親と離れて暮らしていた子が実家を相続したとき、「同居していないから小規模宅地等の特例は使えないのでは」と不安に思う方は少なくありません。実際には、配偶者も同居の相続人もいない場合に限り、賃貸住まいなどの別居の子でも実家の土地を330㎡まで80%減額できる制度があります。これがいわゆる家なき子の特例です。ただし2018年(平成30年)の税制改正で要件が厳しくなり、形だけ持ち家を手放しても使えないよう見直されています。この記事では、家なき子として特例を受けるための要件と、実務での判定ポイントを整理します。
家なき子の特例の位置づけ
小規模宅地等の特例は、相続で取得した宅地のうち一定のものについて、相続税の課税価格に算入する価額を大きく減額できる制度です。被相続人が住んでいた自宅の土地(特定居住用宅地等)は、限度面積330㎡まで評価額を80%減額できます[国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)]。
この特定居住用宅地等を取得できる人は、原則として配偶者か同居していた親族です。しかし、被相続人に配偶者がおらず同居の相続人もいない場合には、例外として別居していた親族も適用を受けられます。この別居親族の枠が家なき子と呼ばれ、要件を満たすかどうかの判定がとても重要になります。
330㎡80%減額の効果
減額の効果は非常に大きく、評価額が高い都市部の実家ほど恩恵が出ます。たとえば路線価による評価額が5,000万円、面積300㎡の宅地であれば、次のように課税価格が圧縮されます。
このように評価額を5分の1まで下げられるため、特例を使えるかどうかで納税額が数百万円単位で変わることもあります。だからこそ、家なき子の要件を一つずつ確認しておく必要があります。
家なき子として認められる要件
別居していた親族が特定居住用宅地等の特例を受けるには、次のすべての要件を満たす必要があります。一つでも欠けると適用できません。ここが家なき子の判定でもっとも慎重に見るべき部分です。
| 配偶者の不存在 | 被相続人に配偶者がいないこと |
|---|---|
| 同居相続人の不存在 | 相続開始の直前に、被相続人の居住用家屋に同居していた被相続人の相続人がいないこと |
| 相続開始前3年間の 居住制限 |
相続開始前3年以内に、自己・配偶者・3親等内の親族・特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがないこと |
| 過去の持ち家 非所有 |
相続開始時に住んでいる家屋を、過去のいずれの時点でも所有していたことがないこと |
| 保有継続 | その宅地を相続開始時から相続税の申告期限まで保有していること |
これらの要件はいずれも国税庁が定めるものです[国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)]。なお、居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者は対象外とされています。以下でとくに間違えやすい要件を順に見ていきます。
配偶者と同居相続人がいないこと
家なき子はあくまで例外的な枠です。被相続人に配偶者がいれば、まず配偶者が特定居住用宅地等を取得できるため、別居の子は家なき子として適用を受けられません。同様に、実家に同居していた相続人がいる場合も、その同居親族が優先されるため、別居の子には枠が回ってきません。
つまり家なき子が成り立つのは、配偶者も同居の相続人もいないケースに限られます。ひとり暮らしだった親の実家を、離れて暮らす子が相続する場面が典型例です。
相続開始前3年以内の居住制限
もっとも注意が必要なのがこの要件です。相続開始前3年以内に、自己・自己の配偶者・3親等内の親族・特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがないことが求められます[国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)]。持ち家を持たず賃貸で暮らしてきた子を想定した制度のため、この3年間に身内名義の家に住んでいると適用できません。
2018年(平成30年)の改正前は、自分の持ち家を親族や自分の資産管理法人に売ったうえで、そのまま住み続けても家なき子になれる余地がありました。改正でこの抜け道が閉じられ、3親等内の親族や特別の関係がある法人が所有する家屋に住んでいた場合も除外されるようになっています。名義を身内に移しただけでは要件を満たせない点に注意してください。
過去に持ち家を所有していないこと
あわせて、相続開始時に自分が住んでいる家屋を、過去のいずれの時点でも所有していたことがないことも要件です。かつて自宅を所有し、それを親族に譲ってそのまま住み続けているようなケースを排除する趣旨です。
ここでいう「所有したことがない」は現在だけでなく過去にさかのぼって判定されます。したがって、いま賃貸に住んでいても、過去にその同じ家を所有していた事実があれば家なき子には該当しません。ご自身の住まいの所有履歴を正確に確認しておくことが大切です。
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具体的な判定例
要件は言葉だけでは分かりにくいため、よくある3つのケースで当てはめてみます。いずれも被相続人に配偶者がおらず、実家に同居していた相続人もいない前提です。
| 相続人の状況 | 家なき子の該当 |
|---|---|
| 3年以上ずっと賃貸アパートに住み、持ち家を所有したことがない子 | 該当する(他の要件も満たせば適用可) |
| 2年前に自分の持ち家を子(被相続人の孫)に譲り、その家に住み続けている子 | 該当しない(3親等内の親族所有の家屋に居住) |
| 賃貸住まいだが、5年前まで今の住まいを自分で所有していた子 | 該当しない(過去に居住家屋を所有) |
2番目と3番目は、改正によって新たに排除されるようになった典型パターンです。表面的には持ち家がなくても、身内名義の家に住んでいたり過去の所有歴があったりすると適用できません。判断に迷う場合は、住まいの名義と居住の履歴を時系列で整理してから確認することをおすすめします。
保有継続と申告の要件
要件を満たして取得した後も、その宅地を相続税の申告期限まで保有し続ける必要があります[国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)]。相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です[国税庁 No.4205 相続税の申告と納税]。申告期限前にこの土地を売却してしまうと、保有継続の要件を欠いて特例が使えなくなる点に注意が必要です。特定居住用宅地等の家なき子には、被相続人と同居していた親族に求められるような「居住継続」の条件はありませんが、保有継続は必要です。
また、小規模宅地等の特例は自動では適用されません。相続税の申告書にこの特例を受ける旨を記載し、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付して申告することが要件です[国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)]。特例を使った結果、納税額が0円になる場合でも申告そのものは必要です。必要書類の詳細は相続税申告の必要書類一覧|共通書類と特例別の追加書類で確認できます。
関連する特例との関係
家なき子は別居親族向けの枠ですが、自宅の土地に関する小規模宅地等の特例には他のパターンもあります。被相続人と同居していた子や配偶者が適用を受ける一般的な要件については、小規模宅地の特例で自宅の要件は?330㎡80%減額を解説で整理しています。あわせて確認すると、同居ケースと別居ケースの違いが分かりやすくなります。
また、二世帯住宅を建物の区分所有登記にしているかどうかで適用可否が分かれる論点もあります。こうした構造上の判定については、二世帯住宅と小規模宅地の特例|区分所有登記で決まる80%減額が参考になります。なお相続税全体の申告期限を過ぎた場合の扱いは、相続税申告はいつまで?10ヶ月の期限を過ぎたらどうなるか解説で解説しています。
まとめ
家なき子の特例は、被相続人に配偶者も同居の相続人もいない場合に、別居していた親族が実家の土地を330㎡まで80%減額できる制度です。ただし、相続開始前3年以内に身内名義の家に住んでいないこと、過去に今の住まいを所有していないこと、申告期限まで保有し続けることといった要件を満たす必要があり、2018年の改正でこれらが厳格化されています。名義や居住の履歴によって結論が大きく変わるため、判断には正確な事実確認が欠かせません。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
参考文献
小規模宅地の特例(家なき子)のよくある質問
Q.別居している子でも小規模宅地の特例は使えますか。
A.被相続人に配偶者がおらず、実家に同居していた相続人もいない場合に限り、家なき子として別居の親族も特定居住用宅地等の特例を受けられます。相続開始前3年以内に身内名義の家に住んでいないことなどの要件をすべて満たす必要があります。
Q.家なき子でも減額割合と限度面積は同じですか。
A.同じです。特定居住用宅地等として、限度面積330㎡まで評価額を80%減額できます。
Q.2018年の改正で何が変わりましたか。
A.相続開始前3年以内に3親等内の親族や特別の関係がある法人が所有する家屋に住んでいた場合や、今の住まいを過去に自分で所有していた場合が除外されました。持ち家を身内に売って住み続ける方法では要件を満たせなくなっています。
Q.賃貸に住んでいれば必ず家なき子に該当しますか。
A.必ずしも該当しません。今は賃貸でも、その家を過去に自分で所有していた場合や、3年以内に身内名義の家に住んでいた場合は適用できません。居住と所有の履歴で判定されます。
Q.相続した土地はいつまで持っている必要がありますか。
A.相続税の申告期限まで保有し続ける必要があります。申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内で、その前に売却すると特例が使えなくなります。
Q.特例を使うために申告は必要ですか。
A.必要です。相続税の申告書に特例を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付して申告します。特例で納税額が0円になる場合でも申告は行います。