厚生年金を受け取る前に亡くなっても、納めてきた保険料が掛け捨てになるわけではありません。亡くなった方に生計を維持されていたご家族がいれば、要件を満たすことで「遺族厚生年金」を受け取れます。すでに年金を受給中だった場合は、これに加えて、まだ受け取っていなかった「未支給年金」も請求できます。
ご家族が亡くなられたとき、深い悲しみの中でさまざまな手続きに追われることになります。「年金の手続きはどうすればいいの?」「遺族が受け取れるお金はあるの?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。手続きには期限が設けられているものもあり、知らずに損をしてしまうことも。この記事では、厚生年金の受給前や受給中に死亡した場合に必要な手続きと、妻・夫・子ども・独身といったご家族の状況別に受け取れるお金を、わかりやすく丁寧にご説明しますね。
【結論】厚生年金の受給前・受給中に亡くなったときにもらえるお金
まずは全体像です。亡くなった方が「受給前(在職中・退職後)」だったか「受給中」だったかで、主な給付は次のように整理できます。
| 亡くなった方の状況 | 遺族が受け取れる 主なお金 |
ポイント |
|---|---|---|
| 会社員として在職中(受給前) | 遺族厚生年金(+子がいれば遺族基礎年金) | 加入期間が短くても300月(25年)とみなして計算 |
| 退職後で年金の受給前 | 要件を満たせば遺族厚生年金 | 受給資格期間25年以上などの要件を確認 |
| 年金を受給中 | 未支給年金+遺族厚生年金 | 年金受給権者死亡届の提出が必要な場合あり |
どの給付も、基本的にご遺族が請求しないと受け取れません。以下で手続きと要件を順番に見ていきましょう。
年金受給対象者が亡くなったら、まず何をすべき?
大切なご家族が亡くなられた直後は、心身ともに大変な時期ですが、年金に関する手続きは速やかに行う必要があります。まずは、故人が年金を受給していたか、まだ受給前だったかによって、最初に行うべき手続きが少し異なりますので、それぞれのケースを見ていきましょう。
厚生年金を受給中に亡くなった場合
すでに年金を受け取っていた方が亡くなった場合は、年金の支払いを止めるための手続きが必要です。これを行わないと、年金が支払われ続けてしまい、後で返還する手間が発生してしまいます。「年金受給権者死亡届」を提出しましょう。
提出先は、お近くの年金事務所または年金相談センターです。提出期限は、厚生年金の場合は死亡日から10日以内、国民年金の場合は14日以内と定められていますので、お早めに手続きを進めてくださいね。
ただし、故人が生前に日本年金機構へマイナンバーを登録していた場合は、原則としてこの死亡届の提出を省略できます。
厚生年金を受給する前に亡くなった場合
会社員として厚生年金に加入している方が、年金を受け取る前に亡くなった場合は、ご遺族が死亡に関する届け出を年金事務所へ行う必要は基本的にありません。これは、お勤め先の会社が「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出してくれるためです。
ただし、後ほどご説明する遺族厚生年金など、ご遺族が受け取れる可能性のあるお金については、別途ご自身で請求手続きを行う必要がありますので、その点は忘れないようにしましょう。
関連コラム遺族年金の手続きと必要書類|請求の流れと期限を税理士が解説▸
遺族が受け取れるお金の種類と要件
故人が一生懸命納めてきた年金保険料は、残されたご遺族の生活を支える大切なお金として引き継がれます。どのようなお金が受け取れるのか、条件や金額を具体的に見ていきましょう。これらは基本的に請求しないと受け取れないものなので、ご自身が対象になるかしっかり確認してくださいね。
故人が受け取るはずだった「未支給年金」
年金は、偶数月に前月と前々月の2か月分が支払われる「後払い」の仕組みです。そのため、どなたがいつ亡くなっても、必ずまだ受け取っていない年金が発生します。これを「未支給年金」といい、故人と生計を同じくしていたご遺族が、自分の名前で請求して受け取ることができますe-Gov法令検索 厚生年金保険法。
例えば、8月10日に亡くなった場合を考えてみましょう。年金は亡くなった月の分まで支給されますので、8月15日の支払日に支払われるはずだった6月・7月分と、亡くなった8月分は、いずれも生前に受け取れていない年金として未支給年金の対象になります。
請求できるご遺族には優先順位があり、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、それ以外の3親等内の親族の順です(いずれも故人と生計を同じくしていたことが条件です)。この権利は5年で時効となるため、忘れずに手続きしましょう。
なお、未支給年金は遺族が自分の権利として受け取るものなので、故人の相続財産には含まれず、相続税もかかりません(税金の扱いは後ほどご説明します)。
関連コラム未支給年金は相続財産?相続税と確定申告の扱いを税理士が解説▸
遺族の生活を支える「遺族厚生年金」
「遺族厚生年金」は、厚生年金に加入していた方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていたご遺族の生活を支えるために支給される年金です。これは遺族保障の柱となる、とても大切な制度です。
| 受け取れる遺族の 優先順位 |
①子のある配偶者・子 ②子のない配偶者 ③父母 ④孫 ⑤祖父母 (それぞれに年齢などの要件があります) |
|---|---|
| 年金額の目安 | 亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が基本です。在職中の死亡などの場合は、加入期間が短くても300月(25年)加入したとみなして計算する特例があります。 |
例えば、子のない30歳未満の妻が受け取る場合は5年間の有期給付になるなど、ご遺族の状況によって条件が異なりますので、年金事務所で確認することをおすすめします。
受給前に亡くなった場合に遺族厚生年金が出る4つのケース
「年金をもらう前に亡くなったけれど、遺族厚生年金の対象になるの?」というご質問はとても多いです。法律では、亡くなった方が次のいずれかに当てはまる場合に遺族厚生年金が支給されると定められています。
| ケース | 亡くなった方の状況 |
|---|---|
| ①在職中の死亡 | 厚生年金の被保険者(会社員・公務員など)のまま亡くなった |
| ②退職後5年以内の死亡 | 被保険者だった間に初診日がある病気やけがが原因で、初診日から5年以内に亡くなった |
| ③障害厚生年金の受給者 | 障害等級1級・2級の障害厚生年金を受けていた方が亡くなった |
| ④受給資格期間25年以上 | 保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせて25年以上ある方が亡くなった(老齢厚生年金をもらう前の方を含む) |
①と②のケースでは、亡くなった方の保険料の納付状況も問われます。国民年金の加入期間のうち、保険料を納めた期間と免除された期間の合計が3分の2に満たない場合は対象外となる点に注意が必要です。
また、①〜③のケースでは先ほどの「300月みなし」の特例が使えるため、若くして亡くなった場合でも一定の年金額が確保されます。一方、④だけに当てはまる場合は実際の加入期間で計算されます。
企業型DCやiDeCoに加入していた場合の「死亡一時金」
もし故人が、企業型確定拠出年金(企業型DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入していた場合、積み立てた資産はご遺族が「死亡一時金」として受け取ることができます。これは公的年金とは別の制度ですので、加入していたかどうかを必ず確認し、それぞれの運営管理機関(金融機関など)に連絡して手続きを進めましょう。請求期限は、死亡した日から5年以内です。
妻・夫・子ども・独身…家族構成別「年金をもらう前に死んだら」どうなる?
検索でも多いのが「年金をもらう前に夫が亡くなったら妻は?」「独身で死んだら掛け捨て?」といった、ご家族の状況別のご質問です。遺族厚生年金は、受け取る方によって年齢などの要件が変わりますので、ケースごとに整理しておきますね。
| 残されたご家族 | 受け取れる可能性のあるお金 | 主な要件・注意点 |
|---|---|---|
| 子のある妻 | 遺族厚生年金+遺族基礎年金 | 子が18歳到達年度の末日(障害等級1級・2級の子は20歳)を過ぎると遺族基礎年金は終了 |
| 子のない妻 | 遺族厚生年金(要件により中高齢寡婦加算) | 夫の死亡時に30歳未満なら5年間の有期給付。40歳以上65歳未満なら中高齢寡婦加算の対象になり得る |
| 夫 | 遺族厚生年金 | 妻の死亡時に55歳以上であることが要件。支給は原則60歳から(遺族基礎年金も受けられる場合を除く) |
| 子ども | 遺族厚生年金(+遺族基礎年金) | 18歳到達年度の末日まで(障害等級1級・2級は20歳未満)で、婚姻していないこと |
| 独身(配偶者・子なし) | 父母・孫・祖父母への遺族厚生年金、国民年金の死亡一時金など | 父母・祖父母は55歳以上で生計を維持されていたことが要件(支給は60歳から)。兄弟姉妹は遺族厚生年金の対象外 |
独身の方の場合、遺族厚生年金を受け取れるご家族がいないこともあります。それでも、自営業の期間などに国民年金の第1号被保険者として保険料を36月以上納めていれば、生計を同じくしていたご家族(兄弟姉妹を含む)が「死亡一時金」を受け取れる可能性があります(死亡一時金については後ほどご説明します)。
なお、遺族厚生年金の受給権は、受給者が再婚(事実婚を含む)したときなどにも消滅します。
遺族厚生年金とあわせて受け取れるお金
遺族厚生年金の対象となる方でも、ご家庭の状況によっては、さらに別の給付をあわせて受け取れる場合があります。ご自身の状況と照らし合わせて、対象になるか確認してみましょう。
子どもの養育中のみ「遺族基礎年金」
亡くなった方によって生計を維持されていた、18歳になった年度の3月31日までの子(または20歳未満で障害等級1級・2級の子)がいる場合は、遺族厚生年金に加えて「遺族基礎年金」も受け取ることができます。
| 対象者 | 子のある配偶者、または子 |
|---|---|
| 年金額 (令和6年度) |
基本額 816,000円 + 子の加算額 (第1子・第2子は各234,800円、第3子以降は各78,300円) |
年金額は毎年度改定されますので、最新の金額は年金事務所でご確認ください。お子さんが成長して対象年齢を過ぎると、遺族基礎年金の支給は終了します。
要件を満たした妻が対象「寡婦加算」
遺族厚生年金を受け取る妻は、一定の要件を満たすと年金額が加算されることがあります。これを「寡婦加算」といい、主に2つの種類があります。
・中高齢寡婦加算
夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子がいない妻などに支給されます。妻が65歳になってご自身の老齢基礎年金を受けられるようになるまでの間、遺族厚生年金に遺族基礎年金の4分の3に相当する額(令和6年度は年額612,000円)が加算されます。ただし、受給資格期間25年以上(先ほどの④)のみで支給される遺族厚生年金の場合は、亡くなった方の厚生年金の加入期間が20年(240月)以上あることが必要です。
・経過的寡婦加算
中高齢寡婦加算を受けていた妻が65歳になったときなど、生年月日に応じて加算されるものです。これは、老齢基礎年金の額が低くなってしまう世代の年金額を補うための制度です。
厚生年金加入者の遺族が対象外となりやすい給付
公的年金には、自営業者などが加入する国民年金(第1号被保険者)独自の給付制度もあります。会社員だった期間しかない方の遺族は対象外となるため、混同しないように知っておくと安心です。
寡婦年金・死亡一時金
「寡婦年金」と「死亡一時金」は、どちらも国民年金の第1号被保険者として保険料を一定期間納めた方が、老齢基礎年金などを受け取らずに亡くなった場合に、ご遺族に支給される制度ですe-Gov法令検索 国民年金法。そのため、会社員や公務員として厚生年金に加入していた期間だけの方の遺族は、これらの給付は受け取れません。その代わりに、より手厚い遺族厚生年金が用意されている、と考えると分かりやすいかもしれません。
| 給付 | 主な要件 | 注意点 |
|---|---|---|
| 寡婦年金 | 第1号被保険者としての保険料納付済期間・免除期間が10年以上ある夫が亡くなり、婚姻期間10年以上・65歳未満の妻がいる | 妻が60歳から65歳になるまで支給 |
| 死亡一時金 | 第1号被保険者として保険料を36月以上納めた方が亡くなり、生計を同じくする遺族がいる | 遺族基礎年金を受けられる方がいる場合は支給されない |
転職や独立などで、会社員になる前に自営業の期間があった方は、第1号被保険者の期間が要件を満たしていることもあります。寡婦年金と死亡一時金の両方を受けられる場合は、どちらか一方を選ぶことになりますので、年金事務所で確認してみてくださいね。
受け取った年金と税金の関係
ご遺族が受け取るお金には、税金がかかるものと、かからないものがあります。後から「知らなかった」と慌てることがないように、基本的なルールを確認しておきましょう。
相続税や所得税の対象になる?
ご遺族が受け取る年金関連のお金と税金の関係は、以下のようになっています国税庁 No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権。
| 受け取るお金の種類 | 税金の区分 |
|---|---|
| 未支給年金 | 受け取った遺族の一時所得として所得税の対象になります(相続税はかかりません)。 |
| 遺族年金(遺族厚生年金・遺族基礎年金) | 遺族の生活保障という目的のため、相続税も所得税もかかりません(非課税)。 |
| 死亡一時金(企業型DC・iDeCo) | みなし相続財産として相続税の課税対象になります。ただし、死亡退職金などと同様に非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)が使えます。 |
特に、遺族年金が非課税であることは大切なポイントです。確定申告の際に収入に含める必要はありません。
死亡退職金などに使える非課税枠は、次の式で計算します国税庁 No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金。
例えば法定相続人が妻と子2人の3人なら、500万円×3人で1,500万円までが非課税になります。
まとめ
厚生年金の受給前に亡くなっても、保険料は掛け捨てにはなりません。在職中の死亡や受給資格期間25年以上といった要件を満たせば、生計を維持されていたご遺族は遺族厚生年金を受け取れます。受給中に亡くなった場合は、「年金受給権者死亡届」の提出(必要な場合)とあわせて、「未支給年金」や「遺族厚生年金」の請求手続きを進めていきましょう。お子さんの有無や妻の年齢によっては、「遺族基礎年金」や「寡婦加算」が受け取れることもあります。
手続きには期限が設けられているものも多く、複雑に感じるかもしれませんが、大切なのは一人で抱え込まず、まずはお近くの年金事務所に相談することです。また、死亡一時金などで相続税の申告が必要になるかどうかは、ほかの財産との合計で決まります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。請求漏れがないように、この記事を参考に一つずつ着実に進めていってくださいね。
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参考文献
厚生年金の死亡に関する手続きのよくある質問まとめ
Q.厚生年金をもらう前に死亡したら、払った保険料は掛け捨てになりますか?
A.いいえ、掛け捨てにはなりません。在職中の死亡や受給資格期間25年以上などの要件を満たせば、生計を維持されていたご遺族が遺族厚生年金を受け取れます。国民年金の第1号被保険者として保険料を36月以上納めていれば、死亡一時金を受け取れる可能性もあります。
Q.厚生年金加入者が死亡した場合、どのような手続きが必要ですか?
A.年金を受給中だった場合は「年金受給権者死亡届」の提出が必要です(マイナンバー登録済みなら原則省略可)。その他、未支給年金や遺族年金を請求する場合は、戸籍謄本など別途書類が必要になります。詳しくは最寄りの年金事務所にご確認ください。
Q.厚生年金に加入していた夫が亡くなりました。妻は何か年金を受け取れますか?
A.はい、生計を維持されていたなどの要件を満たせば「遺族厚生年金」を受け取れます。金額は亡くなった方の厚生年金の加入期間や報酬額によって決まり、子がいれば遺族基礎年金もあわせて受け取れます。
Q.独身で年金をもらう前に死んだらどうなりますか?
A.配偶者や子がいない場合でも、55歳以上で生計を維持されていた父母や祖父母、要件を満たす孫がいれば遺族厚生年金の対象になり得ます。兄弟姉妹は遺族厚生年金の対象外ですが、国民年金の死亡一時金なら対象になることがあります。
Q.亡くなった家族が受け取るはずだった年金はもらえますか?
A.はい、亡くなった時点でまだ支払われていない年金がある場合、生計を同じくしていた遺族が「未支給年金」として請求できます。相続財産には含まれず、受け取った遺族の一時所得になります。
Q.遺族厚生年金はいつまで受け取れますか?
A.配偶者の場合、原則として生涯受け取ることができます。ただし、子のない30歳未満の妻は5年間の有期給付となり、再婚するなど受給資格を失う事由に該当した場合も終了します。子の場合は原則18歳到達年度の末日までです。
Q.遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金は両方もらえますか?
A.両方を全額受け取ることはできません。65歳以降は、ご自身の老齢厚生年金が全額支給され、遺族厚生年金は老齢厚生年金額を上回る差額分が支給されるなど、調整が行われます。


