投資信託を相続したとき、相続税の申告では「いくらで評価すればよいのか」で迷う方が多くいらっしゃいます。預貯金のように残高がそのまま評価額になるわけではなく、投資信託の相続税評価には解約時に差し引かれる税金や手数料を反映した独自の計算式が定められているからです。この記事では、一般的な投資信託と日々決算型(MRF・MMF)で計算方法が異なる点や、上場株式との評価の違いを、相続税専門の税理士が実務目線で整理します。
投資信託の相続税評価の基本
投資信託の受益証券は、課税時期において解約請求または買取請求(以下「解約請求等」といいます)を行ったと仮定した場合に、証券会社などから支払いを受けることができる価額によって評価します。つまり「今この投資信託を解約したら手元にいくら戻るか」という解約請求価額の考え方が評価の土台になります[国税庁No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価]。実務では、この考え方を押さえておくと後述の計算式が理解しやすくなります。
課税時期の考え方
課税時期とは、相続税では被相続人が亡くなった日(相続開始日)を指します。投資信託の評価は、この課税時期時点の基準価額を基準に行います。基準価額とは投資信託の1口あたりの時価にあたるもので、多くのファンドで毎営業日に公表されています。
ただし、相続が土日祝日に発生した場合など、課税時期に基準価額が公表されていないこともあります。その場合には、課税時期より前で課税時期に最も近い日の基準価額を、課税時期の基準価額として用います[国税庁No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価]。証券会社に「相続開始日時点の残高証明書」を依頼すると、評価に必要な基準価額と口数が記載されて届くのが一般的です。
評価に必要な情報
投資信託の評価を行うには、次の情報がそろっている必要があります。証券会社から取り寄せる残高証明書で確認できるものがほとんどです。
| 基準価額 | 課税時期時点の1口あたり(または1万口あたり)の価額 |
|---|---|
| 口数 | 被相続人が保有していた受益権の口数 |
| 源泉徴収されるべき 所得税等相当額 |
解約時に源泉徴収される所得税・復興特別所得税・道府県民税相当額 |
| 信託財産留保額 及び解約手数料 |
解約時にファンド側へ差し引かれる費用 |
一般的な投資信託の評価方法
株式投資信託や公社債投資信託など、日々決算型を除く一般的な投資信託は、次の計算式で評価します。基準価額に口数を掛けた金額から、解約時に差し引かれる税金と費用を控除する形です[国税庁No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価]。この評価方法は財産評価基本通達199(証券投資信託受益証券の評価)に基づくものです。
基準価額が「1万口あたり」で公表されているファンドでは、算式中の「1口あたり基準価額」を「1万口あたり基準価額」に、「口数」を「口数を1万で割った数」に読み替えて計算します[国税庁No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価]。多くの公募投資信託は1万口あたりで公表されているため、実務ではこの読み替えを使う場面が多くなります。
具体的な計算例
たとえば1万口あたり基準価額が12,000円のファンドを100万口保有していたケースで考えてみます。まず口数を1万で割ると100となり、基準価額に掛け合わせます。
ここから、解約時に源泉徴収される所得税等が30,000円、信託財産留保額が3,600円だったとすると、評価額は次のとおりです。控除する金額は残高証明書や証券会社への照会で確認します。
このように、単純に「基準価額×口数」で終わりではなく、解約時のコストを差し引く点が投資信託の評価の特徴です。含み益がない、または損失が出ているファンドでは源泉徴収税額がゼロになることもあり、その場合は控除項目が信託財産留保額などだけになります。
日々決算型(MRF・MMF)の評価方法
中期国債ファンドやMRF(マネー・リザーブ・ファンド)、MMF(マネー・マネージメント・ファンド)などの日々決算型の投資信託は、毎日決算を行って分配金を計算し、再投資していく仕組みです。そのため、まだ再投資されていない分配金(未収分配金)を評価額に加える点が、一般的な投資信託と異なります[国税庁No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価]。
日々決算型は基準価額が1口1円で安定していることが多く、評価額は「口数+未収分配金」に近い金額になりがちです。実務では、証券会社に相続開始日時点の残高証明書を依頼する際に、未収分配金の額を明記してもらうよう伝えておくと、評価の計算がスムーズになります。一般的な投資信託との違いを整理すると次のとおりです。
| 一般的な投資信託 | 日々決算型(MRF・MMF) |
|---|---|
| 基準価額×口数から税金と費用を控除 | 基準価額×口数に未収分配金を加えてから税金と費用を控除 |
| 未収分配金は加算しない | 再投資されていない未収分配金を加算する |
| 株式投資信託・公社債投資信託などが該当 | MRF・MMF・中期国債ファンドなどが該当 |
上場株式との評価方法の違い
同じ有価証券でも、上場株式と投資信託では評価の考え方が根本的に異なります。上場株式は、課税時期の最終価格(終値)で評価するのが原則ですが、課税時期の属する月・前月・前々月それぞれの毎日の終値の月平均額のうち、最も低い価額が課税時期の終値より低ければ、その最も低い価額で評価できます[国税庁No.4632 上場株式の評価]。株価変動の影響を和らげるため、過去3か月の平均も使える仕組みです。
一方、投資信託は課税時期の基準価額を基準にする一方で、月平均のような救済的な選択肢はなく、解約時のコストを差し引く点が特徴です。上場株式の評価や株式の相続手続きとあわせて、保有する金融商品ごとに評価ルールを使い分けることが大切です。
なお、投資信託の受益証券のなかには金融商品取引所に上場されているもの(上場投資信託、いわゆるETFなど)もあります。これらは解約請求等を前提とした評価が適切ではないため、上場株式の評価方法に準じて評価します[国税庁No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価]。同じ「投資信託」でも上場しているかどうかで評価方法が変わる点に注意が必要です。
投資信託の相続で注意すべき実務ポイント
投資信託は評価だけでなく、手続き面でも注意点があります。相続税の申告と納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です[国税庁No.4205 相続税の申告と納税]。証券会社への残高証明書の請求や名義変更には時間がかかることもあるため、早めの着手をおすすめします。
また、複数の証券会社に投資信託が分散していると、申告漏れが起こりやすくなります。申告漏れは相続税の税務調査で指摘されやすい項目のひとつです。被相続人の郵便物や取引報告書を手がかりに、保有していた口座を漏れなく把握しておくことが重要です。評価に必要な書類は相続税申告の必要書類の一覧で確認しておくと安心です。
不動産も相続財産に含まれる場合は、投資信託の評価と並行して路線価の調べ方も確認しておくと、財産全体の評価を効率よく進められます。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
相続のご質問、まずは無料相談
税理士法人プライムパートナーズ
無料相談はこちら▸
まとめ
投資信託の相続税評価は、課税時期の基準価額に口数を掛けた金額から、解約時の源泉徴収税額と信託財産留保額などを差し引いて計算します。日々決算型(MRF・MMF)ではさらに再投資されていない未収分配金を加算する点が異なり、上場株式のように月平均で評価する仕組みはありません。保有するファンドの種類ごとに正しい計算式を使い分け、残高証明書で必要な情報をそろえることが、適正な申告への近道です。
参考文献
投資信託の相続税評価のよくある質問まとめ
Q.投資信託の相続税評価はいつの時点の価格で行いますか。
A.被相続人が亡くなった課税時期(相続開始日)の基準価額で評価します。課税時期に基準価額の公表がない場合は、課税時期より前で最も近い日の基準価額を用います。
Q.投資信託の評価は基準価額に口数を掛けるだけでよいですか。
A.いいえ。基準価額×口数の金額から、解約時に源泉徴収される所得税等相当額と信託財産留保額・解約手数料を差し引いて評価します。
Q.MRFやMMFの評価は一般的な投資信託と違いますか。
A.はい。日々決算型のMRFやMMFは、基準価額×口数に再投資されていない未収分配金を加えたうえで、源泉徴収税等と信託財産留保額などを差し引いて評価します。
Q.上場株式と投資信託の評価はどう違いますか。
A.上場株式は課税時期の終値と過去3か月の月平均額のうち最も低い価額で評価できます。投資信託にはこうした月平均の選択肢はなく、解約時のコストを差し引いて評価します。
Q.上場している投資信託(ETFなど)はどう評価しますか。
A.金融商品取引所に上場されている受益証券は、解約請求等を前提とした評価が適切でないため、上場株式の評価方法に準じて評価します。
Q.評価に必要な情報はどこで確認できますか。
A.証券会社に相続開始日時点の残高証明書を請求すると、基準価額・口数・未収分配金など評価に必要な情報を確認できます。