相続した不動産を売却したときにかかる税金は、原則として譲渡所得に対する所得税・復興特別所得税・住民税です。売却価格そのものに課税されるのではなく、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた利益部分にだけかかります。所有期間が5年を超える場合の税率は合計20.315パーセントです。国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
さらに、相続した不動産には税負担を抑えるための特例が用意されています。代表的なものが「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(取得費加算)」と「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(3,000万円の特別控除)」の2つです。いずれも適用できる期間が決まっているため、売却のタイミングが税額を大きく左右します。
「実家を売ったら、いったいいくら税金を払うことになるのだろう」「そもそも相続税を払ったのに、また税金がかかるのか」。そうした不安を抱えたまま売却の話が進んでしまう方は少なくありません。この記事では、相続した不動産の売却にかかる税金の全体像から、計算方法、取得費が分からない場合の対応、2つの特例と期限まで、順を追ってご説明します。
相続した不動産の売却にかかる税金の全体像
相続した不動産を売却するときの税金は、相続の段階と売却の段階で性格がまったく異なります。まずはこの区別を押さえておくと、話の全体像がつかみやすくなります。
譲渡所得に対する所得税と住民税
土地や建物を売却して得た利益は譲渡所得として扱われ、給与など他の所得とは分けて税額を計算する分離課税の対象となります。国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
課税されるのは売却代金の全額ではありません。売却代金から、その不動産を手に入れるためにかかった費用(取得費)と、売るためにかかった費用(譲渡費用)を差し引いた残額が課税の対象です。したがって、差し引いた結果が赤字であれば譲渡所得税はかかりません。
相続税との関係
相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行う税金です。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
これに対して譲渡所得税は、相続した不動産を売却して利益が出たときにかかる別の税金です。同じ不動産をめぐって二重に課税されているように見えますが、相続税は「財産を引き継いだこと」に、譲渡所得税は「売却して利益が出たこと」に対する課税であり、課税の根拠が異なります。この二重感を和らげるために設けられているのが、後述する取得費加算の特例です。
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譲渡所得の計算方法と税率
税額の計算は、譲渡所得を求める段階と、そこに税率を掛ける段階の2段階に分かれます。順にご説明します。
課税譲渡所得金額の算式
課税される譲渡所得金額は、次の算式で求めます。
取得費とは、その不動産を買い入れたときの購入代金や購入手数料などに、その後支出した改良費や設備費を加えた金額です。国税庁 No.3252 取得費となるもの建物については、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します。
譲渡費用は、売るために直接かかった費用です。仲介手数料、売主が負担した印紙税、借家人に支払う立退料、土地を売るために建物を取り壊したときの取壊し費用などが該当します。一方で、固定資産税や修繕費のように資産の維持管理のための費用は譲渡費用になりません。国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの
長期譲渡所得と短期譲渡所得の税率
税率は所有期間によって大きく変わります。判定の基準は譲渡した年の1月1日現在の所有期間であり、売却した日ではない点にご注意ください。
| 譲渡の区分 | 税率(所得税・復興特別所得税・ 住民税の合計) |
|---|---|
| 長期譲渡所得(所有期間5年超) | 20.315パーセント |
| 短期譲渡所得(所有期間5年以下) | 39.63パーセント |
長期譲渡所得の場合、所得税15パーセントと住民税5パーセントがかかり、これに復興特別所得税として基準所得税額の2.1パーセントが加わります。短期譲渡所得の場合は所得税30パーセントと住民税9パーセントとなり、同じく復興特別所得税が加算されます。国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
ここで安心していただきたいのは、相続した不動産の所有期間の考え方です。相続によって取得した土地や建物は、被相続人が取得した時期がそのまま引き継がれます。国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期親が何十年も前に購入した実家であれば、相続の直後に売却しても長期譲渡所得として判定されます。
税額の計算例
相続した実家を4,000万円で売却し、取得費が200万円、譲渡費用が150万円、長期譲渡所得に該当するケースで計算してみます。
4,000万円で売却して700万円を超える税額となると、驚かれる方が多いところです。ただし、この事例は特例を何も使わない前提の計算です。後述する特例が使えれば、税額は大きく下がります。
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取得費が分からない場合の取扱い
相続した不動産では、取得費の資料が残っていないという問題が最も多く生じます。先祖代々の土地であったり、購入が数十年前で売買契約書が見当たらなかったりするケースは珍しくありません。
概算取得費という選択肢
取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。実際の取得費が売った金額の5パーセントを下回る場合も同様です。国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
ただし、この方法を選ぶと譲渡所得が大きく膨らみ、税負担も重くなります。3,000万円で売却した場合の概算取得費は150万円にとどまるため、残りの2,850万円近くが課税対象になってしまうためです。
被相続人の取得費の引継ぎ
相続や贈与によって取得した土地建物を売った場合の取得費は、被相続人がその土地建物を買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算します。また、業務に使われていない土地建物を相続により取得した際に相続人が支払った登記費用や不動産取得税も取得費に含まれます。
つまり、被相続人が保管していた当時の売買契約書や領収書が見つかれば、概算取得費を使わずに済み、税額を大きく抑えられる可能性があります。売却を決める前に、実家の権利証や通帳、古い書類の束を一度確認されることをおすすめします。なお、概算取得費を使う場合には、相続人が支払った登記費用などを取得費に含めることはできません。
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相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続税を納めた方が、その財産を一定期間内に売却した場合には、納めた相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算できます。取得費が増える分だけ譲渡所得が減り、譲渡所得税の負担が軽くなる仕組みです。国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
適用を受けるための要件
この特例の適用を受けるには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること
3つ目の期限が実務上の大きなポイントです。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月ですので、実質的には相続開始から約3年10か月以内に売却する必要があります。この期限を1日でも過ぎると特例は使えません。
申告手続き
特例の適用を受けるためには、一定の書類を添えて確定申告をすることが必要です。具体的には、確定申告書に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」と「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)」の土地・建物用を添えて所轄税務署へ提出します。なお、加算できる金額は、この特例を適用しないで計算した譲渡益の金額が上限となります。
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被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
相続または遺贈により取得した被相続人の居住用家屋やその敷地を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売却し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できます。国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
ただし、令和6年1月1日以後に行う譲渡で、その家屋および敷地を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は、控除額は2,000万円までとなります。
対象となる家屋の条件
特例の対象となる「被相続人居住用家屋」は、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋のうち、次の3つの要件をすべて満たすものに限られます。
| 建築時期 | 昭和56年5月31日以前に建築されたこと |
|---|---|
| 建物の種類 | 区分所有建物登記がされている建物でないこと |
| 同居者の有無 | 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと |
なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど特定事由により相続開始の直前に居住していなかった場合でも、一定の要件を満たすときは対象となる場合があります。
売却に関する要件
売却の側にも複数の要件が設けられています。主なものは次のとおりです。
- 売った人が、相続または遺贈によりその家屋および敷地等を取得した相続人であること
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと
- 譲渡の時において一定の耐震基準を満たすこと、または家屋の全部を取り壊した後に敷地等を売ること
- 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと
相続後に空き家を賃貸に出したり、相続人が住み始めたりすると、この特例は使えなくなります。売却を視野に入れている場合は、相続の時点から用途を変えないことが重要です。
取得費加算の特例との関係
空き家の特例は、売った家屋や敷地等について相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の適用を受けていないことが要件とされています。つまり、同じ不動産について2つの特例を重ねて使うことはできず、どちらか有利な方を選ぶことになります。
一般的には、控除額が定額で大きい空き家の特例のほうが有利になるケースが多い一方、相続税の負担が重く、売却益もそれほど大きくない場合には取得費加算のほうが有利になることもあります。どちらを選ぶかは実際の数字を当てはめて比較する必要があります。
売却時期の判断と確定申告
ここまでご説明したとおり、相続した不動産の売却では期限が税額を左右します。最後に、時期の考え方と申告の実務を整理します。
2つの特例の期限
取得費加算の特例は相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで、空き家の特例は相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までが期限です。いずれも「相続からおおむね3年前後」が一つの区切りになります。
不動産の売却は、相続人同士の話し合い、遺産分割協議、相続登記、買主探しと、想像以上に時間がかかります。特例の期限から逆算して動き出さないと、間に合わないまま期限を迎えてしまうことがあります。
確定申告の時期と方法
譲渡所得の申告は、売却した年の翌年に行う所得税の確定申告で手続きします。申告期間は原則として、その年の翌年2月16日から3月15日までです。国税庁 No.2020 確定申告
特例を使って税額がゼロになる場合であっても、特例の適用には確定申告が必要です。「税金がかからないから申告は不要」と考えて申告をしないと、特例が適用されず本来の税額を求められることになりますので、必ず申告してください。
換価分割を選んだ場合の注意点
相続人が複数いる場合、不動産を売却して代金を分ける換価分割という方法がとられることがあります。この場合、譲渡所得は代金を受け取った相続人それぞれに生じるため、各人が自分の持分に応じて確定申告を行う必要があります。誰か一人がまとめて申告すれば済むわけではない点にご注意ください。
関連コラム換価分割の相続税申告|申告書の記載例と譲渡所得税の3つの注意点▸
まとめ
相続した不動産を売却したときにかかる税金は、譲渡所得に対する所得税・復興特別所得税・住民税です。売却価格ではなく、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた利益に対して課税され、被相続人の取得時期を引き継ぐため多くの場合は長期譲渡所得の20.315パーセントが適用されます。
税負担を抑える鍵は、取得費の資料を探すことと、2つの特例の期限を意識することです。取得費加算の特例は相続税の申告期限の翌日以後3年、空き家の特例は相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日が期限で、両者は同じ不動産について併用できません。
どちらの特例が有利か、そもそも要件を満たすかは、相続税額や売却価格、家屋の状態によって結論が変わります。判断を誤ると数百万円単位で税額が変わることもありますので、具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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- 国税庁 No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
- 国税庁 No.2020 確定申告
- 国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁 No.3252 取得費となるもの
- 国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの
- 国税庁 No.3258 取得費が分からないとき
- 国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
- 国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
相続した不動産の売却にかかる税金のよくある質問まとめ
Q.相続した不動産を売却すると必ず税金がかかりますか。
A.売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた譲渡所得が生じた場合に、所得税・復興特別所得税・住民税がかかります。差し引いた結果が赤字であれば譲渡所得税はかかりません。
Q.相続した不動産の所有期間はいつから数えますか。
A.相続によって取得した土地や建物は、被相続人の取得の時期がそのまま引き継がれます。被相続人が取得した時から、譲渡した年の1月1日までの所有期間で長期か短期かを判定します。
Q.取得費が分からない場合はどうすればよいですか。
A.売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。ただし譲渡所得が大きくなるため、被相続人が保管していた売買契約書や領収書が残っていないか、まず確認することをおすすめします。
Q.取得費加算の特例の期限はいつまでですか。
A.相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡することが要件です。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月ですので、実質的には相続開始から約3年10か月以内となります。
Q.空き家の3000万円特別控除と取得費加算の特例は併用できますか。
A.同じ不動産について併用することはできません。空き家の特例は、売った家屋や敷地等について相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の適用を受けていないことが要件とされています。
Q.特例で税額がゼロになる場合も確定申告は必要ですか。
A.必要です。特例の適用を受けるには一定の書類を添えて確定申告をすることが要件とされています。申告をしないと特例が適用されず、本来の税額を求められることになります。