相続人どうしで話し合っても遺産の分け方がまとまらず、「もう自分たちだけでは解決できないかもしれない」と不安を抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。そのようなときに利用できるのが、家庭裁判所で行う遺産分割調停です。このページでは、遺産分割調停の申立てに必要な書類や費用、申立て先、手続きの流れを、相続税専門の税理士がやさしく整理してご説明しますね。
あわせて、相続の実務でとくに見落とされがちな「調停をしている間も相続税の申告期限は止まらない」という大切なポイントと、いったん多く納めた税金を取り戻す手順まで解説します。もめてしまった相続だからこそ、税金の面で損をしないための知識を一緒に確認していきましょう。
遺産分割調停とは|協議がまとまらないときの家庭裁判所での話し合い
遺産分割調停とは、相続人どうしの話し合い(遺産分割協議)がまとまらないときに、家庭裁判所で調停委員を間に入れて進める話し合いの手続きです。裁判官と民間から選ばれた調停委員が当事者双方から事情や希望を聞き、必要に応じて助言をしながら、全員が納得できる分け方を目指していきます。いきなり判決で白黒つけるものではなく、あくまで話し合いによる解決を図る点が特徴です。
家庭裁判所がこうした家庭に関する事件について調停を行えることは、家事事件手続法という法律で定められています。同法では、家庭裁判所が「家庭に関する事件」について調停を行うと規定され(第244条)、遺産の分割(民法第907条第2項)はその対象である別表第二に掲げられています。e-Gov法令検索 家事事件手続法つまり遺産分割調停は、法律にきちんと根拠のある正式な手続きなのですね。
協議・調停・審判の違い
遺産の分け方を決める方法には、大きく分けて「協議」「調停」「審判」の3段階があります。まずは相続人だけで話し合う協議から始め、まとまらなければ調停へ、それでも合意できなければ審判へと進むのが基本的な流れです。調停が不成立に終わった場合は、自動的に審判の手続きへ移り、裁判官が遺産の分け方を判断します。
| 手続き | 内容 |
|---|---|
| 遺産分割協議 | 相続人だけで自由に話し合って分け方を決める方法。全員の合意が必要です。 |
| 遺産分割調停 | 家庭裁判所で調停委員を交えて話し合う方法。合意を目指しますが、強制はされません。 |
| 審判 | 調停でも合意できないときに、裁判官が遺産の分け方を判断して決める手続きです。 |
相続不動産の分け方をめぐって兄弟姉妹で対立してしまうケースは実務でも少なくありません。名義変更の進め方から丁寧に話し合うことで調停を避けられることもありますので、相続した不動産の名義変更で兄弟姉妹と揉めないための進め方もあわせてご覧いただくと安心です。
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遺産分割調停の申立てに必要な書類
遺産分割調停を申し立てるときは、申立書のほかに、相続人が誰であるかを示す戸籍関係の書類と、対象となる遺産の内容がわかる資料をそろえる必要があります。必要書類は大きく「申立ての基本書類」「身分関係の書類」「遺産に関する書類」の3つに分けて考えるとわかりやすいですよ。一般的には、次のような書類が求められます。
申立ての基本書類
- 遺産分割調停の申立書(相手方の人数分の写しも用意します)
- 当事者目録・遺産目録など、当事者や遺産の一覧をまとめた書類
身分関係の書類(戸籍など)
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)謄本
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
- 相続人全員の住民票(または戸籍の附票)
遺産に関する書類
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産評価証明書
- 預貯金の残高証明書や通帳の写し
- 有価証券など、そのほかの遺産の内容がわかる資料
下の表に、書類の区分ごとの主な内容をまとめました。なお、実際に必要となる書類の種類や部数、申立書の様式は申立先の家庭裁判所によって異なることがあります。準備を始める前に、管轄の家庭裁判所で最新の必要書類を必ずご確認くださいね。
| 書類の区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 申立ての基本書類 | 申立書、当事者目録、遺産目録 など |
| 身分関係の書類 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍・住民票 |
| 遺産に関する書類 | 不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書 など |
遺産分割調停の申立て先と費用
遺産分割調停は、どこの家庭裁判所に申し立ててもよいわけではありません。家事事件手続法第245条第1項では、家事調停事件は「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所」の管轄に属すると定められています。つまり、原則として相手方(ほかの相続人)の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てるか、当事者どうしが合意で決めた家庭裁判所に申し立てることになります。
費用については、申立てのときに収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手が必要です。この収入印紙の金額は、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一で「家事事件手続法別表第二に掲げる事項についての審判・調停の申立て」の手数料として1件1,200円と定められており、被相続人お一人につき1件分がかかります。e-Gov法令検索 民事訴訟費用等に関する法律郵便切手の金額は家庭裁判所によって異なりますので、申立先の家庭裁判所でご確認ください。
| 項目 | 金額・内容 |
|---|---|
| 収入印紙 | 被相続人お一人につき1,200円 |
| 連絡用の郵便切手 | 家庭裁判所によって金額が異なるため、申立先で要確認 |
遺産分割調停の流れと期間の目安
遺産分割調停は、申立てから解決まで次のような流れで進みます。調停の期日(話し合いの日)は、いきなり全員が同じ部屋に集まるのではなく、調停委員が当事者から交互に話を聞く形で進められることが多く、相手と直接顔を合わせずに済むよう配慮されます。
- 家庭裁判所に申立書と必要書類を提出して申し立てる
- 家庭裁判所から当事者へ、第1回の調停期日の連絡が届く
- 調停期日で調停委員を交えて話し合い、争点を整理していく
- 期日を重ねて合意を目指す(合意できれば調停成立)
- 合意できないときは調停不成立となり、審判の手続きへ移る
調停の期日は、おおむね1〜2か月に1回のペースで開かれるのが一般的です。話し合いがまとまるまでの期間は、争点が少なければ数か月で終わることもありますが、遺産の範囲や評価をめぐって対立が大きい場合には1年以上に及ぶこともあります。どのくらいの期間がかかりそうかは事案によって大きく変わりますので、具体的な見通しは申立先の家庭裁判所にご確認いただくのが確実です。
話し合いがまとまり、合意の内容が調停調書に記載されると調停が成立します。家事事件手続法第268条第1項により、その記載は確定した審判(遺産分割のような別表第二の事件の場合)と同じ効力を持ちます。この調停調書は、後ほどご説明する相続税の手続きでも大切な書類になりますので、大事に保管しておきましょう。
調停中でも止まらない相続税の申告期限(未分割申告)
ここからは、相続税専門の税理士としてとくにお伝えしたい大切なポイントです。遺産分割調停をしている間も、相続税の申告期限は止まってくれません。相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署へ行うことになっています。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税調停が長引いていても、この期限は原則として動かないのですね。
では、申告期限までに遺産の分け方が決まらないときはどうするのでしょうか。この場合は、いったん未分割の状態のまま、各相続人が民法に定められた相続分(法定相続分)に従って財産を取得したものとして相続税を計算し、申告・納税を行います。分け方が決まっていなくても、期限内の申告と納税が必要になる点にご注意ください。
ここで実務上とても不利になるのが、未分割の状態では相続税を軽くしてくれる主な特例が使えないという点です。具体的には、配偶者の税額軽減(配偶者が取得した遺産のうち1億6,000万円と法定相続分相当額のいずれか多い金額まで相続税がかからない制度)や、小規模宅地等の特例(自宅の敷地などの評価額を一定面積まで大きく減らせる制度)が、未分割のままでは適用できません。国税庁 No.4158 配偶者の税額軽減そのため、本来より高い相続税をいったん納めることになってしまいます。
| 特例 | 未分割のときの扱い |
|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | そのままでは適用できない(分割が決まれば適用できる) |
| 小規模宅地等の特例 | そのままでは適用できない(分割が決まれば適用できる) |
ちなみに小規模宅地等の特例は、自宅の敷地である特定居住用宅地等なら330平方メートルまで評価額を80%減額でき、税額への影響がとても大きい特例です。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)これが使えるかどうかで納税額が大きく変わりますので、「もめているうちに10か月が過ぎそう」というときこそ、早めに税理士へご相談いただくことをおすすめします。申告期限が迫っている場合の対応については、相続税の申告期限である10か月を過ぎてしまいそうなときの対処法もご参照ください。
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調停成立後に特例を取り戻す手順(分割見込書・更正の請求)
未分割のままだと特例が使えないとご説明しましたが、ご安心ください。将来きちんと分割が決まったときに特例を使えるようにしておく方法があります。それが「申告期限後3年以内の分割見込書」です。この書類を相続税の申告書に添付して提出しておけば、申告期限から3年以内に分割が決まったときに、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を後から適用できるようになります。国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
調停が成立して遺産の分け方が決まったら、その内容にもとづいて相続税を計算し直します。特例が使えるようになって税額が減る場合は、更正の請求という手続きで納めすぎた相続税の還付を受けられます。この更正の請求ができるのは、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内と決められていますので、調停が成立したら早めに動くことが大切です。国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告逆に、分け方によって税額が増える場合は修正申告を行います。
- 申告期限(10か月)までに、法定相続分で計算した相続税を申告・納税する
- その際、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておく
- 調停が成立し、遺産の分け方が確定する
- 特例を適用して計算し直し、税額が減るなら分割を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をする
- 税額が増える場合は修正申告をする
なお、調停が長引いて申告期限から3年以内に分割が決まりそうにないこともあります。そのような、やむを得ない事情があるときは、税務署長の承認を受けることで特例を使える期限を延長できる仕組みも設けられています。調停が長期化しそうなときは、この承認申請の要否も含めて税理士に確認しておくと安心です。また、調停成立後に取得した調停調書は、遺産の分け方を証明する書類として更正の請求などの手続きで使えますので、忘れずに保管しておきましょう。
戸籍集めを楽にする方法(法定相続情報一覧図・広域交付)
遺産分割調停でも相続税の申告でも、被相続人の出生から死亡までの戸籍や、相続人全員の戸籍が必要になります。これらを一つひとつ集めるのは意外と手間がかかりますが、負担を軽くしてくれる制度がありますのでご紹介しますね。
一つ目が、法務局の「法定相続情報一覧図」です。集めた戸籍一式と一覧図を法務局に提出して認証を受けると、相続人が誰であるかを1枚にまとめた一覧図の写しを無料で必要な通数だけ交付してもらえます。この写しは、調停や相続税の申告、銀行での手続きなどで戸籍の束の代わりに使えるため、同じ戸籍を何度も取り直す手間を減らせます。取得の手順は、法定相続情報一覧図の取得方法と必要書類で詳しくご説明しています。
関連コラム法定相続情報一覧図の取得方法|必要書類と法務局での手続きを解説▸
二つ目が、令和6年(2024年)3月から始まった戸籍の広域交付です。これまでは本籍地のある役所ごとに戸籍を請求する必要がありましたが、この制度により、本籍地以外の最寄りの市区町村の窓口でも、複数の戸籍謄本をまとめて請求できるようになりました。ただし、請求できるのはご本人・配偶者・父母や子などの直系親族に限られ、コンピュータ化された戸籍が対象となるなどの条件があります。詳しい取り扱いはお近くの市区町村の窓口にご確認ください。
遺産分割調停のよくある質問まとめ
Q. 遺産分割調停は弁護士に依頼しないと申し立てられませんか?
A. いいえ、ご本人だけでも申し立てることができます。ただし、遺産の範囲や評価をめぐる争いが大きい場合や、法的な主張の整理が必要な場合には、弁護士に依頼することで手続きを進めやすくなることもあります。ご自身の状況に応じて検討なさってください。
Q. 遺産分割調停にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 調停の期日はおおむね1〜2か月に1回のペースで開かれ、解決までに数か月で済むこともあれば、争点が多い場合は1年以上かかることもあります。具体的な見通しは、申立先の家庭裁判所にご確認いただくのが確実です。
Q. 調停中に相続税の申告期限(10か月)が来てしまったらどうすればよいですか?
A. 分割が決まっていなくても、いったん法定相続分で計算した相続税を期限内に申告・納税します。その際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、後日分割が決まったときに配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できます。
Q. 調停で分け方が決まった後、多く納めた相続税は戻ってきますか?
A. 特例の適用などで税額が減る場合は、更正の請求という手続きで納めすぎた相続税の還付を受けられます。この請求は、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内に行う必要があります。
Q. 遺産分割調停の申立てにかかる費用はいくらですか?
A. 申立てには被相続人お一人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手が必要です。郵便切手の金額は申立先の家庭裁判所によって異なりますので、事前にご確認ください。
遺産分割調停は、もめてしまった相続を法律にもとづいて解決するための大切な手続きです。そして、その裏側では相続税の申告期限が静かに進んでいます。未分割のままでも損をしないためには、分割見込書の添付や更正の請求といった税務の手続きを正しいタイミングで行うことが欠かせません。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
私たち税理士法人プライムパートナーズは、相続税申告を専門に、もめている相続や未分割のケースにも数多く対応してまいりました。調停中の申告や、成立後の還付手続きについてお困りのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
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