ご家族が亡くなられた後、年金事務所から「未支給年金の請求ができます」と案内され、戸惑われる方は少なくありません。受け取ったお金が相続財産になるのか、相続税がかかるのか、確定申告が必要なのか、判断に迷う場面です。金額もまとまることが多く、後から税務署に指摘されないか不安になるお気持ちはよく分かります。
結論から申し上げますと、未支給年金は相続税の課税対象になりません。一方で、受け取った遺族の側では一時所得として所得税の対象になり得ます。相続税と所得税で扱いが分かれるため、混乱が生じやすいのです。
この記事では、未支給年金がなぜ相続財産に含まれないのか、受け取った遺族に確定申告が必要になるのはどのような場合か、そして相続税がかかる年金との違いを、国税庁と法令の内容に沿って整理します。準確定申告との関係にも触れますので、亡くなった後の手続き全体を見通す助けになるはずです。
未支給年金の基本と請求できる遺族
まずは未支給年金がどのようなお金なのかを押さえます。ここを理解しておくと、なぜ相続税がかからないのかが自然に納得できます。
未支給年金の概要
公的年金は後払いの仕組みで支給されるため、受給していた方が亡くなると、必ずといってよいほど支払われずに残る分が生じます。この、亡くなった方に支給すべきでまだ支給されていなかった年金を未支給年金といいます。年金は亡くなった月の分まで受け取る権利がありますので、多くのご家庭で1か月分から2か月分程度が残ります。
この未支給年金は、放っておいても自動的に振り込まれるものではありません。一定の範囲の遺族が、ご自身の名前で請求して初めて受け取れる仕組みになっています。
請求できる遺族の範囲
未支給年金を請求できるのは、亡くなった方の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、またはこれら以外の三親等内の親族であって、亡くなった当時にその方と生計を同じくしていた方です。これらの方は「自己の名で」その未支給の年金の支給を請求することができるとされています。e-Gov法令検索 国民年金法第19条
ここで大切なのは「自己の名で」という部分です。相続人として亡くなった方の権利を引き継ぐのではなく、遺族が自分自身の権利として請求する建て付けになっています。この点が、後ほど説明する相続税の扱いに直結します。
受け取る遺族の順位
請求できる方が複数いる場合の順位は、政令で定められています。具体的には、亡くなった方の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、およびこれらの者以外の三親等内の親族の順序とされています。e-Gov法令検索 国民年金法施行令第4条の3の2
相続における法定相続人の順位とは考え方が異なる点にご注意ください。たとえば生計を同じくしていた孫が請求できる場合もあり、遺産分割の対象とも切り離されています。誰が請求できるかで迷われた場合は、お住まいの地域を管轄する年金事務所でご確認いただくのが確実です。
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未支給年金と相続税の関係
もっとも気になる相続税の扱いを整理します。結論はシンプルですが、その理由まで知っておくと安心して手続きを進められます。
相続財産に含まれない理由
未支給年金を請求できる権利について、国税庁は、亡くなった受給権者に係る遺族が自己の固有の権利として請求するものであり、亡くなった受給権者に係る相続税の課税対象にはならないという見解を示しています。国税庁 未支給の国民年金に係る相続税の課税関係
その理由として、未支給年金を請求できる者の範囲や順位が、民法の相続人の範囲や順位の決め方とは異なる定め方になっている点が挙げられています。これは、亡くなった方の収入に頼って生活していた遺族の生活保障という目的から設けられた仕組みであり、民法上の相続とは別のものと理解されているためです。したがって、本来の相続財産として相続税の課税対象になるとは解されない、という整理になります。
みなし相続財産に該当しない理由
相続税では、本来の相続財産でなくてもみなし相続財産として課税されるものがあります。死亡保険金や死亡退職金が代表例です。そこで未支給年金がこれに当たらないかが問題になりますが、国税庁の整理では、みなし相続財産に該当しないとされています。
理由は、相続税法が定める定期金に関する規定が想定しているのは、継続受取人が受け取るべき定期金が特別に、または選択的に一時金とされる場合の一時金だからです。未支給年金は定期金ではなく、最初から一時金のみを支給するものであるため、この規定の対象にならないと説明されています。
相続税申告での取扱い
以上から、未支給年金は相続税の課税価格に含める必要がありません。相続税の申告書に財産として計上する場面もありませんし、遺産分割協議の対象にもなりません。受け取った方がそのまま自分のものとして扱えるお金です。
| 被相続人の相続税 | 未支給年金を請求できる権利は課税対象に含まれません |
|---|---|
| 受け取った遺族の 所得税 |
一時所得の収入金額として課税対象になります |
| 遺産分割協議 | 相続財産ではないため対象になりません |
なお、未支給年金以外の預貯金や不動産などを含めた財産の総額が基礎控除額を超えるかどうかは、別途確認が必要です。相続税がかかるかどうかの判定は、未支給年金を除いた財産で行います。
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一時所得としての所得税の取扱い
相続税がかからない代わりに、受け取った遺族の側で所得税の対象になります。ただし、多くのご家庭では実際の税負担が生じないケースが多く、その仕組みを順に見ていきます。
一時所得に区分される理由
国税庁は、公的年金等の受給権者が亡くなった場合に遺族が支払を受ける未支給年金について、その遺族の固有の権利に基づいて支払を受けるものであるため、その遺族の一時所得の収入金額に該当するとしています。国税庁 No.1605 遺族の方に支給される公的年金等
所得税の通達でも、亡くなった方に係る給与等、公的年金等および退職手当等で、その死亡後に支給期が到来するもののうち課税しないものとされるもの以外に係る所得は、その支払を受ける遺族の一時所得に該当するものとする、と定められています。国税庁 法第34条《一時所得》関係
一時所得の計算方法
一時所得の金額は、次の式で計算します。特別控除額は最高50万円です。国税庁 No.1490 一時所得
さらに一時所得は、その所得金額の2分の1に相当する金額を給与所得などの他の所得と合計して総所得金額を求めたうえで、納める税額を計算します。
特別控除による課税の有無
未支給年金は、受け取るために特別な支出を要するものではありませんので、通常は「収入を得るために支出した金額」がありません。そのため、その年に他の一時所得がなければ、未支給年金が50万円以下であれば一時所得の金額は0円となり、所得税はかかりません。
たとえば未支給年金が45万円で、その年に他の一時所得がない場合は次のようになります。
特別控除額は最高50万円ですので、収入金額を超える部分は切り捨てられ、一時所得の金額は0円になります。実務上、公的年金の未支給分だけであれば1か月分から2か月分程度にとどまることが多く、このパターンに収まるご家庭が大半です。
一方、未支給年金が80万円で他の一時所得がない場合は、次のように計算します。
この15万円を、その方の給与所得や年金所得などと合計して総所得金額を求め、税額を計算する流れになります。注意していただきたいのは、特別控除の50万円は未支給年金だけに使えるものではなく、その年の一時所得全体で1回しか使えない点です。生命保険の満期返戻金や解約返戻金を同じ年に受け取っている場合は、合算して判定します。
確定申告が必要となる場合
一時所得の金額が0円であれば、未支給年金を理由とする確定申告は不要です。金額が生じた場合でも、給与所得者の方には次のような取扱いがあります。給与を1か所から受けていて、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合、給与所得と退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える方は確定申告が必要とされています。国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
この20万円の判定に用いるのは、一時所得の金額そのものではなく、2分の1を掛けた後の金額です。先ほどの例では15万円ですので、他に申告すべき所得がなければ確定申告は不要という結論になります。ただし年金収入のみの方や個人事業を営む方など、給与所得者以外の方は判定の仕方が異なりますので、ご自身の所得の状況に応じた確認が欠かせません。
相続税の対象となる年金との違い
「年金」と一口にいっても、種類によって税の扱いは大きく変わります。ここを混同すると判断を誤りますので、代表的な区分を整理します。
遺族年金の非課税の扱い
国民年金法や厚生年金保険法などの法律に基づいて遺族に支給される遺族年金や遺族恩給は、原則として所得税も相続税も課税されません。未支給年金と混同されやすいところですが、遺族年金は亡くなった後に遺族本人に対して継続的に支給される年金であり、未支給年金とは別のお金です。
つまり、同じ年金事務所で手続きをする場合でも、遺族年金は非課税、未支給年金は遺族の一時所得という具合に、扱いが分かれます。
相続税の課税対象となる年金受給権
これに対し、相続税の課税対象になる年金もあります。国税庁は主なケースとして2つを挙げています。1つは、在職中に亡くなり死亡退職となったため、会社の規約等に基づいて会社が運営を委託していた機関から遺族などに退職金として支払われることになった年金です。これは亡くなった方の退職手当金等として相続税の対象になります。国税庁 No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権
もう1つは、保険料負担者、被保険者、年金受取人が同一人である個人年金保険契約などで、年金支払保証期間内にその方が亡くなったために遺族などが残りの期間について年金を受け取ることになった場合です。この場合は、亡くなった方から年金受給権を相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になります。
企業年金に関する注意点
企業年金についても確認が必要です。確定給付企業年金法に規定する確定給付企業年金に係る規約に基づいて遺族に支給される年金は、相続税の課税の対象になりますが、毎年受け取る年金には所得税が課税されないとされています。特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいて支給される年金なども同様の扱いです。
| 公的年金の 未支給年金 |
遺族の一時所得となり、相続税はかかりません |
|---|---|
| 遺族年金 | 原則として所得税も相続税も課税されません |
| 死亡退職により 支払われる年金 |
退職手当金等として相続税の対象になります |
| 確定給付企業年金の規約に 基づき支給される年金 |
相続税の対象になり、毎年受け取る年金に所得税は課税されません |
企業年金や共済制度は規約の内容によって取扱いが変わる場合があります。実際の判断は、支給元から届く通知書の記載内容を確認したうえで進めることをおすすめします。
請求手続きと準確定申告の関係
最後に、実際の手続きの流れと、混同されがちな準確定申告との関係を整理します。
請求時の注意点
未支給年金の請求は、年金事務所または年金相談センターの窓口で行います。請求書の様式や添付書類は、亡くなった方が受けていた年金の種類やご家族の状況によって異なりますので、あらかじめ窓口に確認してから準備を進めると二度手間になりません。
また、年金給付を受ける権利には法律で消滅時効が定められています。手続きを先延ばしにすると請求できなくなるおそれがありますので、他の相続手続きと合わせて早めに着手されることをおすすめします。具体的な期限や必要書類については、年金事務所でご確認ください。
準確定申告との違い
亡くなった方に一定の所得があった場合、相続人などは準確定申告を行う必要があります。年の中途で亡くなった方については、相続人などが1月1日から死亡した日までに確定した所得金額および税額を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければなりません。国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
ここで大切なのは、準確定申告と未支給年金の一時所得は別物であるという点です。準確定申告で申告するのは亡くなった方自身の所得であり、未支給年金は遺族固有の権利に基づく遺族自身の所得ですから、準確定申告に含めるものではありません。未支給年金について申告が必要になる場合は、受け取った遺族が自分の確定申告の中で一時所得として申告します。
申告の主体も期限も異なります。準確定申告は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内、遺族の確定申告は原則としてその年の翌年の申告期間です。この違いを押さえておくと、手続きの整理がしやすくなります。
まとめ
未支給年金は、遺族が自己の固有の権利として請求するものであり、亡くなった方の相続税の課税対象にはなりません。みなし相続財産にも該当せず、遺産分割協議の対象にもならない点が特徴です。
一方で、受け取った遺族の側では一時所得の収入金額に該当します。ただし一時所得には最高50万円の特別控除があり、その年に他の一時所得がなければ、未支給年金が50万円以下であれば課税される所得は生じません。特別控除を超える場合でも、課税対象となるのは2分の1に相当する金額です。
また、遺族年金は原則として所得税も相続税も課税されない一方、死亡退職に伴う年金や確定給付企業年金の規約に基づく年金は相続税の対象になります。年金の種類ごとに扱いが分かれますので、混同しないようご注意ください。準確定申告は亡くなった方の所得の申告であり、遺族の一時所得の申告とは別の手続きです。
未支給年金の金額が大きい場合や、生命保険の満期返戻金など他の一時所得がある場合、企業年金が絡む場合などは判断が難しくなります。具体的なケースについては、税理士へのご相談をおすすめします。
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- 国税庁 未支給の国民年金に係る相続税の課税関係
- 国税庁 No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権
- 国税庁 No.1605 遺族の方に支給される公的年金等
- 国税庁 No.1490 一時所得
- 国税庁 No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
- 国税庁 No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
- 国税庁 法第34条《一時所得》関係
- e-Gov法令検索 国民年金法第19条
- e-Gov法令検索 国民年金法施行令第4条の3の2
未支給年金と相続に関するよくある質問
Q. 未支給年金に相続税はかかりますか。
A. かかりません。未支給年金を請求できる権利は、遺族が自己の固有の権利として請求するものであり、亡くなった受給権者に係る相続税の課税対象にはならないとされています。みなし相続財産にも該当しません。
Q. 未支給年金を受け取ったら確定申告は必要ですか。
A. 受け取った遺族の一時所得に該当します。一時所得には最高50万円の特別控除があるため、その年に他の一時所得がなく未支給年金が50万円以下であれば一時所得の金額は0円となり、申告は不要です。金額が生じる場合はご自身の所得の状況に応じて判定します。
Q. 一時所得はどのように計算しますか。
A. 総収入金額から収入を得るために支出した金額と特別控除額(最高50万円)を差し引いて一時所得の金額を求めます。税額の計算では、その金額の2分の1に相当する額を他の所得と合計して総所得金額を求めます。
Q. 未支給年金は遺産分割の対象になりますか。
A. なりません。未支給年金は相続財産ではなく、法律で定められた範囲と順位の遺族が自分の名前で請求するお金です。誰が請求できるかは民法の相続人の範囲や順位とは異なる定め方になっています。
Q. 遺族年金にも税金はかかりますか。
A. 国民年金法や厚生年金保険法などに基づいて遺族に支給される遺族年金や遺族恩給は、原則として所得税も相続税も課税されません。未支給年金とは別のお金ですので、扱いを混同しないようご注意ください。
Q. 準確定申告に未支給年金を含める必要はありますか。
A. 含めません。準確定申告は亡くなった方自身の所得を申告する手続きで、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に行います。未支給年金は遺族固有の権利に基づく遺族自身の所得ですので、受け取った方の確定申告で一時所得として扱います。