相続税の申告を終えたあとで「あの預金を入れ忘れていたかもしれない」と気づいたり、そもそも申告が必要だったのか不安になったりする方は少なくありません。相続税の申告漏れは、税務署が持つ情報網と実地調査によって高い確率で把握されます。ただし、ご自身で先に気づいて早く動けば、負担を大きく抑えられる仕組みも用意されています。
相続税の申告と納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税この記事では、申告漏れが発覚する経路、漏れやすい財産、放置した場合のペナルティ、気づいた時の対処の流れを順にご説明しますね。
相続税の申告漏れが発覚する経路
税務署は、相続が起きた事実と、その方が持っていた財産の情報を、申告書とは別のルートで集めています。申告書に書かれた内容とその情報を突き合わせることで、申告漏れの可能性がある事案が絞り込まれる仕組みです。まずは、どのような情報が税務署に届いているのかを整理します。
死亡情報の税務署への通知
相続税法では、死亡の届出に関する情報について、法務大臣が国税庁長官へ、市町村長が所轄税務署長へ通知することが定められています。e-Gov法令検索 相続税法市町村長からの通知には、亡くなった方が持っていた土地や家屋に関する固定資産課税台帳の登録事項も含まれます。つまり、相続が発生した事実と不動産の保有状況は、申告の有無にかかわらず税務署に届いていると考えるのが自然です。
この通知は法律上の義務として行われるものであり、遺族が届け出をするかどうかとは関係がありません。「申告しなければ気づかれない」という前提が成り立たない理由が、ここにあります。
法定調書による財産情報の集約
法定調書とは、所得税法や相続税法などの規定により税務署への提出が義務づけられている資料のことで、現在63種類があります。国税庁 No.7401 法定調書の種類このうち相続税法に規定されているものとして、生命保険金・共済金受取人別支払調書、損害保険金・共済金受取人別支払調書、退職手当金等受給者別支払調書、保険契約者等の異動に関する調書があります。
保険会社や勤務先は、死亡保険金や死亡退職金を支払った際にこれらの調書を税務署へ提出します。受取人の氏名と金額まで記載されるため、生命保険金を申告書に含めていない場合は、突き合わせの段階で差異が表面化します。証券口座の取引や不動産の登記情報も、別の資料情報として蓄積されています。
実地調査と簡易な接触
集めた資料情報をもとに、申告額が過少と想定される事案や無申告と想定される事案について実地調査が行われます。令和6事務年度の相続税の実地調査は9,512件で、そのうち申告漏れ等の非違があったものは7,826件、非違割合は82.3パーセントでした。国税庁 令和6事務年度における相続税の調査等の状況調査対象として選ばれた時点で、多くのケースで何らかの申告漏れが見つかっている実態がうかがえます。
実地調査のほかに、文書や電話による連絡、来署依頼による面接で申告内容の是正を求める「簡易な接触」という手法もあります。令和6事務年度の簡易な接触は21,969件で、申告漏れ等の非違件数は5,796件でした。自宅に調査官が来る形だけが接触の方法ではない点は、押さえておきたいところです。
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申告漏れになりやすい相続財産
申告漏れは、財産を隠そうとした場合だけに起きるものではありません。相続税の対象になると知らないまま計上していない財産や、名義が本人でないために見落とされる財産が中心です。実際の調査結果からも、その傾向がはっきり読み取れます。
現金・預貯金等の申告漏れ
令和6事務年度に把握された申告漏れ相続財産の金額は2,879億円で、そのうち現金・預貯金等が1,247億円と最も多く、全体の43.3パーセントを占めています。次いで有価証券が837億円、土地が393億円でした。自宅で保管していた現金や、日常的に使っていない口座の残高が漏れやすい代表例です。
亡くなる直前に引き出した現金も、相続開始時点で残っていれば相続財産になります。葬儀費用のために引き出した分についても、使い切っていない残額は財産として計上する必要があります。
被相続人以外の名義の預貯金
子や孫の名義になっている預金であっても、亡くなった方の収入から預け入れられ、亡くなった方が管理・運用していたものは、名義にかかわらず相続税の課税対象になります。国税庁 誤りやすい事例⑥ 被相続人以外の名義の財産(預貯金)いわゆる名義預金と呼ばれるもので、通帳や印鑑を誰が保管していたか、名義人が自由に使える状態だったかが判断の分かれ目になります。
過去に贈与を受けた事実がなく、名義を借りていただけと評価される場合は、相続財産として申告書に記載しなければなりません。国税庁が公表した調査事例でも、相続開始前に家族名義の口座へ預金を移していたケースが取り上げられています。良かれと思って作った家族名義の口座が、結果的に申告漏れの原因になることは珍しくありません。
みなし相続財産と生前贈与財産
現金や不動産のような本来の相続財産だけでなく、死亡退職金や、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金も相続税の対象です。国税庁 No.4105 相続税がかかる財産これらはみなし相続財産と呼ばれ、受取人固有の財産であるという感覚から計上を忘れやすい部分です。
また、相続や遺贈で財産を取得した方が、一定の加算対象期間内に被相続人から暦年課税の贈与で受け取った財産も、相続税の課税価格に加算されます。相続時精算課税の適用を受けて取得した贈与財産も同様です。贈与税の申告を済ませている場合でも、相続税の計算では別途の取り扱いが必要になります。
海外資産に関する申告漏れ
海外の預金口座や不動産も相続税の対象です。令和6事務年度は、海外資産に係る申告漏れ等の非違件数が209件、海外資産に係る申告漏れ課税価格が97億円で、いずれも前事務年度より増加しました。国税庁は、共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報などの情報交換制度を活用して、海外資産の保有状況の把握に努めています。
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申告漏れが発覚した場合のペナルティ
申告漏れが判明すると、本来納めるべき相続税に加えて、加算税と延滞税が課されます。負担の重さは、申告漏れに気づいたタイミングと、隠ぺいや仮装があったかどうかで大きく変わります。自主的に動いた場合ほど軽く、調査で指摘されてからほど重くなる設計です。
過少申告加算税の取り扱い
期限内に申告したものの税額が少なすぎた場合には、過少申告加算税がかかります。国税通則法では、調査による更正を予知してされた修正申告や更正の場合は新たに納める税額の10パーセント、調査があったことにより更正があると予知する前の修正申告であれば5パーセントと定められています。e-Gov法令検索 国税通則法新たに納める税額が、期限内申告税額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分について5パーセントが上乗せされます。
重要なのは、調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告をした場合には過少申告加算税がかからない点です。同じ申告漏れでも、気づいた時点で先に動いたかどうかで結果が変わります。
無申告加算税の税率区分
申告期限までに申告をしなかった場合には、無申告加算税がかかります。調査による決定等を予知してされた期限後申告の場合、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものについては、納付すべき税額に応じて次の割合になります。
| 50万円以下の部分 | 15パーセント |
|---|---|
| 50万円を超え 300万円以下の部分 |
20パーセント |
| 300万円を超える部分 | 30パーセント |
調査の事前通知を受けた後で、決定があると予知する前に期限後申告をした場合は、上記のそれぞれから5パーセントを差し引いた10パーセント、15パーセント、25パーセントの割合になります。さらに、調査の事前通知を受ける前に自主的に期限後申告をした場合は、一律5パーセントに軽減されます。
たとえば、調査を受けた後に期限後申告をして納付すべき相続税が500万円になった場合の無申告加算税は、次のように区分ごとに計算します。
なお、期限後申告が法定申告期限から1か月以内に自主的に行われ、納付すべき税額の全額を法定納期限までに納めているなど一定の要件をすべて満たす場合には、無申告加算税はかかりません。
重加算税が課される場合
税額計算の基礎となる事実を隠ぺいまたは仮装し、それに基づいて申告していた場合には、加算税に代えて重加算税が課されます。過少申告加算税に代わる場合は基礎となる税額の35パーセント、無申告加算税に代わる場合は40パーセントで、ペナルティとしては最も重い水準です。
令和6事務年度の相続税の実地調査では、重加算税の賦課件数が1,065件、申告漏れ等の非違件数に占める割合は13.6パーセントでした。単なる計上漏れと、意図的な隠ぺいとは明確に区別して扱われます。
延滞税の負担
税金を定められた期限までに納付しない場合には、法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて延滞税が自動的に課されます。国税庁 No.9205 延滞税について期限後申告や修正申告により納付すべき税額があるときも同様です。令和8年1月1日から令和8年12月31日までの期間の割合は次のとおりです。
| 納期限の翌日から 2か月を経過する日まで |
年2.8パーセント |
|---|---|
| 納期限の翌日から 2か月を経過した日以後 |
年9.1パーセント |
期限後申告や修正申告の場合、ここでいう納期限は申告書を提出した日です。提出後2か月を過ぎると割合が跳ね上がるため、申告と納付はできる限り同時に済ませることが負担軽減につながります。延滞税は本税だけを対象として課されるもので、加算税には課されません。
申告漏れに気づいた場合の対処
申告漏れに気づいたときは、放置するほど不利になります。加算税は自主的な対応であるほど軽くなり、延滞税は日数に応じて積み上がるためです。次の順序で落ち着いて進めていただくのが現実的です。
財産の再確認と不足額の把握
まずは、どの財産がいくら漏れていたのかを特定します。預貯金は残高証明書だけでなく取引明細まで確認し、亡くなる前の入出金の行き先をたどることが有効です。家族名義の口座、貸金庫の中身、生命保険金や死亡退職金、加算対象期間内の生前贈与も一つずつ確認します。
財産の範囲が固まったら、当初の申告額との差額と、追加で納める税額を計算します。この段階で全体像を把握しておくと、次の手続きと納税資金の準備がスムーズになります。
修正申告と期限後申告の選択
すでに期限内に申告している方が、申告した税額が少なすぎたことに気づいた場合は修正申告で訂正します。申告そのものをしていなかった方は、期限後申告として申告することになります。いずれも、税務署からの調査の事前通知を受ける前に自主的に行うほど、加算税の負担が軽くなります。
関連コラム相続税の修正申告とは|加算税・延滞税の負担と手続きの流れ▸
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納付のタイミングと資金の準備
期限後申告や修正申告により新たに納める税金は、申告書を提出する日が納期限となります。そのため、申告書の提出と同じ日に納付を済ませるのが原則です。延滞税は納付の日まで日数に応じて計算されるため、納税資金を先に確保してから提出日を決める進め方が合理的です。
相続税の申告書の提出先は、被相続人の死亡の時における住所を所轄する税務署で、相続人の住所地を所轄する税務署ではありません。追加の申告でも提出先は変わりませんので、この点も確認しておきましょう。
まとめ
相続税の申告漏れは、死亡情報の通知と法定調書によって税務署に届いている情報と申告内容の突き合わせから発覚します。令和6事務年度の実地調査では、9,512件のうち82.3パーセントで申告漏れ等の非違が把握されました。漏れやすいのは現金・預貯金等、家族名義の預金、死亡保険金などのみなし相続財産、そして海外資産です。
申告漏れが判明すると、過少申告加算税、無申告加算税、重加算税のいずれかと延滞税が加わります。ただし、調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告や期限後申告をすれば、加算税の負担は大きく軽くなります。気づいた時点で早く動くことが、最も確実な負担軽減策です。
財産の評価や名義預金の判定は、個々の事情によって結論が変わります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
- 国税庁 No.4105 相続税がかかる財産
- 国税庁 No.9205 延滞税について
- 国税庁 No.7401 法定調書の種類
- 国税庁 令和6事務年度における相続税の調査等の状況
- 国税庁 誤りやすい事例⑥ 被相続人以外の名義の財産(預貯金)
- e-Gov法令検索 国税通則法
- e-Gov法令検索 相続税法
相続税の申告漏れのよくある質問まとめ
Q.相続税の申告漏れは何年前まで調べられますか。
A.税務署は資料情報をもとに過去にさかのぼって調査を行います。申告漏れが判明した場合は、その相続に係る本税に加えて加算税と延滞税が課されます。延滞税は法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて計算されるため、期間が長いほど負担が増えます。
Q.少額の申告漏れでもペナルティはかかりますか。
A.金額の大小にかかわらず加算税と延滞税の対象になります。ただし調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告をした場合は過少申告加算税がかかりません。期限後申告でも法定申告期限から1か月以内の自主的な申告など一定の要件をすべて満たせば無申告加算税はかかりません。
Q.家族名義の預金は必ず相続財産になりますか。
A.名義だけで決まるものではありません。亡くなった方の収入から預け入れられ、亡くなった方が管理・運用していた預金は、名義にかかわらず相続税の課税対象になります。過去に贈与を受けた事実があり、名義人が自由に使える状態だった場合は判断が変わります。
Q.生命保険金を申告に入れていませんでした。どうすればよいですか。
A.被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は相続税の対象です。保険会社は生命保険金・共済金受取人別支払調書を税務署へ提出しているため、申告内容との差異は把握されます。気づいた時点で修正申告を行うことで、加算税の負担を抑えられます。
Q.税務署から連絡が来るのは実地調査だけですか。
A.実地調査のほかに、文書や電話による連絡、来署依頼による面接で申告内容の是正を求める簡易な接触があります。令和6事務年度の簡易な接触は21,969件で、うち申告漏れ等の非違件数は5,796件でした。自宅への訪問だけが接触の方法ではありません。
Q.重加算税はどのような場合に課されますか。
A.税額計算の基礎となるべき事実を隠ぺいまたは仮装し、それに基づいて申告していた場合に課されます。過少申告加算税に代わる場合は35パーセント、無申告加算税に代わる場合は40パーセントです。単なる計上漏れとは区別して扱われます。