税理士法人プライムパートナーズ

農地相続の納税猶予の要件と打切りデメリット

2026-07-03
目次

農地を相続したとき、評価額に対して相続税が高額になり、そのままでは農業を続けられないのではないかと不安に感じる方は少なくありません。こうした事情に配慮して、農地等を相続して農業を継続する農業相続人については、一定の相続税の納税を猶予し、最終的には免除する特例が設けられています。正式には「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」と呼ばれる制度です。

もっとも、この特例は農業の継続を強く前提とした制度であり、途中で農業をやめたり農地を手放したりすると納税猶予が打ち切られ、猶予されていた相続税に利子税を加えて納めることになります。この記事では、適用要件、農業投資価格による評価、免除される場合、打切りの事由と利子税といった判断軸を、国税庁の資料に沿って整理します。

農地等についての相続税の納税猶予及び免除の特例の概要

農業を営んでいた被相続人または特定貸付け等を行っていた被相続人から、一定の相続人が一定の農地等を相続や遺贈によって取得し、農業を営む場合または特定貸付け等を行う場合には、一定の要件の下に、その取得した農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額の納税が猶予されます。この猶予される相続税額を農地等納税猶予税額といいます[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

納税が猶予されるのはあくまで農地等を農業の用に供している間に限られ、農業相続人が農業の継続または特定貸付け等を行っている場合に限って猶予が続きます。相続時精算課税に係る贈与によって取得した農地等については、この特例の適用を受けることはできません[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

特例の適用要件

この特例の適用を受けるためには、被相続人、農業相続人、特例農地等のそれぞれについて要件を満たす必要があります。以下では相続税の申告のしかた(令和7年分用)の記載に沿って整理します。

被相続人の要件

被相続人は、次のいずれかに該当する人であることが求められます[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

要件の型 被相続人が満たすべき状態
農業の継続 死亡の日まで農業を営んでいた人
生前一括贈与 農地等の生前一括贈与をした人(死亡の日まで受贈者が贈与税の納税猶予等の適用を受けていた場合に限る)
特定貸付け等 死亡の日まで特定貸付け等を行っていた人
営農困難時貸付け 相続税の納税猶予等の適用を受けていた人で、営農困難時貸付けをし税務署長に届出をした人

農業相続人の要件

農業相続人は、被相続人の相続人で、原則として相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる人であることが求められます。このほか、農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で経営移譲や営農困難時貸付けを行い税務署長に届出をした人、相続税の申告期限までに特定貸付け等を行った人も農業相続人に該当します。農業経営を開始した人などについては農業委員会の証明が必要となります[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

特例農地等の要件

特例の対象となる農地等は、次のいずれかに該当し、相続税の期限内申告書にこの特例の適用を受ける旨を記載したものであることが必要です[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

  • 被相続人が農業の用に供していた農地等で、相続税の申告期限までに遺産分割された農地等
  • 被相続人が特定貸付け等を行っていた農地または採草放牧地で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で、相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
  • 被相続人から生前一括贈与により取得し、被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予等の適用を受けていた農地等
  • 相続や遺贈によって財産を取得した人が、相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていた農地等

申告手続と担保の提供

この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書を期限内に提出するとともに、農地等納税猶予税額および利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。担保は特例農地等でなくても差し支えなく、特例農地等の全てを担保として提供した場合には、農地等納税猶予税額および利子税の額に見合う担保の提供があったものとみなされます[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

農業投資価格による評価

この特例における納税猶予税額は、農地等の相続税評価額そのものではなく、農業投資価格を基準に計算します。農業投資価格とは、恒久的に農業の用に供される農地等として取引される場合に通常成立する農地等本来の価格であり、土地評価審議会を経て国税局長が決定した価格をいいます。農業投資価格は、国税庁ホームページの「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、取得した農地等の所在する都道府県ごとに確認することができます[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

市街地農地のように宅地並みに評価される農地では、通常の相続税評価額と農業投資価格との差が大きくなり、猶予される税額も大きくなる傾向があります。農地そのものの評価方法については、市街地農地の評価を扱った次の記事もあわせてご確認ください。

宅地造成費でマイナスに?市街地農地の驚きの評価方法と相続税対策

納税が猶予される金額は、次のように整理できます。

農地等納税猶予税額 = 通常の課税価格による相続税額 – 農業投資価格による課税価格に基づく相続税額

納税猶予税額が免除される場合

農地等納税猶予税額は、次のいずれかに該当することとなったときに免除されます[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

農業相続人の死亡 特例の適用を受けた農業相続人が死亡した場合
生前一括贈与 特例農地等の全部を、租税特別措置法第70条の4の規定に基づき農業の後継者に生前一括贈与した場合(特定貸付け等を行っていない農業相続人に限る)
20年間の
営農継続
三大都市圏の特定市以外の区域内に所在する市街化区域内農地等(生産緑地等を除く)について、申告書の提出期限の翌日から農業を20年間継続したとき(都市営農農地等を有しない農業相続人に限り、その農地等に対応する部分に限る)

三大都市圏の特定市以外の生産緑地地区内の農地等については、平成30年度税制改正により、20年営農による免除から終身営農へと見直されています。したがって、多くの農地については農業相続人が亡くなるまで農業を続けることが免除の前提となります[国税庁 平成30年度税制改正により農地等の納税猶予制度が変わりました](出典)

納税猶予の打切り事由と利子税

免除に至る前に、特例農地等について農業経営の廃止、譲渡、転用などの一定の事由が生じた場合には、農地等納税猶予税額の全部または一部について納税の猶予が打ち切られ、その税額と利子税を納付しなければなりません。ここが、この特例を検討するうえで最も注意すべきリスクです[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

主な打切りの事由

打切りの主な事由は次のとおりです。ここでいう譲渡等には、譲渡、贈与または転用のほか、地上権、永小作権、使用貸借による権利もしくは賃借権の設定もしくは消滅、耕作の放棄が含まれます[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

農地等の譲渡等 特例の対象となる農地等の面積の20%を超える農地等を譲渡等した場合は、猶予税額の全額と利子税を納付
農業経営の廃止 特例農地等に係る農業経営を廃止した場合
継続届出書の
不提出
相続税の申告期限から3年ごとに提出すべき継続届出書の提出がなかった場合
増担保等への
不応答
担保価値の減少などにより増担保または担保の変更を求められ、その求めに応じなかった場合

特例の対象となる農地等の面積の20%以下の農地等の譲渡等の場合や、収用等による譲渡の場合には、その割合に応じて猶予税額と利子税を納付することになります。つまり、20%を超えるかどうかが全部打切りと一部打切りの分かれ目となります[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

3年ごとの継続届出書

この特例の適用を受けている農業相続人は、農地等納税猶予税額の全部について免除されるまで、または全部について納税の猶予が打ち切られるまでの間、相続税の申告期限から3年ごとに、引き続きこの特例の適用を受ける旨と特例農地等に係る農業経営に関する事項を記載した継続届出書を提出しなければなりません。この提出がない場合には特例の適用が打ち切られ、農地等納税猶予税額と利子税を納付することになります[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

利子税の割合

打切りにより納付する相続税額については、相続税の申告期限の翌日から納税猶予の期限までの期間の日数に応じ、区分に応じた割合で利子税がかかります。原則的な割合は次のとおりです[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

都市営農農地等を
有する農業相続人
年3.6%
左記以外で市街化区域内農地等に
対応する部分
年6.6%
左記以外の部分 年3.6%

ただし、各年の利子税特例基準割合が7.3%に満たない場合には、その年中においては次の算式により計算した割合(0.1%未満の端数は切捨て、その割合が年0.1%未満となる場合は年0.1%)が適用されます。近年は基準割合が低いため、実際に適用される利子税の割合は原則の割合より低くなります[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

適用される利子税の割合 = 6.6%又は3.6% × 利子税特例基準割合 ÷ 7.3%

なお、平成26年4月1日から令和8年3月31日までの間に特例農地等について収用交換等による譲渡をした場合には、一定の届出により利子税の額が0に軽減される特例が設けられています[国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例](出典)

特例を適用するかどうかの判断軸

この特例は、農地等の評価額が高く相続税の負担が大きいほど、また農業を長く続ける見込みが確かであるほど、効果が大きくなります。一方で、農業を継続する意思や体制が固まっていない場合には、途中で打切りとなり利子税を含めて多額の納税が生じるおそれがあります。将来的に農地を売却したり宅地に転用したりする可能性がある場合には、慎重な検討が必要です。

農地を相続したものの農業を続けない場合には、相続税を一括で納められないときの延納や物納といった他の納税方法も含めて比較することが考えられます。納税方法の選択肢については次の記事もご確認ください。

相続税を現金で一括納付できない場合の延納と物納の要件

また、この特例の適用には相続税の期限内申告と担保の提供が必要であり、申告期限を過ぎると適用を受けられません。申告期限そのものの取扱いについては次の記事で整理しています。

相続税の申告期限と納税期限は10ヶ月!遅れた時の対処法も解説

農地の所在地域や生産緑地の指定の有無、将来の営農計画によって有利不利が変わりますので、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。

まとめ

農地等についての相続税の納税猶予及び免除の特例は、被相続人・農業相続人・特例農地等の要件を満たし、農業投資価格を超える部分の相続税の納税を猶予する制度です。農業相続人の死亡や、三大都市圏の特定市以外の一定の農地についての20年間の営農継続などにより猶予税額が免除される一方、多くの農地では終身営農が前提となります。農地等の面積の20%を超える譲渡等や農業経営の廃止、3年ごとの継続届出書の不提出があると納税猶予が打ち切られ、猶予税額に利子税を加えて納付することになります。制度の効果とリスクの両面を踏まえ、農業を継続する見込みや農地の所在地域を確認したうえで適用の可否を判断することが大切です。

税理士法人プライムパートナーズ オフィス 相続のご質問、まずは無料相談 税理士法人プライムパートナーズ 無料相談はこちら

税理士法人プライムパートナーズへのお問い合わせはこちら

参考文献

  • 国税庁 No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
  • 国税庁 平成30年度税制改正により農地等の納税猶予制度が変わりました

農地の相続税の納税猶予のよくある質問まとめ

Q. 農地を相続すると相続税はどのくらい猶予されますか。

A. 農業相続人が一定の農地等を相続して農業を継続する場合、その農地等の価額のうち農業投資価格による価額を超える部分に対応する相続税額の納税が猶予されます。この猶予される相続税額を農地等納税猶予税額といいます。

Q. 農業投資価格とは何ですか。

A. 恒久的に農業の用に供される農地等として取引される場合に通常成立する農地等本来の価格で、土地評価審議会を経て国税局長が決定した価格です。国税庁ホームページの財産評価基準書で都道府県ごとに確認できます。

Q. 猶予された相続税はどのような場合に免除されますか。

A. 特例の適用を受けた農業相続人が死亡した場合、農業の後継者へ特例農地等の全部を生前一括贈与した場合、三大都市圏の特定市以外の一定の農地について申告期限の翌日から農業を20年間継続した場合などに免除されます。

Q. 農地をどのくらい手放すと納税猶予は打ち切られますか。

A. 特例の対象となる農地等の面積の20%を超える農地等を譲渡等した場合は、猶予税額の全額と利子税を納付します。20%以下の譲渡等や収用等による譲渡の場合は、その割合に応じて猶予税額と利子税を納付します。

Q. 3年ごとの届出をしないとどうなりますか。

A. 農業相続人は免除または打切りまでの間、相続税の申告期限から3年ごとに継続届出書を提出する必要があります。提出がない場合は特例の適用が打ち切られ、農地等納税猶予税額と利子税を納付することになります。

Q. 納税猶予が打ち切られたときの利子税はどのくらいですか。

A. 原則は区分に応じ年3.6%または年6.6%です。ただし利子税特例基準割合が7.3%に満たない場合は所定の算式で計算した低い割合が適用されます。収用交換等による譲渡の場合は一定期間、利子税が0に軽減されます。

事務所概要
社名
税理士法人プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
対応責任者
税理士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊法人の税理士までお問い合わせください。

\ 相続の不安、専門家にまずは無料相談 /
相続税申告でお困りの方へ
土日無料相談会 受付中!
相続税申告実務 経験者待遇あり
スタッフ積極採用中!
士業の先生向け専門家AI
士業AI【税務】