税理士法人プライムパートナーズ

認知症の親の銀行口座凍結を防ぐ生前対策と引き出し方法

2026-06-26
目次

親が認知症になると、たとえ実の子であっても親の銀行口座からお金を自由に引き出せなくなる場合があります。これは金融機関が本人の意思確認をできないと判断したときに、預金者を保護する目的で口座の取引を制限する「口座凍結」と呼ばれる対応をとるためです。生活費や医療費、介護費用の支払いに親の預金を充てようとしていた家族にとって、この事態は深刻な資金繰りの問題を引き起こします。

本記事では、認知症による口座凍結がなぜ起こるのか、凍結された場合に利用できる限定的な対応、そして最も重要な認知症になる前に備えておくべき生前対策を、税理士法人プライムパートナーズが解説します。口座が凍結されてから慌てるのではなく、判断能力があるうちに家族信託や任意後見契約といった手段を準備しておくことが、家族の資産を守る鍵となります。

認知症で親の銀行口座が凍結される仕組み

認知症による口座凍結は、法律で一律に定められた制度ではなく、各金融機関が預金者保護の観点から行う実務上の対応です。まずはなぜ凍結が起こるのか、その背景を正確に理解しておくことが、適切な備えの出発点となります。

金融機関が本人の意思確認を重視する理由

預金の払戻しや定期預金の解約は、本来、口座の名義人である本人の意思に基づいて行われる契約行為です。金融機関は、名義人が認知症などによって判断能力を失った状態のまま家族が預金を引き出すことを認めてしまうと、本人の財産が本人の意思に反して使われたり、親族間のトラブルに巻き込まれたりするおそれがあると考えます。そのため、窓口での高額な引き出しや解約の際に本人の意思確認ができないと判断すると、口座の取引を制限する対応をとります。これがいわゆる口座凍結です。

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分でない方について、本人の権利を守る人を選ぶことで本人を法律的に支援する制度と位置づけられています[裁判所 成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ]。判断能力が不十分な本人を保護するというこの考え方が、金融機関の口座凍結という対応の根底にもあります。

口座凍結が起こる主なきっかけ

認知症を理由とする口座凍結は、次のような場面で発生する傾向があります。いずれも金融機関が名義人本人の意思を直接確認できない、あるいは判断能力に疑問を持った場合です。

窓口での高額な引き出しや
定期預金の解約時
本人が来店できない、または受け答えから判断能力の低下がうかがえる場合に取引を保留する
家族が認知症の事実を
金融機関に伝えた場合
本人の判断能力低下を金融機関が把握し、以後の取引を制限する
施設入所や入院の手続きで
本人の状況が伝わった場合
本人による契約の継続が難しいと判断されて取引が制限される

凍結されると、原則として本人以外は預金の引き出しや振込、口座の各種変更手続きができなくなります。公共料金の口座振替やクレジットカードの引き落としが停止し、生活に支障が出るケースもあります。

口座が凍結された後にとれる限定的な対応

実際に口座が凍結されてしまった場合でも、いくつかの対応策は存在します。ただし、いずれも手間や制約が大きく、根本的な解決にはなりにくい点に注意が必要です。

成年後見制度の利用

口座凍結後に本人の預金を正式に管理できるようにする代表的な手段が、法定後見(成年後見)制度の利用です。家庭裁判所に申立てを行い、選任された成年後見人が本人に代わって財産を管理します。成年後見人は本人の財産に関する法律行為を代理できるため、凍結された口座からの出金も可能になります。

ただし、法定後見は本人の判断能力が既に低下した後に利用する制度であり、後見人の選任には家庭裁判所での手続きと一定の期間を要します。また、後見人には親族が選ばれるとは限らず、弁護士や司法書士などの専門職が選任される場合もあります。後見が開始すると、原則として本人が亡くなるまで制度が続き、財産の使い道は本人の利益のために限定されるため、家族が自由に資産を活用することはできません。成年後見制度は本人の権利を守る制度である一方、あくまで判断能力が低下した後の事後的な救済手段である点を理解しておく必要があります[裁判所 成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ]

金融機関ごとの限定的な救済措置

近年、一部の金融機関では、認知症で判断能力が低下した名義人の家族が、本人の医療費や生活費など本人のための支払いに限って預金を引き出せる取扱いを設けている例があります。こうした対応の可否や条件、必要書類は各金融機関の商品や約款によって大きく異なるため、断定的に見込むことはできません。取引のある金融機関に個別に相談し、どのような対応が可能かを確認する必要があります。

いずれにしても、これらの措置は使途や金額が限定される暫定的なものであり、本人の資産を家族の判断で柔軟に管理できるわけではありません。だからこそ、認知症になる前の生前対策が重要になります。

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認知症になる前に備える生前対策

口座凍結の問題を根本から避けるには、親の判断能力が十分にあるうちに、あらかじめ財産管理の仕組みを整えておくことが最も効果的です。ここでは代表的な二つの生前対策を解説します。

家族信託による財産管理

家族信託は、財産を持つ本人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理や処分を託し、その利益を受ける人(受益者)を定める仕組みです。信託法では、信託は委託者が受託者に財産を移転し、受託者が一定の目的に従ってその財産を管理または処分する仕組みとして定められています[e-Gov法令検索 信託法]

親を委託者兼受益者、子を受託者として家族信託契約を結んでおけば、親が認知症になった後も、受託者である子が信託された財産を管理し、親の生活費や介護費用の支払いに充てられます。信託の対象とした預金は、あらかじめ信託専用の口座で管理するため、親本人の口座が凍結される事態そのものを回避できる点が大きな利点です。ただし、家族信託には契約書の作成や登記などの費用と手間がかかり、対象財産の設計にも専門的な検討が必要です。

任意後見契約による備え

任意後見契約は、本人の判断能力が十分あるうちに、将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ自分が信頼する人を後見人に選び、財産管理などの事務を委託しておく契約です。任意後見契約に関する法律に基づき、契約は公正証書で作成する必要があります[e-Gov法令検索 任意後見契約に関する法律]

実際に本人の判断能力が低下した場合には、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約の効力が生じ、選ばれた任意後見人が本人に代わって財産管理を行います。誰を後見人にするかを本人があらかじめ決められる点が、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見との大きな違いです。任意後見制度は、判断能力が低下する前にあらかじめ結んでおいた契約にしたがって任意後見人が本人を援助する仕組みと位置づけられています[裁判所 成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ]

三つの制度の位置づけの違い

認知症に伴う財産管理の手段は、判断能力が低下する前に備えるものと、低下した後に利用するものに分かれます。それぞれの特徴を整理すると次のとおりです。

制度 利用できる
タイミングと特徴
家族信託 判断能力があるうちに契約。受託者が財産を柔軟に管理でき、口座凍結を回避しやすい
任意後見契約 判断能力があるうちに契約。後見人を本人が選べるが、効力発生後は監督人の下で管理する
法定後見(成年後見) 判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申立て。後見人を家族が選べるとは限らず用途も限定的

家族信託と任意後見は、どちらも親が元気なうちにしか始められません。認知症の症状が進んで判断能力が失われた後では、これらの契約を結ぶことはできず、選択肢は法定後見に限られてしまいます。だからこそ、親が元気な今のうちに備えを始めることが重要です。より広い視点での生前対策については関連記事もあわせてご確認ください。

親の認知症全般に備える生前対策の全体像は親の認知症に備える生前対策|何ができるかを解説で、家族信託にかかる費用や注意点は家族信託の費用の内訳と5つのデメリットを解説で詳しく説明しています。

まとめ

親が認知症になると、金融機関が本人の意思確認をできないと判断した時点で銀行口座が凍結され、家族であっても預金を自由に引き出せなくなるおそれがあります。凍結後には法定後見制度の利用や金融機関ごとの限定的な救済措置といった対応がありますが、いずれも手間や制約が大きく、根本的な解決にはなりにくいのが実情です。口座凍結の問題を避ける最も確実な方法は、親の判断能力が十分にあるうちに家族信託や任意後見契約といった生前対策を準備しておくことです。これらの契約は認知症が進んだ後では結べないため、早めの検討が何より大切です。

本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の事情に応じた判断については専門家へのご相談をおすすめします。

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参考文献

認知症による口座凍結に関するよくある質問まとめ

Q. 親が認知症になると銀行口座は必ず凍結されますか。

A. 必ず凍結されるわけではありません。口座凍結は法律で一律に定められた制度ではなく、金融機関が本人の意思確認をできないと判断したときに預金者保護の観点から行う実務上の対応です。窓口での高額な引き出しや解約の際、または家族が認知症の事実を伝えた場合などに取引が制限される傾向があります。

Q. 口座が凍結されると家族は一切お金を引き出せなくなりますか。

A. 原則として本人以外は預金の引き出しや振込ができなくなります。ただし成年後見人が選任されれば後見人が本人に代わって出金でき、一部の金融機関では本人の医療費や生活費に限って家族が引き出せる取扱いを設けている例もあります。対応の可否や条件は各金融機関により異なります。

Q. 口座が凍結された後でも利用できる制度はありますか。

A. 家庭裁判所に申立てを行い成年後見人を選任してもらう法定後見制度が代表的な手段です。選任された成年後見人が本人に代わって財産を管理し、凍結された口座からの出金も可能になります。ただし手続きに期間を要し、後見人に親族が選ばれるとは限りません。

Q. 口座凍結を避けるために事前にできることは何ですか。

A. 親の判断能力が十分にあるうちに家族信託や任意後見契約を準備しておくことが有効です。家族信託では信託専用の口座で財産を管理するため、親本人の口座が凍結される事態そのものを回避しやすくなります。これらの契約は認知症が進んだ後では結べないため早めの検討が重要です。

Q. 家族信託と任意後見契約の違いは何ですか。

A. 家族信託は本人が受託者に財産の管理や処分を託す仕組みで、受託者が柔軟に財産を管理できます。任意後見契約は将来に備えて後見人を本人が選んでおく契約で、判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。いずれも判断能力があるうちにしか始められません。

Q. すでに認知症が進んでいる場合でも生前対策はできますか。

A. 家族信託や任意後見契約はいずれも本人に契約を結ぶ判断能力があることが前提のため、認知症が進んで判断能力が失われた後では利用できません。この場合の選択肢は家庭裁判所へ申立てを行う法定後見制度に限られます。だからこそ判断能力があるうちの早めの備えが大切です。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

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