配偶者がいる相続では、「自宅に住み続けたいけれど、生活費となる預貯金も確保したい」「自宅の相続で子どもと配偶者のどちらが有利になるのか」といった不安がつきものです。こうした場面で役立つのが配偶者居住権と、自宅の土地評価を大きく下げられる小規模宅地等の特例です。この二つは上手に組み合わせることで、配偶者の住まいを守りながら相続税の負担を抑えられる可能性があります。この記事では、両制度のしくみと併用の要点を、具体的な要件や割合とともに整理します。
配偶者居住権のしくみ
配偶者居住権は、民法の改正によって創設された権利で、被相続人が所有していた建物に配偶者が住んでいた場合に、配偶者が原則として亡くなるまでその建物に無償で住み続けられる権利です。自宅を「住む権利(配偶者居住権)」と「所有する権利(所有権)」に分けて考える点が特徴で、配偶者は居住権だけを取得し、建物や土地の所有権は子などが取得するという分け方ができます。
この分割により、配偶者は自宅の評価額の全額を相続しなくても住まいを確保できるため、そのぶん預貯金などの他の財産を相続しやすくなるという利点があります。住まいと生活資金の両方を確保したい配偶者にとって、選択肢を広げる制度といえます。
配偶者居住権と敷地の相続税評価
配偶者居住権を設定すると、自宅は次の四つの権利に分けて評価します。すなわち、配偶者居住権、その配偶者居住権に基づいて敷地を使う権利である敷地利用権、居住建物の所有権、そして敷地所有権です。国税庁 No.4666 配偶者居住権等の評価
配偶者居住権と敷地利用権の評価には、権利が続く年数(存続年数)に応じた複利現価率や、配偶者の平均余命が用いられます。存続年数が長い、つまり配偶者が若いほど居住権側の評価が高くなり、所有権側の評価はそのぶん低くなるという関係にあります。所有権部分は、建物や土地の評価額から居住権・敷地利用権の価額を差し引いて求めます。
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小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた自宅の土地などについて、一定の面積まで相続税の評価額を大きく減額できる制度です。自宅の敷地が当てはまる特定居住用宅地等では、330㎡まで評価額の80%が減額されます。国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
特定居住用宅地等の主な内容は次のとおりです。配偶者が取得する場合には、同居や保有継続といった取得者ごとの要件がなく、無条件で適用を受けられる点が大きな特徴です。
| 対象となる宅地等 | 被相続人の居住用の宅地等 |
|---|---|
| 限度面積 | 330㎡ |
| 減額割合 | 80% |
| 配偶者が取得する場合の要件 | 取得者ごとの要件なし(無条件で適用可) |
なお同じ特例のうち、事業用の土地である特定事業用宅地等は400㎡まで80%減額、賃貸などの貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額と、区分ごとに限度面積と減額割合が定められています。
配偶者居住権と小規模宅地等の特例の併用
ここが最大のポイントです。配偶者居住権そのものは土地ではないため小規模宅地等の特例の対象にはなりませんが、配偶者居住権に基づく敷地利用権と、居住建物の敷地所有権は、いずれも小規模宅地等の特例の対象になり得ます。国税庁も、特例を適用する宅地等が「配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される宅地等」またはその宅地等を「配偶者居住権に基づき使用する権利」の全部または一部である場合の取扱いを定めています。
配偶者が取得する敷地利用権については、前述のとおり無条件で特例を適用できます。一方、敷地所有権を取得した子などは、被相続人と同居していて申告期限まで居住・保有を継続するなど、特定居住用宅地等の要件を満たせば、その敷地所有権部分にも特例を適用できます。
ただし330㎡という限度面積は、敷地利用権と敷地所有権をあわせて判定します。特例の対象面積は、土地の面積に、それぞれの権利の価額が両者の価額の合計に占める割合を掛けて面積按分して求めます。
この按分によって、配偶者と子がそれぞれ取得した権利の割合に応じて特例の対象面積が分けられ、合計で330㎡まで80%減額を受けられます。配偶者と子が協力して自宅を承継する場面では、双方が特例の恩恵を受けられる点が併用の大きな利点です。
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配偶者の税額軽減
配偶者が財産を相続する場合には、配偶者の税額軽減も忘れてはならない制度です。配偶者が取得した財産のうち、1億6000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い方までは相続税がかからないしくみです。国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
この軽減を受けるには、相続税の申告期限までに遺産分割が済んでいることが原則です。申告期限までに分割されていない財産は軽減の対象になりませんが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておけば、期限後に分割された財産も後から軽減の対象にできます。配偶者居住権や小規模宅地等の特例と組み合わせることで、配偶者側の相続税を大きく抑えられる可能性があります。
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二次相続での注意点
配偶者居住権は、配偶者が亡くなると消滅します。配偶者の死亡によって権利が終わるため、その配偶者居住権が二次相続の課税対象になることは原則としてありません。一次相続で配偶者が居住権を取得し、所有権を子が取得しておくと、二次相続時に自宅全体をあらためて課税し直す必要がなくなり、結果として相続税全体の負担を抑えられる場合があります。
もっとも、二次相続でどれだけ有利になるかは、家族構成や財産の内訳、一次相続での分割の仕方によって大きく変わり、個別性が高い論点です。目先の一次相続だけでなく、二次相続まで見据えた分割の設計が欠かせません。
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申告期限と特例適用の要件
相続税の申告と納税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も、適用を受けるには相続税の申告が必要で、原則として申告期限までに遺産分割を済ませていることが求められます。これらの特例は、適用した結果として納税額がゼロになる場合でも申告そのものは必要です。期限内に分割が間に合わないときは、分割見込書の添付など所定の手続きを忘れないよう注意してください。
配偶者居住権と小規模宅地等の特例は、評価方法や按分、二次相続への影響まで含めて判断すべき点が多く、ご家庭ごとに最適な組み合わせが異なります。具体的なケースは税理士へのご相談をおすすめします。
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まとめ
配偶者居住権は自宅を「住む権利」と「所有する権利」に分け、配偶者の住まいと生活資金の両立を助ける制度です。相続税の評価では、配偶者居住権に基づく敷地利用権と敷地所有権の両方が小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減額)の対象になり得、限度面積は面積按分で判定します。配偶者は敷地利用権について無条件で特例を適用でき、あわせて1億6000万円までの配偶者の税額軽減も活用できます。配偶者居住権は二次相続で消滅するため結果的に節税につながる場合もありますが、個別性が高いため、申告期限である10か月を意識しつつ、二次相続まで見据えた専門家への相談が安心です。
参考文献
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 国税庁 No.4666 配偶者居住権等の評価
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
配偶者居住権と小規模宅地の特例のよくある質問まとめ
Q.配偶者居住権を設定すると相続税は必ず安くなりますか。
A.必ず安くなるとは限りません。配偶者は税額軽減で1億6000万円まで非課税になるため一次相続の効果が出にくい場合もありますが、配偶者の死亡で居住権が消滅し二次相続で課税されないことから、二次相続まで含めると負担が軽くなる場合があります。個別性が高いため試算が必要です。
Q.配偶者居住権そのものに小規模宅地等の特例は使えますか。
A.配偶者居住権そのものは土地ではないため対象外です。ただし配偶者居住権に基づく敷地利用権と居住建物の敷地所有権は、いずれも小規模宅地等の特例の対象になり得ます。
Q.配偶者が特例を受けるのに同居などの要件は必要ですか。
A.配偶者が取得する場合、特定居住用宅地等について取得者ごとの要件はなく、無条件で適用を受けられます。敷地所有権を取得した子などは同居や保有継続などの要件を満たす必要があります。
Q.330㎡の限度面積は敷地利用権と敷地所有権で別々に使えますか。
A.別々ではなく、あわせて330㎡までで判定します。対象面積は各権利の価額が両者の価額の合計に占める割合で面積按分して求めます。
Q.配偶者の税額軽減はいくらまで非課税ですか。
A.1億6000万円と配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い方までが非課税です。適用には相続税の申告と、原則として申告期限までの遺産分割が必要です。
Q.相続税の申告期限はいつまでですか。
A.相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減は、納税額がゼロになる場合でも申告が必要です。