を掛け合わせて求めます。
各指数の意味は次のとおりです[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。
| 築年数 | 建築の時から課税時期までの年数で、1年未満の端数は1年とします。 |
|---|---|
| 総階数指数 | 総階数(地階を含みません)を33で除した値で、1を超える場合は1とします。 |
| 所在階 | 専有部分の所在する階で、複数階にまたがる場合は低い方の階、地階の場合は零階とします。 |
| 敷地持分 狭小度 |
敷地利用権の面積を専有部分の面積で除した値です。 |
評価乖離率の計算例
ここで、具体的な数値を仮定して評価乖離率を計算してみます。築年数15年、総階数40階、所在階25階、敷地利用権の面積10.5平方メートル、専有部分の面積70平方メートルのマンションを例とします。
まず、総階数指数と敷地持分狭小度を求めます。
次に、AからDまでを計算します。
これらを合計し、定数3.220を加えます。
この例では、評価乖離率は約3.23となります。なお、評価乖離率が零または負数となる場合には、その区分所有権および敷地利用権の価額は評価しない取扱いとされています[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。
評価水準と区分所有補正率の判定
評価乖離率が求まったら、次に評価水準を計算します。評価水準は、評価乖離率の逆数で、相続税評価額が市場価格に占める割合の目安を表します。
この評価水準の区分に応じて、区分所有補正率が次のとおり定まります[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。
| 評価水準の区分 | 区分所有補正率 |
|---|---|
| 評価水準が0.6未満 | 評価乖離率 × 0.6 |
| 評価水準が0.6以上1以下 | 補正なし |
| 評価水準が1を超える | 評価乖離率 |
ここで注目すべきは、評価水準が0.6未満の場合に補正率が評価乖離率に0.6を乗じた値となる点です。評価水準が0.6を下回るということは、従来の評価額が市場価格の6割に満たないほど低いことを意味します。この場合に補正率を適用することで、評価額が理論上、市場価格の6割の水準まで引き上げられる仕組みとなっています。これが最低評価水準60パーセントと呼ばれる考え方です。
区分所有補正率の計算例
先ほどの評価乖離率3.23の例で、評価水準と区分所有補正率を求めます。
評価水準は約0.31となり、0.6未満に該当します。したがって、区分所有補正率は評価乖離率に0.6を乗じて求めます。
この補正率を、従来の評価方法で求めた敷地利用権の自用地としての価額と、区分所有権の自用家屋としての価額のそれぞれに乗じることで、新ルールによる評価額が算出されます[国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A]。
総則6項との判断軸の違い
マンションの評価をめぐっては、これまで財産評価基本通達の総則6項が適用される事例が注目されてきました。総則6項は、通達どおりの評価が著しく不適当と認められる場合に、国税庁長官の指示を受けて個別に評価額を修正する定めです。相続税の総則6項とは?タワマン節税の伝家の宝刀を徹底解説で詳しく取り上げています。
今回の居住用の区分所有財産の評価は、あらかじめ定められた算式にもとづきすべての対象マンションに一律に適用されるルールです。これに対して総則6項は、著しい乖離があるなどの個別事情がある場合に例外的に発動されるものであり、両者は適用の性質が異なります。新ルールが適用されたからといって総則6項の適用が完全に排除されるわけではありませんが、日常的な評価の場面では、まず新ルールに沿って計算することが基本となります。
評価額算出の手順と実務
実際の評価にあたっては、国税庁が公表する区分所有補正率の計算明細書を用いることで、評価乖離率から補正率までを整理して計算できます。土地の評価に用いる路線価の確認方法については、相続した不動産の路線価の調べ方|国税庁サイトでの評価手順もあわせてご参照ください。また、遺産分割の場面での不動産評価の考え方は、遺産分割協議での土地や建物の評価方法は?わかりやすく解説で解説しています。
敷地利用権の面積や専有部分の面積は、登記事項証明書や管理規約などから確認する必要があり、貸付用のマンションでは貸家建付地および貸家としての評価もあわせて検討することになります。個別の物件によって確認すべき資料や計算の前提が異なるため、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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まとめ
令和6年1月1日以後に取得した居住用の区分所有財産、すなわち分譲マンションについては、評価乖離率、評価水準、区分所有補正率という三つの指標を順に求めて評価額を算出します。評価乖離率は築年数・総階数指数・所在階・敷地持分狭小度の四つの指数から計算し、その逆数である評価水準が0.6未満であれば、評価乖離率に0.6を乗じた補正率により、評価額が理論上、市場価格の6割の水準まで引き上げられます。一戸建てや事業用テナントは対象外である点、総則6項とは適用の性質が異なる点をふまえ、正確な計算にもとづく申告を心がけることが大切です。
参考文献
- 国税庁 居住用の区分所有財産の評価に関するQ&A
- 国税庁 No.4667 居住用の区分所有財産の評価
- 国税庁 居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)
- 国税庁 B2-6 居住用の区分所有財産の評価に係る区分所有補正率の計算明細書
マンションの相続税評価のよくある質問まとめ
Q.マンションの相続税評価の新ルールはいつから適用されますか。
A.令和6年1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した居住用の区分所有財産について適用されます。それより前に取得した財産には従来の評価方法が適用されます。
Q.評価乖離率はどのように計算しますか。
A.築年数に△0.033、総階数指数に0.239、所在階に0.018、敷地持分狭小度に△1.195をそれぞれ乗じた値を合計し、定数3.220を加えて計算します。
Q.評価水準とは何ですか。
A.評価水準は評価乖離率の逆数で、1を評価乖離率で除して求めます。相続税評価額が市場価格に占める割合の目安を表します。
Q.区分所有補正率はどのように決まりますか。
A.評価水準が0.6未満の場合は評価乖離率に0.6を乗じた値、0.6以上1以下の場合は補正なし、1を超える場合は評価乖離率がそのまま補正率となります。
Q.一戸建て住宅にもこの新ルールは適用されますか。
A.適用されません。新ルールの対象はいわゆる分譲マンションに限られ、区分所有登記のない一戸建てや、事業用のテナント物件は対象外となります。
Q.新ルールが適用されると総則6項は使われなくなりますか。
A.新ルールはすべての対象マンションに一律に適用される定めであるのに対し、総則6項は個別事情がある場合に例外的に適用されるものです。新ルールの適用により総則6項が完全に排除されるわけではありません。